ジェイドがついにデッキを完成させた。それはチーム5D's(予定)を集合するのには十分すぎる理由となった。
冥府の王を圧倒する力を持つモンスターの入ったデッキに興味が無い決闘者なぞ存在しない。俺も私もと対戦希望を告げる皆を押し退けるべく、弟の権利――という名の全力の駄々捏ね――を行使し、見事ジャックが記念すべき最初のデュエルの相手を務めることになった。
「先攻は譲ろう」
装着したデュエルディスクの重さに懐かしさを覚える中、ジャックが声をかける。
「え、いいの?」
「構わん」
先攻でのドローがまだある時代なので、先攻は手札5枚ではなく6枚からのスタートになる。カードが1枚増えるだけで欲しいカードを初手に引き込む確率は上がるし、展開のルートも増える。手札誘発も現代遊戯王と比較するとかなり少ない……つまりは先攻有利がより強くなってしまう環境なのだ。
【メメント】、この時代では存在しないはずの未来のカード達。それを使って手加減したら絶対にジャックにバレてキレられるだろうし、かといって全力で回したらカードパワーの差が明らかになってそれはそれでどうなのか……うーんもうどうにでもなーれ! 元気もりもりメメント・モリ!(勤勉な精神に基づく発言)
「本当に私の先攻でいい、んだね? じゃあドローフェイズ、ドローするよ。スタンバイ、メイン――自分フィールドに表側表示モンスターがいないため、手札の《メメント・シーホース》を自身の効果で特殊召喚」
《メメント・シーホース》
星5/守1600
カードをデュエルディスクに置けば映像として反映され、ジェイドのフィールドへ下半身が魚になっている馬が嘶きを上げる。
――通常モンスター《シーホース》と似た見た目にステータス。現実世界ではある動画投稿者により有名になったモンスターだが、この世界ではこれといったエピソードはないただの通常モンスターだ。故にこの特殊召喚に対する反応は薄い。
「ほう、いきなり上級モンスターのおでましか」
通常召喚をせずにレベル5のモンスターを出したことにそう驚きはしない。ジャックは似た効果を持つ《バイス・ドラゴン》を使用している。
あちらは後攻で使いやすい効果だが、こちらの《メメント・シーホース》は自分フィールドのモンスターのみを参照して特殊召喚が可能なため先攻でも無駄なく使うことができる。
「《メメント・シーホース》の効果発動。自身を破壊し、レベルの合計が破壊したモンスター以下になるようにデッキからモンスターを墓地に送る。レベル2の《メメント・ウラモン》、レベル1の《メメント・メイス》と《メメント・ゴブリン》を墓地へ送る。また、『メメント』の効果で墓地に送られた《メメント・ウラモン》を特殊召喚。特殊召喚に成功したことで効果発動、墓地の《メメント・メイス》を手札に加える」
《メメント・ウラモン》
星2/守400
「なるほど、墓地を活用するタイプのデッキか」
「え、《クリボー》!? いや、なーんか違うような……?」
冷静にカードの効果から判断する遊星とは対照的に龍亞は大きな声を出す。反応するのも無理はない。くりくりっとした毛玉な悪魔は伝説の決闘者、武藤遊戯の使用していたモンスターとよく似た見た目をしている。
「《クリボー》と似ている《屋根裏の物の怪》が【メメント】になった姿だからね、見間違えるのも無理はない」
別モンスターと間違われたのが嫌なのか小さな両手を上げモンモン! と抗議するように鳴く。龍可がちょっと目を丸くしているのを見るに、これも精霊のいるカードなのかもしれない。
というかあの押し売り冥界神が連れてきたモンスター達なので全部に精霊がいる可能性がある。それは困るな……。
種族被りや長い名前を略しても【メメント】になれる事を示した色々と希望の星だ。これからも頑張っていただきたい。
「《メメント・メイス》を通常召喚、そして効果発動。《ウラモン》を破壊してデッキから《メメント・ボーン・パーティー》を手札に」
《メメント・メイス》
星1/攻400
褐色肌の天使が骨の鍵を振りかざすとカラフルな爆発が発生、フィールドのモンスターと引き換えに己の主人へ魔法カードを与えた。
「《メメント・ボーン・パーティー》発動! 《メメント・メイス》を破壊し、《メメント・ダークソード》を守備表示で特殊召喚」
《メメント・ダークソード》
星4/守1500
「《メメント・ダークソード》の効果で自身を破壊し、デッキからレベル3以下の『メメント』、《メメント・エンウィッチ》を特殊召喚」
《メメント・エンウィッチ》
星3/守1000
「特殊召喚に成功した《メメント・エンウィッチ》の効果でデッキから《メメント・メイス》を手札に。そして《エンウィッチ》の更なる効果を墓地の《メメント・ゴブリン》を対象に発動。自身を破壊して対象のモンスターを蘇生する」
《メメント・ゴブリン》
星1/守400
二刀流の剣士、魔女、小鬼。モンスターがデッキと墓地を使いコロコロと入れ替わっていく。
「《メメント・ゴブリン》の効果発動。自身を破壊し、デッキから《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》と《メメント・フラクチャー・ダンス》を墓地へ送る」
最後の仕上げ、とばかりに小鬼が爆発してジェイドのフィールドからモンスターが綺麗さっぱりいなくなってしまった。
「エースと罠カードを墓地に送った……」
「あれだけ墓地を使うデッキだ。何かしら呼び出すか回収するための条件、手段はあるはずだ」
アキの呟きに対してクロウが考えられる可能性を上げる。
「墓地にいる《シーホース》、《ウラモン》、《メイス》、《ゴブリン》、《ダークソード》の5種類のメメントをデッキに戻し――《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》を墓地から特殊召喚!」
墓地に眠る五つの骸。命は巡るが定め、と山札へと戻し――その流れは大地を揺るがす。地が割れ、裂け目より冥界の神たる竜は姿を現す。
《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》
星11/攻5000
口を大きく開き咆哮し……召喚口上を言わなかったのが不満だったのかこちらをちらちら見ている。やめなさい。
「攻撃力5000!?」
「あ、守備力も5000あるよ」
ついで、と明かされた情報は皆を驚愕させた。攻撃力3000、という強者の一つの指標を軽々と超えた上に守備力も万全ときた。墓地から特殊召喚された、ということはなんとかして破壊してもまた墓地から舞い戻る可能性があるわけで……。
「これが神の力……」
彼らが戦ったことのある地縛神は命を落とした決闘者のデッキ内に無理やり入り込んだ、というものが多かった。効果の相性が良い決闘者を選んで取り憑いてはいたが、アドバンス召喚を主軸にしているデッキは無かったはず。リリースするモンスターやサポートのカードを使う、その手間がどうしてもかかっていた。
――もし、デッキが最初から神の召喚に特化していれば。その答えがこれなのだろう。
「カードを1枚セットしてターンエンド。さ、ジャックのターンだ」
あれ、意外と現代カードパワーが受け入れてもらえてる? インチキとか何も言われてないぞ?? と内心びっくりするジェイドを他所に、【メメント】について明らかになった情報で決闘者達は盛り上がる。
「《メメント・ボーン・パーティー》は速攻魔法だった。《エフェクト・ヴェーラー》を使用してもモンスターを破壊して効果無効から逃れることが可能……」
「あんだけデッキを回してて手札が全然減ってねえ……」
「攻撃力5000とかどうやって倒したらいいんだよー!?」
もし自分が戦っているなら、を想像するものが多い。
ここまでの流れを作るために使った手札は1枚。カードを1枚セットしたことで最終的な手札は4枚とかなりの余裕がある。様子見のためか、全てを出し切らずにターンを回したのだろう。
「なにが神だ、その程度に臆するオレではない! オレのターン、ドロー!」
外野の騒ぐ声を他所にジャックは己のデッキからカードを引く。
「《成金ゴブリン》を発動! デッキから1枚ドローし、相手は1000回復する」
ジェイド
LP 4000→5000
「……なるほど? じゃあ相手が効果の発動をしたことで《メメントラル・テクトリカ》の効果が発動。墓地から《メメント・エンウィッチ》を特殊召喚。そして特殊召喚に成功した《エンウィッチ》の効果でデッキから《メメント・ゴブリン》を手札に」
神の導きにより墓地から蘇生されたのは骨の羽を持つ魔女。守備表示であることを示すように全身が青色になり、魔女の力でジェイドはモンスターを手札に加える。
「《
《ツイン・ブレイカー》
星4/攻1600
《クリッター》
星3/攻1000
《アタック・ゲイナー》
星1/守0
「いきなり仕掛けるつもりか!」
ジャックがフィールドへと揃えた3体――チューナーを含むフィールドのモンスターのレベルの合計は8。
「ちょ、早い早い! チェーンして手札の《メメント・ゴブリン》を捨てて効果発動、このターン中『メメント』達は相手の効果の対象にならない!
小鬼は懐からスカと書かれた紙を何枚も取り出し、目眩しにするかのようにフィールドへぽいぽい投げ散らしていく。
「守りの効果か……ならば問題ない! レベル4の《ツイン・ブレイカー》、レベル3の《クリッター》にレベル1の《アタック・ゲイナー》をチューニング! 王者の鼓動、今ここに列を成す! 天地鳴動の力を見るがいい! シンクロ召喚! 我が魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」
チューナーのレベルの数と同じ1つの光の輪へ2体のモンスターが潜り、7の星に変わる。全てが合わさり、一筋の光から飛び立つモンスターの影。
黒と赤の筋肉質の体に、三つの湾曲した角。爪のついた翼を広げれば炎が舞う。
――それはジャック・アトラスが魂と称する竜。赤き竜の力の一つであるそのドラゴンは、ジェイドの操る冥界の竜を今この時は敵だと認識し血を滾らせる。
《レッド・デーモンズ・ドラゴン》
星8/攻3000
「墓地に送られた《クリッター》の効果でデッキから《バトル・フェーダー》を手札に!」
「シンクロ素材になったことで発動する《アタック・ゲイナー》の効果は対象を取る。私のフィールドにいる『メメント』達は《メメント・ゴブリン》の効果で対象に取られなくなっているから攻撃力は下がらないよ」
「関係ない! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》に《巨大化》を装備! 逆境でこそ燃え盛れ、我が魂!」
《レッド・デーモンズ・ドラゴン》
攻3000→6000
装備魔法の力で竜の体はより大きくなり、敵を上回る覇気を放つ。
「《成金ゴブリン》で回復させたのはこの為!」
「攻撃力5000を超えた!」
《巨大化》は自身のライフポイントが相手よりも低い時、装備したモンスターの攻撃力を元々の倍にする。
まだ互いに戦闘を行っていないが、龍可の言ったように魔法カードによってジェイドは初期ライフ4000から5000に上がっている。《巨大化》による強化の条件は満たされた。
「これぞ神を超えるパワーだ! バト――」
「《成金ゴブリン》からの《巨大化》コンボはデメリットをメリットに変えるいい手だけど、それ以上は止めさせてもらおうか。メインフェイズ終了前に、手札の《メメント・メイス》を捨てて効果発動! 相手モンスターのコントロールをエンドフェイズまで奪う!
「――何だと!?」
鍵が悪魔竜の胸に刺さり、半回転。かちり、と音がした瞬間その目からは敵意が薄れ……攻撃をするどころか相手の側に立つ始末。
「これでジャックのフィールドに攻撃可能なモンスターはいなくなったけどどうする?」
「ぐ……ターンエンドだ……」
「オーケー。エンドフェイズに《メメント・メイス》の効果が終わりコントロールは元に戻る」
効果終了の宣言。それと同時に竜の目が覚める。何故こちらに、何をしていたのか、と頭をぶるぶる振った後にジャックのフィールドへと戻る。
手札のカードをほぼ使って相手のフィールドへ損害を与えられなかった、というのはジャックにとってかなりの衝撃だったらしい。攻撃力6000が壁になっているから問題ない、そう考えているのだろうが……。
「私のターン、ドロー。残り手札1枚が直接攻撃を止める《バトル・フェーダー》って分かっているのは致命的だね。――《エンウィッチ》をリリースしてセットカード《ナイトメア・デーモンズ》発動。ジャックのフィールドに《ナイトメア・デーモン・トークン》3体を攻撃表示で特殊召喚」
《ナイトメア・デーモン・トークン》
星6/攻2000
真っ黒なひょろ長棒人間のような姿の悪魔達がジャックのフィールドに出現する。
「これは!」
わざわざ攻撃力6000を狙う必要はない、とばかりに攻撃力が5000よりも少ないモンスターを用意された。それだけではない。
「自分フィールドに他のモンスターが存在しない場合、《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》は相手モンスター全てに1回ずつ攻撃ができる。勝負を急ぎすぎたね、ジャック」
「う、ぐ…………ぬうう!!」
《ナイトメア・デーモンズ》はジャックも使っているカード。その効果はよく知っている。故に、敗北から逃れられないことが嫌と言うほどわかった。
「《メメントラル・テクトリカ》! 《ナイトメア・デーモン・トークン》達へ攻撃!」
両腕の竜手と口腔に力を溜め――放射。
攻撃力5000による複数の攻撃、《ナイトメア・デーモン・トークン》が破壊されたことにより発生する効果ダメージ800。そのどれもがジャックのライフポイントをあっさりと削る。抵抗の術はない。
ジャック
LP 4000→0
デュエルディスクが敗北を告げる。デュエル終了の音が鳴り響く。あの時ああしていれば、手札がもう少し違っていれば、が頭の中を巡っているのだろう。
「(でもなー。墓地の《メメント・ボーン・パーティー》を除外して発動できる貫通効果あるから下手に守備表示してもそれはそれで危険だからなー。黙ってた方がいいのかバラしたらいいのかどっちなんだろ)」
「もう一度だ!」
「連戦はズルいだろ! 代われー!」
「順番破りか?」
ジャックの宣言に幼馴染達が待ったをかける。
はいはい、と困りつつも嬉しそうにジェイドは笑っていた。
使うカードを縛るとデュエル考えるの難しいね……イリアステル……こんな時君たちの時代にあった未来のカードを使っても問題ないようショップにこっそり紛れ込ませていたら……。
Q.両腕(右腕左腕)と口腔で攻撃ってあるけど、《ナイトメア・デーモン・トークン》1体を戦闘破壊すると発生する総ダメージは3800。ライフを削るには2回で十分じゃない?追加の1回は死体蹴り行為では?
A.だって召喚口上言ってくれなかったから……眷属達の効果に対しては名前つけてたのに……「《ナイトメア・デーモン・トークン》達」って言ってたから3体全部殴っても問題ないし……バレてないし……セーフ!