やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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第十四話 フツノミタマ

2017年。賀﨑隆景は東京高専3年生となっていた。

 

新年度ということで新入生が入学してきた。今年は3人だそうだ。

1人は狗巻棘。現代では希少な呪言使いだ。

何でも呪言を暴発させないように、普段はおにぎりの具に語彙を絞って会話するらしい。

それは会話とは言わないと思うが呪術師がそもそも変人の集まりだ。この位大したことじゃないんだろう。

 

もう1人は禪院真希。御三家の1つ、禪院家出身の術師だ。身体能力がずば抜けて高く、武具の扱いも達人級らしい。

御三家からわざわざ東京高専に来たということは、俺と同じく政略が絡んでいるのであろうか。

機会があればその辺の事情を聞いてみようとは思ったが、普段からピリついており、今のところ会話はしていない。声をかけたら殺すってオーラが出ているので不用意に踏み込まない方が良さそうだ。

 

最後の1人はパンダ。今年の1年はキャラが濃いなと思っていたところにパンダだ。

2人には悪いが正直、パンダの前ではどんなキャラも霞むと言わざるを得ない。

実のところ、以前に夜蛾学長からパンダのことは教えてもらっていたし、何なら面識もある。

人間と遜色無く言語でコミュニケーション出来る知性といい感じの柱があったらよじ登る野生が共存しているナイスアニマルだ。

 

パンダは何なら社交性に関しては先の二人よりも上だ。狗巻に関しては俺が理解出来ていないだけだが、それを差し引いてもパンダはコミュニケーション能力が高い。流石は動物界の人気ランカー、人間の相手など容易いということか。

 

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この一年の間、秤と星とはそこそこ上手くやっている。

2人共入学前から高かった実力を更に伸ばしていっている。

 

秤は最近、領域で再現するパチスロのモチーフを変えたらしい。何でも「もっと当たる台を見つけた」とのことだ。

 

ちなみに休みが被った時は、時折一緒にパチ屋に行くようにもなった。初めは打ち方のコツを教えてもらっていたが、筋が悪いらしく早々に諦められた。曰く、才能がないそうだ。以来、俺は何となく台に向かっては万札を溶かして寮に帰ることを繰り返している。秤は何かしら景品を手に入れているが何がここまでの違いを生んでいるのだろうか。

 

星はギャルになった。そう、ギャルになったのだ。

初めはピアスが増えていき、徐々に髪も伸びていった。聞くと、エクステを付けたりしながら伸ばしていっているそうだ。段々とメイクもしていっているようで、数日顔を合わせないとビックリするほど外見が変わっていることもあった。カタギの仕事ではないし、その辺は本人の自由にしたら良いと思う。俺みたいに日本刀をぶら下げているよりはよっぽどマトモな風貌だ。

 

それと星との模擬戦では、今のところ俺が全敗している。術式のタネが分からないまま、あちこちに振り回されては気付けば瓦礫に埋もれてKOだ。

 

星に限らず、この辺の単純な攻撃でない術式にはめっぽう戦績が悪い。

実戦ならば以前自分ごと爆破した様に自爆戦術を取れば、こちらに治療の手立てがある分何とか出来るがこれはいずれ解決しなければならない。

 

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「『拡張術式 フツノミタマの剣』」

 

1年余りの研鑽で作り上げたこの拡張術式の効果は、「正のエネルギーの増幅」。

 

賀﨑隆景の術師としての強みは正のエネルギーを通常の呪力と同じ効率で出力できることである。賀﨑の術師は二級術師の平均程度の呪力量と呪力出力を持っているが、隆景は二度の臨死体験によりどちらの能力も1級術師相当にまで引き上げられている。瀕死状態から回復した術師はその能力が回復前よりも飛躍的に高まることが多い。隆景は二度の瀕死状態からの回復により術師としての能力を大きく底上げされた。

 

だが、この成長は極限状態での生への渇望と死への恐怖が呪力に対する理解を高めることで起きる現象であり、仮に人為的な臨死体験を行ったとしても「生還できる」との安心がある場合は有意な効果は望めない。

 

そのため、隆景は「低燃費で反転術式を使用できる」という自身の強みを強化する方法を模索していたのである。そうしてたどり着いたのがこの『拡張術式 フツノミタマの剣』だ。

 

正のエネルギーの増幅とは言っても、こんな石剣を用意したからと言って簡単に達成できるものではない。縛りによる差し引きを行って目指した性能を達成させている。

 

縛りの内容は「この剣では、呪霊、人間の殺傷や治療をすることは出来ない。」というものだ。その代わりにこの剣を通して呪力を正のエネルギーへと変質させる際には、その総量と出力を爆発的に高める事が出来るようになった。

 

縛りの内容からして当然、この剣を戦闘に役立てることは出来ない。生み出しているのが正のエネルギーである点からして、呪霊に対して振るえばそれは殺傷行為となるため、呪力と合わせてこの剣は霧散する。

人間に対して振るう場合も同様に呪力ごとこの剣は霧散する。正のエネルギーを人間に流すことは治療行為に当たり、順転の成形で武器にしたとしても今度は殺傷行為として縛りを破ることになる。

つまり、この拡張術式は戦闘に使用できない代わりに正のエネルギーの量と出力を底上げするためのものなのだ。

 

なぜこんな面倒な仕様にしたのかというと、実はこの拡張術式は単体で使用することを想定していないからだ。他の拡張術式と組み合わせることを前提としており、完成した際にはエネルギータンクの役割を担わせる予定だが、未だ二つの拡張術式を組み合わせることには成功していない。

 

そもそも拡張術式を組み合わせること自体が(記録の限りでは)前例が無く、御三家の資料を漁っても参考にできるものは無かった。

故に独力で呪術界に無い新たな技術を作り上げる必要があり、未だ完成には至って居ない。

 

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ある日、俺は五条先生に依頼されてある病院を訪れていた。先生からは珍しく正確な時間の指定があったため、時間の5分前に目的の病院に到着したのだが、

 

「そこで止まれ。呪詛師がここに何をしに来た?」

 

黒髪の少年、中学生か高校生と思しき少年に道を塞がれてしまっている。というより明らかにこちらを敵視している。

 

(呪詛師という言葉を知っている。ということは呪術関係者で間違いないか。)

 

ひとまず誤解を解くべく対話を試みよう。相当血の気が立っている。下手に刺激しない方がいい。

 

「頼まれごとでここに呼びつけられたんだよね。それと俺は高専生だ。君の怪しむ呪詛師では無いよ。」

 

「信用できない。仮に高専生だとしても、ここに来る目的がない。」

 

少年は呪力を身に滾らせる。年齢を考えると驚異的な呪力だ。

 

「『玉犬』」

 

言の葉を唱え両手で何かの形を作ると同時に、少年の影から2匹の狼犬が現れる。

 

(影から式神を生み出す!?五条家の資料に似た術式の記載があったが、まさかコイツは!?)

 

「恵。そいつは僕の生徒だよ。戦う必要はない。」

 

玉犬と呼ばれた狼犬が飛び掛かろうとしてきたまさにその時、五条先生が突然その場に現れ、少年に矛を収めるよう諭す。

 

「津美紀を見てもらうために僕が呼んだんだ。恵にも津美紀にも危害は与えないよ。『玉犬』は解きな。」

 

少年は渋々といった様子で術式を解除する。納得いっていないのがありありと伝わるが先生に反抗したところで無意味だと分かっているのだろう。

 

「ところで先生。いつものことなので詳しいことは聞かなかったんですが、そこの彼は今日の用件の関係者ですか?」

 

「そ。この子の名前は伏黒恵。今日は恵のお姉ちゃんのことで来てもらったの。」

 

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