カンムスレイヤー ネオチンジュフ炎上   作:いらえ丸

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「……カンムスは砲を振り上げ、ファラオとその家臣の前でナイル川の水を打った。川の水は血に変わり、川の魚は死に、エジプト人はナイルの水を飲めなくなった。……忌々しい過去だが、私の頭から離れてくれなかった。一時は忘れたが、そう忘れていたが、思い出したのだ。ALAS! そう、思い出した。この、我が身に宿るソウルの真の力が覚醒した際に、な……。そして私は決意したのだ。全ての哀れなカンムスを救済し、最後に私自身をジゴクへ送還しゲヘナの門を閉じる。それが、それこそが私の使命なのだ」ヤセンニンジャは赤錆びた壁に背を預け、自身の装備を確認しながら、懺悔するように言った。彼女は狂っていた。自身の妄想と現実の境があいまいになり、その精神はアンコシチューめいてカオスの極みにある。

 強風に煽られ、巨大工廠内に不気味な風切り音が空しく響く。「スゥーッ……ハァーッ……スゥーッ……ハァーッ……」アグラ・メディテーション姿勢で、丹念に呼吸を整えるカンムスレイヤー。ヤセンニンジャの齎したスシは全てカンムスレイヤーがその腹に収め、体内で循環しカンムス治癒力に変換されていく。みるみるうちに身体の傷は回復していき、カンムス装束も新たに生成しなおした。次のイクサは、ほぼ万全に近い状態で挑めるだろう。

「目覚め、決意した後、私は組織の金庫からいくらか拝借して、そのまま一人でカンムスを狩猟していく事もできた。しかし私はしなかった。何故か分かる? ……貴女だ。貴女は強く、今の私と同じくカンムスハンターだ。故に、仲間と判断し、こうして救出に来たという訳だ。フフフ……これも夜の神のお導きによるものか……ブッダエイメン」「スゥーッ……ハァーッ……」ふと、カンムスレイヤーはチャドー呼吸を続けながら隣にいる狂人へ目を向けた。彼女はカンムスだ。だというのに、自分を助け、仲間だと言っている。例え狂人の戯言であったにしろ、その言葉に不思議と安らぎを覚えている自分がいるのだ。

 何故だ。繰り返すが、彼女はカンムスだ。復習対象であり、一度この手で惨たらしくスレイしたカンムスである。そんな相手に、何故……。「アカギ……奴は強大に過ぎるカンムスだ。私一人では手に余る。しかし貴女ならば、万全の貴女と私ならば、奴を大破させ、入渠させる事も可能だろう。二人のカラテとカラテを掛けて百倍だ。わかるか? このカラテ算数が? つまり、百倍のカラテならば、確実に奴を倒せる。確実にだ」

 その瞬間、カンムスレイヤーのニューロンに複数の強いパルスが迸る。まず、カンムスレイヤーはヤセンニンジャの案に対して、内心で同意した。その上で、アカギを葬った後、この愚かなカンムスもスレイしてしまおうと思った。しかし、ほぼ生理的反射でその考えに強い嫌悪感を抱いた。それではまるで、己の憎む邪悪なカンムスのようではないか。カンムスレイヤーは小さく首を振り、イクサに不必要な雑念を払った。カラテだ。カラテあるのみ。

「フフッ……そう焦るな、カンムスレイヤー=サン。夜は長い。そうも早く終わりはしないさ」闇夜の中心で、二人のカンムスは、静かに戦意を研ぎ澄ませるのであった。

 

 

 

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 非人間的な錆びれた壁面に、小さな人影が二つ。一人は長い黒髪のカンムス、アカギ。もう一人は、復習に燃える小柄なカンムス、ゼカツマーだ。ゼカツマーは幼い相貌に憤怒の感情を湛え、しきりに周囲へと殺気を撒き散らしている。「許すまじ、許すまじカンムスレイヤー!」「ウーン、ソウルの痕跡からして、まだ近くにいるはずなのですが……」二人は、突如行方を晦ましたカンムスレイヤーを捜索していた。アカギ一行が最後のバンメシ・トーチャリングを行おうと来てみれば、どういう訳か件のカンムスの姿が消えていたのである。独力で脱出したとは考えにくい。では、組織の裏切り者か、あるいは元からの協力者の手引きによるものか。どちらにせよ、捜し、見つけ、今一度大破させるのみ。アカギは懐からオニギリを取り出し、一口に平らげた。

「では、ゼカツマー=サンはこの区画をお願いします。私はもう少し奥を調べてから、ここに戻ってきますので」言い残し、アカギは唯我独尊といった風で歩みを進めた。「ヨロコンデー!」ゼカツマーは礼儀に則った返事をすると、壁面を蹴り、より深い闇へと身を潜らせた。

 闇の隙間を縫う。怨敵・カンムスレイヤーの命を狩る為に。ゼカツマーは、つい先日カンムスレイヤーによって無二の親友を喪った。彼女とはほぼ同時期にカンムス化した、いわば同期である。強いカラテを持つ彼女に対し、ゼカツマーが手にしたのは通常の三倍の速力。非力なゼカツマーに、しかし彼女は侮蔑も嘲笑もなく接してくれた。「ゼカマシ=サン、仇は討つ!」

 決意を胸に、ゼカツマーは食料保存庫へとしめやかにエントリーした。中には誰もいない。ソウルの痕跡もない。警戒を解き、ゼカツマーが振り返ろうとした、その時である!

 コツン、と。ゼカツマーの頭に硬質な感触があった。「エ?」この感触はまさに、小型のステルス・ギョライ! 一体なにが? ぐるぐると思考が高速回転し、答えを導きだすまでに数瞬の静寂。そして、無音の小爆発。「ンアーッ! サヨナラ!」ゼカツマーは大破し、しめやかに入渠した。

 爆煙の影より、ヤセンニンジャが姿を現す。彼女のカンムス野伏力は実際卓越している。この程度のアンブッシュなど、ベイビー・サブミッションなのだ。「ベトコンは大人しく貴様のヒサツ・ワザの披露を待ってはくれんのだ。ジゴクでは……覚えておくがいい……ゼカツマー=サン」

 マフラーを翻し、立ち去るヤセンニンジャ。かつての仲間の救済を果たし、ヤセンニンジャの胸中に神聖な酩酊感が染み渡る。しかしその瞳には、一切の油断も慢心もなかった。そう、こんなところで感傷に浸っている場合ではないのだ。これより先は、本当の、カンムスの戦いなのだから。

 

 

 

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「イヤーッ!」「サヨナラ!」強烈な回し蹴りを受け、主人公めいたカンムスは大破し入渠した。復讐に燃える両者の攻防は意外なほどあっさりと終結した。優れたカンムス同士の戦闘、その殆どは一瞬の駆け引きによって決着する。このカンムスもまた、油断ならぬ相手であったという証左だ。

 ザンシンを終えたカンムスレイヤーは、周囲の気配を探る。やがて、目標の気配はすぐに見つかった。隠せるはずもない、圧倒的な覇王の気――アカギの気配を。

 カンムスレイヤーは最小限の動作で疾走を開始した。影から影へ、闇から闇へ……。アカギに自らの気配を気づかれぬように。何故、カンムスレイヤーがこのようなニンジャじみた事をするか? それは、ヤセンニンジャの策が為である。ヤセンニンジャは言った。「次にアカギが来る時は、必ず取り巻きを連れてくる。何故だと思う? ただの酔狂だろうさ。情報もある。その取り巻きは二人。ゼカツマーと、ブリザードだ。こいつらは実際大した事ない。しかしな……」

 ヤセンニンジャは言葉を区切り、云った。「……アカギ、奴は異常な力を持っている。そんな奴を相手に、サンシタとはいえ取り巻きがいるのは厄介だ。なので、最初にこいつらを狩る。まず、カンムスレイヤー=サンはこの場から離れて何処かに忍んでもらう。すると、奴らは分断して貴女を捜索するはずだ。そこを、狙う。幸い私の存在はバレていない。片方は私がやろう」

 果たして、計画は上手くいった。カンムスレイヤーは先ほど取り巻きの一人をスレイしたところだ。恐らくヤセンニンジャも成功している事だろう。障害は消えた。あとはアカギにアンブッシュを仕掛け、カラテで決着をつけるのみ。カンムスレイヤーはこれまでの不明瞭な思索を切って捨てた。カラテに無駄な雑念は、ひとまず振り払うべきだ。でなければ、あの怪物には敵わない。一足ごとに鋭利になっていくカンムスレイヤーのセイシンテキは、今や一振りのカタナそのものと化していた。

 影さえ追いつけぬ速度で疾走する。やがて、ドクンと心音めいてアカギの気配が増大したのを感知したカンムスレイヤーは、スプリントを続けながらもカラテ警戒した。疾風のカンムスレイヤーが崩れた灯台前にエントリーした、その時である。冷やりと、脊柱に氷を押し当てられたような不快感。同時、気がついた時にはそれまで感じていたはずのアカギの覇気が霧散していた。咄嗟に物陰へ隠れるカンムスレイヤー。これは一体どういう事だ? カンムスレイヤーは困惑しながらも、カラテ警戒を維持した。

 やがて、灯台前の広場に新たなる覇気を再探知。これはまさに、紛う事なきアカギの気配。「おや、以外と遅かったですね」冷然とした覇王の声が聞こえる。隠れる意味なしと判断したカンムスレイヤーは物陰より現れ、威風堂々とアイサツした。「ドーモ、アカギ=サン、カンムスレイヤーです」「ドーモ、カンムスレイヤー=サン、アカギです」

 アイサツ終了後の一瞬、怨敵へ向け走り出さんとするカンムスレイヤー。しかし、その機先を封じるように、アカギは右手につかんだモノを大仰な身振りでかざして見せた。突き出されたその手には……ナ、ナムアミダブツ! 大破したヤセンニンジャ! 轟沈寸前のヤセンニンジャはアカギに首根っこをつかまれ、ピクリとも動けないでいる! 思わず急停止したカンムスレイヤーは内心の動揺を押し殺しつつも僅かな渋面を隠せないでいた。

「二人してこの私を挟み撃ちにするつもりだったんですよね? ふふっ、お見通しです」遥か上空から、まるでブッダが哀れなマジックモンキーに向けるような目で、アカギは笑みを浮かべた。「人質のつもりか!」「いえいえ」アカギは小さく首を振った。「私はただ、あなた方に興味があるだけです」

 そう言うと、アカギの笑みはよりいっそう深さを増した。カンムスレイヤーのニューロンに、微弱な警告が発せられる。精査することもなく、カンムスレイヤーはそれを無視した。「何故、私があなた方に興味を持つか? それを、今からお教えしましょう」空いているアカギの左掌に、青白い光が灯る。やがてその手は、ヤセンニンジャの胸部へと触れ……「イヤーッ!」

 BRATATATATATATATATA! カンムスレイヤーのカラテがこもった弾丸が、無防備なはずのアカギに殺到する!「それはシツレイではないですか?」呟いたアカギはヤセンニンジャを放り捨て、最小限の動きで全弾回避。「イヤーッ!」「イヤーッ!」狼めいて飛び掛ったカンムスレイヤーの銃身殴打攻撃に肩部擬装で応じるアカギ。ジリジリと火花が散り、大気が震える!

「イヤーッ!」機銃を振りぬき、距離を取る。カンムスレイヤーは己の内の警鐘に、それに反応した自分自身に、訳も分からず驚愕していた。あの時、アカギの不気味な光の手がヤセンニンジャに触れようとした瞬間、カンムスレイヤーはこれまで無視していた小さな警鐘に従いアカギの行動を阻止した。第六感とも違う。もっと人間的な何かに突き動かされ、カンムスレイヤーは行動したのだ。

 二人の怪物の間に、肌を切るような突風が吹きすさぶ。その距離、およそタタミ六畳。絶えず聞こえる波の音が静寂を許さない。目の前の敵は、今なお泰然自若としてカラテを構えようとすらしない。覇王の余裕を振りまき、周囲の空間を我が物顔で侵食している。

「ウーン、ではこうしましょう」一瞬の思案の後、アカギはひとつ手を打ち言った。「まず、貴女からいただきましょうか」瞬間、アカギのカラテが爆発的に上昇する。構えるカンムスレイヤー。自らの膨大なカラテを味わうように微笑するアカギ。

 BRATATA! 両者のイクサの始まりは、数発の銃弾だった。「イヤーッ!」対し、アカギは跳躍した。高く、高く!「せめてもの手向けです。見せてあげましょう! 我が究極のカラテを!」闇夜に包まれたアカギの身体が……ゴウランガ! ホタルめいて青白く発光した! 見上げるカンムスレイヤー! 見下ろすアカギ! 突如、未明の空に巨星が浮かぶ! 禍々しき光! 上空のターゲットへ向け、容赦の無い無数の銃弾がばら撒かれる! それら全てを弾きつつ、やがて光は収まっていった。

 収束した光の中心。アカギは、おお……なんと! 超自然的に変身していた! 今まで身に着けていたカンムス装束ではなく、豊満な身体のラインにピッタリと吸い付くような特殊任務用カンムス装束。そう、スクミズタイプのカンムス装束に! その胸元の名札部分には流麗な字体で「赤」「城」の二文字!「イヤーッ!」上空十数メートルから急降下! やがて水面を切り裂き海中へと潜水! ナムアミダブツ! なんたる不可思議な光景か!

 通常カンムスは海中での戦闘行為は一部タイプのカンムスを除き不可能とされている。その、海中での戦闘が可能なカンムスタイプとはつまり、「センスイ・カンムスクラン」に属していた水中戦特化のカンムスたちである。であるというのに、このアカギは、あろうことかそのセンスイ・カンムスクランを象徴するカンムス装束に身を包み、なんと海中に潜ってしまったではないか!

 不可解な事象を振り払うように、潜水したアカギを追うカンムスレイヤー! 海上に躍り出ると、水面をスケート選手めいた動きで高速移動し、姿を晦ましたアカギを炙り出すべく暗黒の海面へと機銃乱射! BRATATATATATATATATA! 連続して激しい水柱が生まれ、辺りを暴力の色に染めていく!

「イヤーッ!」真下に影。カンムスレイヤーがそちらに機銃を向けるより先に、アカギのギョライはカンムスレイヤーを捉えていた! KABOOOM!「ンアーッ!」直撃! 爆風に煽られながらも、果敢に機銃を構え狙いもつけずに発射!「イヤーッ!」BRATATATATA!「イヤーッ!」一際大きな水柱を巻き上げ宙高く飛び上がった! その体がまたも青白く輝く! 瞬きの間には二度目の変身が終了しており、今度は黒い制服めいたカンムス装束に、頭部には龍角めいた装備。手にはそれぞれ、怪しく光るカタナとナギナタ。ナムサン! これはまさに、テンリュウ・カンムスクランへの変身だ!

「イヤーッ!」右手のナギナタを凄まじい膂力で投擲!「イヤーッ!」クロスした機銃で防ぐ! おお、しかし鋭利なナギナタの刃は一瞬の拮抗の後にカンムスレイヤーの機銃を両断! 身を捻りなんとかダメージを回避したカンムスレイヤーだが、その時には既にカタナを構えたアカギが目前まで迫っていた!「イヤーッ!」「ンアーッ!」横凪ぎの強烈なイアイド斬撃! すんでのところで回避したカンムスレイヤーだったが、驚異的なワザマエで生み出された真空波によりカンムス装束の一部を切り裂かれてしまった!

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」有無を言わせぬ連続イアイド斬撃!「ヌゥーッ!」巧みなバックステップでそれらを回避! しかし、避ける度にジリジリと追い詰められていく! まるで、型にはまったアドバンスド・ショーギの攻勢めいて!「イヤーッ!」「ンアーッ!」不意をついたケリ・キックがカンムスレイヤーの腹部に直撃! 斜め上に吹き飛ばされるカンムスレイヤーの真下――海中に、複数の影! 影はやがて水面より顔を出し、カンムスレイヤー目掛け追尾ミサイルめいて接近してきたではないか! カラテギョライ! それを認めた瞬間、カンムスレイヤーは新たな機銃を生み出し海面へ向け発射! BRATATATATATATATATA! KBOOOOOOOM! 

 嵐のように巻き上がる水柱! それらを切り裂くように現れたのは、またも変身を終えたアカギだ! 漆黒のセーラー型カンムス装束を身にまとい、背には二連装砲塔を負っている。接近してくるアカギは、あろうことか空気の壁を蹴るようにジグザグ高速移動で迫る!「イヤーッ!」「イヤーッ!」急速接近してきたアカギの回し蹴りと、カンムスレイヤーの迎撃回し蹴りが交差し拮抗する! 互いのカンムス膂力はゴジュッポ・ヒャッポ! しかし! KABOOOM!「ンアーッ!」硬直していたカンムスレイヤーの背に対処しきれなかったギョライが直撃!「イヤーッ!」よろめくカンムスレイヤーの腕をつかみ、イポン背負いの要領で投げ飛ばされる!「ンアーッ!」短くカラテ演舞をきめ、アカギはすぐさま不可視の壁を蹴り、吹き飛んでいくカンムスレイヤーに追随。無慈悲な追撃が、その身体に突き刺さる!

「イヤーッ!」「ンアーッ!」無慈悲な追撃!「イヤーッ!」「ンアーッ!」無慈悲な追撃!「イヤーッ!」「ンアーッ!」無慈悲な追撃!「イヤーッ!」「ンアーッ!」無慈悲な追撃!「イヤーッ!」「ンアーッ!」無慈悲な追撃!「イヤーッ!」「ンアーッ!」無慈悲な追撃!「イヤーッ!」「ンアーッ!」無慈悲な追撃!「イヤーッ!」「ンアーッ!」無慈悲な追撃!「イヤーッ!」「ンアーッ!」無慈悲な追撃!

 やがて、中破相当のダメージを受けたカンムスレイヤーをイクサ開始地点の灯台前上空まで追い立てるように蹴り飛ばしたアカギは、カンムスレイヤーの腕をつかみ、「イィィヤーッ!」落下の勢いをつけて地面へと強かにイポン背負いを極めた!「ンアーッ!」

 CRAAAAAAAASH! 大小さまざまな破片が宙を舞い、視界をさえぎる砂煙が辺りを隠す。強風によって払われた砂煙の先には、激突の衝撃で巨大なクレーターができあがっていた。汚水の浸入を許し、神罰を受けたような傷跡の深奥には……ナムサン! 大破し、カンムス装束のほとんどを失ったカンムスレイヤーの無惨な姿が! 彼女の目は安らかに閉じられ、まるで眠っているようでさえある。

 轟沈寸前のカンムスレイヤーに、ゆっくりと近づいていくアカギ。元の弓道家めいたカンムス装束へと戻ったアカギは、敗者をあざ笑うようにクレーターの奥へと足を進めた。「実際、私の攻撃をこうまで浴びておいて未だ轟沈していないカンムスは、これまで存在しませんでした。しかし、貴女はまだ、沈んでいない」

 口元を歪め、目には邪悪な意思が宿っている。バチバチと身体に青白い稲妻を走らせ、左手には不穏な光を灯すその姿は、まさにジゴクの王か。あるいは、不世出の英雄か。圧倒的に過ぎる暴力を手に、両方の側面を有するカンムスはただ、勝利の美酒に酔いしれていた。「そのタフさ、気に入りました! 間違いなく神話級のソウル……この際、多少のソウル漏れなど考慮しません!」

 倒れ伏すカンムスレイヤーの傍まで歩み寄ると、アカギは左手の光をいっそう強くし、豊満なカンムスレイヤーの胸部へとその手を伸ばしていく。「ふふふっ、いただきます……」

 邪悪な光の手が、カンムスレイヤーの胸部に触れた。

 

 

 

 




◆艦◆ カンムス名鑑#006 【アカギ】 ◆殺◆
オリョクル・ファンドの首領にして、七つのカンムスソウルを同時に憑依させた悪魔的存在「ボーキクィーン」。
異常なカラテと複数の強力なジツを持つが、それらを存分に発揮するには膨大なエネルギーが必要である様だ。

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