レクス・ゴドウィンはかつてサテライトからシティへと向かうべくダイダロスブリッジを作り、Dホイールに乗って飛翔し――成功したものの代償として左腕を失った。
人間の力のちっぽけさと運命というものを強く意識するようになった出来事であるが、あの時と今は違う。己の内にある絆の存在が男を強くしている。手袋を取って袖を捲り、露わになった義手からデュエルディスクを展開する。
「私のターン、ドロー!」
かつて己をダークシグナーにした神から直々に試練だと指名された役目を果たすべくカードを操る。
「手札を1枚捨て、手札の《使神官-アスカトル》の効果を発動。自身を守備表示で特殊召喚し、その後デッキから《赤蟻アスカトル》を特殊召喚します」
《使神官-アスカトル》
星5/守1500
《赤蟻アスカトル》
星3/守1300
手札を対価に現れたのは鍛えられた腹筋を晒す半裸の神官。彼が杖の石突きで地面を数度打てば巨大な赤い蟻が這い出てきた。モンスター達は2体で1組のような状態が自然であるといった様子で佇んでいる。
「レベル5の《使神官-アスカトル》にレベル3の《赤蟻アスカトル》をチューニング!」
「太陽昇りし時、全ての闇を照らし出す。降り注げ光よ! シンクロ召喚! いでよ、《太陽龍インティ》!」
《太陽龍インティ》
星8/守2800
暗い世界を裂くのは身を焦がすほどの熱と光。地底に太陽の化身が降臨する。かつてシグナー達を苦しめたモンスターの赤い四つ首は己を守るために内側へと巻かれている。レクス・ゴドウィンの象徴とも言えるシンクロモンスターの登場によりジェイドは一層気を引き締める。
「墓地に存在する地属性モンスター2体をゲームから除外し、《ギガストーン・オメガ》を特殊召喚」
《ギガストーン・オメガ》
星5/守2300
「チューナーモンスター、《
《
星3/守400
レクスがシンクロ素材にしたモンスターはどちらも地属性。墓地のモンスターを糧に体の全てが岩石で構成されている亀のような怪物が姿を見せる。その後、大きなモンスターの間に挟まれて小ささが目立つ機械仕掛けの鳥人がパタパタと羽ばたく。
「…………うん?」
ジェイドは首を捻る。《太陽龍インティ》を出したのならばダークシンクロモンスターである《月影龍クイラ》を隣に並べてくるのでは、と思っていたが出てきたのはレベル5のモンスターにレベル3のチューナー。これではレベル8のシンクロモンスターしか出すことができない。疑問へ回答を示すようにレクスは動いた。
「レベル5の《ギガストーン・オメガ》にレベル3の《
「陰りより生ずるは魔神を束ねし蠅の王。この世の闇を喰らい尽くせ! シンクロ召喚! 《魔王龍 ベエルゼ》!」
《魔王龍 ベエルゼ》
星8/守3000
シンクロ召喚の光が消えた後にフィールドにいたのは赤黒い竜。その胴は禍々しく変形させた蝿の頭を思わせる見た目であり、そこから二つの首が伸びている。
「なっ……
闇のカードであるシンクロモンスターの影響でレクスの目がダークシグナーだった頃のように白黒反転し、その顔には紫の紋様が現れる。しかしジェイドが驚いたのは対戦相手の見た目の変化ではなく使われたモンスターに対してだった。
『ほう、その名を知っているのか。人の世で姿を見せたことが数えるほどしかない連中だぞ?』
「一応、名前と見た目と効果は」
『……それは一応ではなくほぼ全てではないか?』
コンドルの問いにジェイドは答える。
漫画版5D'sのラスボスとなったモンスターは赤き竜とそっくりな姿をしていたり、赤き竜は別作品であるARC-Vにも出てきていた。ジェイドがこの時代にないカードを神の力により得ているのなら、赤き竜も似たことができるのは当然かもしれないが……だとしても、まさかレクス・ゴドウィンが使うとは。
「カードを2枚伏せてターンエンドです」
堅実に防御を固める相手のフィールドにいるのは破壊耐性持ちのドラゴンと、戦闘破壊するとこちらに効果ダメージを与えてくるドラゴン。2体の厄介シンクロモンスターを回避しながらダメージを与えるには《メメント・カクタス》の効果でダイレクトアタックするのが一番だ。戦略を決めたジェイドはデッキからカードを引く。
「私のターン、ドロー! 《メメント・エンウィッチ》を召喚。効果でデッキから《メメント・シーホース》を手札に加える」
《メメント・エンウィッチ》
星3/守1000
デュエルで毎回お世話になっている魔女はくるりと箒を回して愛嬌を振り撒く。
「その効果を利用させてもらいますよ。罠カード《逆転の明札》を発動! 相手がドローフェイズ以外にカードを手札に加えた時、自分の手札が相手の手札と同じ枚数になるようにドローする! 貴方の手札は6枚。よって私は6枚ドローします」
効果を相手に利用されたことで魔女はご機嫌斜めに。ぷう、と頬を膨らませる。
中身のわからないカードが相手に6枚もあるとなれば流石に手札誘発の存在を警戒するべきだろうが、ここから《エフェクト・ヴェーラー》を使われても問題なく展開できるカードがあるため、ジェイドは手を止めることなくデュエルを続行する。
「自分フィールドに『メメント』モンスターのみのため、手札から《メメント・シーホース》を特殊召喚!」
《メメント・シーホース》
星5/守1600
ヒヒンと嘶くのはこれまたジェイドが両手の指では足りないぐらいお世話になっているモンスター。ここが通ればと考えたのがいけなかったのだろうか、レクスは突然語り出した。
「――これで、通常召喚と特殊召喚を合わせて2回ですね?」
「え、あ…………え?」
召喚の回数が重要になるカードは限られている。ジェイドの頭の中でレクスが告げた言葉に引っかかるものは、と思い出し。
「永続罠《サモンリミッター》発動! このターン中にモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚に合計2回以上成功しているプレイヤーは、このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、モンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない!」
「げえっ!?」
その正体を前に思わず声が出る。効果は単純、故に強力。ジェイドの眼前には彼のしもべ達の召喚を妨げる力場が広がる。
特殊召喚を多用するデッキにより強く刺さる制限はジェイドにたたらを踏ませた。更なる展開のために効果を使うはずだった半魚馬はフィールドの突然の変化にブヒン!? と驚きの声を漏らす。
「くっ……カードを2枚伏せてターンエンド」
手札にある速攻魔法や、《メメント・シーホース》を自身の効果で破壊すれば墓地へ更にカードを貯められる。しかしそうするとジェイドのフィールドにモンスターは1体のみになり、次のターンで相手の攻撃を凌ぎきれない可能性がでてくる。
この時代ではまだ禁止カードではない罠により展開が阻まれ、出せるはずだった神は未だデッキの中。カードを握る手にじわりと汗が滲む。
「私のターン、ドロー。フィールド魔法《王家の眠る谷-ネクロバレー》を発動」
発動されたカードにより周囲の風景と空気が変わる。からりと乾いた風の吹く谷の底、夕暮れに染まった土の色。大地の下で静かに眠るもの達へと永遠の安らぎをもたらす世界へ。
「今度は墓地メタ……! セットしていた速攻魔法《メメント・ボーン・パーティー》でフィールドの《メメント・シーホース》を破壊し、デッキから《メメント・ダークソード》を守備表示で特殊召喚!」
《メメント・ダークソード》
星4/守1500
「そして手札の《メメント・クレニアム・バースト》を捨て、特殊召喚した《メメント・ダークソード》の効果発動! 《王家の眠る谷-ネクロバレー》を破壊する!」
半魚馬と入れ替わるように現れた剣士の斬撃が世界を切り裂き、変わりつつあった風景は元の荒野へと戻った。
《王家の眠る谷-ネクロバレー》は墓地へ及ぶ効果を使わせないフィールド魔法だが、実は特殊召喚コストは阻害しない。よってフィールド魔法が残ったままでも準備を整えれば《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》の特殊召喚は可能だが、そこに辿り着くまでの墓地利用を一部封じられるのが痛いし、墓地のカードを除外できなくなるのが困る。
「おや、破壊するのは《サモンリミッター》でなくて良かったのですか?」
「こっちの残る伏せカードが《サイクロン》である可能性もありますがね?」
「ご心配なく。《サモンリミッター》発動後の反応から、伏せられているのは私のターンで展開するためのカードというのは読めています」
2体のシンクロモンスターによる堅固な壁があるからかレクスは余裕を見せていた。負けるものかと発したジェイドのハッタリをさらりといなし、男が改めて手札から出したのは。
「――フィールド魔法、《地縛地上絵》発動!」
「《ネクロバレー》は《地縛地上絵》を通すための囮……!」
二列の紫の炎が大地を奔る。決闘者を焼くことなくとある巨大な模様を描くそれは、レベル10のモンスターがいる限り効果による破壊ができなくなるフィールド魔法。
「《ダブルコストン》を守備表示で召喚。このモンスターは闇属性モンスターをアドバンス召喚する場合、このカードは2体分のリリースにできる」
《ダブルコストン》
星4/守1650
千切れそうで繋がっている二つの体を持つ幽霊。《サモンリミッター》のカウントが進む。
「ここでそのモンスター……、まさか!」
「《
許されたあと一度の召喚で行うのは――。
「《ダブルコストン》をリリース! ――究極の破壊をもたらせ、最強の地縛神! 出でよ! 《地縛神
《地縛神
星10/攻1
コンドルは空高く飛翔する。姿が見えなくなるほど遠くなった小さな鳥の影は紫の光と共に姿を変え、決闘者達のはるか上空に現れるは鳴動する石の心臓。
糧となったモンスターがそこに吸い込まれ、闇が広がり――真の姿となった究極の力を持つ神が翼を広げる。地上絵に描かれた存在をその大きさのまま取り出したかのような威容を前に、ジェイドは一筋の冷や汗を流す。
「《
神の咆哮。それを合図に天より光が降り注ぎ――ジェイドを貫くように落ちてくる。回避不能。耐えなければと身構えていたがジェイドは全身に響く痛みと後を引く衝撃に敵わず膝をつく。
ジェイド
LP 4000→1
「かはっ……!」
「これで下手な動きはできなくなりましたね」
地縛神とのデュエルは基本的にダメージが実体化する闇のデュエルとなるのだが、今回は滅せねばならない敵ではなく試練という位置付けなのもあり控えめにしてくれているのだろう。
数度深呼吸をして呼吸を整え、立ち上がる。
「……ッだとしても、これでこのターンにもう戦闘が行われることはない! セットしていた《冥骸融合-メメント・フュージョン》発動! フィールドの《メメント・エンウィッチ》と墓地の《メメント・シーホース》をデッキに戻し《メメント・ツイン・ドラゴン》を融合召喚!」
《メメント・ツイン・ドラゴン》
星7/守2100
このターンは《メメント・ボーン・パーティー》の効果で自分モンスターを破壊したため、墓地のカードを戻しての融合が可能。渦の中から姿を見せた雷を宿せし二口竜の角は、高まる闘志を示すようにバチバチと帯電している。
「《メメント・ツイン・ドラゴン》の効果発動! フィールドの《メメント・ダークソード》を破壊し、デッキから《メメント・ホーン・ドラゴン》と《メメント・エンウィッチ》を手札に加える!
雷に打たれ、骨が透けて見えるギャグっぽい演出でモンスターが破壊されたと同時にデッキから得た2枚のモンスターカードは次のターンへの備え。
「貴方に残された猶予は神の攻撃が行われるまでの残り1ターンというわずかな時間だけ。運命を変えようというのなら、この状況をひっくり返してもらいましょう! カードを2枚伏せてターンエンド!」
地縛神には魔法・罠が効かない。たったの攻撃力1の攻撃を止めるにはモンスター効果か、相手プレイヤーへと及ぼす効果か、己へのダメージを軽減する効果を使うか、もしくは――先に相手を倒すか。
ジェイドにとって一番現実的な手段は当然、一番最後の選択肢。
「私のターン、ドロー! 《メメント・エンウィッチ》を召喚し、効果でデッキから《メメント・シーホース》を手札に加える」
最初のターンを焼き直したような動き。レクスは動かない。その様子を確認したジェイドは安堵し――手を天に向けて言い放った。
「レベル7の《メメント・ツイン・ドラゴン》にレベル3の《メメント・エンウィッチ》を
「なっ……!?」
「馬鹿な! 彼のフィールドにチューナーはいないはず!」
チューナーモンスターがいないのに行われるのはシンクロ召喚。デュエルをするレクスだけでなく、観戦していたルドガーも己の目を疑う。疑問への回答はそのモンスターの持つ特殊な召喚方法にある。
「このカードをシンクロ召喚する場合、自分フィールドの光・闇属性モンスター1体をチューナーとして扱う事ができる!」
「――来い! 《カオス・アンヘル-混沌の双翼-》!」
《カオス・アンヘル-混沌の双翼-》
星10/攻3500
アンヘル。それはスペイン語で天使を意味する言葉。アステカに生きる者たちからすれば侵略者側となるだろうそのシンクロモンスターはただそこに鎮座するのみ。
本当は皆に相談してから使用するか否かを決めるはずだったが、ブルーノとの語らいで手に持ったままこの場へと落ちてきてしまった。カードを剥き出しのまま放置するわけにいかず、取り敢えずとエクストラデッキへ仕舞っていたためこのデュエルで使用することができたのだ。
「……特に反発はないし大丈夫そうかな」
どうやら危惧していた問題は起きなさそうだ、と一安心した後に効果を宣言する。
「特殊召喚した《カオス・アンヘル》の効果を《サモンリミッター》を対象にして発動! その永続罠は除外させてもらう!」
相反する力を併せ持つ天魔が手を向ければ、どこからともなく湧いて出た闇によって相手のカード1枚が消えた。
「くっ……」
「これで厄介な召喚制限はなくなった! 《シンクロキャンセル》発動! 《カオス・アンヘル》をエクストラデッキに戻し、シンクロ素材となったモンスターを墓地から――」
「させません! 永続罠《究極地縛神》を発動! 《カオス・アンヘル》を破壊する!」
《カオス・アンヘル-混沌の双翼-》が効果を使えるのはシンクロ召喚ではなく特殊召喚。ターン1の縛りはなく、墓地からの蘇生でも使うことができる。しかしジェイドが持つのはたった1枚のみ。ならばどうするべきか。問題を解決するのは魔法カード《シンクロキャンセル》。戦闘や効果破壊が効きにくいシンクロモンスターの処理ために、と採用されたものだ。
……だが、シンクロモンスターを戻せなければシンクロ素材はフィールドに現れない。レクスの場に伏せられていた神の力を引き出す永続罠によってジェイドが操っていた混沌は消え去った。
「それもあったのか……」
「本来ならば貴方の神が出たところで破壊したかったのですがね」
シンクロ素材になるモンスター達へと破壊効果を使われていた場合は《カオス・アンヘル》を出せなかった。しかし、破壊しようと対象にとった時にチェーンして《メメント・ボーン・パーティー》を使われ逃げられると無駄撃ちに終わる。また、破壊されたことにより《冥骸融合-メメント・フュージョン》による墓地融合へも繋がる可能性がある。
さらに言えば、このデュエルでまだ使ってはいないが《メメント・ボーン・バック》で突然《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》が現れる可能性もあった。
……レクスからすれば、破壊という除去をいつ使うべきかは非常に悩ましかったことだろう。
「《サモンリミッター》が消え、伏せられたカードのうち1枚の正体も分かった。ここからは一気に行かせてもらう! 墓地に『メメント』モンスターが3種類以上いるため手札から《メメント・ホーン・ドラゴン》を特殊召喚! また、自分フィールドのモンスターが『メメント』のみのため手札から《メメント・シーホース》を特殊召喚!」
《メメント・ホーン・ドラゴン》
星8/守2350
《メメント・シーホース》
星5/守1600
「《メメント・シーホース》の効果発動! 《メメント・ホーン・ドラゴン》を破壊し、デッキから《メメント・ウラモン》、《メメント・ゴブリン》、《メメント・カクタス》を墓地に送る」
走るのが大好きな馬によるでっかいドラゴンへの追突事故。衝撃で体がバラバラに崩れるなか、恨みがましく事故の原因となった仲間を睨む三本角の竜。破壊に起因し、墓地で効果が同時発動する。
「『メメント』モンスターの効果で墓地に送られたため墓地の《メメント・ウラモン》を自身の効果で特殊召喚! また、効果で破壊された《メメント・ホーン・ドラゴン》の効果を《メメント・シーホース》と相手のカード2枚を対象に発動、破壊する!」
ジェイドが対象として指差したのはレクスの未知の伏せカードと《太陽龍インティ》。
「チェーンして対象となったセットカード《呪縛牢》発動! 効果でエクストラデッキより《月影龍クイラ》を特殊召喚します!」
檻の中に囚われるようにして現れたダークシンクロモンスターだったが牢の破壊に巻き込まれ共に墓地へと消えていく。
「ここで《クイラ》を用意しても遅い! 特殊召喚した《メメント・ウラモン》の効果で墓地の《冥骸融合-メメント・フュージョン》を手札に。また、『メメント』モンスターが破壊されたので墓地の《メメント・カクタス》を特殊召喚!」
《メメント・カクタス》
星5/守1400
「っ……破壊された《月影龍クイラ》の効果で墓地の《太陽龍インティ》が復活します」
《太陽龍インティ》
星8/守2800
月が沈み、太陽が昇る。しかしレクスの顔は暗い。用意していた伏せカードを使ってしまった今、彼のフィールドには相手の行動を止める手が無いからだ。
「《メメント・カクタス》を特殊召喚したため効果発動。このターン、レベル9以上の『メメント』モンスターは直接攻撃が可能になる!」
「私の場にシンクロモンスターが特殊召喚されたため《地縛地上絵》の効果発動。デッキより《地縛神の復活》を手札に加えます」
この戦いの終わりがすぐそこまで来ていると薄々勘付いてはいるが、レクスは効果処理を放棄することなくデュエルを続ける。
「《冥骸融合-メメント・フュージョン》発動! フィールドの《メメント・ウラモン》と墓地の《メメント・シーホース》を戻して《メメント・ツイン・ドラゴン》を融合召喚、そして効果発動! 《メメント・ツイン・ドラゴン》自身を破壊して手札に《メメント・ゴブリン》と《メメント・メイス》を加える。更に破壊されたことで《メメント・ツイン・ドラゴン》の効果発動、墓地から《メメント・ゴブリン》を特殊召喚!」
《メメント・ゴブリン》
星1/守400
「《メメント・ゴブリン》の効果発動。自身を破壊して《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》と《メメント・フラクチャー・ダンス》を墓地に。墓地の《冥骸融合-メメント・フュージョン》を除外して効果発動、《メメント・カクタス》を破壊してデッキから《冥骸府-メメントラン》を手札に」
相手に一部の隙も与えない連続した特殊召喚と破壊。手札に必要となるカードを得つつ墓地を肥やす流れは手慣れたものだ。ジェイドは加えたそれをそのままフィールドへと配置する。
「フィールド魔法《冥骸府-メメントラン》発動!」
《地縛地上絵》が己の効果で防げるのは効果による破壊。この時代のデュエルのルール――存在できるフィールド魔法は1枚のみという決まりによって紫炎で線を引かれた地上絵が消えていく。かわりに周囲に広がるのは宝石と骨が散りばめられた遺跡。
「墓地の『メメント』モンスター5種類をデッキに戻し、墓地より《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》を特殊召喚!」
《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》
星11/攻5000
大地を裂くは神の剛力。黄泉の世界に轟くは竜の咆哮。レクスは冥府の王と負けず劣らずの力を振るっていた神を見上げる。
かの神の姿を見るのはこれで三回目。これまでは敵として見られてはいなかったが今回は違う。デュエルという儀式の中、地縛神の力に匹敵するモンスターを前にふるりと手が震えた。
「手札の《メメント・ゴブリン》を捨てて効果発動。このターン、相手は『メメント』モンスターを効果の対象にできない」
このターン、《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》は《メメント・カクタス》の効果によって相手プレイヤーへと直接攻撃が可能であり、さらに《冥骸府-メメントラン》によってダメージステップ終了時まで相手は魔法・罠を使えない状態となっている。そこへ念押しかつダメ押し気味の効果の使用。
全ての準備は整った。
「この一撃で終わらせる! 《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》でダイレクトアタック! オーバーウェルミング・ボーンフォース!」
モンスター達を意に介さず突撃して来た竜の剛腕が直撃して男の体が吹き飛ばされる――ことはなく、ジェイドのエースモンスターはレクスの真横を狙った掠めるような一撃を放った。ごひゅうと凄まじい音を立てる拳圧で巻き起こした風が髪を乱す。
レクス
LP 4000→0
これでレクス・ゴドウィンのライフポイントは0。デュエル終了を告げる音色が鳴り響いた。
「……いやはや、お見事でした。あの状況から勝利を掴めるとなると私から言えることは何もありませんね」
レクスは砂埃を軽く払い、勝者へと賞賛の言葉を投げる。
『こう言っているがこいつ本来のデッキはパーミッションやロックといった、それはもういやらしいものだぞ。褒め言葉は次のデュエルでもっと効くメタを張るぞという意味として受け取っておけ』
『ダークシグナーになるためわざと負けたが、ルドガーと普通にデュエルしていたならば我の力があったとてこちらが負ける可能性は充分にあった』
「あー……もしかして《結界像》シリーズとかバリバリ使うタイプのお人だったりしましたか。うわあ、そっちじゃなくてよかった……」
「………………」
ミニサイズになっている地縛神が敗者であるレクスの言葉を台無しにする余計な情報を付け足し、ジェイドはあり得たかもしれない可能性に本音が漏れる。なお、レクスはなんとも言い難い表情をしていた。
使っているデッキが【メメント】だから仕方ないのかもしれないが、相手はやはり展開の大元を止めにくるカードを使ってくる。そのせいでデュエルをすると気力がゴリゴリ削られていく。
『試練を超えた褒美として、我の痣を拒んだ貴様には我ら地縛神の雛形になるカードでもやろう。上手く使え。いつでも歓迎するぞ』
「いや私はいらないしダークシグナーにはならない」
デュエルが終わったコンドルは嘴に白紙のカードを咥えてジェイドの頬にむいむい押し付けてくる。混合して使う予定はないし、もしかすると使えるかもしれない【地縛】デッキは別に当分帰ってこなくていい。
『そうか、これがあれば封印状態の《地縛神 スカーレッド・ノヴァ》の力を一部加工して扱いやすい力にできるというのに……薄情な兄だな』
「え、そうなら貰っ――あ」
ジャックの力になれるなら、と受け取ってからジェイドは気付いてしまった。
……また新しいカードを手に入れた、と教える場合三人へ休息を取らせた張本人が睡眠時間を削り知らないところで頑張っていたということを伝えねばならないわけで。しかも闇のデュエルっぽいことをしていたわけで。試練を乗り越えた結果として何故か問題を発生させてきた邪神はにやにやと笑っていた。
「……どう説明しよう」
今夜も元気もりもりメメント・モリ!(夜更かし)
〜ちょびっとアステカ神話〜
アステカ神話にて『犬は主人を冥界の川の向こうに渡す』存在とされており、とても大事な生き物です。
ですが白い犬と黒い犬はその仕事ができないとされています。
グラシャラボラスとはグリフォンのごとき翼を持った「犬」とされる悪魔です。
……そして《地縛戒隷 ジオグラシャ=ラボラス》はどう見ても黒いのでダメです。
『チャンスが来たとしても出番は与えんからな?』
(攻守5000な幻竜族からのお言葉)