新学期初日。いつもの日常が始まる。
スマートフォンの目覚まし時計を止め、重い身体を起こしてから背伸びをする。
カーテンを開き、テレビをつけ、あさイチのシャワーを浴びる。それから着替えを済ませ、朝食を摂り、歯磨きをしてから時間を確認し、トートバッグを提げた。
全ての電源を落とし、鏡がある洗面台の前に立つ。そして、『爽やかな顔立ち』と言われる唯一の長所を胸に、無難なショートの黒髪に黒色の瞳、表が黒、裏がオレンジ色のフード付き前開きパーカーと、腹部にベルトのようなアクセサリーを身に着けた白色のシャツに、黒色のボトムスという格好で玄関へと向かった。
オレンジ色の靴を履き、玄関扉を開く。すると、射し込む朝日と共にして視界には大都会の景色が広がった。
――――学園都市、『龍明』。天高く伸びたアンテナと、城のようにそびえ立つ巨大な建物を中心にして展開された、約2,000平方キロメートルもの面積を誇る世界有数のメトロポリス。先進的な科学技術によって近未来的な機構が普及した、教育機関と研究機関に特化した人口1,500万人の計画都市である。
大都市『龍明』の起源を語るにおいて、直下の地底に存在する“無限の光源”は欠かせない。地底という環境下で永続的に自然発生する発光体は、その面積の長さを“
場面は戻り、交通機関が行き交う忙しない街中を歩き進む。
目と鼻の先に見えていたバス停とその人だかり。すぐにも屋根無しの二階建てバスがやってきたことから、自分は駆け足で乗車する。
一階の奥側にある席へと腰を下ろし、発進したそれに揺られながら景色を眺める。なんてことのない時間が流れる、至って普通の日常だ。周囲には会社員と思しきスーツ姿の人々も見受けられたが、自分を含め、乗客の9割は学生を占めていたことだろう。
今日は新学期初日とはいえ、結局はいつも通りの一コマを繰り返しているだけに過ぎない。車が走り、電車が止まり、新幹線が発進する。空を見上げればモノレールや飛行機だって機能しているし、ランドマークである雲を穿つアンテナを中心にして、結界のように透き通ったドーム状の防御壁が展開されている様子だってうかがえる。
そう、これは普段通りの日常でしかない。これが自分達にとっての常識であり、概念でもある。故に、“これから起こる出来事”も、日常の一環という認識に過ぎなかった。
――――バスの急停車によって全員が前のめりに揺れる。共にして一部の人々が窓を開けるなりして前方を覗き込んでいく中、次にも道路のど真ん中において“ドンパチ”が始まった。
「警察だ! 動くな! 直ちに“能力”を解除し、大人しく投降せよ!」
「なぁ~にが『動くな』だぁ?? “能力”も持たねぇ警察風情が、このオレ様になめた口利いてんじゃねぇぞ!!」
「警告を無視するのであれば、こちらも容赦はできない! ……容疑者への発砲を許可する! 撃て!!」
同時にして響き渡ったピストルの音。三名の警察官が、道路で暴れる男に発砲したようだ。
しかし、男は“能力”を最大限に発揮する。
彼の背後からは、“化身”が現れた。それは成人男性ほどの体長であり、セミの抜け殻のような頭部と胴体に、カマキリの鎌のような6本の足を持つ外見をしている。
火花のようにバチバチと弾ける光を放ちながら、男の身体を足で覆っていく。直後にも無数の弾丸が男に到達するものの、それは男の身体を貫通し、“何事もなかったかのように”通り抜けた。
着弾した形跡がうかがえない、無傷の男。音も空を切るよう虚しく響き、警察は構えを解いて無線を手に取っていく。
その間にも男は、背後から“化身”を出した状態で自慢げに喋り出したものだ。
「ハッハーーーッ!!! 正義ヅラしておいてこの有様じゃあ警察のメンツもクソもねぇなぁ!! 滑稽で笑えるぜ!!」
「容疑者に通常の弾丸が通用しない。“能力者”全員に通ずる弱点の『電撃』が必要だ。至急、電撃銃の応援を求む」
「オレ様の“能力”を侮ってもらっちゃあ困るのよ。んまぁ、権力をふりかざすだけしか能がねぇ社会のお荷物共に敬意を表して、今回だけ特別にヒントを教えてやるぜ。オレ様の“能力”はなぁ、『当たり判定を消す』のさ。今、地面に足を着けている“足元以外の当たり判定を消した”。だから、弾丸はオレ様に当たらず、そのまま通り抜けた!」
あちゃー、厄介な“異能力者”が出てきたなぁ……。
バスの中、自分はスマートフォンを確認する。そこで時間を確かめていると、直にも車内アナウンスが流れ始めた。
『直ちに車外への避難をお願いします。慌てず、落ち着いてお降りください。また、付近の交通機関による混乱も予想できるため、徒歩で迂回していただけますと幸いです』
ドンパチやっている前方とは裏腹に、車内では「またかよ~」という空気が流れていた。
うんざりとした乗客の様子と共にバスの扉が開き、皆はぞろぞろとバスから降りていく。自分もその流れに乗ってバスを後にすると、襲撃の影響により一気に混雑し始めた歩道で、人波を掻き分けるように進み始めたものだ。
野次馬も集まり出し、スマートフォンを掲げて前方を撮影する者までいる。そして、今も前方で繰り広げられる“能力”に対して「スゲー」や「いいな~」などと聞こえてくる声を横目に、自分は通行人で溢れ返る路地を通って目的地に向かった。
本当に、新学期初日からとんだ災難だ。