やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
戦闘は日没よりも少し前に始まった。
事前の通告よりも少し早い。夏油一派が何やら連絡を取り合った後に時間を繰り上げて攻撃が始まった。動揺の内に強襲を掛けるべきとの意見もあったが、京都方面の責任者である京都高専学長の楽巌寺嘉伸はその意見を退けた。呪霊はともかく術師の数ではこちらが圧倒している。この状況ならば無理な攻めをする必要はないという堅実な姿勢だ。
先に仕掛けたのは夏油一派だった。まずは低級呪霊をけしかけ、こちらの布陣を乱す狙いのようだ。
これに対し、術師側は当初の予定通り迎撃を始める。既に周囲の住民は避難を完了させている以上、無理に祓除を急ぐ必要はないからだ。
戦力を徒に消耗しないよう慎重な戦いが続いた。
こうして京都での戦いはスローペースで進行していた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
隆景は戦況を見て今後の行動を思案していた。
東京高専組は予定通り3人で固まって夏油一派の呪霊を祓っていた。
等級の低い呪霊は『水遁 水手裏剣』、大型のものや硬度のある呪霊は『水遁 水断波』を使い分け、打ち漏らした敵は秤と綺羅羅が個別に対応することで対処出来ている。
配置場所が河川の付近であることも幸いした。
これならば、呪力を呼び水に実物の水を操作することで少ない呪力消費で水遁術を行使出来る。既に相当数の呪霊を祓っているが消費した呪力は一回の2級相当の任務よりも少ない。
こちらの一団に特に多くの戦力が割かれるわけではない以上、東京組は特段圧迫されることなく順当に戦いを進めていた。
(これなら
隆景は肩に下げた鞘袋を見ながらひとり思案する。
油断するべきではない。こちらの戦線に夏油傑本人がいないとしても相手の隠し玉も考慮して備えなければならない。しかし開戦から1時間近く経ち、夏油一派が強力な呪霊を投入し始めるもこれに応じて御三家戦力が本格投入された。
結果、形勢は未だに術師側が優勢なままである。隆景はこれ以上の呪力消費は避け、戦闘終了後の治療に呪力を温存するべきかと考え始めていたが、その時、戦場に異変が起きた。
巨大な黒い影。
現代人の畏怖を集める“黒い悪魔”が襲来した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「呪物の開封は高専側術師の500m地点くらいで行うのがちょうどいいと思うわ。開封自体は遠隔で行えるように工夫してるから、探知されない距離でこれを使ってちょうだい。お願いね。」
裏梅は呪符を呪力で焼き切り、羂索から依頼された通りに呪物を開放していた。
開放が成功したことは強化した視力で確認している。
ここ京都はかつての都であり、裏梅にとっても馴染みのある土地であった。故に街中を通る水路のことは把握していたし、式神として作成した小舟に呪物を載せて戦場の間近まで運ぶことで自身は戦場に近づかずに呪物を開放することに成功していた。
「羂索め、あんな汚らわしいものを私に運ばせたのか。」
渡された呪物は桐箱に閉じられていたが、いざ中身を開封すれば大量の害虫が溢れ出している。
汚らわしいことこの上ない。一刻も早く体も服も良く洗浄せねばならない。彼女は結果を見届けようともせず足早に戦場を去った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
北の方角、夏油一派とは真逆の方角から禍々しい呪力が現れる。
その方角を見やると、大波かと見紛うほどの“影”がこちらに迫り、術師に襲い掛かろうとしていた。
「『水遁 大瀑布の術』!」
河川から大量の水を調達し、影に対抗するべく次の術へ繋ぐ。
「『水遁 水鮫弾の術』!」
影に対して、攻撃を浴びせるがその勢いは衰えない。
(威力が落ちない!?これは呪力塊ではなく実体か!)
実体があるなら攻め方を変える。電撃で自傷するが手段は選んでいられない。
「『雷遁
浴びせた水に電撃を流し込み感電死させる。だが電撃は影の奥までは届かない。やはりこの影は小型生物の群体が成しているものだ。表面に位置する個体達が分離・密集して被害を請け負うことで電撃が群れ全体に伝播することを防いでいる。
(こいつは…虫!?)
影の正体は虫…
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
黒い呪霊、黒沐死を生み出した呪物を渡す際、羂索は今回の介入の意図を説明していた。
「コレは私が1000年の間にコツコツ集めていた呪物の一つよ。中身は術師ではなく、呪霊。生贄の肉体を用意する必要もないから、この呪符を焼き切るだけで封印の方も解かれるわ。お願い出来るかしら?」
「なぜ私が貴様に使われてやる必要がある?呪詛師側に肩入れして何の益があるというのだ。」
裏梅は自らの主たる宿儺のために行動している。羂索と交流を持つのも情報を得るのに都合が良いからに過ぎない。彼女は宿儺に関わらぬことで羂索に使われるつもりは無かった。
「総監部を通して術師を洗っていたらね、例の呪物祓いの術師にあたりが付いたのよ。賀﨑隆景。東京高専の3年生で現在休学中。今年の夏頃から行動の足跡が殆ど残っていない。詳しく調べたらどうも五条の人間と全国を移動しているみたい。手に入れられた旅程と祓われた呪物を照合すればほぼ確実にこの術師が例の呪物祓いよ。」
「そんなことはどうでもいい。私は何故貴様の使い走りにならねばならぬのだと聞いているのだ。」
今度は明確な怒気を孕んだ声で羂索を睨みつける。
「そんなに怒らなくてもちゃんと説明するわよ。この術師、今は五条悟の命で呪物祓いに奔走しているようだけど、今後の時勢次第ではどんな動きをするか分からないわ。最悪の場合、宿儺の指を祓おうとするかも知れない。」
「宿儺様がそんな下郎に劣るとでも言いたいのか!」
裏梅は激昂し、呪力を昂らせる。それに対して羂索はあくまで冷静に諭す様に言葉を続ける。
「あくまでリスクの話よ。呪物化という縛りがある上に、中身は宿儺よ。その指を破壊することは人間には不可能であることに違いないわ。」
「当然だ。人間如きが宿儺様を害すことなどできんと先ほどから言っているだろう。」
「だけど指の一本を破損させる位のことは出来るかもしれない。例えば自死と引き換えに呪力の限界を跳ね上げるとか、能力以上の力を発揮する方法はいくつかあるわ。手段が数多ある以上、最低でも表舞台で活動出来ない程度には追い詰めたいのよ。」
僅かでも可能性はある、そう言われてしまうと裏梅も今回は協力せざるを得ないかと苦々しくも同意する。だが、まだ説明されていない部分があった。
「使いの件は引き受けてやらんでもない。だが、それなら貴様が直接京都に出向けばよいだろう。私を使う理由を教えろ。」
「今回の騒動、夏油傑の本命は十中八九東京高専の乙骨憂太、というよりは取り憑いている『折本里香』だと踏んでいるわ。その乙骨は現在東京にいる。つまり、夏油傑を獲るためには東京から離れるわけにはいかないのよ。」
そう告げる羂索の顔は柔和な女性の笑みを浮かべていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ギャア!」「おわぁ!」「ヴヴっ!」
影、いや虫が術師側の布陣に到達し、逃げ遅れた者らが喰われていく。呪力で体を強化できるにも関わらず術師が体を食いちぎられている。恐るべき咬合力。こいつを放置するわけにはいかない。
「綺羅羅!こいつと俺をくっ付けろ!ここから無理やり引きはがす!呪力は共通しているようだ。群れの一匹にでも触れれば出来るはずだ!秤、お前が綺羅羅を抱えてサポートしろ!」
綺羅羅が生理的嫌悪感から最初に反応する。
「えぇ!あんなキショいのに触るの!?」
「悪いが我慢しろ!こいつはほっとけない!」
秤は敵の強大さを感覚で理解した上で確認をする。
「一人で手に負える奴には見えねぇぞ!ホントに行けんのか!?」
「多分、こいつらはお前の領域と相性が良くない。俺の火遁術の方がマシな筈だ!引きはがしに専念して対策を考える。どうにもならないならまた合流するから、それまでここを頼む!綺羅羅は絶対に負傷させるな。術式無しじゃこいつを制御できない。」
そう言って隆景は秤と綺羅羅が取り付く隙を作るために影に対して攻撃を開始する。
今の位置関係では術師側から先に被害を受ける。夏油一派の様子を見るにこいつは奴らの援軍ではないようだ。現に夏油側の呪霊も何匹か既に喰われている。
最低でもこいつを夏油一派側にぶつけて押し付ける必要がある。
それが叶わなければ最悪の場合…
隆景は肩の鞘袋を確かめながら影に対して突撃する。
羂索は出来るだけ気持ち悪くあってほしい(願望)
あと雷遁の術を探したんですが、千鳥以外は殆どアニオリ、映画オリ、小説オリばっかで意外と少なかったです。