石造りの心臓   作:ウボァー

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監視外アドバンテージ

 迫るWRGP準決勝、対戦相手は優勝候補筆頭と呼ばれているチームラグナロク。ジェイドとのエキシビジョンデュエルで見た《極神皇トール》の力は本物だった。途中で中断されたので効果全ては明かされていないが、破壊されても蘇る不死の力は必ず脅威となる。

 

 星界の三極神と相対することになる三人はジェイドを連れて最終調整の走り込みを重ね……気がつけば辺りはすっかり夕暮れ色に染まっていた。休憩と確認を兼ねてDホイールで向かった先の見晴らしの良い高台にて空を仰げば、そこには。

 

「相変わらず、か」

 

 遊星、ジャック、クロウの三人の目には謎の多い超巨大建造物――アーククレイドルが見えている。

 

「……どこ?」

 

 しかしジェイドは目を凝らしても全く見えない。原作知識からアーククレイドルがネオドミノシティ上空に浮かんでいると知っているが、実物を自分一人のみの力で見れたことがなかった。

 

「変なとこで普通の人間なんだよなあ」

 

 これまでのトンデモ経験からすればこのぐらい見えてもおかしくないはずだろうに。クロウはジェイドのちぐはぐさに呆れつつ笑うが、普段通りの姿に安心する。

 

「何のために現れようとしているのか全くわからん! 不気味だな」

 

「ジャック、声を落とせ」

 

「む……すまん」

 

 この場にいるのが自分たちだけではないことに気付いた遊星が普段から声が大きめの幼馴染に注意する。

 人数は三人。夕方にこんな場所にいるとなると散歩中の一般人かもしれない。変な話を聞かせる訳にはいかないと早々に立ち去ろうとしたが、何故か話しかけられた。

 

「どうやら、あれが見えるのは我々だけではないようだな」

 

 話題に乗ってきたのは三人のリーダー格だろう真ん中に立っていた男。逆光で表情はよくわからないが、その左目に複数の直線で構成された不思議な紋様――ルーンを輝かせている。

 

「お前達は……!」

 

 その特徴を見間違えるはずがない。チームラグナロク。世界ナンバーワンの実力を持つと評される、星界の三極神を扱う者達。

 赤き竜の痣がルーンの瞳と共鳴するように光と熱を帯び、ジェイドは内にいる神が騒ついているのか胸を押さえる。

 

「やはりあの目が原因か!」

 

「大丈夫大丈夫、今回は痛いとかそういうのじゃないから。ぞわぞわしてるだけだから」

 

「……本当だろうな?」

 

 兄を苦しめた憎き力を前にジャックは感情を露わにしたがジェイドが宥める。苦しいけど無理をしている類の動きではないと確認して矛を納めるものの、やはりエキシビジョンデュエルの悪印象は拭いきれていない。

 

「我々に貴女を傷つけようという意思はない。――これはルーンの瞳、神により与えられし力。シグナーの痣と近しいもの。これから訪れる脅威へと対抗するための力だ」

 

「なら、俺達は協力できる……のか?」

 

「確かに、打倒イリアステルを掲げる者同士協力したいところだが……」

 

 シグナー達は最初から手を取り合えた訳ではない。多くのすれ違いや衝突の果てに絆が紡がれ、仲間となった。もしかすると、と遊星の口から出た言葉は可能性としてはあり得るもの。しかしハラルドは否定する。

 

「星界の三極神は君達とミクトランテクートリは良しとしているが、赤き竜には疑問を抱いている。準決勝が終わるまでは互いに味方とは呼べない」

 

 必要な時に自由に扱える力を託した神と、いざと言う時にのみ姿を現して力を貸す神。在り方が違うため三極神としては赤き竜が好ましくないのだろう。

 

「ケッ、ジェイドにあんな事をしたくせに何が味方だ」

 

「クロウ……」

 

 遊星はチーム太陽のDホイールを修理していたためその場に居合わせなかった。ポッポタイムに帰ってきてからジェイドに起きたことを教えてもらったのみだったが、それでもダメージは相当のものだと容易に想像できた。あのデュエルを見ていたクロウが反発するのは当然だ。

 

「……《オーディン》にも見通せぬものがあり、その一つがジェイド・アトラスだった。こちらの都合で正体を探る為にと動いた結果が先日のエキシビジョンの真実だ。責任は我々全員にある」

 

 申し訳なさそうにするチームラグナロクの三人をジェイドはどうするのかと幼馴染三人の視線が集まる。

 

「いやいや、まあ、私が気になるのは仕方ないのでそこまで言わずとも……あれから特に不調はないですし、終わったことなので」

 

「許すのか!? いや、ジェイドが本当に気にしていないならいいんだが」

 

 文句を言うぐらいしてもいいだろうに、ジェイドはいつも通りのままであった。今日も元気もりもりメメント・モリ!(寛容)

 

「そ、そうか。本当にそうならいいんだが……」

 

 ハラルドも遊星と同じくジェイドがあっさりと許したことを飲み込めてはいないようだった。

 チームラグナロクがジェイドについて言うべきはこれだけではない。ブレイブに背を押され、ドラガンが一歩踏み出す。

 

「ほら、ここがラストチャンスだぞ」

 

 先日のエキシビジョンデュエルでジェイドを苦しめた相手が、ジェイドの目の前で頭を下げる。

 

「――申し訳なかった」

 

 頭を下げたまま、ドラガンは言葉を紡ぐ。

 

「後でイェーガーから聞いた。あの頃のジェイド・アトラスは八百長に気付いていたとしても、とても話せるような状態ではなかったと。……何も知らない相手に対し、勝手な都合で責任を押し付けた。八百長を受け入れてしまったのは事実で、俺がしたのはただの八つ当たりだ。……どんな罰だろうと受ける」

 

「あ……いや、でも」

 

 ドラガンの言うことはどこも間違ってはいない。間違ってはいないが、こちらは罰など望んではいない。それを言っても受け入れてはくれなさそうな態度の男へどうするべきか、ジェイドは悩んで、悩んで。

 

「……ええいまどろっこしい! 全員痛み分けとして終わらせればいいだろう!」

 

 悩みを吹き飛ばすようにジャックの口から飛び出たのは妥協案、いや、妥協ではなく本心からの言葉。

 知らず知らずに八百長に関与してしまい、本気を出せなかったドラガンのことを取るに足らない相手の一人として忘れてしまっていたジャックにも心残りは存在する。関わった三人がそれぞれ罪を自覚するならばそれが罰で良いではないか、と男は訴えかける。

 

「オレはファーストホイーラーとして出る。そこで決着をつけよう。真にキングとなっていたのはどちらだったのか! ――ドラガン、真なる神を持つ男よ!」

 

 呼びかけられたドラガンは頭を上げる。その目は罰の重さがこれでいいのか、という己への問いで揺れていた。ジャックは追加の慰めの言葉は言わず、ただ待った。信じている。戦神に認められた決闘者は罪の重さを気にする程度で歩みを止めはしないと。

 

 その信頼を受け止め――あの日チャレンジャーだった男は、一人の決闘者としてニヤリと笑った。

 

「――ああ、望むところだ!」

 

 二人の因縁はデュエルによって全て解決するだろう。チームのリーダーである遊星とハラルドはその様子を見て安心したのか目を合わせ、話を戻す。

 

「見えているあれが何なのか、知っているのか?」

 

「この世界に迫る重大な危機、その予兆。フィンブルの冬をもたらすもの。恐らくチームニューワールド……イリアステルと深く関わりを持つものだ。まあ、この場で最も詳しく知っているのはジェイド・アトラスだとは思うが」

 

 ハラルドは疑問を口にする。

 

「……これからの全てを聞いてしまえば楽になる、と考えたことはないのか?」

 

「親しい仲でも言いたくないことの一つや二つぐらいあるだろ。嫌がってるのに無理に口を割らせる趣味なんざねえよ」

 

「ま、それもそうだわな」

 

 クロウの言にブレイブは納得するが、ジェイドとしては見逃せない発言があった。

 

「…………待って、そっちはどこまで私のことを知ってる?」

 

 ジェイドが未来のことを知っていると分かっているのはホセが語ったあの場にいたチーム5D'sとシェリーにミゾグチ。改めて言うまでもないがイリアステルも。なので、会ったのがエキシビジョンデュエルの時だけ、かつまともに話したことのない相手に知られているのはよろしくない。

 もしも未知の手段でジェイドに知られず知識を引き出せる場合、イリアステルに利用されてジェイドの目指す未来が潰れてしまう可能性が出てくる。それは避けたかった。

 

「ドラガンとのデュエルの最中にこの瞳で大体を見させてもらった。……あまり知られたくないだろうことも、な」

 

「俺らの口からはぜってぇ言わないから安心してくれ。人間は慣れる生き物とかいうけどそーゆーのも慣れられるんだなぁ、とかは、まあ」

 

 ハラルドとブレイブは濁しつつ語り、ドラガンは何も言わずに目を逸らす。

 知られたくない、そして必ず言わない、とまで念押ししてくれるとなると……。ジェイドは気付いてしまった。

 

「ま……まさかドラガンの言ったアレはそういうこと!?」

 

 ――そうです。おん、と言いかけていたアレはそういうことです。

 

 心の中で肯定し二人が頷く。うっかりで万が一を起こしてはいけないため声には出さない。アレって何だ? と幼馴染三人は首を傾げている。

 

「それが分かるならそりゃ私の知識ぐらいなら見えますよねぇうわああまじかああああってまさか」

 

「さ、流石に過去の苦労までは見ていないから安心してくれ!」

 

「ぜったいにみないで」

 

 前世性別バレショックで頭を抱えてしゃがみ込んだジェイドは早口で捲し立てる。必死だ。必死さに負けてかハラルドは別の話へとズラす。

 

「……んんっ。二人には言葉で伝えただけなのでここで貴女の知識を確認したいが、私の過去に対して何か知っていることはあるか? ああ、心の中で思い浮かべるだけでいい」

 

 違う話題にしてくれたことに感謝しつつ、これから起こるデュエルの結果とかではなく過去を思い出すだけならいいか、とジェイドは立ち上がりつつ思考する。

 

 ハラルドといえば――神よ力を、って言って戦闘機で山にミサイル打った人。まるで意味がわからんぞ! ……あれ、大佐だっけ大尉だっけ?

 

「……!?」

 

「未来だけじゃなくて過去も、か。こりゃとんでもねぇな……」

 

 軍の関係者でなければ知ることができないのに、サテライト育ちのジェイドがさも当然のように知っている。ハラルドから彼の特異性を事前に聞いていた二人は己のルーンの瞳で見たことで、ジェイドの持つ知識が揺るぎない真実であると確定した。

 

「確認ってこれだけでいいんです?」

 

「十分だ。……貴女が知識を開示してくれた分に釣り合うかは分からないが、準決勝が始まる前に我々が見た事について教えておくとしよう」

 

 ハラルドが告げるとルーンの瞳が光り、六人は半透明のドームのようなものに覆われた。なんだこれはとチーム5D'sは身構えたが嫌な気配はしない。

 それは神の力により作られたイリアステルの目をくらますための結界。

 

「改めて、になるがジェイド・アトラスはモクテスマ2世とは全くの別人だ。そこは安心してほしい。神の手で作られた肉体へ亡国の王の記憶と、それとは異なる魂を入れられた人間……一番隠したい秘密については貴女の自由にするといい。我々は言わない。絶対にな。今現在心臓で休んでいる神――もう一柱のミクトランテクートリがどう動くのかまでは予想できない。悪神や邪神ではないのは確かだ」

 

「あ、もう一柱の方は私がしたいことに協力している感じなのでそこは心配無用です」

 

「そうなのか。しかし力は自在に使えるわけではないのだろう? あの建造物も己の目で見えていないままだ」

 

 ジェイドがこの場についてからの発言はばっちりと聞かれていた。

 

「今のところ見えなくて苦労することはないので……」

 

「ルーンの瞳は星界の三極神を持つものしか得られない訳ではなく、《オーディン》がユグドラシルに己を捧げて得たルーンを人間へと分けているもの。……神の力に耐えられる肉体を持つならばもしかすると、貴女にもルーンの瞳が与えられる機会があるかもしれない」

 

『なんだかんだ言ってセールストークして唾を付ける気か泥棒猫ッ! ジェイドをヴァルハラなんぞに連れてはいかせんぞ!』

 

「うわでた」

 

 三極神が作った結界の中、《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》が頭と腕の口を開き前傾姿勢でチームラグナロクを威嚇する。

 

「うわでた、って……神様に対してその態度は流石に肝が座りすぎだろ……」

 

 チームラグナロクのトリックスターであるブレイブはデュエル中に戦略として自らの神を破壊することはあるが、それはそれ、これはこれ。日常生活で神を軽視するような真似はしない。なので神を邪魔者のように扱うこともあるジェイドの態度は見ていてヒヤヒヤする。

 

『ジェイドにルーンの瞳を後付けとか許さんからな! せめてお守りとかだけにしろ!』

 

「妥協案を出すのか」

 

「……ふむ。求める効果さえ教えてくれたのなら《オーディン》が直接ルーン石を作るとのことだが」

 

『許す』

 

「あ、そこはオッケーなラインなんだ」

 

 威嚇モードから後方腕組みモードになった骨の竜を視界に入れつつ、ジェイドはずっと尋ねたかったことを切り出す。

 

「……この機会だしなんでか言いたがってないもう一柱のミクトランテクートリについても教えてくれない?」

 

『むぐ』

 

 復活後はのらりくらりと避け続けていた話をこの場で振られるとは思っていなかった竜は口を閉じる。

 

「ここならイリアステルにも知られないし、隠そうとしてもルーンの瞳があるから無駄だし」

 

 部外者のような関係者のような、よくわからない立ち位置にいるチームラグナロクを勝手に巻き込みつつジェイドは圧をかける。

 見つめ合うこと十数秒。観念したのか、神はゆっくりと口を開いた。

 

『……我は、二代目のミクトランテクートリだ』

 

「…………うん?」

 

 二柱いるのではなく代替わりだった。想像の斜め上に飛んでいった真実を飲み込むより早く、竜は衝撃的な真実を追加する。

 

『国の終わりが決定的になったあの日、我は……功績と感情を引き継いだ。先代は……王は、もうこの世にいない』

 

 だんだんと小さく、細くなる声は神らしくない弱々しいもの。

 

『ジェイドを作れたのは恐らく先代だろう。死を迎えたモクテスマ2世を迎えに行ったのは我らが王だった。神の座を我に引き継がせる際……その身を壊し、信仰の消えたメメントランを維持するため全てを使い尽くし、王はこの世から消えた。それっきりだ。そも、骨はケッツァーコアトルがまだ持っているのだから、新たに人間を作れるはずなどない……』

 

 忘れてしまいたかったこと。話したくなかったこと。

 

『ジェイド、お前は……』

 

 神であってもその先は言えなかった。神だからこそ言えなかった。

 ……ジェイドが神を持つ決闘者から、神そのものになって、人間を本当に辞めてしまいそうで。

 

 カーリーの目の前に現れたというジェイドのドッペルゲンガーや、紅蓮の悪魔と決着をつけた時ナスカの地に現れたもう一人のジェイドの正体とはきっとメメントの王だ。……しかし、そうだとすると消えたはずの存在がこの時代にいる矛盾が発生する。

 

 ジェイド・アトラスの正体、そして、彼はどこからやって来たのか。

 その完全なる答えは、未だ出ない。




――ジェイドについて一番知らない陣営がイリアステルになった瞬間である。


お兄ちゃん、前世の性別の関係で男のアレソレ系の話は苦手なのでそういう話になるとこっそり逃げるか気配を消し始めます。それはそれとして原作漫画に出てきたボッキンパラダイスは一度見たいと思ってたりもします。(遊戯王ファン的な好奇心によるもの)
転生直後はTSのせいで結構苦労してますが気合いでなんとか慣れました。女は度胸。人間は慣れる生き物です。いいね?


チームラグナロク戦ですが、現在の予定ではVSドラガンはアニメと同じ流れで確定、VSブレイブから展開が変化する流れとなっています。
まだデュエルが完成していないため次回の更新がこれまでよりも遅れるかと思いますが、どうかゆっくりとお待ちください。
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