石造りの心臓   作:ウボァー

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チーム太陽の使用カードは5D's放送時に存在するノーマルカード縛りとなっております。(《隠れ兵》以外)
アニメと変わってないようで変わり始めたデュエルをお楽しみください。


Attack of Atlas

 ライディングスーツではなくジャージにアーマー、一台のDホイールを三人で使用。どこにでもいそうな決闘者で、使うカードにレアカードは無い。この大会に出場しているチームの中で観客が一番身近に感じられるのは間違いなくチーム太陽だろう。

 

 そんな彼らが使うDホイールは本当に走れるのかと不安になる観客がいるようなものだった。スタートラインに並ぶ純白の運命の輪と比較すると緑の車体は見劣りするが、そんな見た目に騙されてはならないということをジャックはよく分かっていた。

 何故なら、中身は我らがチーム5D'sのメカニック担当二人が関わっているのだから。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!」」

 

 二人は同時にアクセルを踏み込み――チーム太陽のDホイールはホイール・オブ・フォーチュンと匹敵するほどの加速を初っ端に見せつけた。

 

「う、うわ、うわわわわ……!?」

 

 適切な姿勢を保てず、あまりのスピードに振り回されるような走行をするDホイールへと近寄るのは危険と判断したジャックはスピードを少し落とす。

 

「くっ……先攻はくれてやる!」

 

 後ろから追い抜こうとすればふらふらと不規則に揺れる車体に衝突しかねない。チーム太陽、吉蔵がそのまま第一コーナーを曲がった。

 

『先攻を取ったのはチーム太陽!』

 

 よっしゃあ! とチーム太陽のピットにいる二人は拳を握り振り上げて喜びを分かち合う。

 まさかあのホイール・オブ・フォーチュンを相手にできるほどに俺たちが作ったDホイールの性能が上がっているなんて、と吉蔵は感動していたが、もうデュエルは始まっている。喜びに浸り続けることはできない。

 

「いけない、集中集中……俺のターン、ドロー! 《キーメイス》を守備表示で召喚! カードを3枚セットしてターンエンドだ」

 

《キーメイス》

星1/守300

 

 フィールドに出てきたのは小さな身長と同じだけの長さを持つ鍵を大事に抱える天使。

 

『何とチーム太陽、レベル1の通常モンスターを守備表示で召喚だ!』

 

 実況は驚きを隠せない。出てきたモンスターがこれでは、パワーデッキの使い手であるジャック・アトラスに対してどうするのかがさっぱりわからないからだ。

 

「先攻で出すのが通常モンスター1体……伏せが3枚もあるとなると、何かを企んでいるのは間違いない。だが! いかなる障害もオレには届かん! オレのターン、ドロー!」

 

吉蔵 SPC 0→1

ジャック SPC 0→1

 

「手札の《アタック・ゲイナー》を捨て、手札より《パワー・ジャイアント》を特殊召喚!」

 

《パワー・ジャイアント》

星6/攻2200

 

 子供向けロボットのような見目をした岩石の巨人は両腕を振り上げる。

 ジャックが呼び出したのは効果により特殊召喚が可能な上級モンスター。たとえ相手が【ロックバーン】だとしても、最初から攻撃力で押していく戦法で相手に圧をかけようとしているのだろう。

 

「この方法で特殊召喚した《パワー・ジャイアント》のレベルは捨てたモンスターのレベル分下がる。《アタック・ゲイナー》のレベルは1、よってレベルは6から5になる」

 

《パワー・ジャイアント》

星6→5

 

「攻撃力2200のモンスター……! だが、その特殊召喚により罠カード《誘発召喚》を発動! 互いに手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できる! 俺は《手をつなぐ魔人》を特殊召喚!」

 

《手をつなぐ魔人》

星4/守1600

 

 罠により吉蔵の手札に潜んでいた伏兵が飛び出した。

 蝙蝠のような羽を持つ手の大きな魔人はチーム太陽の戦法を支える大切なモンスター。吉蔵はその背中へ頼むぞと視線を向けたのち、効果を対戦相手へと伝える。

 

「《手をつなぐ魔人》がモンスターゾーンに存在する限り、相手は他のモンスターを攻撃できない。また、《手をつなぐ魔人》の守備力はこのカード以外の自分フィールドのモンスターの守備力分アップする! 《キーメイス》の守備力は300。よって、守備力は300アップして1900だ!」

 

《手をつなぐ魔人》

守1600→1900

 

 魔人は隣にいた《キーメイス》とぎゅっと手を繋ぎ、2体は共に決闘者を守るよう横並びとなってジャックを強く睨みつける。……どちらも愛らしい見た目のせいでプレッシャーは全く感じないが。

 

「壁モンスターを並べて守ろうとしても無駄だ! 《誘発召喚》の効果によりオレは《マジック・ホール・ゴーレム》を守備表示で特殊召喚する!」

 

《マジック・ホール・ゴーレム》

星3/守2000

 

 ジャックがフィールドへ追加したモンスターは古代遺跡から発掘されたような見た目をした、輪の形をしているゴーレム。

 

「《マジック・ホール・ゴーレム》の効果を《パワー・ジャイアント》を対象に発動! 対象となったモンスターはエンドフェイズまで攻撃力が半分になり、このターンダイレクトアタックを可能とする!」

 

「何っ!」

 

《パワー・ジャイアント》

攻2200→1100

 

 輪より放たれる魔術的パワーにより岩石の巨人の体躯は小さくなる。《手をつなぐ魔人》へと攻撃するだろうと思っていた吉蔵はまさかの効果に驚きの声をあげた。

 

「そのモンスターの効果はモンスターへの攻撃を誘導するだけでプレイヤーへの直接攻撃には作用しない。行け、《パワー・ジャイアント》! ダイレクトアタックだ!」

 

 手を繋いだモンスター達を無視して放った拳が決闘者へと接近。残る2枚の伏せカードは使われず、1100のダメージが吉蔵のライフを削った。

 

「うわああっ!」

 

吉蔵

LP 4000→2900

 

『先制攻撃を決めたのはジャック・アトラス! 圧倒的なパワーの前にチーム太陽は屈してしまうのか!?』

 

 アトラス様ー! とファンの声援が響く。防御に専念し消極的に見える吉蔵へ一撃を与えたことで、会場の雰囲気とデュエルの流れをジャックは掴んだ。

 

「……それらの伏せカードは攻撃に対するものではなかったか。オレはカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

吉蔵 SPC 1→2

ジャック SPC 1→2

 

「《伝説の剣豪 MASAKI》を守備表示で召喚! 俺のフィールドに守備表示のモンスターが増えたことにより、《手をつなぐ魔人》は自身の効果で守備力をアップする!」

 

《伝説の剣豪 MASAKI》

星4/守1100

 

《手をつなぐ魔人》

守備力1900→3000

 

 鎧武者は手に持っていた刀を鞘に納め、魔人の空いている手を掴む。吉蔵のフィールドには心優しい魔人が真ん中になるように並び、守備力は3000の大台に乗った。

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 徹底的に守備を固めてフィールドにいるモンスターは3体、伏せてあるカードは3枚。このまま放置していればモンスターを増やして守備を固めていくだろう。

 

「……もうあっちのターンは終わりかよ」

 

「チーム太陽の雑魚モンスター並べるだけのデュエルとか予選で見飽きたからさあ、派手なとこ見せろよな」

 

 聞こえてきた観客達の勝手な物言いに龍亞はぎゅっと目が険しくなるが、龍可が兄の手を握って落ち着かせようとしている。

 

「またノーマルカードの通常モンスター。遊星が見たカードはブラフというわけじゃなくて、本当に使うデッキのものだったのね……」

 

「【ロックバーン】は時間をかけるほどに厄介になる。攻撃誘導効果持ちが守備力3000になって伏せカードもわからない今、ここで動かないとまずいぜ」

 

「ああ、そろそろジャックも動くだろう」

 

 守備モンスターを一掃する手段、その効果を持つシンクロモンスターを男は持っている。

 

「オレのターン、ドロー!」

 

吉蔵 SPC 2→3

ジャック SPC 2→3

 

「チューナーモンスター、《ダーク・リゾネーター》を召喚!」

 

《ダーク・リゾネーター》

星3/守300

 

 ジャックはドローしたカードをそのままフィールドへ出し召喚する。悪魔は笑い声と共に音叉を鳴らし、これから何が起こるのかを全員に明らかにする。

 

「チューナーの召喚……! 来るのか、あのシンクロモンスターが! ならその前に罠カード《停戦協定》を発動! フィールドの効果モンスターの数1体につき500のダメージを相手に与える!」

 

 シンクロ召喚されて相手のモンスターが減る前に、と使われたその罠はフィールドの効果モンスターの数を参照してダメージを与えることができるもの。

 

「あれ? あれって、自分と相手のフィールドの効果モンスターの数でダメージが変わってくる罠だよね? もっと効果モンスターを使っていればより大きなダメージが与えられるのに、何でそうしてないんだろ」

 

 落ち着きを取り戻した龍亞は思いついた疑問をそのまま口にする。

 

「言われてみれば確かにそうよね。ノーマルカードの効果モンスターが《手をつなぐ魔人》以外に手に入れられなかった、なんて訳じゃないでしょうし……」

 

「通常モンスターを使わねばならない理由があるからそうしているのだろう。やはりただの【ロックバーン】ではない。チーム太陽は何かを隠している」

 

 チーム5D'sは悩んでいる。答えはまだ出ない。

 

「効果モンスターの数はオレとお前のフィールドを合わせて4体……!」

 

「よって、発生するのは2000のダメージだ! くらえ!」

 

 カードから発射された稲妻のようなビジョンがジャックへと襲いかかった。

 

ジャック

LP 4000→2000

 

『まさかの罠カードが発動! 一気にジャック・アトラスのライフポイントが半分削られてしまったぞー!?』

 

 ジャックが効果ダメージ対策として採用している罠カード《クリムゾン・ヘルフレア》は自分フィールドに《レッド・デーモンズ・ドラゴン》がいなければ使えない。シンクロ召喚する前のこのタイミングでは抵抗ができない。

 

「フン、この程度のダメージでオレは止まらん! レベル5になっている《パワージャイアント》に、レベル3の《ダーク・リゾネーター》をチューニング!」

 

◎◎◎

⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎

5+
3=
8

 

「王者の鼓動、今ここに列を成す! 天地鳴動の力を見るがいい! シンクロ召喚! 我が魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」

 

《レッド・デーモンズ・ドラゴン》

星8/攻3000

 

 真っ直ぐに並んだ光輪と光球を貫く閃光から現れるのは、彼のデュエルに欠かせぬ存在である紅蓮魔竜。滾る炎を掌に集めて即座に攻撃できるよう準備を完了している。

 

「バトルだ! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で《手をつなぐ魔人》に攻撃! アブソリュート・パワーフォース――!」

 

 かの竜は攻撃することによりその効果を発動できる。この攻撃を通すと吉蔵が召喚してきたモンスターは全て炎に焼かれて破壊されてしまう。

 WRGP本戦まで勝ち上がってきた決闘者はそんな隙を晒さない。伏せカードの発動のため、デュエルディスクを操作する。

 

「永続罠《ドラゴン族・封印の壺》を発動! このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上に表側表示で存在する全てのドラゴン族モンスターは守備表示になり、表示形式を変更する事ができない!」

 

 表になったカードから出てきたのは竜の頭部を模した壺。発せられた白い煙のようなものに包まれた紅蓮魔竜は攻撃できず、身を丸くして防御の姿勢に変化させられる。

 

《レッド・デーモンズ・ドラゴン》

攻3000→守2000

 

「いいぞヨシ! レアカードなんかに負けるなー!」

 

「これでジャックのエースモンスターを封じた! その調子だ!」

 

 甚兵衛と太郎による応援が彼の戦いを後押しする。

 

「そう来たか……オレはこれでターンエンド。エンドフェイズ、攻撃宣言をしていない《マジック・ホール・ゴーレム》は《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の効果により破壊される」

 

 彼の魂はたとえ味方であろうと攻めかからない臆病者を許さない。ダイレクトアタックを可能とするモンスターは紅蓮魔竜の熱がもたらす炎に包まれ破壊されてしまった。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

吉蔵 SPC 3→4

ジャック SPC 3→4

 

「カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 カードのセット。それだけで吉蔵からジャックへとターンが移る。あまりにも早すぎるターンエンドに黙っていられない人々がいた。

 

「守ってばかりじゃなくて攻撃しろー!」

 

「もっと派手なのが見てぇんだよ!」

 

 チーム太陽にもファンはいるが、その応援をかき消すような民度がちょっとよろしくない野次が目立つ。

 チームカタストロフ戦の時は周囲の声を雑音として処理し、完全に無視していたジェイドだが今はピットにいつも通りの状態でいる。よって、悪い方向へヒートアップしている声を聞いてちょっと引いていた。

 

「うわ……ここまで荒れる事ある?」

 

「派手なデュエルをする比較対象がいるぶん余計に、かもね」

 

 外野にとやかく言われようと、デュエルする男達は手を緩めることなく戦い続ける。

 

「オレのターン、ドロー!」

 

吉蔵 SPC 4→5

ジャック SPC 4→5

 

「相手の永続罠カード《ドラゴン族・封印の壺》を墓地に送り、手札から《トラップ・イーター》を特殊召喚!」

 

 相手のフィールドにある壺をばくりと大口で飲み込み紫の悪魔が出現。紅蓮魔竜を抑えていた白煙が消える。

 

《トラップ・イーター》

星4/攻1900

 

「これで封印は解かれた! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を守備表示から攻撃表示へと変更する」

 

《レッド・デーモンズ・ドラゴン》

守2000→攻3000

 

「バトルだ! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で《手をつなぐ魔人》に攻撃!」

 

「そっちの攻撃力とこっちの守備力の数値は同じ3000! 故に《手をつなぐ魔人》は戦闘破壊されず、ダメージも発生しない!」

 

 突貫する紅蓮魔竜とそれを受け止める魔人。互いに一歩も譲らず、戦闘は拮抗する。

 

「それは承知の上だ! 相手の守備表示モンスターに攻撃したためダメージ計算後に《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の効果発動! 相手フィールドの守備表示モンスターを全て破壊する! デモン・メテオ!」

 

「そうはさせない! 永続罠《スクラム・フォース》を発動! 自分フィールドに表側守備表示モンスターが2体以上存在する場合、自分フィールドの守備表示モンスターは相手の効果では破壊されない!」

 

 か弱いモンスター達は肩を組み、空から降り注ぐ炎に耐える。

 

「ッ……オレの《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の効果を凌ぐ本命はそちらか!」

 

「ジャック・アトラスといえば《レッド・デーモンズ・ドラゴン》。我が魂って言うほどだ、そいつの攻撃をできなくする《ドラゴン族・封印の壺》を退かすためにカードを使ってくれるのは読めてたからな!」

 

 チーム5D'sのセカンドホイーラーであるクロウ・ホーガンに対して《ドラゴン族・封印の壺》は効きが悪い。

 引き継ぐべきカードのことを考えると、《スクラム・フォース》の方がチーム太陽としては維持したいカードになる。よって、《ドラゴン族・封印の壺》を《スクラム・フォース》の存在を隠し、守るために使用したのだ。

 

「オレはカードを1枚伏せてターンエンド。そしてこのエンドフェイズに攻撃宣言をしていない《トラップ・イーター》は《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の効果により破壊される」

 

 攻撃力1900では守備力3000を超えられない。反射ダメージを受けてしまう。攻撃をしなかった大口の悪魔は紅蓮魔竜により身を焼かれ墓地へと消えていく。

 

「《トラップ・イーター》は破壊され墓地へ送られた時、魔法&罠ゾーンに存在するカードを1枚破壊する効果がある。オレは《スクラム・フォース》を破壊する!」

 

 壊れていく悪魔の体から飛び出したまだ罠を食らい足りないという怨念が相手に襲いかかる。

 

「させるか! セットされている《偽物のわな》を発動し、代わりに破壊することで《スクラム・フォース》を守る!」

 

「《トラップ・イーター》のこの効果も回避するだと……!」

 

 怨念は破壊するべき永続罠ではなく、スカと記された紙に吸い込まれて消えていった。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

吉蔵 SPC 5→6

ジャック SPC 5→6

 

「《コピックス》を守備表示で召喚!」

 

《コピックス》

星2/守500

 

 召喚されたのは単眼に獣の尾を持つ戦士。これも通常モンスターだ。

 

「守備表示モンスターが増えたことで《手をつなぐ魔人》の守備力がアップ! 俺はこれでターンエンドだ!」

 

《手をつなぐ魔人》

守3000→3500

 

 4体の守備モンスターがズラリと並び、その守備力の合計はついに3000を突破。魔人は《レッド・デーモンズ・ドラゴン》でも戦闘破壊できない堅固な壁となる。

 

「オレのターン、ドロー!」

 

吉蔵 SPC 6→7

ジャック SPC 6→7

 

「守備力3500……その程度でオレの攻撃を封じられるとでも思ったか! 永続罠《デモンズ・チェーン》を《手をつなぐ魔人》を対象に発動! その効果を無効にする!」

 

《手をつなぐ魔人》

守3500→1600

 

 魔人は鎖によりぐるぐる巻きにされ力を失う。皆で繋いでいた手が離れてしまう。

 

「ああっ!」

 

「《ランサー・デーモン》を通常召喚!」

 

《ランサー・デーモン》

星4/攻1600

 

「バトル! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で《手をつなぐ魔人》に攻撃! 攻撃宣言時に《ランサー・デーモン》の効果を発動し、この攻撃は貫通能力を得る!」

 

 両腕に槍を装備した悪魔騎士は紅蓮魔竜の攻撃を補助するために槍を正面に構え、その能力を発揮する。

 

「アブソリュート・パワーフォース!」

 

 前のターンでは壺による封印で阻まれた攻撃だが、今回は遮るものはない。紅蓮魔竜の炎の掌底の前に魔人は倒れた。

 

「ぐううううっ……!」

 

吉蔵

LP 2900→1500

 

 《デモンズ・チェーン》により攻撃誘導の効果もなくなっているためジャックは《手をつなぐ魔人》以外に攻撃も可能であり、貫通効果でもっと大きなダメージを狙えた。

 しかしこれはWRGP、引き継ぎルールのある特殊なデュエル。ここでモンスターを多く倒しておかねば次の相手へと厄介な《手をつなぐ魔人》を残してしまう。

 

「ダメージ計算後に《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の効果が発動する! デモン・メテオ!」

 

「《スクラム・フォース》により俺のモンスター達は効果で破壊されない!」

 

 それは攻撃後に発動する強制効果。吉蔵のフィールドに再び降り注ぐ炎をモンスター達は身を寄せ合い耐え凌ぐ。

 

「確かに効果による破壊はできんが、《手をつなぐ魔人》がいなくなった事でお前のフィールドにいる他のモンスターへと攻撃を行えるようになった! 《ランサー・デーモン》で《伝説の剣豪 MASAKI》に攻撃!」

 

 西洋と東洋、騎士と武士の一騎打ち。数合打ち合ったのちに槍が鎧を貫く。倒れたのは剣豪だった。

 

「カードを1枚伏せターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー……!」

 

 守りの要になるモンスターを失った今、吉蔵ができることは限られている。わずかな希望を繋げる。その想いを胸にカードを引いて――確認し、苦しそうな顔が綻ぶ。

 

吉蔵 SPC 7→8

ジャック SPC 7→8

 

「スピードカウンターを4つ取り除き、《スピード・ワールド2》の効果発動! 手札の『Sp(スピードスペル)』1枚につき相手に800ポイントのダメージを与える! 俺の手札にあるのは1枚、よって800のダメージを――」

 

吉蔵 SPC 8→4

 

 手札から公開されたのは《Sp(スピードスペル)-スピードストーム》。吉蔵は走行しながら反転し、Dホイールのヘッドから飛び出した雷撃がジャックを狙い撃つ。

 これであのキングに勝てる。そんな表情をしている吉蔵が見たのは――王者の腕が横に振られると同時に表になる伏せカード。

 

「カウンター罠《クリムゾン・ヘルフレア》発動! こちらが受ける効果ダメージを倍にして跳ね返す! 800の倍、1600のダメージを受けてもらうぞ!」

 

 雷撃を妨げるのは紅蓮魔竜の作る炎の壁。スピードの世界で発生する衝撃を押し返し、炎を纏った雷撃となって吉蔵を襲う。

 

「う――うわあああああっ!!」

 

吉蔵

LP 1500→0

 

 敗北により白煙を吐き出すチーム太陽のDホイールは減速し、その隙をついてジャックのホイール・オブ・フォーチュンが相手を追い抜かす。

 

『勝利したのはチーム5D's、ジャック・アトラス! 圧倒的なパワーを持つ《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を前に、防戦一方のチーム太陽ははたして巻き返せるのか!』

 

 ピットに戻った吉蔵はDホイールから降りた瞬間、ぶはあっと大きく息を吐き出す。普段と違う様子のチームメイトに、太郎は慌てた様子で彼の体へ手を添える。

 

「大丈夫かヨシ!?」

 

「い、今になって緊張が戻ってきた……! あの時、あのモンスターに攻撃されてたら、俺……!」

 

「もしかしたら、よりも大事なのは今だ。俺たちの希望は繋がってる。まだデュエルは終わってないんだ、このまま続ける! 頼むぞジン!」

 

「わかってる!」

 

 先程まで吉蔵が使っていたDホイールへと甚兵衛が跨り、アクセルを踏む。前を行くジャック・アトラスに追いつくために。

 

「俺達のDホイールを直してくれた恩人だろうと手加減はしねえ! 勝負だ!」

 

「フ――そう来なくてはな!」

 

「「デュエル!」」

 

甚兵衛 SPC 4

ジャック SPC 8

 

「……あれ、相手が変わったのにスピードカウンターは増えないの? ドローもしてないし……」

 

「WRGPの引き継ぎルールってちょっと複雑なところがあってね……ターンプレイヤーが敗北した場合はデュエルはそのフェイズから引き継がれる。つまりこの場合はメインフェイズ1で初期手札5枚の甚兵衛さんが引き継いだ、ってことになるんだ」

 

 龍可の疑問にはブルーノが答える。メインフェイズ1から引き継がれたため甚兵衛のドローは行われず、スタンバイフェイズに増えるスピードカウンターに変化がないのも当然のこと。そうなんだ、と龍可は納得していた。

 

「《手をつなぐ魔人》を守備表示で召喚!」

 

《手をつなぐ魔人》

星4/守1600→2400

 

 ジャックが先ほど倒した魔人はチーム太陽全員のデッキの中に投入されているモンスター。甚兵衛が召喚した魔人は自身の効果によりその守備力を上げる。

 

「カードを2枚伏せてターンエンド!」

 

 再びチーム太陽は守備を固めていく。

 

「またそいつか……! オレのターン、ドロー!」

 

甚兵衛 SPC 4→5

ジャック SPC 8→9

 

 ジャックがドローしたのは《モンスター・バトン》。手札のモンスターの効果をこのカードへと付与することができる永続罠カードだ。

 ……モンスターや魔法によるさらなる展開ができず、互いに取れる手が限られているからこそ思考に余裕がある。

 

 故にジャックは考える。

 何故、ファーストホイーラー吉蔵が最初に召喚したのが《キーメイス》だったのかを。

 

 オレはシンクロ召喚のために特殊召喚を多用する。《誘発召喚》を発動できるタイミングは当然多い。故に《手をつなぐ魔人》を最初に召喚しなかったのはわかる。その後、奴は自分のターンで《キーメイス》よりもステータスの高い《伝説の剣豪 MASAKI》を通常召喚した。

 

 《手をつなぐ魔人》の効果を活かすためならステータスの高いモンスターから出したいはずだ。オレならばそうする。最初の手札に《伝説の剣豪 MASAKI》が無く、ドローで引いた?

 それも否定できないが……もし、一番最初に召喚するのが《キーメイス》でなければいけない理由があるとするなら、それは何か?

 

 光属性天使族、レベル1の通常モンスター。攻撃力と守備力の数値はジェイドが使うメメント化した《メメント・メイス》と同じためよく知っている。

 

 後から出てくるモンスター達よりも圧倒的に弱い。よって、チーム太陽を守る堅固な壁になる《手をつなぐ魔人》の守備力を弱体化させるために狙われる機会は少ない。目立たない。

 

 ……鍵となる通常モンスターを相手に気取らせない? オレは、そんな話をどこかで聞いている。あれは夏の日、そう、ジェイドがデュエルアカデミアから帰ってきて――。

 

 思い出した男の頬に冷や汗が流れる。

 

 

 先攻を取った時の喜びよう。

 通常モンスターを軸にしたデッキ。

 【ロックバーン】による長期戦。

 

 ……WRGPの特殊なルールである、盤面の引き継ぎ。

 

 

 まさか、そういう事なのか。

 しかし、それならば納得できる!

 

 あのモンスターを呼ぶ鍵となる《キーメイス》を除去できるカードは今のオレの手札にはない。引き当てて使用するまでに時間がかかる。その1ターンが今は惜しい。

 

 守備モンスターを一掃できる手段である我が魂の効果は《スクラム・フォース》がある限り防がれてしまう。相手のフィールドにある2枚の伏せカードの中には恐らく攻撃を止めるものが含まれているだろう。このまま攻撃したところで事態が好転するようには思えない。

 

 《トラップ・イーター》がまた引けるまで待つか? ……いや、オレが気付いてしまった今、もうそんな余裕はない!

 

 このままオレが戦い続け、スピードカウンター10を消費し、《スピード・ワールド2》の効果で《スクラム・フォース》を破壊できなかった場合、奴らに更なる時間を与えてしまう。最悪の可能性はそれだ。

 

 手札が《モンスター・バトン》のみで突破する方法をこれからドローできるかどうかに頼らねばならぬオレよりも、初期手札5枚からスタートし、この状況に向いたモンスター効果を多く擁するクロウの方が早く突破できる。

 

 この永続罠はクロウの方が扱いやすい。あのモンスターが出た時に対処できる効果を持つモンスターが、クロウのデッキには入っている!

 

「カードを1枚伏せ――《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を対象に罠カード《ショック・ウェーブ》発動!」

 

 無理にターンを引き延ばさず、自爆ダメージによりセカンドホイーラーへ交代する。これが最善だと信じてジャックは躊躇いなくその罠を使った。

 

「な……! ジャックの奴、ここであの罠を使いやがった!?」

 

 ピットにいる仲間達はまさかの罠の発動に慌て、次のホイーラーであるクロウが出るための準備をしていた。

 

「この罠カードはオレのライフが相手より低い場合、フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージをお互いのプレイヤーは受ける。――《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の攻撃力は3000! よって、オレ達は3000のダメージを受ける!」

 

「なんだと!?」

 

「許せ、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》……! チームの勝利のためだ!」

 

 紅蓮魔竜が罠の効果により爆発し、発生した衝撃波は二人へ平等に襲いかかる。

 

「うおわあああああっ!!」

 

「ぐぬうぅぅっ……!」

 

甚兵衛

LP 4000→1000

 

ジャック

LP 2000→0

 

『な、なんと! まさかの自爆! 3000という大ダメージの代償はジャック・アトラスの敗北! この一手が吉と出るか凶と出るか――クロウ・ホーガンへとバトンは託された!』

 

 ピットに帰還したジャックは肩のバトンを外し、クロウへと貼り付けたのちに声を低く、小さくして警告する。

 

「いいか、落ち着いて聞け。決して騒ぐな」

 

「きゅ、急にどうしたんだよジャック?」

 

 この真実を一番知られてはならないのは観客だ。あの戦い方なら、これまで誰も見ることのできなかったあのモンスターを呼び出せる可能性が高い。

 ならこの場で是非とも見てみたいと全体が同調するだろう。会場の空気がチーム太陽へと持っていかれる。

 

 だから、チーム5D'sの間でのみわかる言葉でなければならない。

 

「《Uru(ウル)》が初めて訪れる前にジェイドがしていた話を思い出せ。それがオレの言える全てだ」

 

「……は? それが今関係あるのかよ」

 

「大有りだ」

 

 このような場所で冗談や関係ないことを言う男ではない。クロウはあの夏の日のことを思い出す。

 

「あれって確か……ジェイドがデュエルアカデミアから帰ってきて、そんで」

 

 『とあるモンスター』について雑談のような話をしてきた、と告げて。

 それはとても使いにくく、召喚するためには――。

 

「――ッ!」

 

 黒羽の鳥獣を使う決闘者にぞわりと鳥肌が立つ。周囲にいた仲間にもだ。あまりにも衝撃的すぎて、騒ぐなんてできるはずがない。

 

「……どうやら、わかったようだな」

 

「ああ。あいつらが何を狙ってるのかはよくわかった」

 

 効果モンスターではなく通常モンスターでフィールドを埋める意味。目を逸らすための壁。長期戦になって当然のデュエル。

 レベル1通常モンスターにもステータスの高いものはいる。しかし、このデュエルで目立たせないためには弱くある必要があった。だからこその《キーメイス》。

 

「チーム太陽のデュエルで気になる部分は確かにあったが……ジェイドがあの話をデュエルアカデミアで偶然してなけりゃ、召喚条件が満たされるギリギリになるまで気付けなかったかもな」

 

 視線を向けた先にいる男はまさか雑談が役に立つなんて、と驚いているように見えた。

 

「ここから盤面をひっくり返すならば、オレが居残るよりお前の方が向いている」

 

 クロウはジャックのDホイールから《ランサー・デーモン》と伏せられた《モンスター・バトン》を引き継ぐ。

 

「頼むぞクロウ!」

 

「おうよ! このクロウ様が遊星に託すよりも先に残り二人をまとめて倒しても文句言うんじゃねえぞ!」

 

 チーム5D'sセカンドホイーラー、クロウ・ホーガンはニヤリと笑った。




あの話についてですが、ジェイドがチーム太陽の真の狙いを知っているけどそれを最初から教えるのはな〜!それってどうなんだろうな〜!城之内くんの「エクゾディア!エクゾディア!エクゾディア使うあいつ!」コラと同じになりかねないよな〜!と悩んだ末に「WRGP本戦が始まるよりも前、遠回しにチーム太陽の真の狙いについて匂わせる」した結果なので偶然ではなく狙ってます。

ジェイドがしていた驚きの顔は「え?ここでもう気付いたの?」によるものです。
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