成人してお酒を嗜むようになってからというもの、玲さんはお酒に興味が出てきたように見える。
別にたくさん飲むわけでもなく、毎日飲むわけでもない。勿論、蟒蛇なので泥酔することもない。
ただ、たまに気になるお酒を見つけると購入し、それに合いそうな料理を用意して楽しむ。
それが、玲さんの好きなお酒の嗜み方だ。
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「今日は大根が安いみたいですよ、楽郎くん」
「お、ほんとだ。買っておこうか」
俺はずしりと重たい大根をカゴに入れ、ガラガラとカートを進める。
「夜ご飯は何にしましょうか・・・?」
「そうだなぁ・・・あ、大根安かったし、おでんとか?」
「おでん!いいですね・・・最近寒くなって来ましたし!!!」
「よし、決まり!時に玲さん、おでんの具は何がお好みで?」
おでんって、結構家庭によって入ってる具材違ったりするんだよな。じゃがいもが入ったりするところもあるらしいし。ちなみに
「やっぱり大根でしょうか・・・あ、でもはんぺんや餅巾着も好きですよ」
「ド定番だけど、美味いよね大根」
流石玲さん、定番は外さないといったところか。
大根はもうカゴに入っているからいいとして、餅巾着、焼き豆腐も追加でカゴに突っ込む。
「玲さーん、卵ってまだ残ってたっけ?」
「あることはあるんですけど、どうせ使いますし買っていきましょう」
「オッケー」
卵も追加っと。玲さんは冷蔵庫の在庫管理能力が高くて助かるぜ・・・。一家に1人玲さんって感じだな、いやそれは困るな。俺が困る。
「どうかしました?」
「いや、玲さんは家事能力も高くて助かるなーと。ほんといい嫁さ、げふん」
「・・・・・・?」
危ない危ない、つい本音が。
このコマンドはうっかり耳に入ったりしたら確定バグで大幅な
「練り物は帰りに専門店で買っていこうか。種類も多そうだしさ」
「そうしましょう、いい練り物だと良い出汁が出そうです・・・なら、
「お、おう、
玲さんはなぜかやる気に満ちているが「アレ」ってなんだ・・・?
反射的に返事したけど、まぁ、玲さんが言うなら変なもんじゃないだろうし、いいか。
帰り道でさらにはんぺんなど各種練り物を追加して、すっかり重くなった買い物袋を2人で手分けして持ち寒空の下、家路へ急ぐのであった。
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「さて、取りかかりましょうね・・・!」
「具材多いと下ごしらえ時間かかるし、一緒にやっちゃおうか」
出汁は時間のある時にまとめて引いておいたものがあるので、それを使うとして。
手際よく大根の皮を剥いて面取りをし、十字に切り込みを入れていた玲さんの手がふと止まる。
「大根は米のとぎ汁で下茹でした方が臭みが出ないですが・・そのためにご飯炊くのは・・・」
「どしたの、玲さん。米びつがどうかした?」
首を傾げて米びつをガン見するとか新手のバグだな。
「いえ、
あぁ、そういうことね。
確かにおでんはご飯のおかずにならないなんて派閥も存在するくらいだし、せっかく炊いても手をつけず冷凍してしまうくらいなら、そこは妥協しても良いんじゃないかってことね。
「一合だけ炊こうか。多分、俺食べると思うし」
俺は手際よく米を研いで研ぎ汁を玲さんへ渡す。米は浸水させておく。
研ぎ汁で大根を下茹でし、小鍋で卵を茹でる。さらに薬缶でお湯を沸かす。
「楽郎くん、茹で上がった大根と卵の処理をお願いできますか?」
「任せろ〜!じゃ、そろそろ薬缶のお湯が沸きそうだから玲さんは油抜きやってもらっても良いかな?」
茹で上がった大根は水にさらし粗熱を取り、ゆで卵は殻を剥いて出し汁につけておく。
同時進行で玲さんが餅巾着や練り物の油抜きを済ませていく。
「はんぺんと焼き豆腐は切るだけだし・・・これで下ごしらえ終わりかな?」
「手伝ってもらったので早く終わりましたね、ありがとうございます!!」
「じゃ、俺ちょっとやりたいことあるから、あとは玲さんに任せちゃっていい?」
「任されました・・・っ!!」
にっこりと笑って玲さんが答える。
なんか玲さんも他に準備?があるらしいので、俺は邪魔にならないようにキッチンから移動する。
さて、確かアレは自室のクローゼットの中に仕舞い込んだはずだったな・・・。
「煮込んでる間に出しちまうかね」
出来上がるまでの時間で俺は最高の舞台をセッティングすることにした。
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「なんかバタバタしてると思ったら、炬燵出したんですね」
「どうせなら最高の状態でと思って」
熱々のおでんと炬燵と玲さん、うん完璧だ。
「それじゃ、冷めないうちに食べましょうか」
二人で炬燵に入って、土鍋の蓋を開けるといい出汁の匂いが部屋に広がった。
「大根うめえ!!」
「練り物も専門店で買っただけはありますね・・・お出汁美味しい・・・」
下ごしらえをしっかりしただけあって、どれも美味い。
しばし無言で堪能していたが、何かに気づいた玲さんが「そろそろ、頃合い・・でしょうか?」と言って、スッと立ち上がってパタパタとキッチンへ向かう。
戻ってきた玲さんの手には見慣れない取手のついた銀色の器とぐい呑みが二つ。
ふわりと浮かんだ湯気と共に日本酒独特の香りが漂ってくる。
「ん・・・?これ、熱燗?」
「温度的にはぬる燗、ですね」
「さっき言ってた「アレ」って、この器のこと?」
「はい・・・ちろり、って言うんですけど。お酒を直接湯煎して温めることができるんです。徳利は徳利で趣があるんですけど、洗ったりが面倒ですし。その点ちろりは洗うのも簡単で、しかもムラがなく温まるので美味しい燗酒が作れるんです・・・!」
「お、おう・・・!」
お酒のことになると少しテンションが上がって早口になる玲さんは普段の様子とは少し違って面白い。
趣味:
「楽郎くんもどうぞ一献」
「あぁ、ありがと。はい、玲さんも」
お互いのぐい呑みに人肌より少し温かい日本酒が注がれる。
「乾杯」
ひとくち含むと米の香りとまろやかさが口内に広がった。
「おでんと相性抜群じゃん、これ・・・・」
「
(玲さんがほろ酔いでドヤ顔するとか普段じゃまず見られない光景だな・・・)
すっかり酒飲みの思考になり〈手酌酒・晩酌スタイル〉へと移行した玲さんは杯を傾けるたび、ふわふわ度が増していて可愛さにバフがかかっている。
とりあえず、ありがとう酒の神様と心の中でそっと拝んでおく。眼福、眼福。
「さて、そろそろ腹に溜まるモンが欲しくなってきたな・・・」
「ご飯、炊けてますよ?」
「ナイス玲さん」
茶碗を手に戻ってきた俺に玲さんがふわふわした視線を向ける。
「楽郎くんはおでんはご飯のおかずになるタイプなんです?」
「んー?特にどっちでもないけど、前にテレビかなんかで見たやつを試してみようと思ってさ」
「どうするんです?」
「こうするのさ」
土鍋から出汁と豆腐をすくってかけた後、七味を軽く振りかける。
「出汁茶漬け・・・みたいなものですか?」
「とうめしって言って、割とメジャーな〆料理らしいよ。俺が見たやつはもっと味付けが濃いめのやつだったけど」
「初めて見ました・・・!」
まぁ、確かにこの手の食べ方は斎賀家ではしないだろうな・・・と思いつつ、豆腐を崩しながら口に運ぶ。あ、これ美味いやつだ。濃い出汁でも良いんだろうけど、多分こっちの方がしつこくないので酒にも合う気がする。
「なかなかイケるよ。玲さんも食べてみる?」
お茶漬け・雑炊までが許されるラインか?と予測しつつ、一応勧めてみる。
差し出した茶碗を受け取り、一口食べた玲さんが動きを止める。
「・・・口に合わなか」
「これ美味しい、です!!」
お、おう・・・予想外に食い気味にきたな。
「楽郎くんはすごいですね・・・私はこういう食べ方は思いつかないので、いつも驚かされてばかりで、正直羨ましいというか・・・」
なんか最後の方、ゴニョゴニョしてたけどまぁ言わんとしてることはわかった。
「それは俺もなんですケド?」
「へ?」
「俺だって温めた酒は全部熱燗って言うと思ってたし、ちろり?だっけ?そんな専用の器があるなんてこと知らなかったし。お互い知らないことって沢山あるわけでさ」
「確かに、そうですね・・・」
「そういう積み重ねが楽しいんじゃん?例えば・・・」
我ながら恥ずかしいこと口にしてんな、と思うが良い感じにアルコールが回ってるらしく、素面では出ないような言葉が口をついて出た。
「酔ってほっぺた真っ赤になった玲さんは可愛いな、とかさ」
「かわ・・・っ!!!」
ほっぺたどころか耳まで真っ赤になった顔をぱたぱたと仰ぎながら、慌てる玲さんだったが、急に俯いてまたゴニョゴニョと独りごちる。
「・・・・・・・誰のせいだと思ってるんですか」
「ちょ!!まって、玲、さん・・・!?」
次の瞬間、俺の足に玲さんの足が絡まる。
もしもし玲さん??
「
・・・・・玲さん、
暖かな炬燵の中で始まるほろ酔いの男女二人の攻防戦。
夜はまだ始まったばかり。
玲さんは蟒蛇なのでサークルの飲み会とかでは普段のままですが、楽郎と飲む時は隙だらけで場酔いするので、ある程度は酩酊する模様。
ちなみに記憶がなくなるタイプではなくて、理性のリミッターが緩くなるタイプの酩酊で最終的ににっこり笑って楽郎を押し倒す。
おでんと炬燵とぬる燗て最強の組み合わせだと思うんですよね・・・!!
規約の関係で実在の銘柄を出せないのが口惜しい。埼玉の酒蔵の日本酒です。冷でも燗でも美味しく呑めます。
「出汁で酒が飲める」は作者の口癖です。塩でもいい。
ちろりはまだ持ってないんですが、いつか錫製のやつが欲しい。