そして依頼して描いていただいたイラストを表紙に設定しました!
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ハラルドはこの場でこれ以上己が為せることがないと分かると、健闘を祈ると告げて去っていった。チーム5D'sのみになった空間だが、アキと龍亞と龍可は夜遅くまでポッポタイムに残れないためまた明日と手を振ってお別れ。
静かになった頃、五人はようやく忘れていた空腹を思い出した。デュエルをしていないため疲労のないブルーノとジェイドが料理を担当しようとキッチンに立ったが、調理の時間が待てないと言い出したカップラーメン好きの提案に幼馴染達が賛同し、晩御飯はカップラーメンとなった。
「どれ食べるかは決めた?」
めいめいにどの味が食べたいかを告げ、それらを棚から引っ張り出す。ジャック以外は定番の味のカップラーメンを選んだが、ジャックはずっとハマりっぱなしな変わり種のおしるこヌードルを手に取った。甘い麺が晩御飯として適任なのかは不明だが、当人は気にしていないので問題ないだろう。
やかんにたっぷりと水を入れ、お湯が沸くのを待つ少しの時間で雑談に興じる。
「そういやガキの頃食べたカップラーメンの復刻ってどうなってんだ?」
カップラーメンマンの中の人バレについてはカップラーメン復刻公開打ち合わせでまあまあ有耶無耶になったのはクロウとしては良かったのだが、イベントの結果としてジェイドに種類の違う苦労を背負わせてしまった。
チームの中でこういったことに一番詳しいのはジャックだが、ジェイドが一人で対応できているので手助けはあまりしていない。そのため復刻についての詳細を知っているのはジェイドだけだった。
「細かくは詰めてないけどWRGPが終わってから、になりそう。こっちが忙しいのは先方もわかってくれてるし」
「なら、俺達の優勝の祝杯はカップラーメンか」
嫌がるわけでも喜ぶわけでもなく、遊星は真面目に可能性を述べる。いつも通りのクールに見える表情で祝杯がカップラーメン、というセリフを言う姿がちょっぴりツボに入ってジェイドは抑え気味の笑い声を出した。どこに笑うポイントがあったのかよくわかっていない遊星は少し首を傾げている。
「ジェイドはデッキをどう強化するのかは決めているのか?」
デッキの改造は明日に、と決めていてもやはり気になってしまうのは決闘者の性。ジェイドもイリアステルと対する一人のため強化は行われる。弄る部分が汎用カードぐらいしかないあのデッキがどう変わるのか気になって遊星は問いかけた。
「ん? もう決めてるよ?」
「まあ、全部ジェイドが拾ってきたものだから効果も把握済みだもんね」
「となればやはり融合モンスターか」
「それも候補はあるけど、一番はシンクロモンスターかな。破壊とは違う除去がやっぱり欲しくてね」
「……チューナーを入れるのか?」
展開ルートで使うカードは通常・特殊召喚共にテーマ内で完結されているため、余計なものを加えることで【メメント】デッキのバランスが崩れないかを危惧している。
「構築は大きく変えなくても使えるけど、そこ以外で気になる部分が……まあ、相談は明日でもいいか」
しゅうしゅうとヤカンが鳴き出したので話を切り上げる。
お湯を入れて待つこと数分。空腹にはどんな人間も勝てない。いただきますとご馳走様の間に会話は無く、啜る音と飲み干す音で埋められていた。
お腹いっぱいになった後は風呂だ。時々ウググと呻く声が風呂場からしていたのは傷口に湯が染みたからだろう。
「……これで大丈夫、かな?」
睡眠の必要がないアルターエゴをパソコンに移動させて部屋に持ち込み、また元気な怪我人達を万全の体調に戻すためにも早く寝ろと寝室へ追いやり――三人きりになった部屋でジェイドはタイミングを逃していたこととようやく向き合った。
「謎のDホイーラーさんに聞きたいんだけど、このカードに見覚えは?」
カードファイルにしまっていた問題の一枚を見せる。髪を掻き上げ、簡易的に謎のDホイーラーモードになったブルーノはゆっくりと首を横に振る。
「…………私のデッキで《バスター・モード》は採用可能だが、私のカードではない」
「そっか……」
誰かの落とし物の場合、一番可能性が高かった決闘者からの否定。これによりハラルドの言う通りこれらのカードは全て神のものだと確定してしまった。
「私のよくわかんないカード拾いパワー、神様由来のものだったのかぁ」
「神のものであるとしても、世界にこれまで無かったカードを持っていたというのは明らかにおかしい。どれも【メメント】と縁が深い訳ではないから余計にな。拾う瞬間を他人に見られたことはあるのか?」
「小さい頃はジャックが近くにいたけど……あの時に拾ってたカードの中に明確に先の時代のものは無かった、はず」
「ならば拾ったというのはジェイドの主観だけの話になるわけだ。こうして皆に見せるまでジェイド以外が手にしたことがなく、使用された記録もない……」
ふむ、と顎に手を当てて男は思考する。
「元々落ちていたのではなく、誰からも分からぬようにジェイドの周囲に配置しているのか? 本人が問題の神と縁が深いなら、認識を改変されていてもおかしくはない」
「なんだかどんどんトンデモ説に片足突っ込んでるような気が」
『お前の視点しか情報がなく、あらゆる可能性が排除できんのだから仕方なかろう』
「それもそうなんだけども」
あやふや原作知識という前例を知っているアルターエゴからの指摘に対してジェイドは困ったように笑った。
「これからはシンクロモンスターも使う予定だと言ったな」
「うん」
ジェイドはカードファイルからそのモンスターを取り出して見せようとしたが、謎のDホイーラーは彼の腕に手を当てて押さえるようにして動きを止めさせた。
「それは……シンクロ召喚は敵を倒すための……ただの力として必要なのか」
握られた腕からはこの言葉を否定してくれという願いが伝わってくる。――シンクロ召喚をどう使うのか、それが気になってしまうのは仕方ないことだろう。
アクセルシンクロとその先にある力を会得している彼は、シンクロ召喚を絆の力であり可能性だと信じている。同時に、シンクロ召喚が人間の欲望を満たす便利な道具として使い潰された果ての破滅の未来も経験している。
時代が進むにつれてのデュエルの加速。それに比例して人間の欲望が増加するのは自然な流れだ。あの強いカードが早く来てほしい、もっと増えてほしい――OCGやデュエルリンクス、マスターデュエルを経験しているならば誰だってそう思う時があるだろう。
ジェイドの肉体はこの世界で作られたものだとしても、中身は転生者であるため根底にある考え方が違う。どうやってもアクセルシンクロの修得はできないだろうし、シンクロモンスターとは強くて便利な力であるという考えを否定することができない。
「そこについては否定できない。……でもね。倒す、よりは止める、であってほしい」
「止める?」
予想とは違う返答で彼の手が緩む。ジェイドは己の腕を掴んでいた男の手を外し、優しく包むように己の手のひらを重ねる。
「イリアステルは敵ではあるけど根っからの悪ではない。……まあ、悪いことはたくさんしているけど、それはこの歴史の中でそういうことしか残らなかったからなのはあるだろうし」
イリアステルは世界を救おうとあらゆる事をしたが、そのどれもが破滅の未来を変えるまでには至らなかった。
「君は……一体どこまで……」
この時代に生きる者が知らないはずの事情を目の前の彼が口にしたという事実に男は目を丸くする。
「でも、なんていうか……うん。とてもジェイドらしいや」
くしゃりと髪を崩し、いつものブルーノに戻っての笑みは安心や納得といったいろんな感情が混ざったもの。
止めるためなら欲望に身を任せるような使い方にはならない。ジェイドが持つ1枚のカードに向けられた願いはきっと現実になるだろう。
「止めるための力、か。ボクもそうなってほしいと思う」
「というわけで、アーククレイドルにいる、んー……神様を止めるためにもスーパーメカニックさんに聞くだけ聞きたいんだけどさ。私個人で負の回転してるモーメントを元に戻せる方法ってある?」
いい感じの話の後でさらっととんでもないことをしようとするジェイドに頭痛を覚えたのか、ブルーノは額を押さえてため息を吐く。
「その質問、何をしたいのかが何となくで分かるからこそ答えたくないけど……ジェイドに憑いてる神様もきっと赤き竜と同じ遊星粒子の集合体だろうし、モーメントに干渉することはできると思う」
ただ、と区切る。
「どれだけのエネルギーが必要なのかはモーメントの規模によるし、成功したとしても体に相応の反動が来るのは間違いない。――絶対にしないで」
『自己犠牲はやめておけ。自分の身を壊しての救済など誰も笑顔になりはしない。皆が笑顔でいられるようにしたい、と言ったのをオレは忘れておらんぞ』
「はぁい…… 」
チームニューワールドとのデュエルの勝敗に関係なくアーククレイドルは出現する。破滅の未来を避けるにはアーククレイドルにいる彼の言葉が必要不可欠なため、ジェイドとしてはそこを変えるつもりはない。
――だが、アーククレイドルを未来へと送り返すための犠牲は本当に必要なのか?
そう思っているからこそ、あの部分をワンチャン変えられるのではと願望の混ざった問いだったが、こんな反応をされるとなるとどうやら難しいかもしれない。困った。未来組全員生存ムズカシイ。
未来組全員。全員……全員? あれっ、そういえば滅四星の一人が起こす出来事がまだ起きてないような? 浮かんだ疑問は足元から流れてきたひんやりとした空気で上書きされた。
……ふと下を見れば、ぽっかりと開いている黒い穴。ゆらめく紫の光はコンドルの姿をした邪神を照らす。
『来い』
禍々しいがミニサイズのコンドルは嘴でジェイドの衣服を咥えて下へと、穴の中へと引き摺り込む。
「えっ」
ジェイドの全身が穴の中へと消えた後すぐに穴も消えた。
目の前で人が消える異常現象を目の当たりにした一人と一台だったが、アルターエゴはこれまでの接触とやり取りを思えばまあ今回も特に問題はなかろうと判断しスリープモードに移行した。
ブルーノはその対応でいいのかと悩んでいたが、上で寝ている三人が万が一降りてきた場合に備えてジェイドの所在をごまかす準備をしていた。
『己が何者か、その答えは得られたようだな』
「な、なんでここに?」
尻餅をついているジェイドの目の前にはレクス・ゴドウィンとルドガー・ゴドウィン。死者である二人がいるなら、ここは必然的に冥界だ。
ブルーノと話をする中で手に持ったままだったシンクロモンスターのカードをとりあえずエクストラデッキにしまう。そんな彼の後ろには《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》が出現し、突然の拉致をしてきた相手を警戒していた。
『既に失せたはずの神がいる矛盾、我々も気になってな』
『魂が女なのに男の肉体になっているのは多分奴が男神だからなんだろうが……わざわざ異性の魂を選んだ理由がわからん。知らん間に見初められたとかは無いよな? ミクトランテクートリ達にそんなヘキがあったら引くぞ』
『たちぃ!? 何故そこで複数形!?』
コンドルと蜘蛛と竜の会話の中で出てきた単語をジェイドは聞き逃さなかった。
「……え、こっちにもバレていたのか……」
『貴様、一度死んで贄になりかけたの忘れてないか?』
「あっ」
「地縛神は最初からわかっていたようでしたが、私たちが知ったのはつい最近なのでそう落ち込まずとも」
ショックでしょんぼり気味なジェイドだったがレクスに宥められる。
発覚した経緯としては――地縛神がなんだか地上がすっごいバリバリゴロゴロうっせえな、と地上の様子を見てみればルーンの瞳を持つドラガンとジェイドのデュエルが行われていた。『おん、』発言に対しそこから始まる単語についてゴドウィン兄弟のアイデアがクリティカルし、邪神に確認を取ったら肯定されたとのこと。
『イリアステル大混乱、今世紀で一番愉快な見せ物だった。喜劇を用意した褒美として我の痣をやろう』
「いらない……」
冗談混じりなコンドルからの報酬をつっぱね、ジェイドはもしもについて考える。
技術力がずば抜けているイリアステルでも流石に前世は分からないが、下手すると究極の神になったレクス・ゴドウィン経由でバレていた可能性があったということだ。なんておそろしいじゃしんなんだ。
「というか、冥界に連れてくるなんてことをしたらシグナーの痣が反応するんじゃ?」
地縛神は赤き竜と敵対していた存在。ゆえに突然のピカピカ発熱、からの痣が反応してる……! で皆の睡眠時間が削られたらどうしようと後ろにいる骨の竜に向いて尋ねる。
『いや、ケッツァーコアトルの気配は特にしてなかったぞ? 脅威ではないと判断しスルーしたのだろう』
『な、なんだと! このような仕打ちを受けたとて我は神ぞ!?』
竜の言葉を聞き蜘蛛は怒りで声を荒げ、その様子を見てコンドルは笑う。
『クク、陰険ネチネチ野郎にはお似合いの扱いではないか』
『なんだと脳筋鳥頭!』
売り言葉に買い言葉。飛びかかってもみくちゃになってギャオギャオワオワオ。竜はミニサイズの神々の喧嘩の余波がジェイド達に届かぬよう壁となっていた。
やっぱり仲が悪い地縛神を放置し、人間達は話を進める。
「基本的に神は直接降りてくるものではない。この世に現れるとしても依代となるカードを人間に託すのが殆どなのだが……自らの身体を材料に人間を作って世界に干渉したいとなると、余程のことをするつもりなのだろう?」
「しっかり会話できたのは一度だけなんですけど、私の望みと同じことを多分願ってるんじゃないかなあ、とは。未来を救いたいイリアステルの望みと同じではあるけど、その途中に出てくる犠牲を減らす方向に変えたい――ってところですかね」
「未来、ですか」
イリアステルの一員であったレクスとしてはその単語に思うところがあるようでふむ、と考え込む。
「それに犠牲……まさかとは思うが、死人が?」
返事をどうするべきかと悩んだのち、ジェイドはゆっくりと頷いた。ゴドウィン兄弟は目を見開く。
「なっ、神が介入するほどとなるとゼロ・リバースと同等の被害が出るのでは!?」
「そうとも言えなくも……あー、いや言えるか」
ジェイドがしたいことはアーククレイドルでの戦いにも影響が出てくるもの。よって、上手くいかなかったらZ-ONEを倒せずアーククレイドル落下によるネオドミノシティ壊滅&未来人からの忠告は民衆の心に響かず破滅の未来にアクセラレーションという誰も幸せになれない最悪のコンボが確定する。
『ほおう? つまり冥府の神が人間の手を使って死の運命を変えようとしているのか』
喧嘩は終わったのかちょっぴりボロボロなコンドルが会話の中に乱入する。蜘蛛がひっくり返っているところを見るにどうやら勝利したらしい。
『……我はな、運命というのに飽きていた』
己が発した運命という単語に思うところがあるのか、最強の神はずっと抱えてきたものを吐露する。
『時が来れば蘇り、滅び、それを繰り返す。それだけの輪廻だ。変化しない結末しか我らは得られない。赤き竜に勝てないのも、延々と無駄なことを続けるのもわかっていた。だからこそ、此度の決戦にて運命を変えようとするこやつの望みに賛同し力を貸した』
こやつ、と視線を向けるのはレクス・ゴドウィン。ダークシグナーとなった兄とのデュエルでわざと敗北して命を落とし、自らダークシグナーになった男の望みは最強の地縛神のお眼鏡に適った。
『赤き竜も定められた運命に対しどうするべきか悩んでいた。古き世界から脱却した先にある新たな世界の構築を良しとしたため、シグナーから強制的に痣を取り上げたこやつに力を与えていた。……まあ、究極の神は絆の力の前に倒れたわけだがな』
ジェイドの中にいる神へと問いかけるように、邪神は射抜くような眼で彼を見る。
『神が人間と共に運命を変えようとするならば、それが成らなかった人間一人など、倒せて当然だろう?』
「――!」
何を言いたいのか、それを察した男達はデュエルディスクを手に取る。
『何故いなくなった神がまたいるのか、その答えを言葉の中から探すよりも決闘者として先にしておくべきはこちらだろう。――力を示せ、というやつだ。この程度の試練を乗り越えられなければそれまでだ。悪く思うなよ、ミクトランテクートリ』
かつて究極の神だった男、レクス・ゴドウィン。
今現在冥府の神を宿す男、ジェイド・アトラス。
最強の地縛神からの試練として、二人のデュエルが始まろうとしていた。