やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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後書きで黒沐死関連の時系列の矛盾についてウダウダと言い訳しております。
お時間があればお読みいただけると幸いです。


第二十話 悪魔からの逃亡

「隆ちゃん!マーキング、OKだよ!」

 

途端、蜚蠊(ゴキブリ)達が急速に隆景の体に迫ってくる。

 

「よし!さっき言った通り俺はコイツをここから引き離す!お前らは領域持ちとだけ戦え!あとは任せる!」

 

「密着しすぎないように調節したつもりだけど、それでもずっと近距離だからね。気を付けて!」

 

「任せろ、ありがとう!後でLINE送るから、そしたら術式の解除を頼む!それじゃあな!」

 

風遁による空気抵抗の操作を最大限にして、隆景は主戦場からの離脱準備を開始する。今の隆景と黒沐死の間には互いに引き合う力が生じている状態だ。これまでの戦闘からこの呪霊は見境無しに人を喰っているが、自身を妨げるものがあれば優先的に襲い掛かると隆景は推定していた。

 

この近辺において隆景の呪力は飛び抜けて高いわけではない。今のままではこの呪霊は他の術師も狙おうとし、隆景も呪霊に引き寄せられ離脱は叶わない。コイツをここから引き剝がすためには互いを標的と見做す状況を作らなければならない。

故に隆景は早くも秘策の一つを切る。

 

(『拡張術式 フツノミタマ』!)

 

周囲に目撃されないように外套の内側に石剣を生成する。これにより正のエネルギーを増幅し、隆景が呪霊にとって優先的に排除するべき対象であると認識させることが狙いだ。後は呪霊が興味を示すかだが…。

 

ギチュギチュギチュギチュギチュギチュギチュギチュギチュギチュギチュギチュギチュ!

 

果たして呪霊はこちらに矛先を変えてきた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

黒沐死は長い封印から目覚めた直後の空腹から周囲の生物を見境無しに貪っていた。どういう訳かここには強い力を持った人間が多数いるが、黒沐死にとって食事の妨げになることではなかった。

 

ところが黒沐死は自分の体が自由に動かないことに気づいた。何かに体の動きを妨害されているようだ。異常を感じた方向を確認すれば武器を持った人間が一人。自分はあの人間の方へ引き寄せられているようだ。そのせいで食事が妨げられている。

 

だが、まだ群れ全体を動かせないわけではない。食事をしつつ例の人間の方は適当に殺す。黒沐死がそう判断しかけた時、例の人間から異質な力が高まっていることに気付く。危険だ。あの力は自分を致命に至らせる可能性がある。

 

黒沐死はその人間について、ただの食料から自分を殺しうる脅威へと認識を改める。あれは真っ先に殺して喰うべきだ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(群れの意識がこちらに向いた!)

 

群れへの攻撃を続けながら、隆景は離脱を開始する。目標は付近の山地。京都は市内近郊にも神社仏閣とそれが位置する山々がある。普段であれば参拝者などの目についてしまうが、現在はこの呪術テロに備えて人除けがされている。今日であれば目撃者を巻き込む心配も少なくて良い。

 

水場から離れたことで水遁系の術は扱いづらくなった。しかし剣術のみでこの大量の蜚蠊(ゴキブリ)を捌き切ることは難しい。であれば。

 

(『火遁 鳳仙火の術』!)

 

いくら蜚蠊(ゴキブリ)が強靭な生命力を持っていようと生命である以上熱への耐性は限界があるはずだ。口から火を噴く以上口腔への自傷は避けられないが、反転術式と火遁の攻撃を交互に繰り返しながら目的地までの時間と距離を稼ぐ。

 

(俺が普通の反転使いならとっくに呪力は尽きていたかもしれないな。)

 

本来であれば、大量の呪力消費を伴う反転術式だが隆景は体質による呪力の変質によってこれを行使している。故にこそ自傷を前提とする無謀な離脱作戦は成立していた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

決死の逃亡劇の末、隆景は呪霊を引き連れて山地に移動することに成功していた。

ここに至るまでも火遁忍術を使用してきたため、通過してきた山地には火災が起きてしまっている。

山火事は危険だ。申し訳ない。だが、地元の人間には悪いがこの状況は意図して作ったものだ。そろそろ大技をぶつけてこいつを仕留めなければこちらの呪力が底をつく。

 

(『火遁 豪火球の術』!)

 

これまでで一番大きな身の丈大の火球を群れに浴びせると同時に、懐の油瓶の中身を一気に口に含む。そして豪火球を防ぐために密集して術を防ぎ切った群体に対して次の術を放つ。

 

(『【偽】蝦蟇油弾の術』)!)

 

口に含んだ油を元に呪力を変質させ増大させた大量の油を蜚蠊(ゴキブリ)の群体に吹き付ける。

隆景は油への呪力変質を完全に習得出来ていない。それゆえに本物の油を取り込みそれを増殖する形で油を生成した。

 

(よし、油の準備は出来た。こいつで止めだ!)

 

大規模な忍術行使のために呪力を放出し付近に広げる。これであのうっとうしい虫どもを焼き尽くす!

これまでに起こしてきた火災の炎を火龍の形にまとめ上げ、自身の口からもこれまでで最大の炎を放つ。

 

(『火遁 火龍炎弾の術』!)

 

放たれた数多の火龍は散々手こずった虫の群れを包み込み、大爆発と共に燃やし尽くした。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

隆景は爆風により吹き飛ばされた体を何とか起こす。

 

(残りの呪力は3割ってところか。体質があってもやっぱり反転と忍術の同時使用は負担が大きいな…。)

 

爆発の中心点からは煙と共にたんぱく質が燃える際に特有の異臭が漂っている。

 

これから火の後処理をしながら、戦線に戻らなければならない。疲労の溜まった体に呪力を流し喝を入れ、綺羅羅に術式解除を要請する連絡を送る。

 

そこで異変に気づいた。

 

「呪力が消えてない…だと!」

 

疲労で呪力感知を怠っていた隆景はようやく気付く。呪霊は未だ健在である事に。

 

「何故 邪魔 ヲスル。」

 

瞬間、煙の中から影が現れる。

 

「何故 邪魔 ヲスルゥ゙!!」

 

漆黒の体から二対の腕と一対の足を生やした異形が隆景に襲い掛かる。

呪霊はこれまた異様な形状の刀を手に隆景へと斬りかかる。

 

「っ!」

 

刀を受け止めようとした寸前に、幼少期から剣術を叩き込まれて来た故の違和感から隆景は刃を受け流すことで鍔迫り合いを避けて飛び退く。

呪霊の刀は刀身部分の穴から弾丸を発射していた。

刃を受け止めていれば、綺羅羅に術式の解除をしてもらっていなければ、アレの直撃を受けていたかも知れない。

 

隆景は自身の第六感に感謝しつつ、この呪霊との立ち会い方を思案していた。

呪霊は多少の損傷の跡こそ有るが、未だ健在で戦闘態勢にある。先の攻撃は群れを身代わりにして防いだのかも知れないが、現在の隆景が持つ最大火力である油と火遁の複合攻撃を凌がれ残りの呪力も心許ない以上、複合攻撃の2度目の成功は無いと結論付けた。

 

その時、呪霊は新たな行動に出た。呪力を放出し、周囲に何らかの働きかけをしたようで、周囲の木々の下から新たな蜚蠊(ゴキブリ)が集まってくる。コイツは自然環境の虫も使役できるらしい。だが、呪霊は苛立っている様子だ。

 

「何故 集マラナイ!ココニハ 同胞ガ イナイノカッ」

 

先ほどまで数百匹の虫を使役していたようだが、今は数十匹程しか集められていない。

山中ならば蜚蠊(ゴキブリ)は少なくないはずだ。恐らくこの地の結界が呪霊の呪力が伝播することを妨害して、呪霊が虫を呼び寄せる有効範囲が狭まっているようだ。

 

状況を整理する。

 

(綺羅羅の術式は既に解除されている。これ以上あの呪霊をここに拘束することは出来ない。このままやり合えば俺は苦戦を強いられるだろう。かといって、応援を求めるために俺が都市部に戻ればあの呪霊も追ってくる可能性もある。夏油一派も巻き込めればプラスもあるかもしれないが、万が一、呪霊が別方面に向かえばあの凶悪な怪物を野に放つことになる。)

 

(…………)

 

隆景は2つ目の秘策を切る決断を下す。

鞘袋から顕明連(けんみょうれん)を取り出し、秘匿してきた「術式」を起動する。

 

「『凝固呪法 順転 成形(せいぎょう)』」

 

術式の保持が露呈することを避けるために、これまで鍛錬場の外では術式を使わないようにしてきた。

しかし、恐らく特級と目される眼前の呪霊に対してこれ以上の出し惜しみは命取りになると判断した。

 

「『拡張術式 退魔の剣』、『拡張術式 フツノミタマ』」

 

拡張術式を順に起動させる。

 

隆景の手には二振りの剣が握られている。

一つは顕明連(けんみょうれん)に正のエネルギーの塊を纏わせた『退魔の剣』。顕明連(けんみょうれん)が元々備える魔を祓う性質を術式により更に強化した呪霊特攻の剣である。

 

もう一つは『フツノミタマ』。正のエネルギーを固形化して生成した石剣。この剣による攻撃を禁じる「縛り」により正のエネルギーの増幅器としての機能を持つ補助具。

 

二つの剣を重ね合わせ、さらなる拡張術式を発動させる。

 

「『二段拡張 退魔の巨剣(スピリット オブ ソード)』」

 

術式により形成された巨剣を構え、胸中で決意を固める。

 

(コイツはこの場で俺が単独で祓う。)




黒沐死について。

「私が配った呪物は千年前から私がコツコツ契約した術師達の成れの果てだ」
「だが私と契約を交わしたのは術師だけじゃない」
「まぁそっちの契約は この肉体を手にした時に破棄したけどね」
単行本16巻 第136話 渋谷事変53 内での羂索の上記の発言とその後に大量の呪霊を放ったことから、黒沐死については次のような時系列だと思っていました。

①羂索が夏油の体を手にするよりも前に黒沐死と呪物化の契約を結び、黒沐死は呪物になる。
②羂索は夏油の体と呪霊操術を手に入れてから、呪霊の呪物については順次封印を解き、呪霊操術で取り込んでいった。この時に黒沐死も呪物の状態から解放して呪霊操術に加えた。
③死滅回游の開始時に、黒沐死を呪霊操術のコントロールから外す。

しかし、単行本20巻 第173話 東京第1結界13 内では黒沐死について、
「等級は特級(登録済)」とあります。

①~③が正しいとすると、黒沐死は百鬼夜行後に解放され、死滅回游開始時点までに特級認定されていることになります。羂索がなるべく早く解放したのなら特級認定されるまでの時間はあるのかもしれませんが、事を起こすよりも前に黒沐死を野に放つのはあまり合理的には思えません。

そうなると、先の①~③で推測した黒沐死の時系列は間違っており、正しくは次のような時系列だったのではないかと考えられます。

①’黒沐死は元々在野の呪霊で百鬼夜行以前から特級認定を受けていた。
②’呪霊操術を手にした後に羂索が野生の黒沐死を調伏して呪霊操術の戦力に加えた。
③’死滅回游に際して、黒沐死を仙台結界に放った。

長々と書きましたが、要は黒沐死は呪物にしてコレクションしてきた呪霊ではないことに気付いてしまったということです。
しかし、本作では、黒沐死が呪物化した呪霊であることを前提に裏梅ちゃんがパシられたりしています。
このことに気付いた時には本話の投稿直前で既にそこそこの文章を書いており、修正しようとするとこれまでの投稿にも結構な修正が必要になる…。

そこで開き直って、本作では原作の描写に背いて、①~③の誤った時系列でこのまま続けようとします。
羂索がアホな言動をとった上に、黒沐死が爆速で特級認定を受けたことになりますが、その…許してください…。
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