石造りの心臓   作:ウボァー

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詰め寄る者たち

 取調室のように机には卓上ランプがセッティングされ、イェーガーの逃げ場を塞ぐように皆で取り囲む。

 イリアステルに関することのためやってきたシェリーが殺気混じりの視線を向けるが……イェーガーが気にしているのはジェイドのことだった。

 

 初対面の印象は最悪だった。ジャック・アトラスが取引とは関係ない人間を連れてきた。余計な足枷となり、レクス・ゴドウィンの思い通りに動かない可能性を高める獅子身中の虫を。

 ……しかし、彼は予想に反して大人しく生活していた。

 

 これはいったいどういうことなのだろうか、と身辺調査を行うにつれてその存在の異様さが明らかになっていき……サテライトに突然現れた存在だとわかった頃にはもう、彼の心は限界を迎えていた。

 

 親無き子。誰とも縁を持たないがため、近くにいたジャック・アトラスを支えにするしかなかった幼子。そうあるしかなかった、そうとしか生きられなかった人。

 妻子を持つ彼としてはその事実はどうしても受け止められなかった。故に積極的に関わろうとはしなかった。デュエルアカデミアで会った際も必要最低限なことを伝えるにとどめた。

 

 でも今はこうしてチーム5D'sの一員として過ごせている。その強さがあるならば、レクス・ゴドウィンにより口止めされていたことを伝えても問題ないのかもしれない。

 しかし今はイリアステルについての方を優先するべきだろう。

 

「イリアステルについて、どこから話せばいいものやら……そうですね、あれは一杯のカップラーメンが始まりでした」

 

「カップラーメンが?」

 

 イェーガーの家族が営んでいたサーカス小屋は、カップラーメンを食するために母が衣装を売るしかないぐらい貧していた。そんな家族の助けとなるべく治安維持局の副長官まで上り詰めた。彼が話したのはそんな出世話だった。

 

「わかる! わかるぞ!」

 

 家族と分け合うカップラーメンの味に共感し、ジャックがイェーガーの目の前に箱買いしたカップラーメンを積み上げ始める。イェーガーは元キングからのまさかの贈り物に喜んでいたがアキは少々呆れていた。

 

 カップラーメンについてが中心だったこの話がイリアステルと何の関係があるんだ、と遊星が少々苛立っているのを察したジェイドは彼を手で制しイェーガーへ続きを促す。

 

「イェーガーさん、貴方はイリアステルの話に触れることを避けていますね。やっぱり、まだ気になりますか」

 

「……家族を守るため。そのために私は治安維持局の副長官となりました。しかし、イリアステルより来た新たな長官である三人は……この街の平和を守るどころか乱そうとしている」

 

 やらされたことはプログラムの窃盗なんて後ろ暗いこと。命令してきた相手は犯罪をやらせることに後悔や苦悩する様子を見せず、むしろ嬉々としていた。不安はどうしても付きまとう。

 

 妻と子供は遊星達の育ての親と言えるマーサへ預けてきたとはいえ、絶対なんてものはない。

 

「――もし、私がイリアステルに不利益なことを教えてしまったら家族はどうなってしまうのか、そう考えているのは否定しません。イリアステルから逃げることを選んだ私が、妻と子を守り切れるとはとうてい思えない」

 

 だから、目の前のシグナーへ。この街を地縛神の脅威から救ってくれた者たちへと問いかける。

 

「不動遊星……貴方達を信じて良いのでしょうか?」

 

「約束しよう。この街は俺たちが必ず守りぬく。だから話してほしい」

 

 遊星の眼には一点の曇りもない。

 わかりました、とイェーガーが彼らを見る。その目には先ほどまでの迷いはもうない。覚悟を決めていた。

 

「イリアステル、そしてジェイド・アトラス、貴方のことについて。私の知る限りのことをお話ししましょう」

 

 日が暮れるまで続いた長い話。イェーガーは疲れた様子を見せずに、ただ真剣な顔のままで彼らに確認を取る。

 

「――以上です。お役に立てましたでしょうか」

 

「いや、どうやら遊星達の方が知っていることが多いみたいだ」

 

「えぇ!? 今何と!?」

 

 ブルーノの無視できない発言によりイェーガーの真剣な顔が崩れた。

 

「ついでに言うとお前が言ったことはすでに他のやつから聞いている。ジェイドは自分の正体について大体の見当はもうついているぞ」

 

「そ、そんなっ」

 

 そして追い討ちのジャック・アトラス。ショックを受けてオヨヨと演技くさい動きでイェーガーは机に倒れ伏した。

 

 このまま役立たずで終わってしまえば彼らの貴重な時間を無為に使わせた結果のみが残る。必死に思い出し、思い出し……。

 

「あ、そうだ! 電話です! 一度、外部の企業から長官宛に電話がありました!」

 

「……あ。そういや関係あるようなないような話、一応私にもあった――っ、うわあああシェリーさん!?」

 

 シェリーによるカードの一閃。ジェイドが手のひらで受け止めたため家具や物へ被害は出なかったが、狙われたイェーガーは冷や汗を流している。

 

「さっさと聞かせなさい!」

 

 散々焦らされた結果収穫無し、という復讐者の苛立ちは頂点に達しようとしている。物騒なものは退けて下ろして、とジェイドが必死に宥めようとして……動かした手がずきりと痛む。

 

 どうやらシェリーのカードによる衝撃で痛めてしまったようだ。血は出ていないが、手を横断するような大きな傷が痛々しい。

 皆にバレないようすぐ手を握って傷を見せないようにしたが、一番近くにいたシェリーには気付かれてしまったようで、申し訳なさそうな顔をしていた。

 

 どちらが先に話そうか、と二人の間でアイコンタクト。イェーガーの方はイリアステルに近付けるチャンスの話のため、話の重要度が低いだろうジェイドから、ということになった。

 

「あー、王様の……モクテスマ2世の記憶でね。死んじゃう前に話しかけられたんだ。イリアステルの……んぅ、神に」

 

 ジェイドとしては彼を神と言いたくはなかったのだが、今この場で皆にわかりやすいのは神という呼称。しかし皆が気にするのは言い詰まっていたそこではなかった。

 

「死ぬ、前……って」

 

 彼だからこそ、それはあっさりと使っていい言葉ではない。何を言えばいいのかわからない皆へ、ジェイドは胸に手を当て宣誓するように言葉を紡ぐ。

 

「もう過ぎたこと。きっとどうやっても変わらなかったし、変えられなかった。そうやって貴方達に同情してもらうだけで、王は十分に救われている。――それで終わらせてくれないかな」

 

 ジェイドの内側にある記憶から彼の言葉を代弁する。終わったことを蒸し返しても歴史は変わらないのだから。

 

「……そうか。ジェイドが納得できているなら構わない。話を続けてくれ」

 

「彼は言っていた。『限られた中でよく頑張りました』、『悪かったのは時間だけ』……あれはきっと、実体験してるからこその言葉」

 

 ジェイドの原作知識を抜きにして、モクテスマ2世個人での判断をしたとしてもあの言葉には確かな重みがあったと断言できる。

 話しかけてきた彼――最後の一人には、もう時間がない。

 

「多分イリアステルには残された時間がない。だから、できる範囲のことを何でもやろうとしてる。ネオドミノシティを消すことと――遊星に力を与えて、それの回避をさせようなんて正反対の策を同時進行なんて無茶苦茶なことをやるぐらいには」

 

「俺を?」

 

「イリアステルが機皇帝を得たのと同じ石板からアクセルシンクロモンスターという力を得た。その事についてはプラシドも驚いていたんでしょう? なら、イリアステルの神は真逆の方針をぶつけて、どっちが未来にとって良いのかを競わせている……かもね」

 

 ジェイドの言葉はある程度の納得をもって受け入れられた。ふと、ジャックは思いついたことをそのまま口にする。

 

「イリアステルに作られたのならば、お前も何か出せる情報はないのか」

 

 お前、と呼ばれたアルターエゴは不機嫌そうに答えた。

 

『フン! 奴らにとってオレは使い捨ての道具だと何度も言ったはずだが。ジャック・アトラスの複製をイリアステルに協力させるために破滅の未来と、ジェイドの正体の一部について知識を与えた……それだけだ。メモリにアジトや連絡先は記録されていない。もしあったとて、そのまま使うほど奴らは愚かではない』

 

 ジャック・アトラスのプライドを持つが故にその事実が腹立たしい。勝手にその程度のものだと決めつけられたのだから。

 

「……その、私の話に移ってもよろしいでしょうか?」

 

「あ、どうぞ」

 

 思ってたよりも重い話だったので口を挟みにくかったイェーガーがおずおずと問いかける。ジェイドから話のバトンはイェーガーへと渡された。

 

 曰く、長官へと電話をした相手の詳細は不明だが、治安維持局のデータベースには記録が残っている。

 とあるゲームセンターのライディングデュエルゲームマシンが実はそのデータベースに繋がっている。そこからアクセスして調べればイリアステルに接触できる手がかりになるかもしれない、とのこと。

 

 案内されたのはどこにでもありそうなごく普通のゲームセンター。偶然では絶対に辿り着けない、特定の操作により出現する隠しステージをイェーガーは手慣れた様子で呼び出す。

 対戦相手としてはカップラーメンマンの姿が出てきた。嫌な思い出となりつつあるその姿にウゲッと声をあげるクロウを無視してイェーガーは詰めライディングデュエルを開始。

 

 この問題たちは私が作ったものなのでどうかお任せを、と意気揚々とスタートしたデュエル。《ジェスター・ロード》の攻撃力を上げるために手札の魔法カードをセットして……。

 

「あっ」

 

「はい?」

 

 思わず声が漏れてしまったジェイドへ、何かまずいことをしてしまったのかとイェーガーは不安そうな顔を向ける。

 

「いやその、スピードカウンター4つあるから……《スピード・ワールド2》の効果で手札の《Sp(スピードスペル)》を見せて800バーンしてからじゃないと、このターンで勝てない、ので……」

 

「…………あ」

 

 画面を見直し、効果を確認し。彼の言葉が正しいとわかったイェーガーの顔が青ざめる。

 

 ライディングデュエルをしていない決闘者はスピードカウンターや《スピード・ワールド2》の効果をよく忘れがちなので、このミスを責めすぎるのはよくない。

 しかしこれは回数制限付きのデュエル。貴重な一回のチャンスを棒に振ったのを許せるはずがない。

 

「ええい貴様! 何が製作者だから任せておけだ、とんだ大嘘つきではないか!」

 

 イェーガーのよく使用している《ジェスター・ロード》だったので嘘はついてないだろう、と判断したらこのザマだ。

 

「いえその、問題の作成は部下に任せていたので……」

 

 詰めデュエルの回答を知らないならイェーガーの助けは期待できない、とゲームの席から無理やり退かし、チーム5D'sの力のみでパスワードとなる詰めデュエルは解くことができた。

 

 そして明かされた電話の相手――それはモーメント・エクスプレス開発機構。

 名のある大企業へとどうやって潜入するか。その策を練るために一旦お開きとなった。

 

 

 

 翌日。怪我をさせてしまったお詫びとしてジェイドはシェリーと一緒にお茶することになった。ミゾグチもいるので二人きりというわけではないが、かなりプライベート感が強い。

 ピンと張り詰めた糸のような緊張感を持つ、細く鋭く研ぎ澄まされた復讐の化身……といった空気はなりを潜め、優雅な所作で紅茶を飲む姿はまさしくお嬢様だ。

 

 カップを静かに置き、申し訳なさそうに彼女は口を開く。

 

「……あの時はごめんなさいね」

 

 目をやるのは傷つけてしまった彼の手。決闘者特有の回復能力でもうほとんど傷跡は消えているが、だからといって彼女のしたことはなかったことにはならない。

 

「いえ、シェリーさんの事情を考えたら仕方ないですから、そんな気にしなくても」

 

 シェリー・ルブランは幼くして親を失った。その絶望は深く、重い。衝動的に動いたことについてジェイドとしては問い詰める気などない。

 変に気にせずさらっと流して終わってほしいが、彼女からすればその態度はどうしても気になってしまう。

 

「それ、貴方が言えることなの?」

 

 シェリーの言葉にミゾグチも頷く。ネオダイダロスブリッジのあの場には二人もいたためホセの言葉は聞いている。

 

 神に作られた人間。親はおらず、誰とも繋がりを持たず、愛を与えられることのなかった孤独なこども。

 ……人によってはこちらの境遇の方が辛いと感じるのではなかろうか。

 

「強いわね、ジェイドは」

 

「目に見えないものを強い弱い、なんて言葉で比べるのは互いにとって良くないと思いますけども」

 

「そうかもしれないけど、でも……私と貴方は違う」

 

 シェリーはそっと目を伏せる。

 

「イリアステルに決闘者ではない、なんて言われたけど……その通りよ。私は、どこまで行こうと復讐者でしか在れない」

 

「そんなことは!」

 

 ライディングデュエルで遊星を追い詰めたり、WRGPの予選を二人だけで勝ち上がってきた実力は本物だ。そうジェイドが言おうとするのをわかってか、彼女は彼よりも先に言葉を繋げる。

 

「自分のことは自分がよくわかってる。私にとって、デュエルとは手段の一つでしかないの。この復讐の果てに、お父様とお母様が戻って来るわけではないけど――それでも私は進み続けるしかない」

 

「シェリーさん……」

 

「結局、どこまで行こうと私のためよ。こうして場を用意したのも、誰かに話を聞いて欲しくて……適任だったのは貴方だった。それだけ」

 

 そこまで言って、特別性を匂わせるような言葉になってしまったと思い至り口を押さえる。

 

「……なんだか期待させてしまう言葉になってごめんなさいね。これは、悪口というわけじゃないのだけど……何故だか、あなたを異性とは思えないのよ」

 

「んぶっ」

 

 ジェイドは動揺してコーヒーを少し溢す。幸運にも服にかかることはなかった。

 

「……やっぱり嫌だったかしら。忘れてちょうだい」

 

「いやまあ、そういったらしさが無いのは自分でもわかってるので……」

 

 ジェイドは困ったように笑う。表面上は取り繕っているが心臓はバックバクだ。

 

 ……女の勘、というものだろうか? びっくりしたがこんなところで前世の性別がバレる訳にはいかない。これだけは何としてでも隠し通す。

 

 だってサテライト時代に同性だからと話してたアレソレが実は精神女性にしてたんだぜ、なんて衝撃の真実は絶対にキツいから……!

 男だけど物腰柔らかな感じはブルーノもそうだし、このまま貫き通せるいけるいける。

 

 

 ――そう、すんごい眼を持ってて私の前世のことまで見れる人とかいなければ……!

 

 

 ……それは多分フラグと言うのだぞジェイド、とデッキの中で《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》はツッコんだ。

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