やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
10月某日
とあるスイーツ店にて。
「あら、まただわ!」
額に縫い目のある女、羂索はいそいそと手帳を取り出し、カレンダーに記録をしていく。
「これで今月は6個目。最近は週に3つのペースで解呪していっているわね。ふふ、どんな子なのかしら。」
自身の仕掛けが解除されて行っているというのに焦るどころか喜びを見せている目の前の奇人に対して、氷見汐梨…その体を乗っ取った平安の術師「裏梅」は苛立ちを見せる。
「羂じゃ、香織。喜んでいる場合か?前の万の時もそうだが、呪物にしているのは見込みのある術師なんだろう?それが次々に祓われているんだから少しは焦ったらどうだ。」
「私のことを心配してくれるの?それなら心配はいらないわ。まだまだ仕掛けた呪物は残っているもの。仕込んだ非術師の方も併せたら在庫はまだ1000も残っているわ。焦りなんてあるわけ無いじゃない。むしろあの呪物を祓える術師の方が興味深いわ。」
「オマエの心配などしていない。宿儺様の邪魔をするのなら許さんと言うだけだ。私の目的が妨げられないなら貴様の趣味などどうでもいい。貴様のような変態に目を付けられたその術師には同情するがな。」
そう言って彼女達はスイーツタイムを再開し、菓子を口に運び出す。
裏梅はこうした俗な場所に出張ることを厭っているようだが、それでも料理や菓子が出る店に来た際は少し機嫌が良いようだ。
恐らく彼女は復活する宿儺のために自身の料理の腕前を今でも磨いているのだろう。
羂索も工夫が込められたものには呪術関係なしに感心するし、それを為すものには敬意も持つ。それでいてそうした営みを蹂躙することに欠片ほどの躊躇を持たない点が人間社会と相容れないことの証左でもある。
こうして平安の術師達は今も平穏を装って現代社会に潜んでいるのである。
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前回の解呪以来、隆景は医療チームのみと同伴して全国を飛び回って例の呪いの解呪をしていた。
2017年現在で実働している特級術師は五条しかおらず、特級の任務の殆どは彼がこなすしかない。彼は誰にも替えが利かない人材なのだ。
故に付きっ切りでこの解呪作業に同行することは出来ず、それが作業が遅延する原因であった。
隆景は9月から高専を休学しており、被呪者の治療に全力を上げている。流石に休学の理由を正直に届け出るわけにはいかないため、高専側には「術師を続けることに迷いがあり、別の進路を考えるため」だとしている。
そんな訳で日夜全国の被呪者の元を駆け回っている隆景だが、12月のある日、五条からの緊急の連絡によって急遽京都に向かうことになった。
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12月24日 京都某所
「おっす、久し振り。」
既に集合場所で待機していた秤と綺羅羅に声を掛ける(ギャル度の度合いから、最近は星のことは綺羅羅と呼ぶようにしている)。
「お、隆景じゃん。」
「隆ちゃん、久しぶりー。」
先日、特級呪詛師夏油傑が呪術界に対して宣戦布告を行った。内容は12月24日の日没と同時に新宿と京都にそれぞれ1000体の呪霊を放つというものだ。たまたま京都に遠征中だった2年生組の秤と綺羅羅はそのまま京都の戦線に加わっている。
「休学中の学生でも呼び出されるなんて、上も夏油に関してはマジなんだな。」
「大マジだよ。それこそ五条先生がお前らを東京に呼び戻せないくらいにはな。」
「五条さんが余裕ないって?ありえねーな。そんなの地球に隕石が落ちるくらいだろ。それでもあの人は生き残りそうだけど。」
確かに先生なら宇宙に生身で放り出されてもしばらくは平気だろう。
だが、今回の夏油による襲撃はその先生を持ってしても予断を許さないものだ。
「夏油はべらぼうに強いそうだからな。ぶっちゃけお前らが東京に呼び戻されていないのは、夏油の呪霊操術に対抗出来る術師が京都側には碌にいないからなんだよ。」
「ここには御三家の人間も大勢いるんだぜ。心配しすぎなんじゃねーのか。五条さんらしくもない。」
うーん、これは夏油のヤバさを伝えておく必要があるかもだ。
「こっからは内密の話なんだが、いいか?」
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秤、綺羅羅と場所を移して五条先生から託された本題を切り出す。
「実は今回、俺が京都に回されたのは先生の指示なんだ。」
「なんか先生らしくねーな。」
「そんだけ夏油はヤバいんだよ。アイツは領域持ちの呪霊をいくつも持っている。簡易領域頼りの術師が相手をしてたんじゃ死人の桁が増える。お前らを京都に残しているのはヤバい領域持ちが現れたら引き受けてサクッと祓えってことだよ。綺羅羅の術式でヤバい呪霊と俺らをまとめて主戦場から引き離して秤の領域内でソイツを祓ってまた戦線に戻る。そうやって相手に形勢が傾かないように動けってのが先生の狙いだと思う。現に俺は先生からお前らのサポートと治療を優先する様に命じられてる。」
「命令なんてやっぱ先生っぽくないねー。なんか変な感じ。」
綺羅羅が違和感を唱えるが、確かに五条先生は普段は生徒に命令するような接し方はしていない。
不審に思うのも仕方が無いのでもう少し踏み切った事情を打ち明ける。
「俺が実家を出奔して東京に行ったってのは前に話したろ?実はそれは表向きの理由で、本当のところは賀﨑の家が五条先生に取り入るために俺を送り込んだって話なんだ。」
「人質かよ。気持ちの良い話じゃねーな。」
「そこは気にしなくて良い。実際に人質のつもりだったのは入学して半年間だけだし。その後は実家とは本当に縁を切って高専生としてやってきたしな。ただ五条先生にはその時から後ろ楯として保護してもらってる。さっきは命令って言ったけど、先生は指示を出しただけのつもりだと思うよ。俺としては恩に報いるために張り切っているってだけの話。」
誤解させて悪かった、と謝罪してから続ける。
「後は…お前らが京都校や御三家の連中に因縁つけられた時に手を出さない様にお目付け役だよ。お前喧嘩売られたら倍以上にして返すだろ?」
「当たり前だろ。術師が喧嘩売るなら殴り返されるのも当然覚悟してるだろ。」
「そんなキッパリした奴は滅多にいないよ。特に御三家の連中はな。まあ、そういう訳で東京に帰るまでは絶対に揉め事は起こさせないからな?」
「へへっ、隆景に止められるもんかよ。」
「金ちゃんの方が強いもんねー。」
「お前ら頼むよ…」
時刻は15時を過ぎた頃。決戦の開始が迫っていた。
羂索を女性口調で喋らせるのが楽しくなった来ました。