悪役のすゝめ   作:鳳菊之助

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一時限目:天魔獄実【ブルーボーイズ】
悪役は背負うものが多すぎる


 

「最高の悪役にしてやるだァ? 勝手に仕切ってんじゃねえぞ、俺は誰の指図も受けねえ。特に先公のはな」

 

 獄実(ごくざね)はそう言うと、おもむろに立ち上がり出口まで歩いていった。

立ち上がると尚更すごい迫力だな。あらかじめ教室の天井を大きめに作っといて良かったぁ。

 

「言っとくが教室から出ようとしても無駄だぞ。オレ様の許可が出ないと鍵が開かないようにしてあるからな」

 

 悪のカリスマ塾教師たるこのオレ様に不可能なんてねーのよ。

 わははわはは。

 

「鍵なんて必要ねぇ……扉ごとぶっ壊せばそれで終いだ! オラァ!」

 

 獄実(ごくざね)は強烈な飛び蹴りを扉を浴びせたが、扉はびくともしない。その後も何度も何度も扉を蹴り上げたが、とうとう壊れることはなかった。

 

「クソッ! クソッ! なんだよこの扉はッ!? コノォ! ブフッ!?」

 

 獄実(ごくざね)が最後に回し蹴りを繰り出そうとしたタイミングで、突如上から10tと書かれた金タライが落ちてきた。まぁ仕掛けたのはオレ様なんだけどね。

 

「大丈夫大丈夫それ10tって書いてるけど嘘だから」

 

「舐めやがってクソ教師が……」

 

「待ちたまえ贅肉ゴリラ君」

 

「誰が贅肉ゴリラだ! 殺すぞインテリ眼鏡!」

 

「どうした死球(しきゅう)、オメーも大脱出ゲームおっ始める気か?」

 

「扉が硬いのは十分分かりました、だから別の方法を試すだけです」

 

 まーたボール取り出しちゃってこの子は。

 野球は屋外スポーツだぞ。

 せめてボールはガムテープで作れや。

 

超越死球(オーバーデッドボール)!」

 

 あー扉ではなく窓を破壊しようて算段ね。

 所詮悪ガキの浅知恵だね。

 

「ボ、ボールが窓ガラスに飲み込まれて……ギャッ!?」

 

「ストラーイク! ゲイムセイ!」

 

 窓ガラスに飲み込まれたボールの代わりにチェリーパイが死球(しきゅう)の顔面に向かって吸い込まれるようにヒットした。偉大なるオレ様の仕掛けたトラップその2よ。わはははは。

 

 扉が硬いのは十分分かりました、だから別の方法を試すだけです(キリッ)

 

 一番硬いのはオメーの頭ん中だろ! バーカ! バーーーーカ!

 

「だーかーらー、出ようとしても無駄だっつったろうよ。扉が駄目なら窓からなら出られるなんて思ったか? 聞き分けも悪けりゃ物分かりも悪いなオメーは」

 

「くっ……」

 

パイまみれになった死球をよそにオレ様はそう吐き捨てた。

 

「それにしてもこの教室すっごくオシャレだと思わないか? あらゆるものが白と黒で構成されたモノクロの空間。やっぱりどんな物事にもテーマって大事だと思うわけよ。作品にしてもインテリアにしてもな。オメーもそう思うだろ? ゴールドルh「ダサい!」……あっそ」

 

 モノクロの良さが分からんとは……これだから育ちの良いだけの悪餓鬼は。

 

「例えば獄実(ごくざね)がさっきぶっ壊した教室の床もオレ様の力を使えば……ほら元通り! この教室の支配者は獰嵐(どうらん)様だ! 創るも壊すも全てオレ様の気分次第ってわけよ! わははははははは!」

 

「へぇ……創るも壊すもお前次第ねぇ……ってことはお前をぶちのめせばこのおかしな教室から出られるってことじゃんよォ」

 

 おっと流石にヒントを与え過ぎたかな?

 でもこれは好都合だ。

 のれんに腕押し。馬の耳に念仏。

 コイツらは元々人の話を聞くような行儀の良い奴らじゃねぇ。

 なんてったって悪役だからな。

 行動で示すのが最前にして最善の指導方法だ。

 

「ヤンキーにしちゃ察しいいな! でもオメーにできるのか? なぁ敗北者さんよォ?」

 

「ッ!!」

 

 青筋立てて至上の怒りを表す獄実(ごくざね)を見てオレ様は静かにほくそ笑む。

 ほぉらこうしてノせればノッてくる。 

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 オレ様はコイツのこういう所が大好きだ。

 

「見下してんじゃねぇぞ! もう誰にもデカい口は叩かせねえ! 青雲中地獄の体育災実行委員長天魔(てんま)獄実(ごくざね)! これより一対一の決闘を申し込むぜ! クソ教師!」

 

「いいだろう、だがオレ様は一応教師な上ここは教室だ。だから体裁を保つためにも決闘ではなく授業としてなら……ノッてやるよ」

 

「何が授業だ! ふざけやがって! 俺を早くここから出せっつってんだろゴラァ!」

 

「まぁ待てよ、せっかく授業としてやるからには褒美を用意しねーとな…………獄実(コイツ)が俺に勝てたらオメーら全員この教室から元の世界に戻してやるよ」

 

「なっ!?」

 

「えっ!? それは本当なの!? また……またシルバルド様に会える!?」

 

 どいつもこいつもゲンキンだねぇ。

 元の世界に帰れると聞いたらすぐ目の色変えやがる。

 

「あぁ、どいつもこいつも地元愛に満ち溢れ過ぎてホームシックになってるようだからな……まったく嘆かわしい話だ。だが安心しな、悪のカリスマ塾教師の名にかけて約束は必ず守る」

 

「よっしゃあ! 行くぞクソ教師ィ!」

 

「待てよまだ……」

 

 オレ様の静止を振り切り獄実は突っ込んで来た。

 ちっ、めんどくせーな。

 

「もう待てるか! オラァ! ぐっ……! なんだこれは……っ!?」

 

 教室の一部を変形させ、モノクロの長い触手状にして獄実を拘束した。

 

「これは授業だと言ったろ? 生徒が勝手に仕切るな」

 

「クソがァ……」

 

「それにこんなせま……慎ましく趣のある教室でデケー図体した全力のオメーが暴れたらどうなる? 自分の身を守れる生徒もいるがそうじゃねえ生徒もいることを忘れるな……見下されたくないならな」

 

「ッ!?」

 

 オレ様のセリフに何か思うことがあったのか獄実は大人しくなった。

 

「よぉし! まずは決闘にはそれに似つかわしい場所を用意しないとな!」

 

「どうするつもりなんだクソ教師?」

 

主役(ヒーロー)には主役(ヒーロー)の……そして悪役(ヒール)には悪役(ヒール)の戦う舞台ってものがあるってことよ! わはははは! わははははははははは!」

 

 オレ様は全身から力を込めて教室を変形させた。

 

 天井床机椅子などあらゆるものが粘土のように混ざり合い、新たな空間を形成していく。

 そして満を辞して出来上がったのはこの天魔獄実(てんまごくざね)という悪役にとって因縁のある場所だった。

 

「こ、ここは……」

 

「見覚えがあるだろう? 青雲中地獄の体育災決勝戦にて主人公陣営とオメーら体育災実行委員一味との直接対決の舞台となった」

 

燃え盛る青い炎の上に敷かれた分厚い鉄板は既に凄まじい熱気を放っているそれはまさに近づくもの全てを根こそぎ焼き尽くす灼熱地獄。

あるいは青雲中学校の者からはこの舞台はこう呼ばれている。

 

「炎獄……闘技場……ッ!? ま、まさか!?」

 

「それをオレ様の能力で再現したものだ。一応いっとくが元の世界に戻ってきたわけじゃないぞ? ぬか喜びしている所悪かったな」

 

「クソ教師ィ……お前一体なんなんだ? なんで俺の過去を知っている?」

 

「わはは……オメーがオレ様に勝てたら教えてやんよ?」

 

「……ぜっってぇぶちのめすゥ!」

 

足から感じる熱気。

そして獄実(ごくざね)から感じる勝利への熱い思い。

 

「いいねぇ……熱いねぇ! これが本当の熱血指導ってか?」

 

…………。

 

……。

 

おーいここ笑うとこだぞー?

 

なんでちょっと冷めてんだよー?

 

まぁいいや、とりあえず。

 

「さぁ……1時限目の授業を始めようか?」

 

最初はお前のための授業だ。

天魔獄実(てんまごくざね)

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