石造りの心臓   作:ウボァー

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計画外フィードバック

 エキシビジョンデュエル終了後。宿泊するホテルへと戻ったチームラグナロクはテーブルを囲むように配置されたソファに座り反省会を始めていた。

 

「やり過ぎだった。それは自分でもわかっているだろう?」

 

「……ああ」

 

 ドラガンはハラルドの言葉を聞き項垂れる。

 

 ――父親の手術費を肩代わりしてもらう代償は己の敗北。金を持たないただの決闘者に拒否権はなかった。

 八百長を承諾したのは自分だ。決闘者としての誇りに傷をつけたのは自分自身だ。逆恨みというのは分かっている。

 

 キングは一人このオレだ、というジャックのあの言葉を聞くたびに後悔が蘇ってきた。外の情報を断ち切って、山へと逃げるようになった。

 

 八百長についてはジャックが主導した訳ではない。レクス・ゴドウィンからの依頼だとイェーガーがはっきり言っていたのを覚えている。

 しかし、彼は死んでしまった。己の抱くやり場のない感情を向ける相手は何も知らないジャック・アトラスしかいなくなったのか――?

 

 いいや、もう一人いた。ジェイド・アトラス。ジャックがキングとなる過程を最も近くで見ていた男。あのデュエルを見てすぐに違和感に気付けただろう実力を持つ決闘者。

 これまで表舞台に出たことがないため、誰もジャックに兄がいるなど知らなかった。それはドラガンも例外ではない。隠されていたのか、それとも自分から隠れていたのかは定かではないが……ドラガンの八百長を知ることができた人間の一人だ。

 

 ……だから、あの場所にいたジェイド・アトラスの、自分は何も関係ありません、なんて腑抜けた顔を見てどうしても許せなくなってしまった。

 

 間違いなく、あの時のドラガンはジェイド・アトラスへ怒りを抱いていた。チームのため彼の正体を明かすことを目的にしたデュエルへ、己の内で留めておくべき激情を絡めてしまうほどに。

 

「三極神が直接動くことは少ない。神は認めた人間へとその力の殆どを委ねるからだ。だからこそ過ちを犯した時に止められるのは同じルーンの瞳を持つ者か、我らとは異なる神の力を持つ者のみ。忘れた訳ではないだろう」

 

「……忘れてはいないさ」

 

 デュエルモンスターズにおいて三幻神は全て揃えたものに絶対の勝利をもたらすとされている神属性・幻神獣族のカードだ。それらと同じ属性と種族である三極神も同等の力を持つため、使い手が過ちを犯した時の被害は大きい。それこそ、世界を滅ぼしかねないほどに。

 

「奴の神は俺を倒すよりも、神を倒して観客を守ることを優先していた」

 

「《トール》がお前の身勝手を黙認したと分かっていたのだろうな。唯一罰するべきは無理矢理にデュエルを続けさせる力のある神のみ。だから、あの一撃でデュエルを中断するチャンスを与えた」

 

 使い手と同じくこれまで表舞台に姿を見せることのなかった神は、北欧の誇る戦神を単純な腕力のみで倒せる圧倒的なパワーを実体化させていた。

 神と神の衝突、その余波で会場が危険なことになってしまったのは想定外のようだったが、それでもと無理を続けたのはドラガンだ。

 

「……あいつを引っ張り出せるのはあの場しかないと焦ってしまった。……すまない」

 

「その謝罪を向けるのはハラルドに対して、じゃないだろ? チーム5D'sが俺達と戦うことになる準決勝が始まる前までに直接伝えろよ」

 

「わかっている」

 

 反省会が終わるちょうどその時、ハラルドの執事であるセバスチャンが淹れてくれた紅茶が三人分テーブルに並べられる。

 それをきっかけに話は切り替わり、ルーンの瞳により見えたジェイド・アトラスの正体についてをハラルドは口にする。

 

「私が見たのは神の造った肉体に入れられた異世界の女性の魂と、亡国の王の記憶。そして、心臓にて休息するもう一柱のミクトランテクートリ神――二人からはどう見えた?」

 

「流石ハラルド、お前の方が正確に見えてるよ。チームカタストロフ戦の時はバランスが崩れたってだけで、日常生活に問題はなさそうだ。……後から安定するための出来事があったのかもしれねえけど、今ああしてるなら大丈夫だろ。なんかカップラーメンのイベント配信とかやってたらしいし」

 

「俺はデュエル中に焦点がブレてしまったから、途中は女性の姿しか見えていなかったな……しかし、あれほどまでに痛みを受けていてもジェイドとその内にいた神は俺にやり返そうとしなかった。悪を成すものではない」

 

 ――チームラグナロクがイェーガーからエキシビジョンデュエルの依頼を受けたのは、ジェイド・アトラスの実際の姿をそれぞれのルーンの瞳で見て、その正体に迫ろうという理由があった。

 

 チームカタストロフ戦での中継映像で見たジェイド・アトラスの姿は明らかに異常だった。

 アステカにて行われていた花の戦争とチーム戦であるWRGPを重ね、相手を挑発するような言動を多く使う。さらにその目は人ならざる光をぼんやりと放ち、雑誌の取材にて明かされた温和そうな人物と同じとはとても思えなかった。

 

 なぜそうなっているのかとルーンの瞳で見ようとしたが、テレビカメラを通しているためその姿は複数の真実が重なって見えてしまい、詳しくは分からなかった。それ故か、彼が秘めているものの正体を暴かねばならぬと三極神は彼らへと伝えた。

 

 そこで今回のエキシビジョンデュエルの誘いだ。目的の彼が必ず来るとは限らなかったがやる価値はある、と承諾し――その先は改めて語るまでもない。

 

「しかし……呼ぶ時は彼、で良いのだろうか? 貴女と言ってしまったのを不快に思われてはいないだろうか」

 

 ハラルドのふとした疑問にブレイブは軽く答える。

 

「それだけならいいんじゃねえの? 本人としてもあんまり周囲に知られたくなさそうだったから、単語ひとつぐらいが疑問を抱くのにちょうど良い仕掛けになるだろ」

 

「そうか、ならば良いのだが――私が見たのは彼の正体だけではない」

 

 この中でルーンの瞳を一番最初に得たハラルドであるからこそ、二人よりも深くを見ることができた。

 

「心の表層で、彼はあの時にデュエルをするのはジャック・アトラスであると信じきっていた。――ジェイド・アトラスはこことは異なる世界の流れを知っている」

 

 衝撃的な事実を聞いた二人は前のめりになり、がたりとテーブルが揺れる。

 

「何!?」

 

「未来視ってか? そんな能力をミクトランテクートリが持ってるなんて聞いたことないぜ」

 

 ブレイブの言葉に対しハラルドは首を横に振る。

 

「神の力ではなく、魂である彼女が見たものだ。ジェイド・アトラスがいないパラレルワールドの観測……が近いのだろうか? 過去に見たものを記憶として保持しているのみで万能ではないらしいが」

 

「……未来がわかるなら、俺達のデュエルの結果もとっくに知られていると?」

 

「そこまでは流石に見えなかったが……デュエルに絶対がないのは神もよく知っている。未来とは変えられるものだ」

 

 時の流れに飲まれて冷めてしまわぬ内に紅茶を口に運ぶ。幼少の頃から慣れ親しんだ味がハラルドを満たしていく。

 

「全知全能たる《オーディン》でも知り得ぬ、異なる世界からの転生者――貴女の望みが、どうか世界の害とならないことを願う」

 

 ささやかな祈りがかの人に届いたのかどうか。それは神のみが知ることだった。

 

 

 

 エキシビジョンデュエル終了後。痛みが引き、とりあえず動けるようになったジェイドはSNSやネットニュースを確認していた。

 

「アルターエゴ、そっちはどう?」

 

『何も、だな。ニュースとして関連しているのは突然の異常気象ぐらいだ』

 

 ドラガンが口にしたのは間違いなくマスコミが食いつくネタなのに、どこも記事にしていない。

 

「……てことは、やっぱり隠してくれたのかな」

 

 正体暴きにイリアステルの干渉を防ぐため、目立ちたがりなトリックスターなのにあの場で静かだったブレイブがドラガンによるやばめの発言を皆の記憶から頂戴していった……のかもしれない。

 神話においてさまざまな姿に変身したり唆したり、変幻自在な《極神皇ロキ》が力を使ったのならそのぐらいは可能だろう。

 

「…………オレは八百長をしろと頼んだ覚えはない。ゴドウィンめ、まだ隠している事があるのではなかろうな」

 

 戦ったことを忘れてしまった相手から暴露された、キングになるまでの道筋に隠された真実。

 あれほどまでに力強くデュエルする男が八百長を喜んで引き受けたとは考えにくい。金銭に関する何かしらの事情があったはずだ。そうジャックは考える。

 

 レクス・ゴドウィンがジャック・アトラスをキングとして担ぎ上げるための策謀は、彼らに明かされたもの以外にも無数に存在するのだろう。

 しかしそれは亡き兄との約束を果たすため。なんとしてでもシグナーを集めなければという思いがあったからの行動だ。あいつが悪い、と決めつけて終わらせていい話ではない。

 

「地縛神がまた使いとしてやってきた時にその辺については確認した方がいいかもね……それより皆、今気にするべきはチームラグナロクよりも目先のチーム太陽戦! ここからはトーナメント戦で、一度勝てなかったらそこで終わりなんだから」

 

「チーム太陽の戦術は《スピード・ワールド2》や罠を利用した【ロックバーン】。それ一筋で本戦に勝ち上がってきたチームだね。……見栄えが良い戦い方じゃないせいか、あんまり評判は良くないけど」

 

 ブルーノがサイトや雑誌の紹介記事をざっくりと噛み砕いて皆に説明する。

 

「ええー! あんなに良い人たちなのに!?」

 

 龍亞としてはチーム太陽は自分の怪我の手当てをしてくれたし、Dホイールの修理を通して遊星とも仲良くなれた良い人だ。

 

「それは龍亞が実際に話したから言えることだろ? 分からない外野からしたら、あんな戦い方をするんだから嫌なヤツに違いない、って思っちまうのは仕方ないことだよ」

 

 顔のあちこちに犯罪者の証であるマーカーが入ったクロウの言葉には重みがある。

 

「それは……そうかもしれないけどさ」

 

 龍亞は口では納得したようなセリフを言っているが、やっぱり納得はできていないようだ。

 

「【ロックバーン】なら守備モンスターは《レッド・デーモンズ・ドラゴン》でやっつけられるし、効果ダメージは《ブラックフェザー・ドラゴン》で止められる。手に入れた新しい力は今回は使わなくてすみそうかしら」

 

「本物の神がいるチームラグナロクに、機皇帝を使うチームニューワールドのことを考えるとそれが一番良いと思うけど……でも、私たちがずっと使っているカードのことは知られているから、そう上手くいくと思わない方がいいわ」

 

 龍可のこうあればいいな、という望みについてはアキも同意する。その後に続いたのは甘い考えで足を掬われてはならないという自戒。

 これからのデュエルについて盛り上がる皆の声へ反応を示さず、何かを考えている様子の遊星にブルーノは問いかける。

 

「どうかしたのかい遊星?」

 

「いや、チーム太陽のDホイールの修理をする前に見たカードが気になってな」

 

 ここにサインを、とねだられた時に遊星が見てしまったデッキは通常モンスターばかりというシンクロ全盛期の時代で異質なもの。レアカードが一切ない、拾ったカードを使っていた遊星としては懐かしさを覚えるような構築のデッキだった。

 慌てて何見せているんだ、と彼らの仲間によって叱られたことからあれがWRGPで使うデッキだったのだろう。あそこまで通常モンスターばかりとなると、何かしら理由があるのだろうが……。

 

「……デュエルに絶対はない。効果ダメージ以外にも対応できるようデッキの調整をしておくべきだろう」

 

 ここから戦うことになるのは本戦へ勝ち上がってきた実力者達。改めて気を引き締め、チーム5D'sはWRGPに臨もうとしていた。

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