やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
華咲
平安の世においてある術師がいた。
史上最悪の呪詛師、両面宿儺の討伐に参加し、その術師は命を落とした。
しかし、戦いの中で多くのものを癒しわずかではあるが生存者さえ残してみせたその功績から、死後「華咲」の名を賜った。
術師の縁者らは、その名に肖り家名を「賀﨑」とし、現代まで続く呪術師の旧家として永らえてきた。
しかし、かの術師に関する記録はこの名と逸話についてのみである。
術師としての情報どころか、宿儺との決戦前の経歴すらも現代には伝わっていない。
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賀﨑隆景。
術師の旧家である賀﨑家の庶流に生まれた術師である。
嫡流で無いことから当主候補ではないものの、その術師としての能力からいずれ家中でも指折りの実力者になると見込まれた秀才であった。
…とここまで自身のことを他人事のように語ったのには訳がある。
俺こと賀﨑隆景は自分がこの世界の人間であるという確信が持てないためである。
きっかけは幼少期に遭難して生死の淵をさまよったことだった。
三途の川という言葉がこの世とあの世との境として使われるように、呪術界においても「川」という場所は特別な意味を持ちやすい。
幼少期の俺は一族全員に課される鍛錬の際、領域を持つ呪霊と河川で遭遇し生命の危機に瀕した。
同行していた監督役の術師すらも殺害したその呪霊から、未熟であった当時の自分がどうやって逃れたのかを俺は覚えていない。
その時のことで記憶に残るのはただ一つ。
それは、この世界とは異なるフィクションの世界の数々を垣間見た事。
己の内から湧き上がる「覇気」と摩訶不思議な「能力」を操る者が大海原で鎬を削る世界、
軍人の役割を果たす忍者たちが火、水、雷などの超常現象を「忍術」として操る世界、
「超能力」が人の形を象り殴り合う世界、祈祷師が「霊」を身に宿して世界の王の座を争う世界…
この世界が「呪術」という異能を宿しているように、他の世界にはそれぞれ多種多様な異能が根付いていた。
そのことを認識してしまった俺は自らの世界もそうしたフィクションの世界の一つだと認識するようになってしまった。
そして自分の「呪力」についても「数多ある世界に根付く異能」の一つであると考えるようになった。
いや、そうとしか「考えられなく」なってしまった。
結果、生還した後の俺の身体には「異変」が起きていた。
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関東近郊 某所
『窓』からの報告があった廃工場はここだ。
数か月前に起きた火災事故で焼損しており、今は寄り付く人もいない。
火災時に数人の人死にも出ているし、所有会社はこの火災が原因で倒産している。
派手な火災だったため大きく報道もされた。
人の負の感情が集まるのにはうってつけの場所だ。
「案内ありがとうございます。ここからは私1人で向かいますから付近で待機をお願いします。」
補助監督にそう告げ、目礼してから現場の方向へ向かう。
「承知しました。賀﨑3級術師、ご武運を。」
呪いの気配を辿っていくと、発生源はやはり報告のあった廃工場だった。
「闇より出でて闇より黒く、その汚れを禊ぎ祓え。」
そう唱えると、建物上空の一点から球状に黒い幕が形成されていく。
本来、この『帳』を下ろす役割は補助監督が担うことが多い。
これから戦闘を行う術師の呪力消費を少しでも減らすためだ。
また、等級の低い術師は本来ならば複数名で任務に当たることになっている。
だが、ある事情から俺は極力単独で任務に臨めるようにしてもらっている。
(やっぱりひどい火災跡だな。この環境に呪霊が影響されているとすれば…。)
腰に下げた愛刀の具合を確かめてから、帳の中に足を踏み入れる。予想通りの特性ならば俺にとってはやりやすい相手だろう。
瞬間、呪力の高まりを感じその場を飛び退く。
先程まで足を置いていた地点に火の玉が着弾した。予想通り、火に関する攻撃をしてくるようだ。
なおも襲い掛かる火炎弾を避け続けるが、このままでは埒が明かないと判断する。
呪術戦で後手に回ったことを後悔しつつ、俺は両手で複数の『印』を高速で結び、自身の呪力を「変質」させる。
「『水遁・水陣壁』!」
たちまち「水」の特性に変質した俺の呪力が周囲に立ち昇り、呪霊の放った火炎弾をすべて打ち消す。
これなら「もう一つの手」は使う必要はないだろう。
蒸発した水が視界を遮る中、俺は呪力感知を頼りに愛刀を抜きながら呪霊に突進する。
そして刀の間合いに入った瞬間に剣閃を放つ。
「『シン・陰流 脇構え 一薙ぎ』」
横薙ぎに体を両断された呪霊は消失する。
今回の任務はこれで完了だ。
相性が良かったため、難なく祓うことができた。
その後、補助監督と合流し、任務の完了を報告し帰路に就いた。
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これが俺の身に起こった「異変」。
呪霊の襲撃から生還した俺は自身の呪力を変質させることができるようになっていた。
自由自在にというわけにはいかないが、イメージしやすいものであれば比較的容易に習得できたため、こうして戦闘に活かしている。
特にNARUTO世界の忍術については、「印を結ぶ」という工程を縛りとして活用しやすいため多用している。
呪力特性が実戦にも活用できる事例は少ない。
そのため、俺のこの特性は家中で大変有難がられた。
嫡流でないにもかかわらず、家中での立場が良いのもこれが原因だ。
だからこそ、現在進行形で厄介ごとを押し付けられる羽目にもなっているわけだが。
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呪術高専東京校
「お、隆景。もう終わったの?流石だねー、これなら昇級も近いんじゃないかな?」
手続きのために訪れた職員室で、簡単に
「相性が良かっただけですよ。シン・陰だけでももっと渡り合えるように鍛錬に励みます。」
俺には実家から課された使命がある。それは…
「その向上心は立派だね。感心感心。」
五条悟の歓心を得て取り入ること。
それが高専で俺が果たさなければならない仕事である。
…おっかなすぎないか、これ?