今日も元気もりもり……いや、そんなにもりもりではないな……。
はあ、とため息を吐くジェイド。思い詰めたような顔をしているがその目は決意で燃えている。
珍しく一人で散歩中な彼には今の間にしなければならないことがあった。
――何としてもお仕事を探さなければならない。
兄である私が、弟とその友人達に経済的におんぶに抱っこという状況は……流石に恥ずかしい!
機械いじりが出来るわけでもない、Dホイールの免許を取ってないから宅配の手伝いもできない。仕分けとかはまあできるけども、配達のために動き回るのはクロウなのでそれはクロウの稼ぎってことになるのでは? と考えてしまう。
ジャックは……稼ぎと消費のバランスが吊り合っていたり崩れたり、が交互にやってきてプラスマイナスとしてはまあプラス、ってところだろうか。
サテライト育ちがシティのキングというアイドルになるため、ゴドウィンによりキングとして相応しい生活という贅沢三昧をさせられた結果……舌が肥えたり生活力を奪われダメになってしまった。そんな中でも兄のために、と貯金を覚えたのがとても大きい。貯金に回すだけで今すぐには消えないお金に変わるのだから。
……あれ、じゃあアニメの浪費癖はもっと酷いってことに……?
私、ジェイド・アトラスはどうするべきか。
地域の大会に出て賞金稼ぎ、は【メメント】について知らない人相手に暴れ回ることになるため嫌悪感の方が強い。モンスター達も俺ツエー的に使われるのは嫌いそうだ。
求人のチラシを見るも、資格や専門職を求めているようなものが多い。勤務場所まで遠いのは大きめのマイナスポイント。最終的に飲食店のバイトに落ち着くかもしれない……そう考えつつ読み進めていった最後に目を惹かれる一文があった。
『デュエルアカデミア 臨時講師募集中!』
なるほど。教員免許なんて持ってませんが?
何々、面接デュエルの成績によっては教員免許なしでの講義を認める……アリなの? デュエル至上主義はそこまで進化してしまったのか。
電話で求人について尋ねてアポを取り、今日来てもいいですよと返事を頂き……デュエルアカデミアに着いたのは午後3時ごろ。警備員さんに何の用事で来たのかを伝えると「ああ!」と速攻で案内され、まさかの校長先生を相手に普通の面接をすることになった。なんというスピード感!
「本日はよろしくお願いします」
高級そうな椅子に姿勢よく座り、手はお膝。あっという間に始まってしまったから心の準備ができず表情が固くなっている……気がする。
最初は当たり障りのない自己紹介から始めるのだが、名前に引っかかるものがあったらしく早速質問が飛んできた。
「姓がアトラス、ですか。失礼ですがお伺いしても?」
「ジャック・アトラスの兄です。血は繋がっていませんが」
「なるほど。君があの……」
元キングがサテライト出身ということは広く知られているが、兄がいることまで知っている人は少ない。どうやら校長先生は知っている側の人間のようだが私は面識が無い。
……龍亞辺りがデュエルアカデミア内で話をしてその噂が校長先生まで届いた、のだろうか? 少々気になることはあったが、普通の面接は普通に終わった。
肝心の面接デュエルは校長先生ではなくハイトマン先生という人が担当とのこと。
だが、とある教室に用事があるとかでハイトマン先生は席を外していた。帰ってくるまで待つよりも授業の空気感を今のうちに知った方が良いだろう、と合格した場合前提な親切心でその教室前まで連れて行ってもらえた。
の、だが。なんだか騒がしい。
「あの、ジェイド・アトラスです。面接デュエルの担当者であるハイトマンさんに御用がありまして」
「え、ジェイドのにーちゃん!?」
扉を開けて恐る恐る話しかければ、びっくりした様子の龍亞の声が返事になった。もしや授業中に乱入して話の流れを切ってしまったのだろうか。
教壇に立つのは眼鏡をかけた男性……恐らくハイトマンさんだ。こちらを向き、お前は誰なのかと目で訴えかけている。
「……お取り込み中でしたか、失礼しました」
そそくさと後ろに下がり、邪魔にならないようドアを閉めようとしたが止められた。
「面接デュエル? 今は……いえ、いいでしょう! 究極の勝ち組デッキ、その力を弱小決闘者に見せつけてやる時が来たようですねぇ」
「……?」
承諾の後に何か呟いていたようだが、幸か不幸かジェイドにはよく聞こえなかった。おっほん、と威厳増し増しの咳払いをしてハイトマンは皆の視線を自身に集める。
「デュエルコートは今の時間ならば空きはあるでしょう……せっかくのデュエルです! 皆さんも選ばれしエリートの姿をしっかりと見るように!」
流されるままにクラスの皆も一緒に観戦することになってしまった。面接って観戦されるものでしたっけ? あれ? デュエルだから問題ないってこと??
善は急げとばかりにその身を翻して廊下へとスタスタと出ていくハイトマン先生。何故か龍亞が先生を威嚇するように睨みつけた後、こちらへ駆け寄ってくる。
「なんでアカデミアに来たの!?」
「臨時講師の募集があってね。今は試験を受けてる途中」
「それじゃあこれからジェイドのにーちゃんのデュエル学が受けられる、ってこと!?」
つい先程までネチネチ成績が低いのは低レベルだからだと言われていた嫌な記憶は吹っ飛んだ。
遊星、ジャック、クロウにデュエルを教えた人からの講義が受けられる! とウキウキワクワクが止まらなくなる龍亞。
殆どのクラスメイト達は誰なのか知らない人を相手に一人で嬉しそうにする龍亞の姿を見て困惑している。双子と一緒に遊びにきたことのある友達達は龍亞と同じくワクワク側になっているようだが、流石に気が早い。
「いや、まだ採用されるとは決まってないからね?」
「えー、【メメント】でけちょんけちょんにするんでしょ? そんなの合格決定じゃん!」
しゅしゅしゅと見えない相手を殴る仕草を何度か繰り返す……という妙に好戦的な様子の龍亞の腕に手を置き、首を横に振る。
「いや、【メメント】はできれば使いたくない。オンリーワンなカードを使って倒しても、それは本当に自分の強さとは言い切れない。講師になろうとする人間が相手の知識に無い物を使って優勢……なんてデュエルアカデミアの面接としては0点になるだろうしね」
「えっ、ジェイドのにーちゃん他のデッキ持ってたっけ? ……どうするの?」
「外行き用に作ったのは一応あるけど――実は面接デュエル担当の先生へアピールを兼ねて生徒のデッキを使ってください、って校長先生から言われてね。それで、龍亞のデッキを貸してくれたら嬉しいなあ、なんて」
自分よりも強い決闘者からの予想外すぎる言葉に龍亞はお目々をまんまるにし、口をぱっかりと開ける。どういう感情での反応か判断しきれない。もしかしたらマイナス寄りかもしれないな、突然は流石に駄目だよなあ、と考えながら返事を待つ。
「あー……駄目だった?」
「え、いいいいや嫌じゃないって! でもデッキのことを教える時間が、」
装着していたデッキをケースのまま渡し、いやまず構築を見せて、どんなコンボがしたいのかの説明が先か。
混乱する龍亞の手からデッキを受け取って中身をざっと確認する。
「【
緑の眼にはっきりと自信を表し、胸を張って堂々と宣言する。ジャック・アトラスの兄――その単語を聞き取れたクラスメイト達が騒ぐ。
「ほぉーう、あのジャック・アトラスの……?」
ジャック、兄。その単語を交えた会話で騒ぎ出したせいか、ばっちりとハイトマンの耳にも届いた。
サテライトの落ちこぼれ、そんな奴をデュエルアカデミアへ入れるわけにはいかない! しかも自分のデッキではなく弱小デッキを使うときた! ハイトマンのエリート精神が燃え上がり、それをエネルギーに大股かつ早歩きで男は優雅に急ぐのであった。
「で、肝心のデュエルコートはどこに?」
「こっち!」
興奮する龍亞に手を引かれ廊下を走らされる。すれ違う人たちからの視線が痛いが龍亞は止まる気配がない。
デュエルコートに到着したらすぐに面接デュエルが始まるだろう。それまでに面接デュエルとは何のために行われるのか、その意味を考えねばならない。
面接でありデュエルでもある、ということはこのデュエルで人としての全てを見られているに等しい。
どうして面接なのに一対一ではないのか。
デュエルアカデミアにおいて必要なカードの知識、それの確認だけではない、生徒がいるからこそできること……つまり教えながらのデュエル。
そうか――講義を生徒と一体となり作り上げることができるのか、それが見たかったんですねハイトマンさん!
「………………もしかして何か勘違いしてる?」
気付けたのは龍可だけだった。
ハイトマン先生は実力主義者。低レベルや低ステータスなモンスター、またそれらを使う決闘者のことも馬鹿にしていると悪い方面で有名な教師だ。
あの本性を知ったらきっとジェイドは怒ってしまうだろう。彼はサテライトに捨てられていたカードを集めていた過去を持つ。雑魚だのクズだのと単語を発したら最後、きっととんでもないことが起きてしまう。
こんな大事な時に【メメント】の精霊達は何をしているんだろう。辺りを見回すと……いた!
がしゃんがしゃん、キュイーン!
『む、久しいなライフもごー! もごごー!!』
必死に骸の龍の口を押さえる黄色い機械竜。理由はよくわからないが精霊達は別のことでドタバタしていた。
「……………………」
大丈夫なのかなあ。ちょっと遠い眼になる龍可だった。
「「デュエル!」」
皆がそれぞれ心の中で考えていることは表に出ないまま面接デュエルは始まった。始まってしまった。
「私の先攻ですか、ドロー! これはこれは……特別授業を始めましょうか! エリートのみが使えるこの【
《
星2/攻500
フィールドに現れるのは《
攻撃力も500と低く、通常召喚で出したためこれ以上のモンスターは出せないんじゃないか。そんな希望的観測が広がる。――ただ一人を除いて。
「【
ジェイドの呟きを聞いてハイトマンは警戒を強める。
モンスターの効果は知らないようだが、間違いなく【
「さらに《機械複製術》を発動! デッキから2体の《
低レベル低ステータス、まさに踏み台となるべく生み出された《
「《
《
星8/攻3000
胸像が消え、機械仕掛けの巨人が大地を揺らす。
「ふっふっふ……残る2体の《
《
星8/攻3000
《
星8/攻3000
最上級モンスターが2体も追加される。機械の軋む音がデュエルフィールドに響く。
「《レベル・サンダー》発動! 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターのレベルの合計×100ポイントのダメージを相手ライフに与える! 私のフィールドにはレベル8の《
「む、バーンは想定外」
ジェイド
LP 4000→1600
高攻撃力モンスターの大量展開にバーンダメージ、と後攻ならば1ターンキルが成立していたかもしれない手札をハイトマンは全て使い切る。
「私はこれでターンエンド。これは面接でありデュエルでもあるのでねぇ、敗北しても影響はしません。貴方の全力を見せてください」
嘘つけ負けたら落とすつもりだろー! とヤジを飛ばしかねないぐらいハイトマンに対し嫌悪が強い龍亞だったが、口を開きかけて、閉じる。邪魔をしてはならない、と決闘者の本能が察したからだ。
――ジェイドの目には既に勝利への道が見えている。
「私のターン、ドロー。《
《
星1/攻100
携帯電話から変身するのはこの時代の【
「「ダイヤル・オン!」」
電子音と共に数字のボタンがランダムで点滅し、示された数字は。
「出た目は3! よって3枚めくり――レベル4以下の《
《
星3/攻500
スケートボードが変形し、ボード部分を背負ったような人型メカになる。
……気のせいだろうか。めくられたカードを見ている途中でジェイドが笑っていたような気がした。
「通常魔法《
「ええっ!? なんで自分のモンスターを破壊しちゃったの!?」
確かに、破壊するカードについては『フィールド』のみであり相手や自分といった指定は無い。攻撃力3000のモンスターが相手フィールドに3体もいるのだから、てっきりそっちを倒しにいくと皆思っていた。
デュエルディスクは宣言通りに処理を進め、爆発による破壊でジェイド側のモンスターが減る。
「手札の《
またちらりと後ろを見るが、自分のモンスターを破壊したショックは生徒達から抜けきっていなさそうだ。
なぜ《鳳凰神の羽根》で捨てたカードを選択できたのか、とかについて解説しても記憶には残らなさそう。少ししょんぼりしつつジェイドはデュエルを続ける。
「《ジャンクBOX》で墓地の《
《
星4/攻1000
今度はラジオが変形変身。胸部に表示される周波数がギュルギュルと上がっていく。
「攻撃表示の《ラジオン》がフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上の『
《
攻100→900
《
攻500→1300
《
攻1000→1800
「総攻撃力4000……! 低レベルモンスターの癖に生意気な! しかしトータルの攻撃力を上げたところで《
「――あ、そういうことか!」
このデッキに対する一番の理解者だからこそ、一番にわかった。あの時の笑みの答えを。
ターン開始時のドローをした彼の手札6枚、その正体は。
・《
・《
・《
・《
・《鳳凰神の羽根》
・《ジャンクBOX》
「流石龍亞、気付くのが早いね。――攻撃表示の《ボードン》がモンスターゾーンに存在する限り、自分の『
「…………はっ? な、なんですってええぇええ!?」
最初の《
「それ行け《
巨大なモンスターを飛び越えてハイトマンの目の前まで迫ったメカ達の殴る蹴る妙に物理寄りなアタックが直撃。
鮮やかな1ターンキル。ハイトマンは低レベルな雑魚と称したモンスターによって倒されたのがショックなのか、床に手をついた状態で茫然としている。
デュエルが終わり、わっと生徒達が皆ジェイドの周りに集まる。
あのいけすかないエリート至上主義先生に対しシンクロ召喚をせず、モンスターの効果を最大限活かした戦術を見せつけたのだ。興奮しないわけがない。
「すっげ、すっげー! でもなんでもっと早くに気づけなかったんだろう俺、くそー!」
嬉しいと同時に、悔しい。自分のデッキでできる戦術なのに思い至らなかったのは決闘者として未熟な証拠だ。
「自分で使うのと観戦しているのとじゃ見える情報が違うからね、そう責めることじゃないよ。《月の書》とかで裏側にされたり、効果を使えなくなるだけで簡単に対策されるしチューナーがいないから《パワー・ツール・ドラゴン》を出して装備魔法で後のターンに備えることも出来な…………うん?」
借りていたデッキを返し語るジェイド。
龍亞のデッキに対する解像度の高い戦術指南を聞き、もしかしたら自分のデッキに対しての強み・弱点・改善案も教えてくれるんじゃないか、と希望を持って生徒達がデッキを見せにくる。勇気ある一人が声を出したのをきっかけに我も我もと押し寄せてくる。
年下のキラキラした視線を無碍にできない。面接デュエルの合格不合格は結局どうなったのか聞けず、後ろ髪を引かれつつもジェイドは生徒の波に飲まれていった。
「低レベルと見下した結果、効果を覚えていない。それがデュエルアカデミアの教師としてあるべき姿といえますかな? ハイトマン教頭」
「はい……私が間違っておりました……」
校長とハイトマンが話していたのだが、そのことに気を向ける人はいなかった。
教育方針の変更には成功した。それは喜ばしいことだ。だが。
「ゾラちゃんから話は聞いていたが、ううむ。臨時としてしか求人してなかったのが裏目に出てしまったな。是非とも常勤講師として採用したい……!」
一人悔しそうにする校長。うまいこと勤務時間を調整できはしないか、と彼の頭の中では時計がぐるぐる回っていた。
イリアステル所属の赤髪の少年からの質問
「アイツ未来に重要じゃなければ何してもいいとか思ってたりしない?」
A.日常回のことほとんど忘れてるだけです。
これによりデュエルアカデミア退学騒動が消えた結果遊星がやって来ることが無くなり「スターダストいいな……ほしいな……」(願望)フラグも折れました。
(講師になったら間違いなく皆に存在を教えるだろう《冥骸合竜-メメントラル・テクトリカ》から目を背けながら)