やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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短めの続きです。


第二話 血統書付きの落後者

2015年4月1日 呪術高専東京校

 

新年度の初日、16の学年を迎えた俺は新たな学び舎にて入学の挨拶をしていた。

 

「本日入学しました賀﨑隆景です。よろしくお願いします。」

 

そして目の前にいるのは、

 

「はい、よろしくー。僕はここで教員をやっている五条悟。GLT五条先生(グッドルッキングティーチャー)って読んでね。まあ賀﨑の出身なら僕のことは当然知っているとは思うけど一応ね。」

 

御三家の一角、五条家の当主にして最強の呪術師、五条悟。

 

今日から俺は、わざわざ京都の実家を離れて、ここ呪術高専東京校にて呪術師としての生活を始めることになるのである。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

呪術師が教育機関に通うことは珍しいことだ。

 

呪術師の世界に身を置く以上、一般的なものの見方というのは邪魔になるし、「見えない」ものが見える人間を一般社会に放り込んでも碌なことにならないためだ。

 

「呪い」という陰湿な代物を扱い、ただでさえ思想が内向きになりがちな稼業である上に、その家が歴史を重ねているとなればその傾向はより顕著なものになる。

 

大抵の呪術師の家系は術師としての能力と思想の教育を優先し、一般的な教養の学習はおざなりにしている。せいぜい家庭教師を雇って家の中で学ばせる程度だ。

 

しかし、世間には術師の家系ではない一般の家庭から生まれる術師も僅かながら存在する。

そもそも術師の家系も元を辿れば、強い才覚をもった個人が興したものだ。

一般家庭出身の術師が生まれるのも当然のことである。

むしろ、より多くの術師を輩出するために術師同士で血筋を重ねてきたのが加茂、禪院、五条の御三家に代表される呪術の大家や我が賀﨑家などの旧家なのである。

 

そういったわけで、一般家庭出身の術師を発見・確保し、術師としての教育を行おうというのがこの呪術高専の主な役割の一つなのである。

他にも呪霊対策の拠点という面もあるがそれは今語る必要はないだろう。

 

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「いやー、今年の新入生は今のところ君一人だけなんだよね。他の1年生との顔合わせもないし、今日は施設の案内だけ済ませちゃおうか。」

 

そう言いながら、五条悟…もとい五条先生は廊下を進んでいく。

その佇まいだけから伝わる噂以上の覇者のオーラに圧倒されつつも、なんとか後をついていく。

 

「そんなに畏まらないでよ。まあ、君の家のことを考えれば身構えちゃうのもわかるけど、今日から君は僕らの大切な生徒なんだからさ。」

 

「いえ、そんな…恐縮です。」

 

「実際、君が入学してきてくれて助かったよ。この業界、特に学生はとにかく人手が足りないからね。君がいなけりゃ今年は新入生ゼロになるところだった。それにある程度の実力を持った子が入ってくれると他の学生にもいい影響になる。期待しているからね。…君も実家がうるさくて大変だろうけど、二度とない青春だ。たくさんのことを経験するといい。」

 

先生は俺がわざわざ高専、しかも東京校に送り込まれた理由も何もかも当然把握しているようだった。

 

「術師の本分を超えすぎない程度に頑張ります。」

 

通常、賀﨑家の人間は高専に通うことなく術師になっていく。

先生の言う通り、俺が高専に送り込まれたのは家の事情によるものだ。

 

「そうそう、これが君の学生証ね。4級からのスタートになるけど不満かな?」

 

先生が差し出したのは他でもない俺の顔写真が印刷された学生証だ。

ちなみに半目で映っているため、少々恥ずかしい代物だ。

 

「いえ、術式が無いんですから当然です。」

 

そういって俺は先生から学生証を受け取り懐に仕舞う。

 

「賀﨑の出身なんだから術式の有無を基準に等級を決めるのには反対したんだけどね。お偉いさん方には実力よりも格式の方がよっぽど大切らしい。」

 

先生は気にしないと言ってくれているが、実際のところ術師にとって術式は才存在価値の9割以上を占めるといっても過言ではない。術式を持たない術師は呪術界においては、居ないにも等しい存在なのである。

 

しかも賀﨑家には非常に残念な血統というか遺伝する性質がある。

 

賀﨑家の人間は術式を持たないのだ。

 

呪力を扱えない一般人として生まれるのならまだしも、術式さえあれば一線で戦えるほどの十分な呪力を持っているにも関わらず、だ。

 

術式がすべてを左右する呪術界において、このことは賀﨑家を落伍者の一族とするのに十分な理由だった。

 

それにも関わらず、賀﨑家は涙ぐましい努力によって家を存続させてきた。

その方法の一つが術師を大量に呪術界に供給することだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

先にも述べた通り賀﨑の人間は術式を持たない。

 

だが、一族の人間は皆、例外なく呪力を備えており何とか呪霊と戦うことはできた。

そこで賀﨑は代々生まれてくる子供をすべて術師として厳しく教育し、人手不足が常である呪術界に貴重な労働力を送り込む家系として独自の地位を築いた。

 

術師はただでさえ社会の少数派だ。その喪失は一般社会の人的資源のそれよりも重い意味を持つ。

そこに自己の犠牲を厭わないように教育された術師を供給し続けることには一定の価値があった。

 

加えて一族は政治的にも巧みに立ち回ってきた。

呪術界の中心である御三家のいずれにも完全には帰属せず、かといって断絶するわけでもなかった。むしろ時世に応じて接近する家を切り替えていくことで立場を守ってきた。

 

御三家からすれば落伍者の集まりに過ぎない集団だが、関係が途絶えると使い捨ての便利な駒がいなくなることになる。

そのことを躊躇させる程度には賀﨑の「数」という要素には魅力があった。

 

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「賀﨑が僕と近づこうとしていることが上層部にとっちゃ気に食わないんだろうけどね。ま、実力で黙らせてチャチャッと昇格しちゃいなよ。」

 

そういって歩き出した先生に慌ててついていく。

 

近年の呪術界の上層部では加茂家が幅を利かせており、我が賀﨑家は当然その加茂家と親密な関係を保っていたのだが、近年は五条家の絶対的当主であり現代呪術界最強の存在である五条悟の活躍(横暴含む)により加茂家の権勢には陰りが見えてきている。

 

平安の昔から常に擦り寄る先を変えてきた賀﨑家としては今後を考えると五条悟には早いうちから近づいておきたい。

だが、そのために加茂家から一気に大きく距離をとるのはリスクが高い。

 

そこで、当主候補ではないが有望株ではある俺を東京高専に送り込み、五条悟の元で指導を受けさせることで彼の一派に賀﨑の人間を含ませようとした訳である。

 

依然として上層部が加茂家を中心としている中で五条家に接近しようとするのは上層部の不興を買う恐れがあるが、そうした綱渡りを行わねばという危機感を持つほどに五条悟の影響力は大きくなり続けていた。

特に彼が高専の教師となってからは、高専の学生・卒業生に彼の影響を受ける術師が増え続けている。

 

そうして東京高専に送り込まれた俺は、何としても高専在籍中に彼に気に入られて賀﨑家と五条家とのパイプ役になるという使命が課されていた。

 

目標は卒業時までに一級術師に昇格すること。

それがこの怪物の目に留まる最低条件というのが賀﨑家の予測だ。

 

先行き不透明、おまけに目標もあやふやな俺の学園サバイバルはこの日始まったのだった。

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