「本当に何もなかった…」
「楽できて良かったと思え傭兵」
ラプラスの言った平和というのは嘘ではないらしく、そのアサルトライフルとパイルバンカーに出番はなかった。というのも
(これだけ濃厚な殺気をばらまいてりゃ命知らずすら寄ってこないわけだ。傭兵、想像以上だ。戦闘が無くてどこか残念そうなことは黙っておこう)
久しぶりの任務ということでウキウキ半分警戒半分でカバー株式会社へ向かったロニーだが、誰も襲ってきてくれないことに残念さを隠せない。脳内レーダーにすら反応がなかった。
「襲ってきてくれれば戦えるのに」
「おい傭兵、その物騒極まりない思考は治すか引っ込めておけ。この星じゃ不要だ」
「…了解」
どこぞの第一隊長と似たような思考だが、好きこそ物の上手なれと言うように戦いが好きだからこそ、誰にも負けない強さを得た。ロニーにとって戦いとは生きるための術であり、生き甲斐であった。
「それと、可能ならで良いんだが殺しは控えてくれ。あまり良い事ではない」
「手加減は苦手だ」
「可能ならと言っただろ?」
「…了解」
何事もなくやって来たのはホロライブを運営するカバー株式会社の本社ビル。規模が規模なだけに立派な佇まいだが
「ビルの隣のは?」
「あー、あれは…」
立派なビルの隣にあったのは古びた二階建ての小さな事務所。なにやら角が二本あしらわれたエンブレムらしきものが飾ってある。
「元カバー株式会社の事務所だ。今の規模になるまではあそこが本社だった」
「今は?」
「今はな…」
明らかに人の気配、それも戦闘職の気配、警戒するロニーだったが
「カバー株式会社の警備担当の事務所だ。いかんせん人気商売だからストーカーとかあってな。メンバーは皆自衛できる腕っぷしはあるが手加減が苦手なメンバーが多くて、そういった事は他の者にやってもらうことにしてるのさ」
「なるほど」
「間違っても喧嘩は売るなよ?あそこの組員は140万人を越えてるからな。しかもまだ微増してる。おまけに緊急時には本職のヤの付く自由人の増援付きさ」
「…喧嘩はやめておく」
「訂正だ。あそことの一切の戦闘行為及びそれに準ずる行為を禁止する」
「了…解」
不承不承ではあるが雇い主の命令は絶対だ。戦闘モードを解除し、後ろ髪を引かれながらロニーとラプラスは本社へと赴いた。
★★★
「じゃあ吾輩は色々お仕事があるからロニーは自由にしててくれ。他のホロメンへ挨拶回りをしておくと今後役に立つだろうな」
「分かった」
収録にレッスンと多忙の身であるラプラスはロニーと別れてお仕事へ。一人残されたロニーは手持ち無沙汰でただ突っ立っていた。本社内ということで荒事は起こらない。加えてロニーは今まで自発的に誰かに話しかけた経験がない。何をしていいか分からないのだ。そんなロニーに声を掛けたのが
「お困りのようだね~」
「あなたは…ロボ子さん!?」
「はろ~ぼ~、ロボ子だよ~」
「その節は大変お世話になりました」
「気にしなくていいよ~。見た感じ快適そうで良かった。困ってるみたいだけど、さては話し掛け方が分からないな?」
「ご名答です」
「これでもボクは皆の先輩だからね、ボクと一緒にここの紹介も兼ねて挨拶回りいこっか?」
「ありがとうございます」
ロボ子さんに案内された社内はそれはそれは凄いものだった。莫大な資金を掛けて作り上げられた立派なスタジオ、どれ程叫んでも声が漏れない防音室、音楽専用の収録ブース、外で見た小さな事務所から始まった事業がここまで成長したのかと驚き、感心するロニー。それらの最後に訪れたのが
「ここが皆の休憩室。ここにいる皆は今フリーだから思う存分お話をすると良いよ~。最初だけはボクもお供しよう」
「…がんばる」
「中に入ったらまずは挨拶、自己紹介で自分がどんな存在なのかを喋ろうね。素性が知れない相手とはお話したくないでしょ?」
「それはそう」
ステルス機体ゴーストと戦闘をしたとき以上に緊張しながらドアを潜る。そこにいたのは数名のホロライブメンバー、誰も彼も見た目から分かる個性の強さ、そんな彼女たちがまず向けたのは
(なに?これは…好奇心?少なくとも敵意は持っていないみたい。ルビコンじゃ初対面の相手とは武器を突き付けあって話をするというのに)
ルビコンが物騒すぎるのか、はたまた地球が平和すぎるのか、そのギャップに戸惑いつつもロボ子さんのアドバイスを実行する。
「先日からアシスト要員としてholoXでお世話になっているロニーといいます。よろしくお願いします」
ホロメンにはholoXに新しいスタッフが加入したという通知があったためか、その挨拶を聞いて
「君が噂のholoXの新人かー、こんこんきーつね!ホロライブ1期生の白上フブキです!」
「こんなきり~、ホロライブ2期生、百鬼あやめだ余~」
「こんみぉーん、ホロライブゲーマーズの大神ミオだよ~」
耳や角が生えていることからも純粋な人間ではない事が明らかな三人が挨拶を返す。
「ちょうどこの三人でユニットを組んでてね、挨拶も済んだことだしボクはこの辺でおさらばするよ。後は頑張ってね~。フブちゃん、あやめ、ミオ、ロニーは話ベタだから助けてあげてね~」
「分かりました!ロボ子先輩!」
ロニーにとって幸いだったのは、やはり最初の出会いにロボ子さんがいたことだろう。これからラプラスのお仕事が終わるまで、ロニーは様々なホロメンとお話をすることとなる。
脳内レーダー:強化人間が持つ能力。脳内にレーダーを仕込むことで、レーダーを装備せずとも敵味方の区別が可能となる。UIはグリッド上に高低差を色分けで表示されるものや、視界の下に方角と彼我の高低差を矢印で表示されるシンプルなものなど、強化人間の世代によって異なる。
指定○○団○○会:140万人を越える組員を抱える、カバー株式会社専属警備会社。三代目会長の残した「500年後にまた来るぜ!」という言葉を胸に今日も業務に励んでいる。なお彼らですら対処できない荒事が起きた際には、どこからともなく強面兄貴やパンチパーマの兄貴やゴリラ天使が現れるらしい。今までの警備成功率は驚異の100%誇る。まさにタレントを守る絶対防御。