やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
秤、綺羅羅たちの昔の話も読みたいですね。
隆景と秤との模擬戦は、領域内で展開された原作演出に目を奪われた事が致命的な隙となり秤の完勝という形で終わった。
高専の保健室で治療を受けた隆景は「しばらく安静に」との指示の通り保健室のベッドに横たわっていた。
「まさか、入学して間もない奴が領域展開を使うとはなぁ。」
敗戦後、目を覚ました隆景は先の戦いを振り返っていた。
(しかも、領域展開の連続発動となると、いよいよ理解の範疇を超えている。)
新入生であれだけの実力があればあのデカい態度にも文句は言えない。家格だ何だと言っても、呪術師とは詰まる所強さが何よりも優先される。
秤の術式はパチスロというニューテクの入った代物のため、とやかく言う連中はいるだろうが、いくら難癖をつけようとも所詮は実力の及ばぬ奴の負け惜しみだ。
それだけの実力を身を持って知った隆景としては、秤は今後呪術界を背負っていく術師であることに疑いはない。何かあれば微力だが手を貸したいとも思う。それに個人的に礼を言いたいことも出来た。退出の許可が出たら探しに行くことにしよう。
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「入学早々、大暴れとは今年の1年は随分血の気が多いようだね。ボコボコにされた方の君に言っても仕方ないことだけども、ただでさえ手が足らないのにこれ以上の面倒は勘弁だよ。」
回復具合を確認しながら家入先生はそうこぼす。
「五条から聞いているけど、例の治療術は使わなかったのかい?」
「はい。情けないことに使う間もなく意識を失っちゃいました。」
「咄嗟の時でも使える様に訓練しなさい。私の仕事を減らすために努力してくれ。今回は重い傷もあったけども重症でないならこれからは出来るだけ自分で治しなさい。ほら、もう治療は終わったよ。」
そう言って先生は退出許可を出してくれた。
先生にお礼を言ってから、保健室を出た隆景は秤を探すためにひとまず1年の教室を目指すことにした。
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「さっきボコされた奴が【お礼】だァ!?根性あるじゃねえか、もういっぺん医務室送りにしてやるぜ!」
「違う違う違う違う!!お礼参りなんていつの時代だよ!マジでサンキューって言いに来たんだって!」
元気な人達だ。教師に注意されたばかりだと言うのに、また大暴れを始めている秤と賀﨑を見て星はそう思った。
先の模擬戦も生徒同士と言うには殺意が高過ぎる喧嘩をしていたというのに、3時間後にはもう元気に走り回っている。
まだ数日の付き合いだが、特に秤君はものすごいバイタリティだ。【熱】がどうこう言っているのはまだ意味は分からないが、あの賀﨑という先輩に絡んでいる時はとんでもない動きをしていた。
秤と星では術師としてのタイプが異なると教師には言っていたが、そうは言っても自分が除け者にされているのは気持ちが良いものではない。置いて行かれないためには自分ももっと動けるようにならなければいけない。
あの賀﨑という先輩も変わった人だ。旧家の出身というからもっとお硬い人物を想像していたが、どうにも想像していた人物像とはギャップがある。先程の模擬戦でも、領域内でのパチスロの演出(秤君はそう言っていたがパチンコの術式とは何なのかまだ分からない。)に感動しだしてその隙にKOされたらしい。
術師の家系は一般の家庭とは生活環境が異なるとは聞いているが、初めて触れた娯楽がそこまで琴線に触れてしまったのだろうか。
だとすればその家は教育方針を見直したほうがいいと思う。このままじゃ呪詛師が仕掛けたネズミ捕りに簡単に引っ掛かりかねない。
そうこう考えている間も二人の騒動は収まるどころか、盛大に校舎を破壊している。
流石にそろそろ止めに入ったほうが良いだろう。
「秤君。先輩、本当に感謝を伝えに来たみたいだよ。」
「あ!?」
勝手に中身を見て悪いと思いながら、先輩が持って来ていた荷物を確かめながら秤に告げる。
どうやら中身はクオカードのようだ。
「ほら、これが中身。」
ギフト用の紙ケースに入ったそれをひらひらと秤に向けて振って見せる。
「何だよ、つまんねーな。最初から言えよ。」
「言ってただろ!お前が聞かなかったんじゃねーか!」
ようやく騒動が収まりそうだ。星はやっと安堵した。
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「ほーん、金券かよ。金にしやすいから助かるぜ。」
「秤君。貰い物を現金に換えるのは失礼だよ。」
「新生活だから入用だと思ったんだよ。気が利かなくて悪いな。」
隆景が用意したのは購買にあったクオカードだ。お礼としては色気がないが二人の趣向が分からないので、とりあえずいろいろ使い道がある無難な品となった訳だ。
「パチスロって何やればいいのか分からなくてさ。いっつも千円くらい使って何もわからずに帰ってたんだ。それが秤の領域のおかげでリーチやら演出やらそもそもの大当たりの確率やら色々分かって嬉しかったんだよ。見たかったシーンも迫力満点で見れたし。」
まさか確率が1/239とは思わなかったけどな、と隆景は笑う。
「原作ファンだけど、ギャンブルには詳しくない真面目ちゃんタイプね。パチ屋でたまに見かけるけど、そりゃ大当たりは引けないわな。」
「でも意外でした。呪術師の家ってもっと世間を見下してるんだと思ってました。」
「星。それ他の術師の前では言うなよ。絶対トラブルから。」
不用意にもめごとに発展しそうなことを言うもんだから、一応釘は刺しておく。
「ウチの実家でも俺だけだよ。アニメ、漫画とかそういうの好きなのは。代々呪術師やってる連中は伝統ばかり有難がるからな。呪力特性がきっかけで俺だけオタクになったの。」
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隆景がアニメ、漫画などのカルチャーに傾倒するようになったのは10歳の頃に特殊な呪力特性を身に付けてからだ。
初めは体に起きた異変の原因を確かめることと、その異変を術師として使いこなすための資料として研究することが目的だった。
だが、それまで娯楽とは縁遠い生活を送っていた少年にとって死に際で垣間見た漫画達に触れることは劇薬だった。
あっという間にフィクションの世界にのめりこみ、「呪力の研究」を言い訳にして完結済みの作品や現行の連載作品、それらのメディア化作品にむさぼるように摂取し、オリジナルアニメやゲームにも夢中になっていった。
なまじ術師としての成長という形で成果を出していたものだから、家の人間たちは研究にのめりこんでいるのだと思っていたようだが、実態に気づいた頃にはもう手遅れ。
術師としての矜持よりも最新アニメを追いかけることに執念を燃やす立派なオタクが完成してしまったというわけだ。
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「じゃあアンタ以外はやっぱりお堅い奴ばっかなのか。」
「そう。倫理観とか人権意識がすっぽ抜けたやつも多いから同じ人間だと思って接するとドン引きするぞ。俺もその辺のズレはまだ抜けきってないしな。」
「ズレって…先輩もですか?」
「まあね。術師は選民思想っていうか自分達は特別な存在で非術師を見下すって考えが根底にあるのよ。本人たちは無意識だろうけど、そのくらい根底から染まっちゃってるの。俺もそこで育ったからね。根っこの部分ではまだ自分を特別な存在だと勘違いしているよ。」
「でも術師が特別なのはあながち間違いでもないんじゃないですか。どんな強力な武器でも呪霊は祓えません。呪霊を祓えるのは術師だけです。」
「限度があるって話だよ。確かに術師には術師にしか出来ないことが出来る。だけどそれは特別ありがたられるべきってことにもならない。特級でもない限り、術師は軍隊には勝てない。結局は術師も社会の一員に過ぎなくて、呪術を使えるかどうかに関係なく互いに出来ることをやっているだけだ。社会を発展させてきたのは社会を生きるすべての人達だ。呪霊を祓えることが特別だっていうなら、世の中の全員だってそれぞれ特別だ。みんな出来ることが違うからな。…ごめんな、普段の愚痴が出てしゃべり過ぎたわ。忘れてくれ。」
上層部から受けている嫌がらせに対してよっぽど鬱憤がたまっていたらしい。
新入生に偉そうなことを語ってしまった。恥ずかしい。
「とにかく!今日は話せて良かったよ。これからは任務で一緒になることもあるだろうからそん時はよろしくな!」
「賀﨑。」
立ち去ろうとしたところを秤に呼び止められる。
「今度パチ屋付き合えよ。打ち方教えてやるからさ。」
その顔は少し微笑んでいるように見えた。
「おう!ちょうど実践もやってみたかったんだ。頼むわ!」
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五条家の私有地。そこで隆景は術式の鍛錬に励んでいた。
「『拡張術式 フツノミタマの剣』」
正のエネルギーを通常よりも強固に固形化し、石剣を成形する。
隆景の呪術にとっての最終目標。これがその第一歩。
この術式を完成させないことには一流の術師に至ることは出来ない。
今手にしている石剣の中身は空っぽ。ここに己の精髄を叩きこまなければならない。
時は2017年。隆景は高専3年生となっていたが未だに込めるべき精髄を定められずにいた。