石造りの心臓   作:ウボァー

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曇らせ終了! 曇らせ終了! あとは晴れていくだけ!
あと修正版の『神贄』が正史となります。我が書き換えたのだ……。


曇りのち晴れ

 赤き竜によるタクシー、じゃなかった。レスキューで地上に運ばれているはずなのだが……赤き竜の内側である宇宙のような不思議空間ではなく、紅蓮の悪魔がいた神殿でもなく。

 何故か私は《冥骸府-メメントラン》に立っていた。

 ソリッドビジョンではないが現実でもない。恐らく精神世界だろう。こんなことは初めてなので断言ができないけど。

 

『ごめんね。ほんとはてはださないつもりだったけど……あれは、ほっとけなかったから。ちからをつかって、ちょっとつかれたから、ちょっとだけ、やすむね』

 

 もう一人の私が困った顔で目の前にいる。疲れていると告げたのは嘘ではないようで、顔色は悪い。

 

「助けてくれたのは……貴方、いや、私?」

 

 目の前にいる同じ存在をどう呼ぶべきか悩むジェイドに対して彼は微笑む。

 

『ずっといっしょにいて、たがいにえいきょうはうけてるかもしれないけど、ちゃんとちがうそんざい。…………わたしのかってなねがいにまきこんでしまって、ごめんなさい。たくさんつらいことをけいけんさせてしまった』

 

 ――きっと彼が、私をこの世界に転生させた原因なのだろう。謝ってくる彼はその手を私の胸へそっと当て、その奥にある心へと祈る。

 

『おうさまはもう、かなしいことじゃでてこない。わたしといっしょに、あなたのこれからをみまもる』

 

 背負ってしまった記憶はジャックにより荒れ狂う原因を取り除かれて、ただ凪いでいる。私が知りたいと思えば彼の記憶をいつでも引き出せるが、それでおかしくなることはもうない。

 感覚でわかっていることを改めて言葉にされて、肩が軽くなった感覚を覚える。

 

『このままみらいをかえたいとねがうなら、わたしのことばをおぼえていて。――うごかせるものと、あかいほしのあらたなかのうせいになりうるものは、とりあえず、これでそろった』

 

 急に話が変わった。しんみりしていたジェイドは寝耳に水で、目を丸くしつつもとりあえず目の前の男の話を聞く。

 

『――れいびょうまでたどりついたのなら、そこにいるだろうかれをたよりなさい』

 

「え、誰をって?」

 

『これまでをおもいだしてかんがえてみて。きっと、わかるはず。あなたがそのデッキをつかうことで、であうはずのひとのこと』

 

「え、ええ……?」

 

 【メメント】を使うことで私が出会うはず……? 考える時間が欲しいが、それより先に話し合える限界の時間が来てしまったようだ。周囲の景色が崩れていく。

 

『……そのはてに、ろくばんめをきりひらく。かれらのみらいを、そのさきへとつなげるために』

 

 あのう方法についてはもうちょっと具体的にお願いします、なんて思いは届かず。

 私のドッペルゲンガーは。いや、《⬛︎⬛︎⬛︎-⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎》は私にもたれかかるように倒れてきた。抱きしめたことで、見えている姿はなんらかの力で誤魔化しているものだと分かる。皮膚や肉の感覚ではなく、これは間違いなく骨だ。怖がらせてしまうから見た目だけを変えていた、ということだろうか。

 その答えを聞くことはできない。

 

 なぜなら、触れた部分からじわりと混ざって――内側にかえっていったから。

 

 

 

 地上に戻ってきた四人がまず見たのは崩壊した神殿。そして、家で待っていたが大きな音がした不安で居ても立っても居られず飛び出してきたマックスとアニー。

 

「――わああ! ケッツァーコアトルだ!」

 

「すごいすごい! キングってケッツァーコアトルまで呼べちゃうんだ!」

 

 家族三人の努力の結晶が壊れてしまったというのにボマーのきょうだいは悲しむことなく、大きな神の姿を見て興奮している。

 

 赤き竜を守り神として崇めるボマーとしては、マックスとアニーが神に馴れ馴れしくするのはどうなのかと困っていた。なお、当の本竜は神の威厳を保ちつついいかんじに戯れていた。悠然と佇む姿に幸せそうなオーラが混ざっている。

 

「ジャック、大丈夫? その……」

 

 解決したとはいえ、ジェイドとしては不安がどうしてもある。おろおろする兄を前にこれまで通りの態度でジャックは宣言する。

 

「心配はいらん。――キングだからな!」

 

 そんな様子を見ていたカーリーは二人の距離感に妬いていた。

 

「なんだか、みんなのキングじゃなくってジェイドだけの王子様って感じになってな〜い〜?」

 

「王子!? 馬鹿を言うな、オレはキングだぞ!」

 

 白馬ではなく白いDホイールに乗る王者は慌てて否定する。……否定するべきところは多分そこではない、とジェイドは心の中で思った。

 

 神を信仰し多くを捧げた王だの、その神の姿に一致する部分がある男だの、兄弟の間には複雑な属性が絡み合う。

 が、ジャック本人としては兄と弟のみだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

「……もう二度と、失いはせん」

 

 かたや愛する者。かたや特別である者。

 ……かつてその命を落とし、赤き竜の奇跡によって蘇った二人。心の中にしまっていた決意が口から溢れる。

 

「?」

 

「何か言った?」

 

「フン、気のせいだろう。――ボマー! 紅蓮の悪魔はオレが封じた。もう蘇ることはない。これでこの地にも平和が戻るだろう」

 

「ああ、近隣の村々へは私が伝え回るとしよう。救い主はかのジャック・アトラスだ、とな」

 

 こうして、ナスカの地で起きた騒動は誰も文句を言わない大団円を迎えた。

 

 の、だが。

 

「……あの、みなさんにご相談が」

 

 恐る恐る手を上げるジェイドに視線が集まる。

 

「しもべが使ってた【地縛】デッキがなんでか私のとこにあるんですけど、どうしましょう」

 

 紅蓮の悪魔のしもべがカードから石板に変換していたそれらは、元のカードの姿に戻ってジェイドのコートのポッケに潜り込んでいた。

 

「…………あの状況で拾ったのか?」

 

「本当に拾えると思って聞いてる?」

 

 すぐそこに荒ぶる神がいたのに、神の怒りを向けられた決闘者からデッキを回収するなどジェイドの謎多きカード拾いパワーでも流石に無理だ、と納得。

 つまり、このカード達はジェイドを望んでやって来た。

 

「ジェイドさんから出てきたカードだし、ジェイドさんの自由にしてもらったらいいと思うけど」

 

「私としては赤き竜に受け渡して冥界へと還すのが良い、と思わなくもないが……現在の持ち主は君だからな」

 

 シグナーにより一度倒されたのだから悪いことはそうしないだろうと踏んでカーリーは選択をジェイドに委ねる。ボマーとしては邪悪な意思に利用される可能性があるため人間の手から離すべきでは、と悩んでいる。

 

「《ストーン・スィーパー》はジャックのデッキならかなり使える効果してるし、これも追加の戦利品ってことになったり?」

 

「……あまり気は乗らんが、イリアステルと戦うなら力はあって困るものではない。寄越せ」

 

 ジャックはしぶしぶな感じではあるがジェイドの申し出に応じた。ジェイドは手に持つデッキからモンスターカードを出し、弟へと譲って。

 

「痛っ……!?」

 

 触れた瞬間にばちっ、と静電気のような音がしてジャックの手を弾く。兄弟は互いに顔を見合わせ、ゆっくり手とカードを近付けてみる。

 ……カードからジジジッと短い音がした。あの衝撃は偶然ではない。明らかにジャックに敵意を持っている。

 

「貴様、まだオレと戦うつもりか!?」

 

 カード1枚からの全力拒否に怒り心頭。もう一度痛い目を見なければならんようだな、とデュエルディスクを展開しようとする。

 

「うわ、なんかすごいカードが震えてる!? こわ」

 

「もしかして、ジャックを嫌ってるんじゃなくて怖がってるんじゃないの?」

 

 ジャックがカードに拒まれる姿がカーリーには野良猫がニンゲンコワイ近寄るなと猫パンチを出す光景と同じに見えた。

 しもべが使っていたカードに限ってそんなことはないだろう、とカーリーの言葉に納得がいかないジャックだったが取り敢えずディスクディスクを待機状態に戻す。

 

「あっ、とまった」

 

 デュエルディスクを構える。震える。

 降ろす。止まる。

 この現象が偶然ではないことを確認するよう何度か繰り返し、【地縛】はジャックが大の苦手ということがよくわかった。

 

「やっぱり怖がってるんじゃないの!」

 

「デュエルに負けた上、使い手の主を封印した相手が目の前にいるとなれば当然の反応か」

 

「じゃ、なんで私は無事なんだろうね?」

 

「…………ジェイドさんが心安らぐ故郷、的な?」

 

「ミクトランテクートリ神の威光ではないか?」

 

「うーん、どっちも納得しきれないなぁ」

 

 確かにこれらのカードはジェイドが原因で現れたのだろうが故郷ではない。彼らの原産地(?)はアークでファイブな世界にてDホイールと合体するSでMなロシア人である。属性過多!

 あと神様はついさっき爆発四散してるので威光はあんまりない。

 

「しかしジャックをここまで嫌悪するとなると、他のシグナーともまともにデュエルすることすら難しいだろう。……どうするつもりだ」

 

 闇を祓うデュエルをすることができないなら、このまま保管するしかない。ジェイドの眉間に皺が寄る。

 

「責任とって引き取るしかない……のかな」

 

 子供達と遊びつつ未だ現世に留まっていた赤き竜だが、こちらの話は最初から最後まで把握していたのかクオォォンと鳴いてジェイドのみにイメージを伝えてくる。

 

 ――曰く。覚醒の遅れた《ブラックフェザー》と、守りを優先して攻撃が疎かになりがちな《エンシェント・フェアリー》をちょっとそれでしばいてきなさい、と。

 

「…………ええ……」

 

 シグナーとデュエルさせるのは難しい、とボマーさんが言った直後に赤き竜からデュエルをやれとのご指名だ。どうして?

 

 ――曰く。《ブラック・ローズ》は学舎の祭で貴方との全力のデュエルをした結果【ローズ・ドラゴン】を増やすなどかなりやる気を見せていますが、あの2体はもう少しが足りない。一度、強い力を見せつけて追い込まねばならないでしょう。

 

 ――曰く。《ライフ・ストリーム》があの姿から解放され、シグナーの竜として覚醒するために必要な復活の奇跡を引き起こすのは……貴方はたぶんできないので……。観客の一人に加えて焦燥感だけ与えておいてください。

 

「というかコレ使ったら闇のゲームになったりしません!?」

 

 ジェイド以外は耳に聞こえる音がクオーンだけで何の話をしているのかよくわからない。

 ただ、彼の持つ【地縛】デッキがコレ呼ばわりされてカードがショックを受けている……ようには見えた。

 

 ――曰く。《レッド・デーモンズ・ドラゴン》と《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の力でかなり傷ついているので闇の力について心配はいりません。あと一戦すれば、その勝敗に関係なく完全消滅するでしょう。

 

「……ならいいんですけども」

 

 では頼みましたよ、と赤き竜は空へ舞い上がり……雲に混ざるようにして去って行った。

 

 

 

「――ただいま!」

 

 ポッポタイムに正真正銘、いつも通りのジェイド・アトラスが帰還した。元気もりもりメメント・モリ!(真・完全復活)

 

「ジェイド!」

 

 一番最初に遊星の声、それに続いて皆によるおかえりの声。チーム5D'sが揃ってお出迎えだ。

 

 これナスカのお土産、と旅行カバンからいろんなものを出しては渡していくその姿は皆の頼れる優しいお兄ちゃんそのまま。

 悩み事や心配事と無縁な振る舞いに安心した遊星が口を開く。

 

「――もう、大丈夫なんだな」

 

 それは最終確認。ジェイドは一度ジャックを見て、遊星へと向き直り、微笑む。

 

「うん。ジャックが全部終わらせてくれた」

 

「遊星! 貴様のアクセルシンクロに匹敵する新たなる力――究極のパワー戦術、バーニング・ソウルを得たオレがいるからにはもうイリアステルなど有象無象の雑魚に過ぎん! 貴様が下っ端のプラシドごときを倒していい気になっている間に、オレがホセとルチアーノを倒してやるわ!」

 

 誇らしげに、を通り過ぎて増長し始める幼馴染を見てクロウが悔しがる。

 

「マジか! クッソ、俺だけ強化なしでそのまんまなのか……」

 

「クロウの【BF(ブラックフェザー)】は弱くなんてないわ」

 

「無理して新しい戦術を取り入れても、デッキが逆に弱くなっちゃうだけよ」

 

「わかってるさ。でもよぉ、二人が強くなるのを見るだけ、ってのはなーんかイヤじゃね?」

 

「それは……そうだけど……」

 

「……否定はしないわ」

 

 龍可とアキはクロウの言に納得できる部分があるため、それ以上は何も言えない。そんな彼らの話に気付いたジェイドが呼びかける。

 

「ん? ああ、クロウ、その辺について話が――」

 

 話の中にそこまで混ざっていなかったブルーノがたん、とエンターキーを押す音でジェイドの話は途切れる。

 

「……うん、これでもう大丈夫。アルターエゴ、改修は終わりだよ」

 

『ようやくか。もう二度とあのような無様な姿を晒さんよう強化したオレの前には例えイリアステルのファイアーウォールだろうと無意味! いかなる場所にもハッキングしてくれよう!』

 

 元通りになったアルターエゴはジャックらしく傲慢に敵と張り合おうとしている。

 

「ん? じゃあさ……イリアステルのDホイールでも侵入できる?」

 

『当然だ』

 

 ジェイドのふとした思いつきに即答。

 ……かえたいみらい。かれの、さいごは。

 

「もしかして……うごかせるもの、ってそういうこと?」

 

 多分……ううん、きっとそうだ。

 ということは、本当なら倒されておしまいの偽ジャックを助けて、そこへ私を導いたのは――。

 

『なんだジェイド、その予言めいたフワついた言葉は?』

 

「あ、いやこっちの話。今は関係ない」

 

 答えの一つがわかってスッキリしつつ、先に終わらせないといけないことがある。

 

「クロウと、あと龍可ちゃんに話があってね。デュエルしようか」

 

「デュエル? 別にいいけどよ……先に休んでからでもいいぜ?」

 

 クロウは長旅の疲れを癒してからで、とこちらの体調を気遣っている。

 ただ、ジェイドとしては急ぐ理由があった。赤き竜から傷ついていると言われたカードだ、早く使ってやらねばデュエルするまえに消えてしまうかもしれない。

 

「赤き竜に頼まれたんだよね。――この【地縛】デッキで、二人と戦えって」

 

 ジェイドが取り出したのは【メメント】を入れているデッキケースではない。彼の口から出たまさかの単語にぎょっとするシグナー達。

 

「なっ!? 【地縛】……!?」

 

「ジェ、ジェイドさん!?」

 

「ジェイドのにーちゃん、なんでそんなの持ってんのさ!?」

 

 龍亞の追求にアトラス兄弟が硬直。

 

「………………あの話は今するべきか?」

 

「………………後でもいいんじゃない?」

 

 そうしようそうしよう、と二人は決める。

 

「そーやって誤魔化そうとしてんじゃねえだろうな」

 

「ダメ!」

 

「何かあった時にどうするんだよー!」

 

「いやー……ちょっと長くなるし、デュエルを先にしてからでもいいと思うんだけど」

 

「よくねぇよ!」

 

「ぜんぶ!」

 

「話して!」

 

 クロウ、龍亞、龍可の三人のコンビネーションが決まった。

 

 ……結局、神殿の中で二人がえらいこっちゃになっていた話をすることになってしまった。話を誤魔化そうとするとチクチクする視線が飛ぶため、包み隠さず丸裸の真実が公開される。

 

 紅蓮の悪魔のしもべに先攻を取られたジェイドが《儀式魔人リリーサー》を決められて負けたのは仕方ないとしても、ジャックが悪魔と契約したのは軽率すぎるとのお叱りを受ける。

 ジェイドが紅蓮の悪魔によってよくないものへと変えられていくシーンに差し掛かった時は、双子が無事を確認するようにジェイドの腕をぺたぺたニギニギむぎゅむぎゅしていた。

 

「――そんで地縛神の使い魔がお前から取り出したデッキがそれ、ってか。……その体どうなってんだよ本当」

 

「私が一番謎なんだけど? ……でも、イリアステルと《テクトリカ》の主張の矛盾について何となくわかったかもしれない」

 

「どういうことだ」

 

 カギになるのは突然の《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》の爆発四散。あれはそう簡単にできることではない。……メメントに属するものなら同族の破壊は容易いが。

 そして、精神世界で出会った彼は私の転生に関わっていて、その正体は骨の体だった。そうだとするのなら。

 

 

 

「――ミクトランテクートリが、この世界には二柱いる」

 

 

 

 ミクトランテクートリ――《⬛︎⬛︎⬛︎-⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎》が私を作ったが、《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》は無関係。

 

 

 矛盾しない答えは、これしかない。

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