お忍び変装スタイルなジャックが付き添いで来た試験当日――結果だけ言うと免許は取れた。
実技はトントン拍子で進み、最終試験の担当となったセキュリティの風馬さん曰く、ライセンス取得希望者が増えたので落とす試験に切り替えた、と言って荒っぽい運転でこちらに圧を掛けていた。
けどもサテライトにいた頃にあったアレソレと比べるとヌルい。何度もDホイール後部にぶつけられても全く動じない私の姿を見てあっちの方が動揺していた。
ライディングデュエルに欠かせないフィールド魔法《スピード・ワールド》《スピード・ワールド2》だが、どちらも《
魔法カードが使えないならモンスター効果で展開すればいいじゃない、と現代OCGパワーな【メメント】の前にはそこまで障害にはならなかったけど、『あれ? 《パーティ》はしないの?』みたいな顔をしていたモンスター達には悪いことをしてしまった。記憶に頼って多分墓地効果は使えると思ってた自分が悪い。反省。
色々ありつつも取り敢えず免許は取れた。うん、取れた、のだが……【メメント】は攻撃力5000を安定して出せるのが問題になった。
ライディングデュエルでは受けるダメージが大きいほどDホイールへの衝撃も比例して強くなる。ダイレクトアタックでクラッシュした、というのはよくあるらしいが――危険な事がよくあっていいのだろうか?――【メメント】は《テクトリカ》による数値の暴力でいかなるモンスターも問答無用でぶち抜く事ができる。
相手が突然出てきた攻撃力5000に動揺している時に攻撃を通すことでハンドル操作をミスらせて……ってことを何回もやりかねない。というか試験官な風馬さんにやりかけた。
そんな訳で。
「相手は慎重に選ぶように、だって」
「妥当だな」
免許取れたよ、と見せびらかしつつ注意されたことを皆に共有する。
普通の決闘者相手に【メメント】はできる限り使わないようにする、という個人的な縛りがライディングデュエルにも広がっただけなので私としてはそこまで気にしていない。
……きっとライディングデュエルで使うとしたら緊急のトラブルでチームの誰かが出れなくなったり、怪我した場合でのサブメンバーとしてになるだろう。
そうそう。私が勉強している風景をよく見ていたからかアキちゃんはライディングデュエルに興味が湧き、私も! と《緊急同調》。原作通りに免許を取る流れためワールド・ライディングデュエル・グランプリでのアキちゃんの活躍はちゃんとありそうで良かった。
――するべきことはひとまず終わって、時間が空いた。
「元気もりもりメメント・モリ! というわけで《機皇帝》対策緊急会議を始めたいと思います」
「え! ジェイドお兄ちゃんの《機皇帝》対策!?」
興奮から声が少し高めの龍亞がすぐさま寄ってきて、テーブルに両手をついて何度もジャンプ。その衝撃でお茶が移動しつつあったのでジェイドはちょっと飲んでから真ん中に置き直す。
「どんな相手なのかは戦ってみてわかったし、一部カードの効果も明らかになった。簡単な対策は取れると思うんだよね」
「待ってくれ、《機皇帝》と戦ったのか!?」
聞き逃せない言葉を耳にした遊星が前のめりになる。
実際に戦ったことがあり、エースである《スターダスト・ドラゴン》が《機皇帝》により奪われたこともあるため皆と比べて食いつきっぷりが違う。
「まーまー落ち着いて。突然喧嘩売られて勝っただけだし」
シンクロキラーに対しシンクロを使わない【メメント】で勝った、という点については詳細を聞かずとも皆納得しているようだ。
遊星が一番落ち着きのない、普段とは違うガレージの中。ジェイドはデュエルアカデミアから支給された教材をカバンから取り出し、索引から目当てのカードについて記されたページを探す。
「ちょっと待って……えっと、さ、さい……あった」
開いたページがすぐに閉じないようクセ付けのため押し、皆が囲んでいるテーブルへと置く。
「一番良いのは《サイバー・ドラゴン》と《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》。機械族モンスターな《機皇帝》達を融合素材にしちゃおう! って案だね」
「おお!」
《サイバー・ドラゴン》。決闘者ならば誰でも一度は手にしたい、または戦ってみたいと思ったことがあるカードだ。
サイバー流を極めたカイザーと呼ばれる男に深く関連するため、デュエルアカデミアに通う三人はよく知っている。レベル5のモンスターだが特殊召喚が容易であり、攻撃力2100と優秀。複数の融合モンスターの素材となることもでき、そのどれもが攻撃的な効果をしている。
「問題としてはカードを手に入れるにはサイバー流の門下生になって師範から認められる必要があるから……一番無理な案でもあるんだよね……」
カードが欲しいだけでサイバー流に転向するのは無理だろう。まず下心しかない人間を受け入れるほどサイバー流は甘くない。
道場破りでアンティ……なんてしたらセキュリティのお世話になってしまう。故にボツ。
「次、機械族メタのカード! 《システム・ダウン》や《酸の嵐》。これは魔法カードだからライディングデュエルだと使うのは難しいかな」
名前をあげたカード達を使われた事があるのか、龍亞がうげーって顔をしている。
「次、エースをいっそのこと変えてみる。アドバンス召喚、融合に儀式。大型モンスターを出す方法はシンクロだけじゃないからね。でもまあ、融合と儀式は合わないデッキにはとことん合わないから無理して使う必要はないよ」
「………………」
遊星は真剣な表情で考え込む。《機皇帝》への対策として辿り着くが、アクセルシンクロの完全習得に伴い使わなくなった融合モンスター《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》……のカードまでは思いついていないようだがエースの変更に対して乗り気になっている。複数のシンクロモンスターを使い分けているから抵抗がないのだろう。
「……ええい! 無理のある話ばかりしおって! もっと明解なものはないのか!」
我慢のできなくなったジャックが突っかかる。索引で検索中なジェイドは目を合わせないまま弟からの希望に応える。
「急かさなくても皆が一番受け入れやすい案はちゃんと考えてるよ。――《機皇帝》がシンクロモンスターを吸収する効果は1ターンに1度、かつ対象を取る効果。だから効果の発動にチェーンしてフィールドから逃せばシンクロモンスターを守ることができる。このタイプの効果は《亜空間物質転送装置》が有名かな」
やられる前にやる戦法のみではなく、自分のモンスターを守ることも大切。シンクロモンスターを吸収されないなら《機皇帝》単体のステータスはそこまで脅威ではない。
「効果を無効にする、破壊する……シンプルな解決方法がなんだか求められてなさそうだから違った方面で軽く案を出してみたけどこんな感じでどう?」
「話を聞くだけでなんとかなりそうな気がしてきた!」
「デッキ、見直しておかないと……」
ポジティブになるのは良いこと。うんうん、とジェイドは頷く。
「それじゃあちょっと聞きたいことがあるんだけどさ遊星――シンクロキラーのインパクトのせいで《ターボ・ウォリアー》のこと忘れてた?」
いい感じになっていた空気が一瞬で冷えた。
……返事はない。言葉に詰まっている。
「パーツの攻撃力と守備力を合計したステータスになるけどレベルは変化しない。だからレベル6以下の効果モンスターの効果の対象にならない《ターボ・ウォリアー》は最適なん、だ、けど…………あー、自分のデッキのことがわからなくなるぐらいシンクロキラーがショックなのはわかった」
「フン、そんな体たらくでよくもオレからキングの座を奪えたものだ」
ジャックが煽ろうとしている気配を察知したので、すかさず巻き込んでいく。
「文句ありたげなジャックはどう考えてる?」
「それは勿論パワーだ! シンクロキラーなど、より強い力で倒せば問題なかろう!」
「《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で?」
「我が魂なのだぞ。突然だろう」
「《バスター・モード》は選択肢に入れてた?」
胸を少し逸らし自慢げにしていたジャックも固まった。
「――あ、いや叱ってるわけじゃなくて!」
言った後で気付く。この台詞は言い訳に聞こえかねない。
「あっとえーと、忘れたり気付けなかったりはそこまで恥ずかしいことじゃない。それをバネにして野郎よくも! 絶対に許さねえ! ――って責任転嫁して倒しにいく勢いに変換できるなら大丈夫だから。私もデュエルでやらかしたことは多いしね……だから今がある」
しまった《琰魔竜 レッド・デーモン》は《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の名前入ってないから《ソウル・リゾネーター》の身代わり効果の対象外じゃん! 殴れば良かった! とか。
見えている効果無効に気を取られすぎてうっかり《召喚師アレイスター》の通常召喚から動いてしまい手札の《クシャトリラ・ユニコーン》を出せなくなったりとか。
なんか光ってるから使ってみうわああああ! とか。
「やらかし……?」
そんなところは見た覚えがない、と首を傾げる三人。
「皆にカッコ悪い姿を見られるようじゃお兄ちゃんはできないのですよ」
ポカミス三昧してたのは前世だから皆に見られるはずがないだけなんですが。
「……あー、俺はどうするべきだと思う?」
ズバズバ切り込まれる姿に不安になってきたのかクロウが尋ねる。
「えっ、シンクロせずに【
【
遊星とジャックにだけ厳しく当たってしまった、という事実が残ってしまった。
「……嫌われたりしてないかなぁ〜!」
微妙な空気のまま解散した後、自室のベッドの上でぼすぼすごろごろと悶えるひとりの男。
「あるのに使わないってのは気になるし、見えている甘さを無視するってのもこれからのことを考えるとできないしぃ」
万が一聞かれたら恥ずかしいので、枕を口に当てて喋り声を抑える。むうむう、と恥が殆どを占める呻き声。
精霊を見ることのできないジェイドには、デッキのモンスター達による慰めの言葉は聞こえない。
「余計なことしちゃったかな……」
デッキを一人で回し、違うことを考えないようにしようとしてもついさっきのことを忘れられるはずもなく。
「あー、なんかもう今日はダメ! こんな時は散歩だ散歩!」
ジェイドは広げたカードをデッキケースにしまい、外出の準備を始めた。
『すてられた? それともわすれられた? ひとりぼっちになりたくなら、おいで。いっしょにいこう』