やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
(『シン・陰流 八相 暁』!)
呪霊に対して、八相の構えから突きを繰り出す。
通常の刀ならば、身を捻るだけで躱せる突きかも知れないが、今は隆景自身の身の丈を大きく上回る大剣を振るっている。この巨大な刃から逃れるには呪霊も大きな回避行動を取らなければならない。体勢が崩れた所へ次撃を畳み掛ける。
(『シン・陰流 脇構え 一薙ぎ』!)
先の攻撃を躱すために跳躍した呪霊に横薙ぎの一閃をお見舞いする。
攻め手に欠ける。不気味なのは呪霊の持つ武器だ。中華包丁のような見た目だが、刀身の一部には何かの噴射口があり、先程はそこから虫が撃ち出されていた。あれを喰らえばどうなるのかわからない。警戒して鍔迫り合いにならない様に立ち回って来たが、間合いを開けていては、あの呪霊に有効打を与えるのは困難だろう。
隆景は知らぬことだが、黒沐死の持つ呪具の名は『爛生刀』。その能力は刀身の噴射口から虫の幼生を撃ち出し、相手に産み付けること。産み付けられた幼生は宿主の肉を喰い急成長を遂げ、やがては宿主を喰い尽くす。命を産み付けることで命を奪う。その有り様からこの呪具は「生と死の交雑する魔剣」と称されている。この刀と正面から打ち合うことは即座に致命傷に繋がる。
(奴の間合いに踏み込んであの呪具と打ち合う。この剣ならアレにも対処できるはずだ。)
この巨剣は『退魔の剣』を核として『フツノミタマ』で増幅した正のエネルギーを順転術式
(呪物の跋除もある種の攻撃。これまでの解呪が成功している時点でこの「縛り」の潜り抜け方は実証済みだ。呪霊相手の検証は出来ていなかったが、この土壇場だ。やるしかない。)
呪霊の元へ踏み込み巨剣を振るう。巨剣は呪霊の呪具に阻まれ激突音が響く。呪具の呪力が高まる。先ほどの弾丸をまた撃つつもりだろう。
(撃たせるか!)
ぶつかり合った刀身を通して正のエネルギーを相手の呪具に流し込む。すると発射寸前だった弾丸は消失反応と共に消え去り、次弾が装填される様子もない。ひとまず呪具の抑え込みには成功したようだ。
鍔迫り合いの状態から相手の刀をかち上げ、空いた胴に向かって刃を振る。が呪霊との間に先程呼び寄せられたゴキブリが割り込み、身を呈して主を守り消し飛ばされてゆく。
暇を与えずに一閃二閃と畳み掛けていく。呪霊はこの剣の特殊さに気付いているようで決して体で刃を受けようとはしない。必ず例の呪具でこちらの剣撃を捌いている。六本の手足を持つ異形を活かし、器用に呪具を持ち替えながら隆景の攻撃を防いでいる。
だが、その均衡は徐々に崩れていく。方や攻撃の一手段として呪具を扱う呪霊。方や剣術の鍛錬に生涯を費やしてきた達人。手数の差というアドバンテージが技量の差によって覆されていく。
呪霊は戦況を変えるべく、新たな手を繰り出す。
【『
数的有利を得るために下腹部が袋状に大きく膨らんだ虫型の式神を生み出したが、
ザンッ!
隆景が横薙ぎに振るった剣により威力を発揮する前に消失する。
だが、呪霊はそのために極端な体勢を取ったことを見逃さなかった。剣を握っていない左半身側から隆景に斬り掛かる。
このタイミング、姿勢ならば体を翻して打ち合おうとしても間に合わない。
だが、必殺の一撃は何と素手で受け止められた。
驚愕する呪霊。その刀は刃の側面を指で摘まむように受け止められていた。
「藍染の真似。案外出来るもんだな。」
半身を返し、呪霊に巨剣を叩き付ける。呪霊は躱しきれず剣ごと右腕の一つを切断される。
右腕を失った呪霊は途端に敗北を恐れたのか、飛翔し逃走を図る。
隆景も跳躍し呪霊を追いかける。
【『
呪霊へ向け突進する隆景の前に再び虫の式神が現れる。式神は隆景が対処する前に自爆し、大量の液体を撒き散らす。液体を払い飛ばし視界が晴れた時、呪霊は鋭角な方向転換を済ませ、隆景の進行方向とは真逆の方向へ逃走していた。翼を持たない人間では空中で進行方向変えることが出来ない。このままでは着地するまでにあの呪霊を見失ってしまう。だが、
「
背を向け逃走する呪霊へ向け延伸したままの
「私ハ、私ハァッ!」
ザフッ
体を真っ二つに断ち切られた呪霊は消失反応と共に消失する。
隆景がその名を知ることは無かったが、黒沐死という呪霊は本来の脅威を十全に発揮することなく消え去った。
短いですが何卒…