カップラーメンで皆を笑顔に
ジャックが激甘おしるこヌードルを買いに出かけたのをキッカケとしてイェーガーを発見。その場では取り逃したものの、イェーガーのカップラーメンへの執着を利用したイベントを開催して捕獲しようとの策をジャックが思いついた。
それはカップラーメンマンにデュエルで勝てたらピリ辛レッドデーモンズヌードル1年分をプレゼント! という宣伝文句で人を集めて、そこからイェーガーを探す、というもの。
……本当に成功するのか、というかいつまで続けるのか期間が定かではないジャックの作戦だが、やる価値はあると遊星とブルーノが判断したため決行することになった。
イェーガーの捕獲を目的とするため、イベントの人員はチーム5D'sで賄うことになる。皆でどの役割になるかを決めるためにデュエル……ではなくジャンケンを行い、その結果。
「う……ウソだろ……」
己の拳を見つめてクロウがわなわなと震えている。
チーム全員でジャンケンをして負け残った彼がカップラーメンマン役という悲しい犠牲、もとい囮になることが決定した瞬間である。
「ってか、言い出しっぺのテメーがなんでジャンケンに参加してないんだよ!」
「オレが出たらイェーガーに罠だとバレるだろうが!」
「それは俺でも同じだろうが!」
顔を突き合わせて二人は言い争う。いつもの喧嘩だ。
『安心しろ、調べたところ貴様の身長でも着れるカップラーメンマンの着ぐるみは存在する』
「今気にしてるのはそっちじゃねえよ! ……アルターエゴは何するんだ?」
『オレか? イベントの様子をドローンで撮影しつつ顔認証システム等を使用しイェーガーを探すが』
ドローン、と聞き双子は身を乗り出す。
「それよ! アルターエゴって結構なんでもできるから、たくさんドローン使ってなんとかできない?」
「こう、うわーっとネオドミノシティ中を飛び回って探せばいいじゃん!」
龍可と龍亞はイベントに乗り気ではない。衣装が全身タイツ気味で好ましくないためあんまり着たくないのだ。……それでもカップラーメンマンよりはマシなので直接的な文句は言わない。
「何もないのにドローンが大量に街を飛んで、しかも人の顔を撮影しているって間違いなくセキュリティに通報されちゃうから……せっかくのアイデアだけど、ごめんね」
「それに、隠れようとする相手を探すには音の出るドローンは不向きだ。他の案があればそっちにしてもいいんだが」
技術屋二人が双子の案をやんわりと否定する。ならば別のもっと素晴らしいアイデアよ降りてこい、なんて頑張って頭を悩ませてみるが何も思いつかない。
「観念した方が身のためよ」
「ううー……」
うんうん唸る龍亞へアキは諦めることを勧める。
ちなみに彼女は比較的マシな魔女の仮装をすることになっている。黒薔薇の魔女と呼ばれていた過去のことを思えば避けると思っていたので皆は驚いていた。
……パフパフ鳴るラッパと吹き戻しに羽付きサングラスを装備した魔女は本当に魔女なのか、という問題はおそらく今回の問題とは関係ないのでスルーするものとする。
「――はい、はい。すみません、よろしくお願いします。…………みんなー」
ジェイドは電話をしつつチームの皆へと呼びかけてカレンダーを指し、どの日がいいかを問いかける。
実は一番最初に勝ち抜けしたのはジェイドだったが、製造会社に販売3周年記念でこういうことやりたいのですがと景品の用意のお願い、必要な衣装が置いてあるかの確認、舞台の依頼などの打ち合わせ――要するに裏方をほぼ全て担当していた。
ちなみにこれらはジェイドが自分からやると言い出したため、遊星、ブルーノ、ジャックは一気に手持ち無沙汰になった。
「クロウ」
メインになるカップラーメンマンが納得しなければ進めることはできない。ジャックは覚悟を決めろと男の名前を呼ぶ。
「……たく、わーったよ! やりゃいいんだろ!」
ヤケクソ気味だが同意は取れた。男に二言はないのでイベントは開催決定。文句は言わせない。
そしてやってきたサプライズイベントの日。カップラーメンは宇宙を救う、なんて謎の言葉がてっぺんに書かれた舞台が道のど真ん中に設置された。
魔女なアキ、ナルトの妖精な龍可、トウガラシの妖精な龍亞が進行を務めるイベントだが――クロウはカップラーメンマンの姿のせいでかなり侮られていた。
こんな相手だったら俺でも勝てるぜ、な軽い気持ちで壇上に上がってきた挑戦者をちぎっては投げちぎっては投げ。ストレス発散を兼ねているのだろうヤケデュエルをするクロウを舞台裏から見守る。
……挑戦者の波が落ち着いてきた頃に現れた、バンドマン風のメカクレ男。あの特徴的な高い声が漏れるのを聞き遊星は確信する。
「あいつがきっとイェーガーだ」
『解析完了。顔と声紋が一致した。間違いなく奴だ』
「……りょーかい。後はこのクロウ様に任せな」
デュエルディスクが持つタッグデュエル用通信機能を使い、アルターエゴの保証の声をクロウにも届ける。ボソボソと他者に聞こえないような小声で自信たっぷりの返事をした後に通信は切られた。
「【BF】を見ているだろうに本当に来るとは……クロウだと分かっていないのか?」
「罠でもいいんだってヤツかも。治安維持局に勤めている偉い人なのに窃盗に手を染めようとしてたんでしょ? 貯金が底をついてるか、そもそも引き出しに行くのも危険なのか……そんなところじゃないかな」
アトラス兄弟はイェーガーの行動の不審な点を想像混じりに考える間、カップラーメンマンをしているクロウは変装している相手へじりじりと距離を詰め……確実に捕まえられる範囲に誘い込んでいた。
「今だ――行くぞ!」
合図とともに舞台裏から飛び出す。ぎょっとしたイェーガーへとクロウは己の着ていた衣装のカップラーメン部分を脱いで被せて捕獲した。
しかし突然吹き出た煙幕に紛れて脱走され失敗……と思われたが、遊星が逃げていったイェーガーに発信機を取り付けていた。
「準備がいいね」
「持っておくと何かと便利だぞ」
Dホイール窃盗団の一件でも世話になったボタン型の発信機。……そんなものを持っていて便利になることが何回も起きていいんだろうか。多分よくない。
「とりあえずこの場はなんとかするから、皆は早く着替えてイェーガーを追って」
「わかった。押し付けてしまってすまない」
「誰かがやらなきゃいけなくて、それが私ってだけだから。気にしないで」
謎の煙幕、メインとなるカップラーメンマンの中の人がバッチリ皆の目の前で出てきてしまい台無しになったイベントの収拾をつけるためにジェイドは残り、一人壇上に立つ。
というよりも、企業が関わっているイベントなので流石にチーム5D'sのみで開くことができず社員さんも実はこの場にいるのだ。
こちらの事情で台無しにしてしまいとても申し訳ないが、イメージダウンだけ残して終わらせるわけにはいかない。
「…………えー、カップラーメンマンと愉快な仲間たちは麺が伸びてしまったので一身上の都合により出荷とさせて頂きます」
具体的に何を言うかは考えてなかったジェイドはかなり変な事を口走る。元気もりもりメメント・モリ!(行き当たりばったり)
謎の騒動の後にマイクを手にして一人だけ残っている。とてつもなく目立つ状況だ。視線は当然集まり、人々は彼が誰かにすぐ気付いた。
「あれってジェイド・アトラスじゃ……」
「アトラス様のお兄さん! 嘘、本物!?」
「予選のデュエル凄かったぞー! またあのドラゴンを見せてくれー!」
「あ、ありがとうございます! けど今回はWRGP関係ないイベントなので応援は控えてくれると嬉しいなぁ」
別の話に変えてくれたのは渡りに船。でも、レッドデーモンズヌードルを作っている会社はチーム5D'sのスポンサーって訳ではないのでちょっとやめて欲しい。
「デュエルしてる時とキャラだいぶ違うくね?」
「何よ、このギャップがいいんでしょうよ!」
「あ、あははー……」
このままだとずっとデュエルの話になりそうだ。カップラーメンのイベントなのに。あとチームカタストロフ戦のジェイドのアレがバッチリ誤解されている。……事情を知らない人が殆どなので仕方ない。
ちらっと社員さんの方を見るとお好きにどうぞ、とジェスチャーをされた。どうしようかな、と考えて……商品として用意されたピリ辛レッドデーモンズヌードルが目に入る。
「レッドデーモンズヌードルが世に出て3周年――ジャックの使うモンスターがモチーフになってカップラーメンが作られるなんて、あの頃は思いもしなかったな」
デュエルよりもカップラーメン絡みの話を、とジェイドが切り出したのは昔の思い出話。
「私がジャックと同じサテライト育ちだ、っていうのはもう皆さん知っていると思うので改めて詳しくは言いません。――ここでは普通に手に入るものがあの頃のサテライトでは貴重品で。カップラーメンも、その一つでした」
サテライトでカップラーメンを手に入れる手段としては賞味期限切れや不人気のために廃棄されたものを狙うか、闇市を使って買うか。前者は競争率がとんでもないので非現実的だし、後者はとんでもない値段をふっかけられるのでこちらも非現実的。
コンビニやスーパーで買える手軽なものという認識を持つ人たちからしたら、身近なものが高級品になるなんて想像もできない。理解しきれてない顔がちらほらと見えるが、ジェイドは話を進める。
「チーム5D'sの仲間であるジャック・アトラス、不動遊星、クロウ・ホーガン……彼らとは子供の頃、一緒の施設で育ちました。同年代の友達がいて、親代わりになってくれる人もいた。サテライトにいた子供の中ではとても恵まれた環境で、そうやって生きられたのはとても幸運な事でした。……それでも、カップラーメンなんて食べられるかどうかわからない、そんな生活で」
ジェイドは前世の記憶があるためそこまでではなかったが、幼馴染達にとってはカップラーメンは憧れの食べ物のひとつだった。
「ある日、運が良かったのか、親代わりの人が見えないところで頑張ってくれたのかはわからないけど……カップラーメンが食卓に並んだことがあったんです。全員に行き渡る数は用意できないから、一つを複数人で分け合って食べようってなって」
やかんにまだかよ、はやくはやく、なんて急かす言葉をかけていた様子は今でも思い出せる。
「初めてのカップラーメンをたべて……みんな、わらってて。私が食べたのは一口だけだったけど、でも、みんなの笑顔だけでお腹いっぱいになれた。――あの時のカップラーメンは、思い出の味なんです」
ちょっと涙声になりつつもジェイドは人目を気にする事なく、遠い日の思い出を話しきった。騒がしかった観客も声を静め、彼の話に聞き入っていた。
「な、なんとっ……皆さんにそのような過去があったとは、わたくし、涙が止まりませんっ……!」
そんなしんみりした空気をぶち壊してエントリーしたのはスーツ姿の社員さん。壇上に上がってきて、感極まった様子でおいおいと声をあげて泣く。
「つきまして」
「え、は、はい!?」
突然の商談モードだ。ちょっとこわい。
「思い出のカップラーメン、その商品名と販売元は覚えてらっしゃいますでしょうか」
「覚えてますし御社の商品でしたけど、十年ぐらい前の商品でもう販売してないんですが」
「復刻版で出します! というか出させます!」
グイグイ来る。こわい。
「そんな一人で決めちゃっていい事じゃないと思うんですけど」
「イベントの様子は商品開発部の方も配信で見ているので問題ありません! あと、つい先ほど社長から連絡がありジェイドさんの許可が取れれば進められる状態になってます」
「……え、配信? 何やってるのさアルターエゴ」
ふいーん、と会話の邪魔をしないぐらいの音を立ててドローンは飛んでいる。返事をする気はないらしい。
最初から最後までちゃっかり録画して、しかもそれを配信していた……どこにいるかわからないイェーガーを誘き寄せるためだろうが無断なのは良くない。よって全力整備カウンターが一つ乗る。
「……いや、まあ……あの味がまた食べられるのは多分、皆喜ぶとは思うので、問題ないとは思いますけど。売れます?」
「必ず売らせます。というか、貴方方兄弟やキングは自分の名前の力をわかっていただきたい……!」
……場を繋ぐだけのはずなのに、なんだかおかしなことになってしまった。
レッドデーモンズヌードル発売3周年記念イベントから復刻版発売の打ち合わせにすり替わりつつある舞台の上、ジェイドは現実逃避を兼ねてイェーガーを追っている皆へと思いを馳せるのだった。
定期的に光が音を立てて空を流れていく、三皇帝のための異空間。三つある席のうち、現在修理中なプラシドの席だけが空席になっている。
ルチアーノとホセは地上を、チーム5D'sの様子を監視していた。
「……何アホなことやってんだアイツら。まあイェーガーなんてもうどうでもいいんだけど。アイツそんなに僕らのこと知らないしね」
ルチアーノは心底どうでもいいとピエロのことは放置する。問題はそちらではなく、同じ三皇帝の男についてだ。
「というかホセ! お前の作戦、大失敗してるじゃんか!」
ジェイド・アトラスを潰し、仲間内で争わせ、チーム5D'sの絆を崩壊させる。ネオダイダロスブリッジでのホセの言葉はジェイドを確かに追い詰めた。
しかし今、チーム5D'sは協力してイェーガーを捕まえようとこんな妙ちきりんなイベントを開催していて、ジェイドは場を繋ぐために一人奮闘している。
……誰がどう見てもホセの策は完全に失敗していると判断するだろう。ルチアーノの問いかけにホセは答えなかった。
「ダンマリかよ。あーあ、プラシドはまだ修復おわんないし、WRGP本戦開催は決定してないし……」
「我々は、思い違いをしていたと言うのか……?」
「んあ?」
「ジェイド・アトラスはモクテスマ2世を材料にミクトランテクートリが作り上げたもの、それだけではこの復活の説明がつかん。弱き王が人格の核となっているならば絶望してから立ち直れるはずがない。立ち直ろうとも思えない。……奴はもっと別の……我々が知らない何か、なのか?」
「でも、ガキの頃にホセの名前を言い当てたのは事実だ。間違ってないだろ」
モクテスマ2世とイリアステルは接触している。冥府の神は現世を見ている。故に、それらがホセのこと知っているのは問題ない。
……それらとは全く関係ない、となると途端に説明ができなくなる。
「お前は一体何者なのだ、ジェイド・アトラス――」
異世界からの転生者の存在を知らぬイリアステルが混乱しているなど露知らず、画面の中に映る噂の男はくちゅんと可愛らしいくしゃみをした。