ならカドショに行くぜ!
あの騒動から一ヶ月。手に職がついた遊星の初めて得た給料とジャックのキング時代の貯金を手にカードショップに来ています。
……断じてむしり取ってきたわけではない。初任給で親に贈り物を、みたいな感じで現金入りの封筒を渡してきて「これでデッキを組んでくれ」されたのである。
この世界に馴染んだ自分とOCG次元の自分がせめぎ合ってどう反応するべきかすごく戸惑った。そんな態度が遊星には迷っている、と見えたのか現金は押し付けられた。
《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》が冥府の王から冥府パワーを奪ってなんやかんやしたことにより、【メメント】のモンスター・魔法・罠はどれも3枚ジェイドの手元にある。後は汎用カードを投入すればデッキになる……三人はワクワクウズウズが止められなくなった。
自分自身のデッキで俺たちと戦ってほしい――そんな願いを受け、追い出されるような感じで笑みと共に送り出されたわけである。
「各メメントを3積みは流石にナシ。初動になるのは3枚確定。《メメント・ウラモン》は2枚で、《メメント・ホーン・ドラゴン》と《メメント・ボーン・バック》は1枚。《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》は除外された時のことも考えてもう1枚ほしいけど……神様の宿ったカードはさすがに増えないよなあ。えーつまり、汎用カードの枠は10枚ぐらい?」
デッキのことを考えつつぽてぽてと歩く。
この世界のカードプールはアニメ遊戯王5D's時代に沿ったものだと思われる。だって【メメント】と同期の【センチュリオン】がいない。
便利な効果を持つレベル4と8、そしてエースであるレベル12のあのシンクロモンスターが使われた姿を一度も見ていないので、この世界には存在しない判定を下して良いだろう。それ以外の新しめのテーマ達の姿も見ていないのでこれは確定的に明らか。
そんなこんなやって来たのは、マスターデュエルとデュエルリンクスに課金していた自分にはついぞ縁のなかったカードショップ。
前世のSNSでカードゲーマーは風呂に入らないウンタラカンタラとマイナスな情報を見たことがあったので警戒していたが、この世界では生活にカードが密着しているからか清潔感に溢れていた。ちょっとホッとする。
ショーケースの中に見栄えよく整えられたカード達がずらりと並び、その隣に桁が現実離れした数字の書かれた値札がある。不思議な世界だ。
パックを箱買いしている決闘者をちらほら見る。やはり多々買わなければ生き残れない……のだろうか。
デュエルスペースではデュエルディスクを使用したものとテーブルデュエルのどちらも行われている。観戦したい欲を抑えてカード探しを優先する。現在販売されているパック一覧を見て、首を傾げる。
「…………どれ買えばいいの……?」
どのパックに何が収録されているか、なんてのは全く知らない。チラシとか収録内容をざっと確認し……パックから引き当てるまで買い続ける耐久レースより、単品買いで済ませたほうが安上がりになると信じショーケースを細かく確認。
――では、ここで問題です。
マスターデュエルやデュエルリンクス等のいろんな時代のカード混ぜこぜなカードプールに慣れ親しんだ人間がこの時代に来るとどうなるのか?
「あれ……もしや《ツインツイスター》とか《センサー万別》ってまだ発売されていない……?」
こうなります。
アニメ遊戯王5D'sは2008年4月2日から2011年3月30日まで放送されていた。
《ツインツイスター》は2015年10月17日発売、《センサー万別》は2017年10月14日に発売されたカード。アニメに沿ったカードプールだと存在していないのだ。
なお、ドロー効果持ちの手札誘発として決闘者が皆知ってる《増殖するG》は2011年9月17日に初登場したカードのため、ジェイドが何をどう探しても見つからない。1匹見ればなんとやら、以前に生まれてないのである。
「《強欲で金満な壺》……もしくは《金満で謙虚な壺》……せめて《おろかな副葬》……も無い」
上記はアニメ世界に転生した決闘者が妥協なくカードを揃えようとしての発言である。おい、自重しろよ。
2種類の壺カードを合体させたドローカードであり、どちらの名前にも入っている《金満な壺》だが、ペンデュラム召喚が出てからのカードのため今の時代に無いのは当たり前……なのだが、転生してから10何年と生きた結果その辺の記憶は抜けた。イリアステル関連の話も時系列がちょっと思い出せない。
「無い物ねだりしても無駄か。あるカードは――《カイザーコロシアム》、《スキルドレイン》か。なかなか良さげだけど高いなあ」
それは本当にやめて差し上げろ大体のデッキが死ぬ。
「取り敢えずバック除去の《ハーピィの羽根帚》、初動に繋がる《ワン・フォー・ワン》、あって困らない《神の宣告》は…………ひえ」
カード1枚にこれだけのお金を使うのか、と頭の中の家計簿と電卓がどえらいことになってきた。カード拾い生活でカードの値段をよく知らなかったツケが今ここで発揮されている。
「禁じられたシリーズはどうなんだろ。……《聖杯》と《聖槍》のみ? まじかあ」
単品買いもお財布がダイエットしてしまう。
というわけで最初にオリパなるものをお一つ購入。カードの福袋、なるほど理解。当たり外れはあるだろうが汎用カードが何かしらはあるだろうと期待を込めていざ開封。
……一番上に《禁じられた聖槍》が見えている。この時点でもう当たりでは?
「わーあ」
他の利用客の邪魔にならないよう、ショップの片隅で立ちながら中身を確認する。自分が買ったオリパにはこの世界で売られている中で持っておいて損はない、なカードが多めに詰まっていた。
「破壊をドローにする《補給部隊》、破壊して回復の《デストラクト・ポーション》。なるほどこういうのも選択肢としてはあるか……」
永続魔法なのでドロー効果を継続して使える《補給部隊》、採用。《デストラクト・ポーション》は《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》が除外される時にチェーン、で除外から逃しつつおまけにライフポイント5000の回復がついてくる。
魔法・罠に対抗できる手段がもう少し欲しいなあ、と再びショーケース巡回に戻ろうとして――レジ横のとあるコーナーに目を奪われる。
「《ナイトメア・デーモンズ》に《デモンズ・チェーン》……ジャックのカードだ」
目に留まったのはネオドミノシティで有名な決闘者の使用カードを纏めたコーナー。あのキングが使っているカード! というポップのキング部分は雑に紙で隠されているが、それがカードの価値を変えるか? と言われたら否だ。
《ナイトメア・デーモンズ》……相性は悪く無い。
【メメント】は最初にとにかく《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》を出すことを目標としている。エースを特殊召喚した後に他メメントモンスター――《メメント・エンウィッチ》を墓地に残せるようにできれば最善。
相手が効果を使ったら、《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》の効果で墓地から《メメント・エンウィッチ》を特殊召喚、特殊召喚した《メメント・エンウィッチ》の効果でその場に応じてデッキからメメントモンスターを手札に加える……のが相手ターンの動きだ。
《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》の効果で特殊召喚したモンスターを《ナイトメア・デーモンズ》発動のコストとして使えば、自分のモンスターを《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》のみにしやすくなる上に攻撃対象が増える。
「うん、買っちゃお」
デッキは40枚ピッタリからちょっとオーバーしても、3枚積んでいるカードをドローする確率にそこまで影響はしない。
消費少なく収穫たくさん、カード拾いの才能はオリパにも適応されるという証明をしつつジェイドはホクホク顔で退店するのであった。
「デッキた! なーんて」
ストラクチャーズなセリフを言いつつデッキケースを開ける。
デッキが完成した。データではなく実物として存在する、程よい紙の重さが手に馴染む。ただ、今は使えそうなカードを投入しただけ。ちゃんと効果を発揮できるかはわからない。
つまりデュエルして調整する必要がある、のだが。
「…………ん? これデッキ調整相手、あの三人じゃないと面倒なことになる?」
【メメント】の存在を知っているのは冥府の王と戦う姿を見た者だけ。力を持つカード故に、対戦相手は慎重に選ばないといけない。
デッキはできたものの、これからの問題はそんなに解決していなかったのだった。
――ジャックの兄は自己主張が薄かった。
皆のことを考えて動いていたからか、自分自身については詰めが甘い部分があった。マーサハウスにいた子供たちの面倒を見つつ、デュエルについても教え……自由な時間は無かったように思う。それでも続けていた。
己の魂であるデッキを持たない決闘者。自分一人でカードを使うよりも皆の喜ぶ顔が見れるほうがいい、と告げるその姿を見慣れてしまっていたが……ずっと身を削って欲しい、と願っていたわけじゃない。
ジャックはそんな兄のことをどう思っていたのか。……俺には正解はわからない。執着していたのは確かだ。尊敬もあった。対抗心もあった。
きっと足りなかったのは、その心の内を曝け出せる言葉。
シティのキングになった男の隣に、兄はいなかった。
誰にも知られないように。それがジャックの選択だった。
ジェイドを拉致する際に手を出した、というのを知ったクロウがジャックの腹に拳を叩き込んだのはまあ、自業自得だろう。
ジェイドは優しいから言葉の謝罪で許すが、軟禁という超えてはいけない一線を超えたからにはそれ相応のダメージはあって然るべきだ。
地縛神の一件が終わり、それをキッカケに互いに思っていたことを吐き出して……良い距離感になったのではないか、と思う。
「一人で行かせて良かったのか?」
デッキのカードを入れ替えながらクロウへと問いかける。
「ジャックを連れて行かせたら絶対面倒なことになるだろ。キングやってたんだから知名度は抜群、カードのオススメで騒ぎ立てるだろうし、スタンディングだけじゃなくてライディングデュエルの用意もさせようとするだろ。目立ちまくってデッキ作りに支障出るの見え見えだぜ」
「フッ……そうだな」
クロウの言う通りだ。幼馴染があれやこれやと口を出す姿が目に浮かぶ。
「オレを何だと思っているのだ!?」
そして話題になっている当人が騒ぐ。
「そーいうところだよ……お、噂をすれば」
「ただいまー! デッキがデッキたよー。あとこれ何故か入り口横に落ちてた《ゴッドバードアタック》と《リビングデッドの呼び声》と《シンクロン・リフレクト》。三人にあげる」
「いや何でそんな良いカードが落ちてるんだよ!?」
……どうやらデッキを得てもカード拾いの才能は健在らしい。新しいカードを渡され、今度はこちらが何のカードを抜いて何を追加するべきか悩むことになったのだった。