古代中国の高名な思想家、孟子と荀子はそれぞれ性善説と性悪説を提唱した。
前者は人間の本性は生まれつき善であるという考え方。
それに反して後者は人間の本性は悪であるが、努力次第で善になることも出来るという考え方である。
では今こそ皆に問いたい。
悪とは何かを。善とは何かを。
悪は何をもって悪に転じ、善は何をもって悪を誅するのか。
ここはクライムスクール。
様々な世界で悪役とされ、勧善懲悪の名の元に敗北を喫した者達が集まる学習塾である。
***
黒く塗り潰された床と天井、それとは相反する白で統一された壁と並らべられた机と椅子。
いつみても素晴らしきモノクロの世界。
単一であるからこそそこに想像の余地が生まれる。
不完全に完結された空間に身を置いていると自然と心が安らぎに包まれる。最高の魂は最高の環境にこそ宿る。
オレ様の魂は今ここに仕上がった。
ん? おぉーと紹介が遅れた!
悪い! 最っ高に悪いと思ってる!
気を取り直して自己紹介と行くぜ。
オレ様は
「今日からオメーらはオレ様の指導の元、このクライムスクールの生徒として迎え入れられたってわけだ。以上説明終わり! ついでに質問タイムも終わり! つーわけで今日からよろしくな!」
はぁー腹減ったなー。
もうそろそろ給食の時間だなー。
などと目の前に生徒がいることなんて忘れ今日の献立について思いを馳せていると突如弾けるような轟音が教室に鳴り響いた。
見るとある生徒の足元が不自然に凹み、煙が上がっていた。どうやらその生徒が座った状態で思いきり地面を踏みつけたらしい。
恐ろしいパワーである。
ていうか床壊すんじゃねぇよボケ!
「納得できねぇなァ! いきなりこの俺をこんなとこに連れて来ておいてよォ!」
身長は3mに迫ろうという人間離れした身長に加え、上半身を中心に限界まで鍛え抜かれた身体はまさしく筋肉のショッピングモール。特々
注の大型カーテンみたいな学ランをマントみたいに着こなす姿は見る者にこいつヤベーな感を植え付けるに十分であった。さしずめ見る暴力である。
お前多分ONE PIECEの世界でも余裕でやっていけるスケール感だな。
ところでコイツは確か……ストリートファイトヤンキー漫画、【ブルーボーイズ】のラスボス
全国の不良を束ねる地獄の覇者の名は伊達じゃねえな。
だがオレ様は動じない。
なぜなら教師が生徒に舐められちゃお終いだからだ。
「なんだ
「先公なんて信じられるか、どいつもこいつも俺たちを見下しやがって! クソが!」
そういうと
ちょっ! ざっけんなお前! せっかくお前のサイズに合う机用意してやったのにィ!
そもそもオメーのサイズ感で見下すのは物理的にも精神的にも無理だろ……。
「オメーが先公をどう思ってんのかなんて関係ねぇ。この塾じゃオレ様が唯一無二のルールだ」
「
熱血超人野球アニメ、【ウルトラベース】に登場する地獄童学園のエーススラッガー
顔に硬式の野球ボールのような特徴的な縫い目が刻まれた少年。こちらの生徒はその一点を除けば至って容姿端麗な優等生の見た目をしている。黒縁の眼鏡をクイッと上げる姿はそれだけで絵になる。やや慇懃無礼気味な態度が鼻につくけど?
「贅肉ゴリラだァ? 聞き捨てならねぇなァ!」
「バランス良く鍛えてこそ初めてそれは筋肉と呼べる。アスリートの基礎だよ。でも君のその身体はなんだ? そんな三角フラスコを逆にしたような体型はあまりにも不細工極まりない。無駄に鍛えてしまった筋肉は贅肉にも劣ると知りたまえ。正しい筋力トレーニングの仕方を教えてやろうか?」
「筋トレなんてやり方も知らねぇよ! それに努力なんてザコのすることだろ? こちとら喧嘩一筋で生きてきたんだぜ!」
どうやらこのヤンキー。今まで生まれてこの方筋トレをしてこなかったという。いや……その設定にしてこの恵体は無理だろ……。
「可哀想に……脳まで贅肉なんだねぇ……特別に我が地獄童学園の特別訓練マニュアルでその贅肉だらけのだらしない身体を鍛え直してあげるよ。まずは手始めにグラウンド100周行っておいで。なお10分以内に完走できなければもう100周追加のペナルティだ。ほらどうした? さっさと行けよノロマ」
「さっきから黙って聞いてればなんなんだお前! どこ中だゴラァ!」
いやお前……思ったより黙って聞いてないだろ。
お前がなんか喋る度に衝撃で窓ガラスがミシミシ軋んでるんだけど。
「ハハハ……これは驚いた。もしかして君は中学生なのかい? ならば年上には敬意を示したまえ。僕は地獄童学園高等部3年、エースで4番の
怨乗死球は野球ボールを取り出すとそれを握り潰す勢いでニギニギし始めた。すると手から闇のオーラ的なものがボールに伝わり溢れていった。
マジか……確かあれって
おいバカやめろってマジで!それ必殺技(ガチ)のやつだから!
「あー静粛に」
「あのクソ先公の前にお前をシメてやる」
「望むところだね。ちなみに僕は場外乱闘で負けたことはない」
こいつら教室の中でおっ始める気か。
えっ、ていうか初日から早々殺し合い!? そんなバトロワ展開しぇんしぇみとめましぇーーん!
スゥゥゥゥゥゥゥ!
「うるせェェェェェェェェ! 静かにしやがれコノヤロォォォォォォォォォォォォ!」
オレ様は全力で息を吸い込み、ありったけの思いを込めて言い放った。
一触即発だった二人は突然膝をガクつかせその場でへたりこんでしまった。どうやらオレ様の声がしっかりと届いたらしい。
「どうだ問題児共、オレ様の声は
「な、なんだ……今の……は……」
「この先公普通じゃねぇ……俺達と同じ何か特殊な特技があるのか!?」
「二度も同じ事言わなきゃならねえとは全くオメーらときたら……まだテメーの置かれた状況か理解出来てないようだな」
「何が言いたいんですか?」
「クライムスクールは悪役に本当の悪を教えるための学習塾だ。そして世に生まれし作品の鉄則は勧善懲悪。正義が勝って悪は負ける……即ちオメーらもその例に漏れず正義に屈した敗北者共の集まりってわけだ」
『敗北者』というオレ様の発言に気分を害した生徒が何人かいたようで、ある男子生徒は刀を抜き、ある女子生徒は自身の髪の毛を触手のように伸ばして威嚇し、またある女子生徒は……ギャン泣きしていた。
あのギャン泣き女子は確か……人気乙女ゲーム【どきゅっとプリンスファンタジー】に登場するゴールドルフ・マリア・ルナティアーユアルデンティスカ。
主人公であるプレイヤーに自身の婚約者だった第一王子をN○Rれてしまい、腹いせに主人公を毒殺しようとした所見事に見つかってしまい第一王子から直々に婚約破棄と国からの永久追放を命じられてしまった悪役。いやもっとわかりやすく言えば悪役令嬢ってやつだろうか。
つーか名前長えよ! 名前だけで20文字以上あるとか勘弁しろよ!
今後出席取る時いちいちダルいんだけど!
「いやァァァァァァ! 私は一刻も早く王国に戻らなければならないの! 早くここから出してよ!」
「なんだ、入塾早々いきなりホームシックか? えーとゴールドルドリヒュ…………マリアルナティアーュアルデェンテイスカ」
途中何度か滑舌が危なかったが勢いで誤魔化したぜ。
教師が威厳を損なうわけには行かない。
重ねて言うが教師が生徒に舐められちゃお終いだ。
「私の方があんなポッと出の芋女より可愛いし、おっ……おっぱいだって大きいんだから!」
たわわたわわわわわ、たゆんたゆん、ばいんばいん、ぼいんぼいん。
胸をちょっと張っただけでこのバイブレーション。しかもまだ揺れてやがる。初期微動継続時間長すぎだろ。
金髪碧眼の特盛乙πの美少女。しかし追放された没落貴族というだけあって服装はやや見窄らしい。
「お、おぉ……言うだけあるぜェ……女ァ……」
「こ、これば……波打つ水面を彷彿とさせるこの迫力……ッ! まさに美しき贅肉!」
ていうか美しき贅肉ってなんだよ!
褒めてんのか貶してんだがわかんねーよ!
「静粛にしろエロ男子共。それにえーとゴールドルフ・マr「大体ここは何処よ! 私はまだアイツに負けてない! 負けてないんだからァァァァァァァァァ!」…………」
ギャンギャンギャンギャンうるせーな。
まだ喋ってる最中やろがい。
「だからお前は負けたんだよ、負けたからここにいるんだろうが。いい加減NTRれた事実を認めろよえーとゴールd「いやァァァァァァ! シルバルド様ァァァァァァ! シルバルド様ァァァァァァ!「うるせェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!いちいち被せてくんじゃねェェェェェェェェ!」
オレ様はついにブチ切れてしまって教壇を狂ったドラマーのごとく叩きまくった。あいにく教壇は生徒の机とは違い特別製……壊れはしない。むしろオレ様の手だけがジンジン染みて熱を持っていた。
「作品の不出来は悪役が決める……これがこのクライムスクールの教育理念だ。オメーらがだらしねぇ生き様晒す限りどんな名作も凡作に成り果てる。それは決して許されないことだ。ユーモアのない作品はそれだけ存在そのものが否定されてしまう。だが安心しろ……」
「オレ様がオメーらを最高の悪役にしてやるよ」
こうして悪役生徒達と超悪役教師による青春クライムコメディが幕を開けた!?