あ、更新が一気に遅くなったのは、VRChatにハマったり、ホロライブの過去のアーカイブとか切り抜きを見たりしてるからです。何で数年前から見なかったのやら(伝説のドラゴンを見ながら)
新しい体を手に入れた621だが、当の本人はあまり喜びなどを感じてないように見える。何せ今までも機械の補助があれば自由に生活できていた。それでもholoXの皆は、621が唯一の望みである普通の人生を、今この瞬間から歩み始めたことに喜ぶと共に、あらゆることに無関心な621の興味を引くべく様々なアプローチを図った。
「傭兵、体の具合はどうだ?何かやってみたいことはあるか?」
「特にない」
「そう言わずに…そうだ!食事とか今までやったことないだろ?」
「この体も食事は不要だ。エネルギーもコーラルジェネレーターが供給している」
「でも食事は可能だろ?一般的に普通と言われる生活に食事は付き物だ!ルイに頼めば大抵のものは作ってくれるぞ!な!」
「ラプ、私にもできないことはあるんだよ?」
「そうだな…」
621の記憶に食事に関する記憶、知識はほとんどない。ウォルターも食事は一人で行っていたし、他の人間との関わりがほとんどなかったために、食べたいものと言われても思い浮かばない。そもそもどんな食べ物があるのかも想像がつかない。そんな中、唯一思い浮かんだ食べ物と言えば
「味気ないレーションを食い、泥水のようなフィーカを啜る。うんざりするが、それこそが人間だ」
「?」
「以前、とある任務で戦った相手が言っていた。そのときは決着が付く前にお互いに撤退したが」
その名はアーキバス・コーポレーションの強化人間部隊、ヴェスパーの第3隊長オキーフ。ろくでもない人間が多すぎるルビコンにおいて、数少ない(地球視点で)常識人だ。
「ルイ、フィーカって?」
「一般的にはスウェーデン語で甘いものとコーヒーを飲んで休憩すること。カフェの語源とも言われてる。ただ、今の話を聞いた限りだと休憩というより不味いコーヒーそのものを指してるみたい」
「自分もよく分からない。だが食べ物の記憶と言えばこれくらいだ。可能か?」
「どうしたらいいかな~。作ろうと思えば美味しいのを作れるけど、多分その人が言ったレーションとフィーカはお世辞にも美味しいとは言えないものだろうし…」
恐らく、ただ食べ物の話をしたというより、何か人間としてのあり方を伝えたかったのだと考えた鷹嶺ルイ。そんな彼女が作ったのは
「なぁ、ルイ。我輩の知ってるコーヒーの香りじゃないんだが。というかその謎の塊は?」
「そりゃあ色々混ぜ物をしてかさ増ししたコーヒーだからね。レーションはholoXのアジトにずっと置いてあった非常用のやつ。どうせ食べる機会は来ないから」
「何でそんなものを傭兵に食わせるんだ?あいつにとって生まれて始めての食事だぞ?」
「多分ね、621にとってはこの食事が合ってるんじゃないかな。色んな意味で」
鷹嶺ルイがレーションとフィーカを持ってくる。それを受け取った621は僅かに顔をしかめた。
「これが匂いというものか。どんな匂いが良い匂いと定義されるのか分からない。だが、これが良い匂いでないことは分かる」
レーションを一口、しかめっ面は変わらない。
フィーカを一口、苦い泥水の味に更に顔が歪む。
それらを飲み込んだ621は
「…不味い」
言葉とは裏腹にしかめっ面の顔は泣きっ面に。どこか懐かしむ顔で
「ああ、うんざりする。これは」
そう呟いた621の顔はどこか爽やかな顔へ変わっていた。
★★★
差し出されたフィーカを嗅いだ621
(ひどい匂いだ。匂いの定義は分からない。でも良い匂いでないことは分かる)
そしてフィーカを一口飲んだ621は
(不味い、顔が歪むのが分かる。ああ、こういうことか)
脳裏に過るのは、稀にガレージへ湯気の立つ黒い汁の入ったカップ、恐らくフィーカを片手にやってくるウォルター。そういうときは決まって思い詰めてどうしようもなくなったとき。気分転換のためかガレージの柵に寄りかかってフィーカを飲む。飲む度に顔をしかめるが、暫く経つと少し顔色を良くして去っていく。そんな記憶を思い出す。
(ウォルターも飲んでいたのだろうか)
次にレーションへ手を伸ばす。薄茶色のそれは食欲を誘う色とは言い難い。
(無味だ。フィーカは苦い味があったがこれは無味だ。感触だけはある)
だが確実に腹に貯まっていく感覚。もそもそとした、フィーカと混ざって名状しがたい味が広がる。それらをようやく飲み込めば
(なるほど、確かにこれは、うんざりする。だが…)
控えめに言って悪い気分。だが吐き出す気にはなれず、それどころかどこか懐かしい感覚に襲われる。
(ルビコンでも、こんなだったな。出撃すればうんざりすることしかない)
会えば悪態のG5、会えば嫌味の第2隊長、会えば殺し合いのMT共
(だが、不思議と悪くない気がする。悪いことばかりだったのに)
湧き出る様々な思い出。他愛もない会話、holoXや社長にも言っていない雑多な思い出。
(うんざりするが、それこそが人間か。正しいことを言っていたんだな)
確かに嫌な記憶は残りやすい。だが良い記憶が残りにくいわけではない。むしろ嫌な記憶があるからこそ良い記憶が引き立つ。
(感動?涙?よく分からない。だが、悪くないな)
一通り感傷に浸る621。そして
(これまでは振り返った。ならば、これからどうするか)
そう考えたときに浮かんだ言葉があった。621がウォルターの次くらいにはお世話になった人物の口癖のようなもの。
(生きているなら笑え…か。ならばこれからは…)
621は決断した。
レイヴンの火ルートでもアーキバスと戦う機会は何度かあるので、その時にオキーフと戦っているという設定です。あの人はどこでもああいうこと言ってそうですよね。