コメディ寄りにしたので楽玲成分は薄めかもしれない。
2月14日
世間一般でいうバレンタインというイベント開催日である。
高校の頃はやたらと義理チョコを貰うくらいのイベントだったが、大学進学後、俺たちのバレンタイン事情は一変した。
「楽郎くん、これは一体・・・?」
「玲さんこそ、その馬鹿でかい紙袋は?」
顔を見合わせて苦笑い。
「チョコレート、デスカネ・・・」
「・・・・・チョコレート、ですね」
俺と玲さんは交際していることを隠している訳ではないが、積極的に触れ回ってる訳でもない。そもそも学部が違うため、それぞれ仲の良い友人が知っている程度だ。
そんなわけで事情を知らない人が増えた結果が
明らかに義理とわかるものから、ちょっと引くくらいの圧を感じるものまで網羅した色とりどりのラッピングが施された箱が大小合わせておそらく50個近くはあるだろうか。
まぁ、アレだ。玲さんが貰うのはわかる。可愛いから仕方ない。俺の周りでも噂になるくらいは人気があるのは知ってる。そして俺はその度に「だが玲さんは俺のだ」と心の中でマウントをとっている。でもこんなに貰うなら今度から口に出すことも検討する。
「玲さんはともかく・・・」
「楽郎くん人気あるんですよ・・・その、女子に・・・」
「そうなの???」
「私の周りで何度か噂を耳にしたこと、ありますし・・・高校の時もたくさん貰ってましたし、その、当然というか、予想通りの結果と言いますか・・・」
「高校の時から・・・?全然自覚なかったわ・・・クソゲニウム恐るべし」
何を今更なことを言ってるんだと思いつつ、彼の人気はこの無自覚さ故であることも玲は知っている。
楽郎の脳内はその
「ちょっとした疑問があるんだけど」
「はい?」
「玲さんって俺のこと高校の時から好きだったんだよね?」
「・・・そう、ですけど?」
本当は高校どころか中学の時からですけど!とはいえずに玲は小首を傾げる。
「高校の時、俺、玲さんからのチョコ貰ってないね・・・?」
「うぐう」
なにそのうめき声。
「それには深く暗い事情がありまして・・・
玲の脳裏にある光景が浮かぶ。
溶かしては固め、砕いては溶かし、些か重すぎる
「なんか、ごめん玲さん。この話題は終わりにしよう」
「
俺は速やかに開きかけたパンドラの箱をそっと閉じた。
最後に希望は出てくるかも知れないが、それまで玲さんが耐えられる保証がない。誰だって黒歴史の一つや二つあるもんだ、なに?μ-skYの子守唄?やめろそれは俺に効く。その箱からは希望は出てこねえよ!
「話を戻すけど、どうしようかコレ・・・?」
食べるにしても量が多すぎる。
どうしたものかと二人して思案していたところに鳴り響くインターホン。
「はい、ひづと」
「ヤッホーーー!サンラクくん玲ちゃん久しぶりーー!!みんな大好きペンシルゴン様だよ!!」
「うっせえ帰れ」
秒で答えてやったが、そんなことで引くような相手ではなかった。
「ひっどいなーーー!それに来たのは私だけじゃないし。ね、モモちゃーん!」
「玄関先でうるさいぞ、永遠。他所様の迷惑になるだろうが」
小さなディスプレイに映る一般的に言うところの美女二人。
ただし片方は綺麗目カジュアルでコーディネートしているが、もう片方のコートの隙間から見えるそれはジャージであった。仮にも人気モデルと一緒だってのにブレないな百さん。
「百姉さん!?」
「百さんもいるのかよ、それを早く言えこの馬鹿鉛筆」
慌てて玄関のドアを開けて中へと招き入れる。
「二人揃ってどうしたんですか?」
「玲ちゃん、今日が何の日かわかってるよね〜?」
「バレンタイン、ですね」
「大正解!でね、多分二人のことだから結構な数のチョコを貰ったんじゃないかなと思ったわけ」
いちいち動作がうるさいなこの鉛筆。
多分、同じことを思ってたのであろう百さんが「うるさいぞ永遠」とツッコミを入れている。
「それでだな、経験上この時期のチョコの中には大体二割くらい『ヤバいもの』が混ざり込んでることがあってな・・・お前達に害を及ぼさないよう検分しに来たというわけだ」
「私とモモちゃん、この手の鑑定については自信あるんだよね!」
そんな自信いらねえよ、一体どんなもん貰ったんだあんたら。怖いから聞かないけど。
「とか何とか言ってるけど、ペンシルゴンも百さんも面白半分で来ただろ・・・・」
「それは否定しない!!」
「そこは否定した方がいいだろう、永遠」
だめだ。このままだと鉛筆と百さんの漫才がずっと続くことになってしまう。チョコの鑑定とやらをさっさとやらせて、早々にお帰りいただくことにしよう。
「まぁ、いいや。貰ったチョコはそこにあるから俺が貰った分は自由にみてくれて構わない。玲さんもそれで問題なさそう?」
「あ、はい。問題ないです」
そう言った途端、面白ネタに飢えてる女二人はあーでもない、こーでもないとチョコの山に埋もれて盛り上がっている。
「こりゃしばらくかかりそうだな・・・まぁ、でもこうやってみると鉛筆と百さんて仲良いし、二人でつるんでる時はなんていうか、幼いというか学生ぽいところあるよね」
「百姉さんと天音さんは中学の頃からの腐れ縁、と聞いています」
「道理で」
やってることは全くもって微笑ましくないけど、悪巧みの矛先が俺たちに向いていないのは正直助かる。
「とりあえずあの二人はほっといて、お茶でも淹れてくるわ」
「あ、私も手伝います」
「じゃあ、バレンタインぽい感じでココアとか・・・」
「「ホットチョコレート」」
俺と玲さんの声が見事にユニゾンを奏でた。
「・・・おっとぉ」
「・・・ふふっ」
あまりに綺麗に揃った言葉がなんかおかしくて、二人して顔を見合わせて笑う。
一緒に暮らしてると思考や言動が似てくるとは言うけれど、こういうことを言うんだろうか。
「でも材料あるの?」
「今日のために焼いたガトーショコラの材料が残ってるので大丈夫ですよ」
あぁ、昨日からほんのりと甘い香りが部屋に漂ってるのはそのせいか。
「俺、作り方わかんないから何したらいいかな?」
「じゃあ、チョコレートを適当に刻んでくれますか?」
「おっけ」
俺は玲さんから渡された
玲さんはというと小鍋で牛乳と生クリームを温めて、そこにココアと砂糖を入れて混ぜていた。それもうココアじゃん。もう飲めるやつじゃん。
「玲さん、チョコ刻んだよ」
「はーい」
小鍋に刻んだチョコレートを加えてよく混ぜた後、温め直せば出来上がりらしい。所要時間たった5分足らずでホットチョコレートが出来上がった。
「こんなすぐ出来るとは思わなかった」
「材料さえあれば実は簡単なんですよ・・・あ!」
4人分のカップを用意しながら、玲さんが何かを思い出したのか棚からゴソゴソと幾つか小瓶を取り出し、一緒にトレイに乗せてリビングに戻っていく。
「百姉さん、天音さん、お茶が入ったのでひと休みしたらいかがです?」
「いい匂い〜!玲ちゃんこれホットチョコレート?」
「はい。お二人の分もありますので、どうぞ。ブランデーとオレンジリキュール、あとラム酒もあるので、お好みで入れてくださいね」
「そうか、もう二人とも成人してるんだったな。あの玲がもう酒を嗜む歳か」
目を細めて感慨深い顔をしながら百さんがブランデーをガバガバ注いでいる。言動が一致してないぞ百さん・・と思ったら横の鉛筆も「やだなぁモモちゃん、ババくさいよそれ」と言いながらラム酒をガバガバ注いでた。この残念酒豪コンビめ。
「二人共さぁ、こういうのはスプーン1杯くらいでいいもんなのでは?」
「ま、まぁ、好みですから・・・」
明らかに突っ込むと面倒なことになりそうだと判断した玲さんがやんわりと話題を変えようとしたので、俺もそれに乗っかることにした。酒の入ったあの二人に絡まれるとか、そんな面倒なこと御免被る。
「そういえば、ヤバいものってあったの?」
「あったよ」
検分の結果、何個か明らかにヤバめのブツがあり、それらは大変申し訳ないが闇に葬らせていただいた。安らかに眠れ。というか二割までいかないにしても普通に呪いの品が紛れ混んでた事実が嫌だわ。そして、なんでそんなに嬉しそうなんだこの文房具。
「サンラクくん宛の方が仕掛けが細かいあたり、なんか念を感じたね」
「悪い予感しかしないから、詳細聞くのはやめとくわ」
「そうだぞ永遠、せっかくのホットチョコレートが不味くなる」
「百姉さんのはすでにただのブランデーなのでは・・・?」
「そんなことはないぞ、ちゃんとチョコの味もする」
「アッハー!玲ちゃん上手いこと言う〜!!お酒も入って程よくお腹も空いたからサンラクくん晩御飯も頼むよー!」
「作るの俺と玲さんじゃねえかよ!!」
結局、酒の回ったペンシルゴンと百さんに押し切られ、晩飯までご馳走する羽目になった。
勿論、玲さん特製のガトーショコラも食われた。
「全く少しは加減しろよ・・・ちくしょうめ」
来年は家に来ても絶対に追い返そうと決意する俺であった。
ヤバめのチョコの詳細
<玲宛>
髪の毛っぽく見えるけどなんかきっと違う謎の毛入り(複数個)
チョコ自体には問題ないが同封されてた手紙がアウト
<楽郎宛>
ライオットブラッド・リボルブランタン+α入り。明らかに暴徒作
チロルチョコに擬態した何か(1回外装を剥がして包み直した形跡がある)
ちなみに玲の想像以上に楽郎がガトーショコラを食べられたことにショックを受けていたため、後日改めて焼き直しとなりました、とさ。