石造りの心臓   作:ウボァー

54 / 55
ホセ LP12000 手札2枚
《機皇帝グランエル(インフィニティ)》星1/攻0→9500
《グランエルT(トップ)》星1/守0
《グランエルA(アタック)》星1/攻1300
《グランエルG(ガード)》星1/守1000
《グランエルC(キャリア)》星1/守700
魔法・罠
《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》(《機皇帝グランエル(インフィニティ)》に装備)
伏せカード3枚

クロウ LP4000 手札5→6枚


地を穿つマジェスティ

 担架に乗せられて医務室へと運ばれていった弟を追ってこの場を離れても良いだろうに、ジェイドはこの場に残った。心を落ち着かせるためか足の上に置いた自身の手を掴み、デュエルを見守り続ける。

 

『…………』

 

 誰もが正面を、これからのデュエルを注視していたためジェイドの様子には気付かない。唇を噛み締め、何かを堪えているような顔をしている兄の姿はアルターエゴのみが認識していた。

 彼らの戦いを見届けることがジェイドの選択ならばそれを尊重する。故にアルターエゴは口を出さず、ただ画面の中で静かに佇んでいた。

 

「――待ちやがれ怪物野郎!」

 

 その名の通りに黒いDホイール、ブラックバードが異形となったホセを追うべく疾る。呼びかけに応じ振り向いた老爺は相手となるシグナーの顔を見てくぐもった笑い声を響かせる。

 

「ははは……我が《グランエル》を前にしても臆さず挑んでくるか。その度胸だけは褒めてやろう」

 

「へっ、俺がジャックのバーニングソウルや遊星のクリアマインドみたいな技を持ってないからって舐めてもらっちゃあ困るぜ」

 

「ならばすべての力をぶつけてくるがいい。人間の可能性を見せてみろ」

 

 叩きつけられるのは人ならざるものからの挑戦。ニヤリと笑いクロウは受けて立った。

 

「言われなくとも! 俺のターン! ドロー!」

 

クロウ SPC 6→7

ホセ SPC 6→7

 

 《スキエルG(ガード)》は攻撃の無効化、《ワイゼルG(ガード)》攻撃対象の変更……《グランエルG(ガード)》もまた、それらとは違う攻撃への備えを持っているに違いない。下手に戦闘で突破しようとするのは悪手になる。

 

 そもそもすでに出てきてしまっている状態のシンクロキラーに対し、クロウが可能な突破手段は限られる。チームラグナロクとの戦いを経て得た《ブラックフェザー・アサルト・ドラゴン》だが、吸収に対抗可能な効果を持っていない。

 故にあのシンクロモンスターを出して機皇帝を突破するべきだ、とクロウは結論付け動き出す。

 

「スピードカウンターが2つ以上あるため《Sp(スピードスペル)-エンジェル・バトン》を発動! デッキから2枚ドローし、手札1枚を墓地へ送る」

 

 良いカードを引き当てたのか、よしと頷いた後デュエルディスクへとモンスターを出す。

 

「《BF-幻耀のスズリ》を通常召喚!」

 

《BF-幻耀のスズリ》

星4/攻1400

 

「《BF-幻耀のスズリ》が召喚に成功したため、効果でデッキより《BF-無頼のヴァータ》を手札に加える。そして俺のフィールドに『BF』モンスターがいるため、《BF-無頼のヴァータ》を手札から特殊召喚!」

 

 二丁の拳銃を持つ黒羽の力により仲間を招集しシンクロ召喚の準備を整えようとしたがホセはそれを咎める。

 

「相手が攻撃力1500以下のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚した時、《断絶の落とし穴》発動。そのモンスターを裏側で除外する」

 

 仲間がいるから呼ばれて出てきたというのに足元には落とし穴が。目をまんまるにした後でなんとか逃れようと翼をばたつかせていたが、黒羽の無頼漢は穴に吸い込まれ異空間へと消えていった。

 

「流石にこいつの効果を使わせてはくれねえか……ならこっちはどうだ! 墓地の《BF-刻夜のゾンダ》を除外して効果発動! 手札・デッキからレベル5以上の『BF』モンスター1体を特殊召喚する。その後、自分はこの効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力分のダメージを受ける。俺はデッキからレベル5の《BF-天狗風のヒレン》を特殊召喚! 《ヒレン》の攻撃力は0、よって俺が受けるダメージも0だ」

 

《BF-天狗風のヒレン》

星5/守2300

 

 《Sp(スピードスペル)-エンジェルバトン》の効果で手札から墓地に送っていた《BF-刻夜のゾンダ》の力により新たにモンスターを展開。チューナーがいないため肝心のシンクロ召喚はできないが、それは簡単に解決できる。

 

「《BF-天狗風のヒレン》をリリースして《スズリ》の効果発動! 《幻耀トークン》1体を特殊召喚し、その後俺は700ダメージを受ける!」

 

《幻耀トークン》

星2/守700

 

クロウ

LP 4000→3300

 

 忘れてはならないがこのデュエルではダメージが現実の痛みに変換される。自身の操るモンスターの効果による自傷でうぐっ、と呻き声を発したクロウだったがデュエルへの支障はない。

 これでチューナーと非チューナーが揃った。

 

「レベル4の《BF-幻耀のスズリ》にレベル2の《幻耀トークン》をチューニング!」

 

◎◎

⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎

4+
2=
6

 

「神話の名刀を振るえ、猛禽の戦士! シンクロ召喚! 《BF-星影のノートゥング》!」

 

《BF-星影のノートゥング》

星6/攻2400

 

 星と光輪が一直線に並んだ後、右手に剣を携えた鳥獣の戦士が舞い降りる。

 

「特殊召喚に成功した《BF-星影のノートゥング》の効果発動! 相手に800ダメージを与え、その後相手フィールドの表側表示モンスター1体の攻撃力と守備力を800ダウンする! 俺は《グランエルA(アタック)》 のステータスをダウンさせるぜ!」

 

 このシンクロ召喚を起点として更なる展開を開始しようとクロウが思い描く中、相手の墓地より不気味な風が舞い戻ろうとしていた。

 

「相手がエクストラデッキよりモンスターを特殊召喚したことにより墓地の《迷い風》の効果を発動。このカードをフィールドにセットする。この効果でセットした《迷い風》はフィールドから離れた場合に除外される」

 

「そいつは《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》に使った罠カード……!」

 

 ホセが墓地より罠カードを再び構えた。その効果はモンスターの効果の無効化と攻撃力の半減。今は伏せたターンになるためすぐに効果を使えないが、ホセのターン以降から間違いなくクロウを苦しめるだろう。

 

ホセ

LP 12000→11200

 

《グランエルA(アタック)

攻1300→500

 

《機皇帝グランエル(インフィニティ)

攻9500→9100

 

 淀んだ風の気配を吹き飛ばすかのように黒羽は剣を虚空へと振り抜き、それにより起きた風がホセの頬を裂き、機械の装甲を削る。ホセのライフポイントが800失われたことで機皇帝がほんの少しだけ弱ったが気にする様子は見られない。

 

「さらに《ノートゥング》が存在する限り、俺は通常召喚に加えて1度だけ自分メインフェイズに『BF』モンスター1体を召喚できる。よって《BF-極北のブリザード》を通常召喚!」

 

《BF-極北のブリザード》

星2/守0

 

「召喚に成功した《ブリザード》の効果で墓地から《スズリ》を特殊召喚! まだまだ行くぜ! レベル4の《BF-幻耀のスズリ》にレベル2の《BF-極北のブリザード》をチューニング!」

 

◎◎

⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎

4+
2=
6

 

「黒き新風よ、未到の空際へ導く可能性となれ! シンクロ召喚! シンクロチューナー、《BF-魔風のボレアース》!」

 

《BF-魔風のボレアース》

星6/攻2400

 

 鎖鎌を振り回し、クロウの得たシンクロチューナーがフィールドへと着地。効果を発動するべく新たな風を巻き起こす。

 

「《BF-魔風のボレアース》の効果発動! デッキの《BF-南風のアウステル》を墓地に送り自身のレベルを4に変化させ――さらに墓地の《BF-南風のアウステル》を除外し効果発動! 相手の表側表示モンスター全てに楔カウンターを置く!」

 

 頭部、右腕、左腕、脚部、そして本体――全てのパーツへ漆黒の楔が突き刺さり、磔にされたかのような見た目になった機皇帝へと追い打ちをかけるべく、クロウはこのターン最後のシンクロ召喚を行う。

 

「レベル6の《BF-星影のノートゥング》にレベル4となった《BF-魔風のボレアース》をチューニング!」

 

◎◎◎◎

⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎

6+
4=
10

 

「漆黒の旋風よ、天翔ける翼に宿りて戦場に凶嵐をもたらせ! 来い! 《BF-フルアーマード・ウィング》!」

 

《BF-フルアーマード・ウィング》

星10/守3000

 

 これこそが機皇帝に対抗し得る効果を持つ戦士。漆黒の鎧を鈍く光らせ、剣の腹を相手に見せるようにし守備の体勢をとる。それは機皇帝を恐れているのではなく、堅実に、確実に倒す隙を窺っている姿だった。

 

「カードを2枚伏せてターンエンド。そしてエンドフェイズに《BF-フルアーマード・ウィング》の効果発動! 楔カウンターが置かれているモンスター全てを破壊する!」

 

 決闘者の合図によりモンスターが動いた。打ち込まれた楔へと狙いを定めて引き金を引く。銃弾が当たったことで楔はさらに奥深くへと押し込まれ――耐久の限界を迎えた機械は壊れた。

 

「これで《グランエル》は葬った!」

 

『鮮やかな連続シンクロでシンクロキラーを大地に沈めたクロウ! これは流石のチームニューワールドもピンチか!?』

 

 巨大なモンスターが消えた、というのは観客としてもわかりやすい変化だ。この瞬間、ホセはただライフポイントがやたらと多いだけの決闘者となる。

 そのままイケイケ押せ押せクロウと応援の声が強くなり始めるスタジアムの様子など全く意に介さず、ホセは己のデュエルを――絶望を与えるデュエルを続行する。

 

「愚かな……その程度で機皇帝を攻略したつもりか。罠カード《リミット・リバース》を発動! 墓地の攻撃力1000以下のモンスター――《グランド・コア》を攻撃表示で特殊召喚!」

 

《グランド・コア》

星1/攻0

 

「まずい!」

 

 使われた罠の名を聞き遊星が身を乗り出す。フィールドに再び機械卵が現れたことでクロウへの応援の声が少し小さくなった。……これから何が起こるのかが自ずとわかってしまったからだ。

 

「私のターン、ドロー!」

 

クロウ SPC 7→8

ホセ SPC 7→8

 

「《グランド・コア》を守備表示に変更。この瞬間、《リミット・リバース》の効果により《グランド・コア》が破壊され、それに伴いこの罠カード自身も破壊される」

 

 本来ならばデメリットとなる自壊。だが、効果で破壊された――その一点が機皇帝にとっては重要となる。

 

「《グランド・コア》の効果発動! 墓地より再起動せよ、《グランエル》!」

 

《機皇帝グランエル(インフィニティ)

星1/攻0→5600

 

《グランエルT(トップ)

星1/守0

 

《グランエルA(アタック)

星1/攻1300

 

《グランエルG(ガード)

星1/守1000

 

《グランエルC(キャリア)

星1/守700

 

 光と共に現れた5体のモンスターによる、ジャックとのデュエルを焼き直したかのような合体シークエンス。黒羽により撃ち込まれる楔が無い、まっさらの状態で最強の機皇帝が復帰する。

 

「くそ、また出てきやがった……!」

 

「バトルだ! 《機皇帝グランエル(インフィニティ)》で《BF-フルアーマード・ウィング》に攻撃!」

 

「…………なっ!?」

 

 効果を警戒しての《迷い風》も、機皇帝お得意の吸収効果も使わない、という予想外の動きにクロウが戸惑う。《BF-フルアーマード・ウィング》は他の効果を受けないため、相手のカードを無駄に使わせることができたのだが……ホセはただの攻撃による突破を選んだ。

 

「罠カード《メテオ・レイン》を発動! これによりお前へと2600のダメージが貫通する! グランド・スローター・キャノン!」

 

クロウ

LP 3300→700

 

「があぁっ!」

 

 砲口から放たれた攻撃は小手先の防御など無駄と言わんばかりの強力なもの。破壊により起きた爆風でブラックバードが大きく揺れ、砲撃の余波がクロウへと到達する。現実となったダメージが体を蝕むが、意地により耐えたのかハンドルを離すことはなかった。

 

「これだけではない。シンクロモンスターを戦闘破壊したことにより、《グランエルA(アタック)》の効果が発動する!」

 

 もはやモンスターがいないというのに、機皇帝は吸収に使う光を空の先へと伸ばす。空間がぐにゃりと歪み、その先に浮かぶ影は先ほどまでクロウのフィールドにいたモンスター、《BF-フルアーマード・ウィング》。

 

「ぐぅっ……テメェ、一体何を……!?」

 

「自分フィールド上に存在する『∞』と名のついたモンスターが相手のシンクロモンスターを戦闘によって破壊し墓地へ送った時、そのシンクロモンスター1体を吸収する! 我が《グランエル》の糧となるがいい!」

 

《機皇帝グランエル(インフィニティ)

攻5600→8600

 

 《BF-フルアーマード・ウィング》の耐性は墓地にいるときにも効力が発揮されるものではない。機皇帝により墓地から引きずり出され、絡め取られ、そして吸収される。

 

「そんなっ……!」

 

「貴様を守るモンスターはいなくなったが、まだ私には攻撃可能なモンスターが残っている。ゆけ、《グランエルA(アタック)》よ! ダイレクトアタックだ!」

 

 エースモンスターを奪われて呆然としているクロウが元に戻るまで中断、なんて甘いことは起きずデュエルは進む。

 墓地にいる《BF-天狗風のヒレン》は攻撃に反応して特殊召喚が可能だが、その効果の発動には墓地にレベル3以下のモンスターを要求する。現在クロウの墓地にはレベル2の《BF-極北のブリザード》がいるが、このモンスターは特殊召喚ができないというデメリット効果を持つ。よって、墓地から壁となるモンスターを出すことはできない。

 

『《グランエルA(アタック)》の攻撃力は1300、そしてクロウの残りライフは700! セカンドホイーラークロウ、ここで無念の敗北か!?』

 

 痛みの残る体を、手を動かしてクロウは伏せカードを使用する。

 

「っ、させるかっ! 罠カード《戦線復帰》を発動! 墓地の《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》を守備表示で特殊召喚!」

 

《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》

星12/守3000

 

『なんと!? ここでまさかの《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》が復活だァーッ!』

 

 ホセがジャックから奪い取った《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》は機皇帝の破壊と共に墓地へ――クロウの墓地へと送られた。よって《戦線復帰》の効果で蘇生させることが可能になっていた。

 

「まだこいつの炎は、魂は尽きちゃいない! ……力を貸してもらうぜ、ジャック!」

 

 機皇帝によりボロボロに痛めつけられたジャックだったが、彼の魂は消え失せたわけではない。イリアステルを倒すという願いと共に確かに受け継がれている。

 

「ほう、墓地からそのモンスターを蘇らせたか……モンスターが増えたことにより攻撃の巻き戻しが発生。《グランエルA(アタック)》の攻撃は中断する。……命拾いしたな。カードを1枚伏せターンエンドだ」

 

 ホセの操る《グランエルA(アタック)》には更なる効果があった。――吸収したモンスターを使い相手モンスターに攻撃する事ができる。直接攻撃はできないが、その攻撃は貫通する……という、恐ろしい効果を。

 もし、クロウが防御に使ったカードが《戦線復帰》ではなく、直接攻撃に反応して手札から特殊召喚が可能な《BF-熱風のギブリ》だったならば。間違いなくクロウは敗北していた。しかし、そうはならなかった。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

クロウ SPC 8→9

ホセ SPC 8→9

 

「《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》を攻撃表示に変更!」

 

《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》

守3000→攻4500

 

 クロウの墓地にチューナーは2体。よって《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の攻撃力は3500から4500となっている。機皇帝の本体には届かなくとも、それを構成するパーツを破壊することは可能。

 

「バトルだ! 《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》で《グランエルA(アタック)》に攻撃!」

 

 己を屠り、さらには己の主に苦痛を与えたシンクロキラーの片腕をもぎ取らんと熱を高め、灼熱の炎となり突進する魔龍。この攻撃が通れば相手に大ダメージが――そう思ったのがいけなかったのだろうか。

 

「《グランエルG(ガード)》の効果! 相手モンスターの攻撃宣言時、その攻撃対象を自分フィールド上に存在する『機皇帝』が装備しているシンクロモンスター1体に変更できる!」

 

「野郎、俺の《フルアーマード・ウィング》を盾に使うだと……!」

 

 ホセが説明した効果を聞きクロウは手札や伏せカードを見て悩んでいたが……この後に控える遊星のことを考えてその効果は使わずに終わる。

 機皇帝が吸収していたシンクロモンスター――《BF-フルアーマード・ウィング》が引き出され、自由を奪われたまま眼前へと配置される。炎を纏った突進に対して攻撃力3000のシンクロモンスターはなす術を持たない。真正面から受けた一撃の重さに耐えられず、黒羽の重戦士は破壊された。

 

「私のライフポイントの減少、及び吸収したシンクロモンスターを失ったため《機皇帝グランエル(インフィニティ)》の攻撃力はダウンする」

 

ホセ

LP 11200→9700

 

《機皇帝グランエル(インフィニティ)

攻8600→4850

 

 この攻撃に対して《迷い風》を使わなかったのは《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》を同士討ちじみた戦闘で破壊するよりも、次のターンで遊星の《シューティング・スター・ドラゴン》と共に吸収した方が良い、と狙っているからなのか。ホセは余裕を残した状態のままクロウによる起死回生の攻撃を耐えた。

 

「カードを2枚を伏せてターンエンド……!」

 

 ジャックの魂であるモンスターの力を借りてホセのライフポイントを減らすことに成功したクロウ。残る手札は1枚、伏せカードは3枚、と相手の行動に対処するための準備はできているがじりじりと追い詰められている。

 

「私のターン、ドロー。……ふっふっふ」

 

クロウ SPC 9→10

ホセ SPC 9→10

 

 男は嘲笑する。

 

「哀れなことだ。お前のエクストラデッキに残るシンクロモンスターでは我が《グランエル》を倒せぬのだろう? それが人間の進化により生み出された愚かなシンクロモンスターの限界だ」

 

 デュエルの中でクロウ本人を挑発するのはまだ許せる。だが、男はシンクロモンスター全体を蔑んだ。それはこれまでデュエルしてきた相手や、この世界にいるあらゆる決闘者も含めて馬鹿にする発言。

 その言葉を見過ごすなんて決闘者のプライドが許せない。クロウは怒りを込めて言い返した。

 

「ふざけんな! 俺たちはずっとシンクロモンスターと共に戦ってきた! お前たちに悪く言われる筋合いはねえ!」

 

 クロウの発言に同調するかのように、ジャックの魂である《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》も咆哮する。

 

「愚かな……その浅はかな考えこそお前たちが忌避する破滅の未来に繋がるというのに……」

 

 どこか引っかかる言い回しだが、そんなことを気にしてデュエルを中断なんてできやしない。

 だから、クロウは先ほどのターンで伏せたカードを使った。

 

「お前に未来を決めつけられるなんてごめんだな! スタンバイフェイズに罠カード《ショック・ウェーブ》を発動! フィールドのモンスター、《グランエルA(アタック)》を破壊して互いにその攻撃力分のダメージを受ける!」

 

「無駄だ! 《グランエルC(キャリア)》の効果を発動し《グランエルA(アタック)》は破壊から免れる!」

 

「なら! 《BF-雪撃のチヌーク》を墓地に送り《グランエルC(キャリア)》を対象に効果発動! エクストラデッキから『BF』シンクロモンスターを墓地に送り、そいつの効果をターン終了時まで無効にするぜ!」

 

 闇属性のシンクロモンスター(スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン)がいるため相手ターンに使うことが可能となった《BF-雪撃のチヌーク》の効果により起きた風で機皇帝の脚部は凍結されていく。

 

『まだメインフェイズに辿り着いていないにも関わらずカードの攻防が目まぐるしく繰り広げられる! 破壊によるダメージ、耐性付与、さらには効果無効!』

 

 どちらが勝ったのか――その答えは、機皇帝の片腕を起点として発生した爆発によりパーツが失われる、という誰の目にもわかる変化で明らかになった。

 

ホセ

LP 9700→8400

 

クロウ

LP 700→0

 

《機皇帝グランエル(インフィニティ)

攻4850→4200

 

「おのれ……!」

 

 《ショック・ウェーブ》の効果により平等にダメージが与えられ、クロウのライフポイントはここで0になった。

 ジャックがチーム太陽との戦いで見せたものとほとんど同じ幕引きの仕方。ただ、あの時と違うのは。

 

「俺のライフポイントが0になっても、エンドフェイズまで効果処理は可能……! 罠カード《BF-ツインシャドウ》を発動! 俺の墓地の《BF-星影のノートゥング》と《BF-極北のブリザード》をデッキに戻す!」

 

 デッキ・エクストラデッキに戻ったモンスター達の合計レベルは8。二つの影が混ざり、大空へと一頭の黒い影が――竜が飛翔する。

 

「黒き疾風よ! 秘めたる思いをその翼に現出せよ! 舞い上がれ、《ブラックフェザー・ドラゴン》!」

 

《ブラックフェザー・ドラゴン》

星8/攻2800

 

「己の身を犠牲にして、更にシンクロモンスターまで召喚するだと……!?」

 

 クロウの敗北はホセのターンで起きた。よって、相手に伏せカードを増やす暇を与えずにラストホイーラーである遊星に繋ぐことが可能。その代償として、爆風というリアルダメージを負うことになったクロウだが後悔はなかった。

 

「……ハッ、チームの勝利のための敗北はお前らだってしてきたのに、俺がやったら信じられないってか? ずいぶんと都合がいいんだな。人間を愚かだなんだと言っておきながら、やってることの根っこは俺たちと同じなのによ」

 

「戯言を!」

 

「自分の思いを、魂を仲間に託して共に戦う――人はそれを、絆と呼ぶんだ」

 

「絆…………私に、我々に……愚かな人間と同じものが?」

 

 ホセの呟きは誰にも届かない。遊星を頼んだ、とクロウより視線を向けられた2体のドラゴン達は頷いて応えた。

 

『セカンドホイーラー、クロウは善戦を続けるもここで無念の脱落! 自身とジャックのエースモンスターを残した状態でのバトンタッチだが、相手のフィールドにはシンクロキラーである《機皇帝グランエル(インフィニティ)》が未だ健在! この判断は吉と出るか凶と出るか!?』

 

「クロウ!」

 

 ダメージを受けながらもピットに帰還したクロウをチーム5D's総出で迎える。

 

「大丈夫だ、ジャックほどダメージは受けてねえ……っぐ!」

 

「無理はしないで。担架早く!」

 

 ブルーノがクロウを抱き抱え担架の上へと乗せる。龍亞と龍可はクロウの付き添いとして医務室へ同行。

 文字通り命がけのデュエルの果てに残したカードがブラックバードから遊星号へと受け渡されていく。ファーストホイーラー、セカンドホイーラーのエースであるモンスター2体と伏せカード1枚。

 

 絆は確かに繋がった。遊星はクロウが残した伏せカードより何をして欲しいのかを察し、即座に出撃する。

 

「ジャックとクロウをよろしく頼む。――行ってくる!」

 

 アキとジェイドが遊星の後ろ姿を見送る。たとえこの場にいなくとも、共に戦っていると証明するかのように彼の後をついていくのはジャックとクロウの魂の象徴と呼べるドラゴン。

 

「我々は奴とは違う……機皇帝を前にシンクロモンスターを残すなどと愚かな真似をした人間とは!」

 

 ホセはクロウとの問答のせいかどこか呆けているように見えたが、遊星の姿を視認したことで調子が戻ったようだ。

 

「行くぞホセ! 俺のターン、ドロー!」

 

遊星 SPC 10→11

ホセ SPC 10→11

 

「《スピード・ワールド2》の効果発動! スピードカウンターを7つ取り除き、1枚ドローだ!」

 

遊星 SPC 11→4

 

 7枚と潤沢になった手札から遊星は動き始める。

 

「《ジャンク・マイスター》を守備表示で通常召喚!」

 

《ジャンク・マイスター》

星4/守2300

 

「《ジャンク・マイスター》の効果でデッキより《ジャンク・アーマー》を手札に。そしてドロー以外の方法で手札に加わった《ジャンク・アーマー》の効果を発動! 自身を特殊召喚する!」

 

「更なるモンスターの展開、やはり狙うのはシンクロ召喚……愚かなことだ。手札の《儚無みずき》を捨て効果発動! 相手がメインフェイズ及びバトルフェイズに効果モンスターを特殊召喚する度に、私はそのモンスターの攻撃力分だけライフポイントを回復する!」

 

《ジャンク・アーマー》

星2/守1200

 

ホセ

LP 8400+600→9000

 

「ライフポイントを回復する効果を持つ、機皇帝じゃないモンスター……ねえジェイド、あれって」

 

 ジェイドに対してアキがモンスターについて尋ねる。何故なら、ジェイドが拾ってきたカードのひとつとして見覚えがあったからだ。

 

「《儚無みずき》。手札誘発のチューナーモンスターだね」

 

『奴のエースモンスターはステータスがライフポイントに依存する《グランエル》。相性としては抜群だな。だが……』

 

 シンクロ召喚を狙おうと特殊召喚を重ねればその分《グランエル》の攻撃力を上げることになるため、特殊召喚を最小限に抑えての展開が要求されるようになってしまう。

 シンクロモンスターをあれほど忌み嫌っていたのにチューナーモンスターを使ったことにアルターエゴは驚いていた。クロウとの問答の中で何かを気付かせてしまったことによる影響かもしれない、と思考する。

 

「手札を1枚伏せ、スピードカウンターが2以上のため《Sp(スピードスペル)-起爆化》を発動! 先ほどセットしたカードを破壊し、相手フィールド上の全てのモンスターの表示形式を変更する!」

 

《機皇帝グランエル(インフィニティ)

攻4500→守4500

 

《グランエルT(トップ)

守0→攻500

 

《グランエルG(ガード)

守1000→攻500

 

《グランエルC(キャリア)

守700→攻700

 

「表示形式の変更だと……!」

 

 低い攻撃力しか持たないパーツ達が守備表示から攻撃表示へと変わったことにホセは苛立ちを見せる。これはこのターンにアクセルシンクロモンスター――《シューティング・スター・ドラゴン》による連続攻撃をする、と宣言しているようなものだ。

 

「《ジャンク・アーマー》をリリースし、デッキから《スターダスト・シンクロン》を守備表示で特殊召喚! 《スターダスト・シンクロン》の効果でデッキより《セイヴァー・ミラージュ》を手札に加える」

 

《スターダスト・シンクロン》

星4/守1000

 

ホセ

LP 9000+1500→10500

 

「レベル4の《ジャンク・マイスター》にレベル4の 《スターダスト・シンクロン》をチューニング!」

 

◎◎◎◎

⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎

4+
4=
8

 

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!」

 

《スターダスト・ドラゴン》

星8/攻2500

 

ホセ

LP 10500+2500→13000

 

「手札のレベル1モンスター、《ジェット・シンクロン》を捨てて手札から《ビッグ・ワン・ウォリアー》を特殊召喚。そして手札を1枚墓地へ送り墓地の《ジェット・シンクロン》の効果を発動、自身を特殊召喚する!」

 

《ビッグ・ワン・ウォリアー》

星1/守600

 

《ジェット・シンクロン》

星1/守0

 

ホセ

LP 13000+100+500→13600

 

「レベル1の《ビッグ・ワン・ウォリアー》にレベル1の《ジェット・シンクロン》をチューニング!」

 

⚪︎

1+
1=
2

 

「集いし願いが新たな速度の地平へ誘う。光さす道となれ! シンクロ召喚! 希望の力、シンクロチューナー《フォーミュラ・シンクロン》!」

 

《フォーミュラ・シンクロン》

星2/守1500

 

ホセ

LP 13600+200→13800

 

「《フォーミュラ・シンクロン》の効果で1枚ドロー!」

 

 仲間の魂たるドラゴンと並び立つのは星屑の竜とシンクロチューナー。遊星は連続した特殊召喚の流れのままに、辿り着いた明鏡止水の境地へ――さらなるシンクロ召喚へと繋げる。

 

「クリアマインド! レベル8シンクロモンスター《スターダスト・ドラゴン》に、レベル2シンクロチューナー《フォーミュラ・シンクロン》をチューニング!」

 

◎◎

⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎

8+
2=
10

 

「集いし夢の結晶が、新たな進化の扉を開く! 光さす道となれ! アクセルシンクロ!」

 

 ホセは遊星が光と共に消えた事実に驚愕はしない。アクセルシンクロモンスターと共に疾る男を睨むかのように目を細める。

 

「生来せよ! 《シューティング・スター・ドラゴン》!」

 

《シューティング・スター・ドラゴン》

星10/攻3300

 

ホセ

LP 13800+3300→17100

 

 遊星のフィールドには白、紅、黒の3体のシンクロモンスター。チーム5D'sの全力でもって相手を倒すため、遊星はアクセルシンクロモンスターの効果を発動させる。

 

「《シューティング・スター・ドラゴン》の効果発動! 自分のデッキの上からカードを5枚確認し、その中のチューナーの数だけ相手モンスターに攻撃する事ができる!」

 

「そうはさせん! 《迷い風》を《シューティング・スター・ドラゴン》に対し発動! そのシンクロモンスターの攻撃力は半分に、そして効果は無効となる!」

 

《シューティング・スター・ドラゴン》

攻3300→1650

 

 使われた不気味な風は自身の効果で除外されていった。最大5回のモンスターへの連続攻撃を可能とする《シューティング・スター・ドラゴン》の攻撃を受けてしまえば、《Sp(スピードスペル)-起爆化》により攻撃表示になった機皇帝のパーツが狙われてライフポイントが大きく削られるのは必然。ホセがここに《迷い風》を使うのは当然のことだった。

 

「やっと使ったな、その罠を!」

 

 遊星が懸念していたのは《迷い風》により高攻撃力を持つモンスターのステータスが大幅に下げられ、相手に大ダメージを与えられなくなってしまうこと。連続攻撃というわかりやすい打ちどころへと使わせたことにより、もう《迷い風》を恐れる必要はなくなった。

 

「《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》を選択し罠カード《奇跡の軌跡(ミラクル・ルーカス)》発動!」

 

 墓地にチューナーは2体。よって、《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の攻撃力は4500。そこからさらに攻撃力を上げるために使われたのはクロウから引き継いだ罠カード。

 

「相手はデッキからカードを1枚ドローする。そして選択したモンスターはダメージステップ時に攻撃力を1000ポイントアップし、さらにこのターン2回まで相手モンスターに攻撃する事ができる!」

 

 相手に1枚のドローを許す代わりに、パワーを極めたシンクロモンスターである《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の攻撃力を更に高め、かつ連続攻撃を可能とした。

 

「バトルだ! 《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》で《グランエルG(ガード)》に攻撃! バーニング・ソウル!」

 

 《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》の攻撃力は《奇跡の軌跡(ミラクル・ルーカス)》 を受けて5500になっているため、この攻撃で発生するダメージは5000。

 

「罠カード《レイ・オブ・ホープ》を発動! 自分が1500ポイント以上の戦闘ダメージを受ける場合に、その戦闘ダメージを半分にする! ぬううぅっ……!」

 

ホセ

LP 17100→14600

 

《機皇帝グランエル(インフィニティ)

守8550→7300

 

 ダメージを抑えることでステータスの減少も小さくなり、パーツを失ったが機皇帝は威厳を保ったままだ。

 

「《スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン》で二回目の攻撃! 《グランエルT(トップ)》に攻撃だ!」

 

ホセ

LP 14600→9600

 

《機皇帝グランエル(インフィニティ)

守7300→4800

 

 腕をもぎ取った龍は返す刀のごとく翻り、再び炎を纏った突進を見舞い頭部を粉砕。バランスを崩した機械に追い打ちをかけるようにシグナーの竜が動き出す。

 

「《ブラックフェザー・ドラゴン》で《グランエルC(キャリア)》に攻撃! ノーブルストリーム!」

 

ホセ

LP 9600→7500

 

《機皇帝グランエル(インフィニティ)

守4800→3750

 

 渦巻くエネルギーに翻弄され脚部を失い、不格好な姿になった機皇帝だが《シューティング・スター・ドラゴン》の攻撃力では更なる攻撃はできない。

 

「俺はこれでバトルフェイズを終了する」

 

「《レイ・オブ・ホープ》の効果により、バトルフェイズ終了時に手札よりレベル1のモンスター1体を効果無効の状態で特殊召喚する。来い、《グランエルT(トップ)》!」

 

《グランエルT(トップ)

星1/守0

 

「カードを2枚伏せてターンエンド!」

 

 倒し切ることはできなかったが、攻撃に対する備えは用意してある。もしシンクロモンスターが吸収されたとしても次のターンで挽回することが可能だ。

 ホセのフィールドにはたった2体のモンスターが合体したのみ、という貧相な図体になった機皇帝。だが本体の持つ吸収効果が無効になったわけではないため油断はできない。

 

 できない……の、だが。

 

「く、ふふ……ははははは! 見よ、この歪な姿を! まさしく骸と呼ぶにふさわしいカタチではないか!」

 

 ホセは突然、天を仰ぐような大仰な動きをして今の状況を語りあげる。

 

「愛される時を失い、愛する者を失い、その果てに愛そのものが要らぬと生き永らえた。私は、醜くも生き残ってしまった……!」

 

「どうしたんだ、いったい何を言っている……!?」

 

 シンクロキラーという存在をエースモンスターとして誇りに思っていた……そのはずだ。それを骸と蔑むような表現をし、さらに脈絡のない話が始まり……まさか気が狂ってしまったのか、と遊星の頭にありえないだろう可能性がよぎる。

 

「理解できぬのは当然のこと。ああ、見せてやろう、お前達の罪の重さを! 愚かなる人類の歴史を!」

 

 空に無限の光が走ったかと思えば赤き竜の痣が熱を持ち、ジェイドの心臓も強く高鳴った。

 次の瞬間、夕暮れよりも禍々しい赤黒い空の中にチーム5D'sの面々は浮いていた。怪我人であるジャックとクロウも意識を強制的に覚醒させられ、石板となったカードが埋もれている荒れ果てた世界を見せつけられている。

 突然の現象に戸惑う中、アキがこの滅んだ世界がネオドミノシティであるという証拠の建造物を見つけてしまった。

 

「これが……俺たちの未来だというのか」

 

「へーえ、信じられない? なら、お前達の中にも僕らと同じ未来のことを知ってる奴がいるんだからこれが嘘なのか聞いてみたらいいじゃん」

 

 響くルチアーノの声にジェイドは目を逸らした。何も言わなかった。それが答えだった。ブルーノ以外のチームメンバーは息を呑む。

 

 ……滅んでしまった世界。救われずに終わってしまった世界。ジェイドはテレビの画面の向こうでしか知らないはずなのに、現実となったこの光景に見覚えがあるような気がしていた。

 薄ぼんやりと光っていた翠の目はふるりと震えて、元に戻る。この既視感は内にいる神のものだろうと結論付け、ジェイドは顔を前に向ける。

 

「全てはシンクロ召喚から始まったのだ――」

 

 ホセが語るのは確かな未来の話。

 誰かが言った。Dホイールがシンクロ召喚時に起こす波長がモーメントとリンクしている、と。共鳴したモーメントは加速し、進化は暴走を始めた。人類を滅ぼすために機皇帝が作られ……それでもなお欲望は抑えられず、限界を迎えた全世界のモーメントは逆回転し爆発。

 そして全ては滅びを迎えた。

 

 その事実がイリアステルの三皇帝……いや、確かにその時代を生きていた一人の男の記憶と共に明かされる。ゼロ・リバースと同じ、いやそれ以上の災害が起きるという否定したい未来を遊星は受け止めきれないままだが――舞台は現実へと戻る。

 

 ホセが突きつけた信じがたい未来の一部を十何分も見ていたように感じたが、実際は謎の技術により数瞬で終わったものだったらしい。Dホイールは事故も起こさず走行中のままで、スピードの中の世界で二人は戦っている最中だ。

 

「私は――我々(アポリア)は、失ったのではない」

 

 背後から迫るエンジン音。ジャックとクロウは怪我が未だ癒えていないため、この場に近付く者は限られる。遊星が振り向いたその先にいたのはルチアーノとプラシドだ。ホセの様子にいてもたってもいられず駆けつけた……のではないだろう。

 

「絶望を得たのだ」

 

 チームニューワールドがこの場に揃うことは予定通り、とでもいうかのようにホセは落ち着きを取り戻す。……この場で何かが起きようとしている。思い起こすのはプラシドが真の姿を見せようとした、あの空気感。

 

「さっさとやるぞホセ。これで不動遊星と再び戦うことができる……!」

 

「僕は戦ったこと無いんだけどねぇ? ま、そんなことどうでもいっか」

 

「絶望より生まれし三つの魂よ、今こそ一つに!」

 

 三人はDホイールから射出されるかのように空へと飛翔。浮遊し、同じ座標へと重なる。普通の肉体を持つ存在では不可能な事象が現実になっている。

 

 三人の中で最も巨大なホセの体躯――それよりも大きな何者かへの合体変身。

 

 三人が顔に装着していた無限の装飾が合体し、完成したのは顔を覆い隠す仮面。それが消え、新たに現れた存在の正体が明らかになる。

 ……ホセともプラシドともルチアーノとも違うが、それらの面影がある壮年の男が目を開く。

 

「――我が名はアポリア」

 

 イリアステル滅四星の一人、絶望のアポリアがここに顕現した。

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