煌々たるネオン光を見下ろしながら、高層ビル上でアグラ・メディテーションする影あり。我々は、このカンムスの名をよく知っている。彼女の名は、カンムスを殺す者――カンムスレイヤー。全カンムス打倒の執念を胸に、今もこうしてカラテを回復し、次なるイクサに備えているのだ。
強風に煽られ、赤黒いマフラーがぶわりとたなびいた。その時である!「イヤーッ!」BLAM! カッと立ち上がったカンムスレイヤーは、前方へ向けておもむろに機銃を発砲した! すると、カンムスレイヤーの目前数メートルの地点で眩い火花が散り、迫っていたステルス・ギョライが爆発四散したではないか! ワザマエ!
アンブッシュを回避したカンムスレイヤーはしかし、何事もなかったかのように口を開く。「そこにいるのは分かっておる。姿を現し、アイサツせよ」数秒後、カンムスレイヤーを囲むようにして三人のカンムスが近くの高層ビル屋上へと降り立った。
「ふん、アンブッシュを見切るだけのカラテはあるようだな。まったく報告通りよ」白い帽子をかぶったカンムスが云う。「なのです。報告通り、カラテばかり上手な根無し草なのです」ギョライバットを手にしたカンムスが続く。「故に、我らには勝てぬ定めよ。特に、我がジツにとってすれば、貴様のようなサンシタなど既に術中」右腕のカタパルト艤装が特徴的なカンムスが締めた。
カンムスレイヤーの瞳に、地獄めいた復讐の炎が燃え上がる。カンムスレイヤーは突如として現れた三人のカンムスを見渡し、威風堂々とアイサツした。「ドーモ、はじめまして……カンムスレイヤーです」
復讐相手がアイサツを返す。まずは帽子のカンムスから、「ドーモ、カンムスレイヤー=サン、ヴェールヌイです」「プラズマです」ギョライバットのカンムスが続き、「リバーインサイドです」最後にカタパルト艤装のカンムスが締めくくった。
明らかに、違う。これまでの相手とはカラテの格がアイサツの段階からして違う。個々のカラテはともかくとして、三人の並び立つ姿に、カンムスレイヤーは自らのカンムス第六感に従ってカラテ警戒を強めた。
「ふふふっ、カンムスレイヤー=サン。知恵の足りぬ貴様に、ひとつ良い事を教えてやろう」カンムスレイヤーに対する三人が各々カラテを構えた。「一本の矢は折れやすいが、三本の矢は、実際折れにくい。古事記にもそう書かれている」
次の瞬間! カンムスレイヤーは視界の端に僅かな違和感を感じ取り咄嗟に側転回避! 見れば先程まで彼女のいた地点にステルス・ギョライが撃ち込まれていた! なんたる早業! カンムスレイヤーはギョライの方を見もせず機銃発射! KABOOOM! 放たれた銃弾はギョライに見事命中! タツジン!
「ウラーッ!」「イヤーッ!」爆炎の影から猛禽の如く飛び出てくる二つの影。ヴェールヌイとプラズマだ。両者はより高く飛んで上方から機銃掃射! BRATATATATATA! 容赦ない弾幕が迫る! しかし、非凡なカラテを持つカンムスレイヤーにしてみればあまりにも脆弱!「イヤーッ!」両手に連装機銃を持ち、カード投げめいたフォームで応射! 二者と一者の銃弾は吸い込まれるように着弾! カンムスレイヤーに被害なし!
「ヌゥーッ!」ヴェールヌイが呻く。内心で敵対者の測定カラテ段位を上方修正し、新たなフォーメーションを導き出す!「プラズマ=サン! 近接カラテ重点!」「了解なのです!」カンムスレイヤーのいるビルに着地した両者は、弾かれたように疾走した。ヴェールヌイはカンムスレイヤーを中心に円を描くように。プラズマはカンムスレイヤーへ向けて突貫!
「覚悟するのです! カンムスレイヤー=サン!」寄らば堕とすべし。カンムスレイヤーは前方へ向けて右手を伸ばした。すると、おお……見よ! 眩いほどの黄金カラテ粒子がカンムスレイヤーの右腕へと凝集していき、瞬きの刹那閃光を伴い形成されるは、六十口径十五センチ三連装砲!
「イヤーッ!」KKKBOOOOOOOM! カンムスレイヤーの大口径砲が火を噴く。超音速で撃ち出された砲弾は、狙いたがわずプラズマの腹部に着弾し――すり抜けた! プラズマを透過した砲弾は無人の彼方へ直進していき闇へと飲まれていった! 人的被害は実際無い。
「なに!? ンアーッ!」予想だにしなかったインシデントにカンムスレイヤーが目を見開いた瞬間、後方よりヴェールヌイによる機銃攻撃! まともに受けたカンムスレイヤーの副砲が爆発四散! ウカツ! しかし、一体なにが!? カンムスレイヤーの放った砲弾は、しっかりとプラズマに着弾していたはず!「ヌゥーッ!」呻くカンムスレイヤー。しかし休む暇なし、左右二方向よりステルス・ギョライ感知! 空中で三回転を決めたカンムスレイヤーは両手に連装機銃を持ち直し、ブレイクダンスめいた体捌きでそれらを迎撃する! KABOOOM! KABOOOM! 見事命中!
「ふふふっ、驚いているなカンムスレイヤー=サン。やはり、実戦経験が不足しているようだ」ヴェールヌイがあざ笑う。その隣、ヌゥーと影より現れたるは、プラズマだ! 砲弾が直撃したはずの腹部は全くの無傷! 目を細め、機銃を構えるカンムスレイヤーに対し、プラズマは勝ち誇った笑みを向けた。「カンムスレイヤー=サン、私を誰かと間違えていたんじゃないですか?」言いつつ、プラズマは先程まで自身がいた場所を視線で促す。言葉の意味が分からない。が、カンムスレイヤーは片目で促された場所を見た。するとそこには、無惨にも木っ端微塵にされた等身大プラズマ型木人形が!
「カワリミ・ジツ……」カンムスレイヤーが忌々しげに呟く。カワリミ・ジツ――防御の瞬間に自らをカラテ粒子に還元し、攻撃をすり抜ける厄介なジツだ。消費される血中カラテも僅かで、概して燃費に優れている。「なのです。付け加えるなら、私のジツに弱点は実際無いのです」
なおも機銃を構えるカンムスレイヤー。その目には、未だ復讐の炎が燃え滾っている。カラテ警戒するカンムスレイヤーに対して、並び立つ両者は余裕げだ。するとその隣に、すたりとリバーインサイドが降り立った。ヴェールヌイが横目でリバーインサイドを見る。「リバーインサイド=サン、首尾はどうだ」「無論、上々よ。抜かりはない。早く帰ってスシが食べたい」「そうだな、そうするとしよう」
――何かが来る。脳裏に雷光が閃いたカンムスレイヤー。手にある機銃を強く握り締め、カラテを込めて引き金を引いた。「イヤーッ!」何かが来るのが分かっているのだから、そうはさせない。カンムスレイヤーは銃弾をばらまいて敵の分断を図った!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「ウラーッ!」三人がその場から飛び退きつつ機銃応射。雨霰と吐き出される弾幕を前に、カンムスレイヤーは一切ひるむ素振りも見せず突貫! 飛来する銃弾の隙間を縫う、縫う、縫う! ゴウランガ! 一発としてかすりもしない! 弾幕を抜けた先、意表をつかれたヴェールヌイ! 隙だらけ! 残る二人の援護は間に合わぬ! カンムスレイヤーはヴェールヌイの腹部へと、無慈悲に連装機銃の銃口を押し当てた! そして!
「イヤーッ!」「ンアーッ!」BRATATATATA! 極至近距離での圧倒的連続射撃! ヴェールヌイの被害甚大! 手放される機銃、破かれていくカンムス装束! まるでオスモウのオシダシを食らったモータルめいて宙高く放り出されるヴェールヌイ! 中破!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」即座にカンムスレイヤーへ攻撃を仕掛けるプラズマとリバーインサイド! しかし時すでに遅し! カンムスレイヤーは悪魔のような射撃を中断し、奥ゆかしくバック宙をして退避していた。
「ヌゥーッ!」見事なウケミで着地したヴェールヌイ。はだけたカンムス装束を気にする暇もなく、壊れかけの背部艤装をパージ。忌々しげにカンムスレイヤーを睨みつけながら、近接用のイカリブレードを持ち構えた。「大丈夫ですかヴェールヌイ=サン! よくも!」プラズマがギョライバットを構える。同じく艤装を構えたリバーインサイドが並び立つ。
「すまない、実際ウカツだった。しかしリバーインサイド=サン」「ああ」「いけるな?」「ヨロコンデー!」今度こそ来る! スプリント姿勢に入るカンムスレイヤーの前、対峙する三人は微動だにしていない。構うものか! 突貫あるのみ!
リバーインサイドが目を瞑り、カラテを集中する。やがて、カッと目を見開き、シャウトした!
「ヤセン・ジツ!」
次の瞬間、カンムスレイヤーを含めた四人の視界は荒漠たる暗黒墨絵空間へと切り替わった! 降りしきっていた重金属酸性雨はピタリと止み、コンクリートに叩きつけられるはずだった雨粒は中空で静止している。闇夜の虹めいて過剰だったネオン光も白黒の不気味モノクロ世界へと姿を変えた。
「ウラーッ!」「イヤーッ!」左右より接近するヴェールヌイとプラズマ。彼女らはカラーだ。迫る両者を見据え、カンムスレイヤーは脊髄反射的に跳躍し機銃応射。BRATATATA! プラズマの胸部に命中。しかして瞬きの後にずたぼろの木人形へと変化。分かりきっている、本命はヴェールヌイ! 大上段に構えたイカリブレードによるイアイド斬撃が振り下ろされる。即座に機銃の銃身で受けるが、しかし!
「ヌゥーッ!」非凡なカンムス膂力を持つカンムスレイヤーが、押し負けている! つばぜり合いに持ち込まれ、隙を晒している! 停止状態の彼女の背後の空間が歪み、捩れた影からプラズマが出現! 邪悪な形状のギョライバットを振り上げる。アブナイ!
「イヤーッ!」「ウラーッ!」「ナノデス!」瞬間、三人のカラテ・シャウトが木霊した! アクションは三つ。さらにカラテを込めたヴェールヌイ。得物を振り下ろしたプラズマ。空中で激しくスピンし、それら二つを受け流したカンムスレイヤー。結果として、攻撃を空回りさせた二名はサーカスめいて互いの手を取り合い何とか体制を立て直した。対するカンムスレイヤーは獣めいて着地し、機銃を構えて次なるインシデントに備えた。
思考が加速する。一体これは如何なるジツか? 自分だけ上手くカラテが込められない。間違いなく、リバーインサイドのジツだ。が、名のみ知って打開策が分からない。しかして、カンムスレイヤーの瞳には恐れも、惑いの色もありはしなかった。何故ならば、如何なる空間においても、カンムスレイヤーの成すべきことは変わらない。
(カラテだ、カラテあるのみ……!)決意に要した時間、僅かコンマ以下秒! ハヤイ! 百八十度切り替わった世界の中で、カンムスレイヤーは、超然とカラテを構えた。
◆艦◆ カンムス名鑑#048【ナカチャン】 ◆殺◆
アイドル志望の少女にカンムスソウルが憑依。
ソウルの格は高くないが、血の滲むようなトレーニングによりそれなり以上のカラテを修め、オリョクル・シックスゲイツの地位までのし上がった。