チームラグナロクに勝利したチーム5D'sを待っていたのは祝勝会……などではなく神の攻撃で一部破損したDホイールの修理作業だった。
カード効果によりダメージをある程度回避していた遊星はブルーノと共に作業に勤しんでいる。ライフポイントが0になって敗北した二人はソファへ体を投げ出していた。回復効果を使ったことにより結果としてダメージを多く受け、一番疲弊したジャックは目を閉じて休憩中だ。
「次は決勝戦、チームニューワールドとのデュエル……」
ヘルメットからヒビの入ったバイザーを取り外したりメラミンスポンジで汚れを落としたり、龍亞龍可兄妹と一緒に手伝いをするジェイドは迫る最終決戦を前に気を引き締める。
……数日で、この世界の未来が決まる。ふと胸が熱を帯び、あの時と同じ声が内側で響く。
――とちゅうはかわったけど、せかいのながれはかわらなかった。……よかった。ほんとうに。
――つぎはどっちがかっても、あのばしょへとたどりつける。でも、いちばんいいのはもちろん。
もう一柱のミクトランテクートリはどうやら復活完了、かつ最終決戦に向けて乗り気。Dホイールの修復と怪我の手当てを終えた三人へのご褒美兼イリアステル戦に向けての戦力増強としてジェイドは自室からあれらを持ってくることを決めた。
修理がひと段落し手を止めた仲間へじゃーんと意気揚々と見せたのはカードファイル。他のカードファイルと見分けられるよう表紙にはジェイドの手描きイラスト付きだ。元気もりもりメメント・モリ!(備えあれば憂いなし)
「来たる最終決戦の前に強化は必須、というわけでコレをどうぞ」
「拾ったカードをまとめたのか?」
「とっておきの隠し玉。見たら皆間違いなくびっくりするよ」
そこまで言うとなると余程のものを出すつもりだろう。ぐいっと上がったハードルだが……まあ次に待っているのは負けられないデュエルだし発破かけるために過剰にしてるだけかもな、とゆるゆる下がっていった。
ほどほどの期待と共にぺらりとめくれば。
「な、なんだこりゃあ!?」
クリアファイル一面に見たことのないカードがずらりと並んでいてクロウは驚きの声を漏らす。声に釣られてなんだどうしたと全員がぎゅっと集まる。
「うわー! 初めて見るカードばっかりだ!」
「手札から発動できる罠に墓地からも使える罠……こんなに捨てられてるのはいくら何でもおかしくない?」
ジェイドが見せたのはこの時代には存在しないと判断して隠してきたカードをまとめたファイル。知らないカードなのは当然だ。
「そこは私も不安になって調べてたんだけど、持ち主も使用ログも見つからなかったから……」
端末の検索履歴からイリアステルへとバレる可能性を考え、ジェイドは周囲への聞き込みや噂のチェックなどで地道に調べていた。
「えっ? 使われた記録がなかったのかい?」
強いカードなのに使われていない。その矛盾が気になったブルーノが問いかける。
「アルターエゴに治安維持局のデータベースも調べてもらったりしたんだけど、なんにもヒットしなかったんだよ」
「となると違法カード!?」
「あ、そこはアルターエゴと確認済みだから心配はしなくても大丈夫」
『デュエルディスクできちんと読み込めて使用可能。ダメージが現実になるような力は込められてない。……というか、もし闇のカードだった場合こいつの神が黙ってないだろう』
『うむ、黙ってないぞ! これらは正真正銘ジェイドが拾ったものだからそう不安がるな人の子よ』
「わぁでた」
皆の迷惑にならないようちょっぴり小さめのサイズで《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》、呼ばれて飛び出て急に降臨。
神様のお墨付きを貰った合法カードを前にふとジャックが思い出す。
「カーリーを経由してオレのものとなった《ヴィジョン・リゾネーター》も元はお前が持っていたのだったな」
「そのカードについては私が拾った記憶ないんだけどね……」
皆が全く知らないカードを拾うこともある、という前例としてジャックは思い出したのだろうが、カーリーに接触したのはジェイドのドッペルゲンガー……もといもう一柱のミクトランテクートリの仕業だ。
ジェイドに深く関わりがあるため本人という事にしても問題はないのかもしれないが、彼としてはやってないことをやったとされるのは納得が上手くできないようだ。
「これは……《バスター・モード》のサポートモンスター?」
ぱらぱらと各ページのカードを確認していく中で遊星の目に止まったのは効果モンスター。言わずもがな《サイキック・リフレクター》である。
謎のDホイーラーにカードを落としたのか聞くタイミングを逃してしまい、確認できてないのに渡すのは駄目だよなあ、とタイミングを逃した結果の果てがこれだ。
謎のDホイーラーの正体であるブルーノからの反応は特に無い。それが演技か、それとも本当に覚えがないのか……どちらが真実かジェイドにはわからなかった。
それぞれが自分のデッキにどう強化を施すべきかカードと睨めっこする中、気付いたのはアキだった。
「……一切記録がないのに存在しているとなると、これらのカードをイリアステルが使ってくる可能性もあるということ?」
こちらを罠に嵌めるため歴史改変をしてくる相手だ。情報アドバンテージを確保するため、彼らが使うカードのデータが存在しない世界にしている、という可能性は否定できない。
今日はチームラグナロクとの戦いを終えた後で疲れは取れきっていない。ひとまず今はカードの確認だけにして明日から本格的なデッキ改造をしよう、とファイルを閉じて区切りをつけたところに訪問者がやってきた。カーリーだ。
「あれ、カーリーさん?」
「何の用だ?」
「私個人からの報告よ。WRGP決勝出場チームの特集記事を書く事になったの!」
ぶい、と自慢げにピースサイン。
「そこで使ってほしい写真とか、こう書いてほしいとか。要望があれば叶えちゃうんだから! ……可能な範囲でだけど」
「あ、それだったらチームカタストロフ戦からずっと私についてるおっかない人の印象を訂正していただけると……」
チームカタストロフが違法カードを使用したことは既に報道されている。そのせいで彼らのデュエル映像が何度も使われ、当然あの状態のジェイドもその分だけテレビで放映された。
素のジェイドを知っている人たちからすればチームカタストロフがよっぽど許せなかったからああなったんだなと分かるが、そうでない人は違う。素のジェイドの姿はカップラーメンのイベントが配信されたことにより広まって中和は……できず、二面性が凄い人という認識に変化。
結果としてギャップ萌え的な方面でのファンを獲得することになってしまいジェイドはちょっと困っていた。
「あれは別に間違ってないから変える必要はないだろう」
「ちょっとジャック?」
おっかない部分が広まるのは困るジェイドと、そういう面も含めての兄であると認識しているジャックの意見が衝突。ジェイドはきゅっと眉を顰める。
サティスファクションタウンにいる鬼柳に取材すればするほど、キレた時のジェイドの凄まじさがあの時のデュエルで見せた姿とそっくりだと納得しているカーリーでは印象を変える記事を書くのは難しい。ジェイドの頼み事はおそらく叶えられないだろう。
「盛り上がっているな……やはり明日にするべきだったか」
わいわいがやがやする中、いつの間にか入口のドア付近に立っていたのは空色の髪に高貴さを纏った成人男性。
「あれ、どちらさま……? って、ハラルド選手ぅ!?」
ハラルドがチーム5D'sと面識があったとは知らないカーリーは突然のチームラグナロクリーダーを前にびっくり仰天。どうぞどうぞと道を開ける。
「すまない。邪魔して大丈夫だったか?」
「長くならないならな。ドラガンとブレイブはどうした?」
遊星が許可を出しつつ気になった点を聞いてみれば、ハラルドはこちらへと近付きながらなんてことないように答える。
「二人はそれぞれの神と共にいる。特に《ロキ》を物作りの場に関わらせるとやらかしかねん」
「……物作りぃ? よくわかんないけど修理代についてか?」
「赤き竜の反応を見るために君達へと与えてしまった損害は請求されたのならば支払うが、私の目的はそちらではない。《オーディン》が直接ルーン石を作ると言っただろう? そちらの要望を聞きに来た」
「……あれは本気だったのか……」
チームラグナロクと出会った丘の上で交わした会話の中、確かにハラルドはそう言っていた。あの場に居合わせていた者達の記憶にしっかりとあるが、話の流れからしてジェイドに他所の神を深く関わらせたくないから線引きした、で終わったと思っていたのだ。
『絶対に《ロキ》は関わらせるなよ! フリではないぞ! 変なもの出したらマジで容赦せんからな!』
ジェイドの神が鼻息荒くトリックスターを拒否する姿をハラルドは仕方なしと納得していた。
――神話で《ロキ》はグングニルやミョルニルなど様々な物の製造に関わっている。
……が、それらを作ることになった原因は《ロキ》が《トール》の妻の髪を刈ったことに起因する。《イーヴァルディ》の息子達へ代わりになる髪を作らせた時、グングニルも共に作られたのだ。
その後、《ロキ》がドヴェルグの兄弟にグングニルなどの宝物を超える素晴らしいものが作れるのかと賭けをし、作られたうちの一つがミョルニルである。なお、《ロキ》が製作中の彼らへちょっかいをかけた結果ミョルニルの柄は短くなった。その後《ロキ》は口を縫い付けられたので悪いことをした報いはきちんと受けている。
「ミクトランテクートリ神よ、貴方は何を望む?」
神は己が認めた決闘者へと顔を向けて頷いた。どうやら効果はジェイドにお任せしてくれるらしい。
「なら――皆が無事に、必ずここに帰って来れるように、かな。……どんなに、とおくにいっても」
付け足された言葉はブルーノの未来を思ってのものであり、そしてここにいない誰かを思っているようにも聞こえた。ジェイドの知る世界の未来に関わるならば深掘りする必要無し、とハラルドは言葉をそのままの意味で受け取った。
「承知した。チームニューワールドとの戦いが始まる前までには必ず完成させよう」
ふと、顔を閉じられたカードファイルに向ける。
「……ところで、なぜあのカードファイルからはミクトランテクートリ神の気配が無数にしているんだ?」
「えっ?」
『なぬ?』
ルーンの瞳をきらりと光らせて告げたのはジェイドの拾い集めた秘蔵カードに関する重大なこと。関係者一人と一柱は目をぱちくりさせて気の抜けた声を出す。
「気付かなかったのか……。近すぎるが故に、か? 失礼、調べても?」
「ミクトランテクートリってことは私に関係があることだよなぁ……あっどうぞどうぞ」
許可をもらってハラルドはカードファイルから一枚手に取る。未知のカードと効果を前に決闘者として驚くものの、神が関わっているならばとすぐに納得する。
「ふむ……本来の形は石板……いや違う、骨片か。砕いた己の体に降ろしている」
カードの表と裏を何度か確認し、見えた情報を整理するように呟く。
「孤独……再び人と共に戦いたいという願望。それがこれらのカード……か」
ジェイドの姿をしていた神から《ヴィジョン・リゾネーター》を渡されたことのあるカーリーがハラルドの言葉を聞いてどこか引っ掛かりを覚える。
「そういえば、あの時のドッペルゲンガーなジェイドさん、何か変なこと言ってたような……」
「それ初耳なんですけどカーリーさん!? なんて言ってたか覚えては」
「う、うーん……ちょっと思い出せないかも。あの時、ジャックをなんとかして助けなきゃっていっぱいいっぱいだったから……。とりあえず、ジェイドさんが拾ってたカードはもともと神様の持ってたものだったってことなの?」
「これまでのカード全て、とまでは言い切れん。ただこのカードファイルにある見たことのないカードはそうだ」
ルーンの瞳は翡翠の男を見据え、問いかける。
「――これらは全知全能である《オーディン》ですら知らぬもの。ジェイド、このカード達は元々何処にあった?」
拾ってきたカードが元々どこにあったのか、誰のものだったのか……それはずっとジェイドからしても謎だった。まあ遊戯王の世界だしそんな事もあるかもしれない、なんて思考放棄していた。
クラッシュタウンの一件が終わった後に拾い、住民に鬼柳へと渡すよう頼んだ《舞い戻った死神》。
紅蓮の悪魔との戦いを前に、カーリーとジャックを繋ぐためもう一柱のミクトランテクートリが渡した《ヴィジョン・リゾネーター》。
もし、この世界にあれらのカードが存在するとして、一番納得できる答えは何なのか。カーリーが聞いたという神の言葉が鍵になるのだろうが……それがわからない今、ジェイドに答えは出せなかった。