やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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本作では(作者が区別できていないため)、総監部と上層部という用語は何となく同じものを指している感じで使用されています(馬鹿)。


第二十二話 キラキラ(返り血)の新生活(上)

みなさんこんにちは。お久しぶりです。賀﨑隆景です。

私は今人探しをしています。

 

尋ね人は呪術高専東京校2年生の秤近次君と星綺羅羅さんです。

彼らは昨年12月24日に呪詛師夏油傑が起こした呪術テロの際に、京都で都市の防衛に従事しておりました。事前に注意していたにも関わらず、売られた喧嘩を買ってしまい旧家の術師連中を半殺しに。その結果、高専から停学処分を受け、以来行方知れずとなっているのです。

 

彼らが高専に反発した原因には多少ですが、私も関係があります。

というのも私、賀﨑隆景も京都で下手を打ち、処刑の対象となってしまったのでやむなく逃走した結果、現在は呪詛師として呪術界から追われる身となったのです。

 

秤と星は自身らの扱いと私に下された処分に不満を持ち、現在は消息を絶っているようなのです。

そういう訳で私の無事を伝えることと彼らの安否を確認するために現在、関東近郊を捜索して回っているのです。

 

え?追われる身でうろちょろして大丈夫なのかって?

 

そこはあれですよ。ご先祖様から授かった術式がありますからね。結界に潜伏しながら各地を移動して、残穢はちょちょいと崩形(ほうぎょう)で消して何とかやっています。

 

むしろ、通信記録やらの一般的な痕跡を残さない技術を習得する方が大変でしたよ。

口座からお金を下ろせばすぐに足が付いちゃいますからね。携帯もキャリア契約の物は使えないし。仕方無く行く先々で呪詛師やら反社会的な集団に属している皆様から小銭やら何やらを頂戴(ごうだつ)しながら暮らす日々ですよ。

これもう本物の呪詛師と変わんねえな。

 

それにしても秤君と星さんはどこにいるのやら。

最近お話ししたお兄さん(懸賞金目当てで襲ってきた呪詛師)曰く、近頃呪術を使った格闘技の掛け試合が盛り上がっているそうです。ギャンブル大好きな秤君のことですから、何か情報があるかも知れません。そちらを当たってみるのも良さそうですね。

 

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楽巌寺嘉伸(がくがんじよしのぶ)は所謂保守派に属する術師の中でもその筆頭である。

革新派である五条悟とその影響を強く受けている高専東京校とは相容れない考えの持ち主でもある。

だが、楽巌寺は賀﨑隆景という学生に対して悪印象は持っておらず、むしろ一定の評価さえしていた。

 

先にも述べた通り、楽巌寺は保守派の術師である。そして多くの保守派の術師にとって「賀﨑」という家系は嘲り、使い捨てる存在である。術式を一つも持たないくせに一丁前に呪力だけは備えている出来損ないの一族。術師の多くは呪力を持たない非術師を見下しているが、だからと言って術師同士が皆友好関係にある訳ではない。むしろ「術式の格」を競い合い、対立する。そんな術師の世界において、賀﨑の一族は自分たちの立場を脅かすことの無い最底辺ともいえる存在だった。いくら嘲ろうがその上下が揺らぐ事など永劫無い。術師社会にとって賀﨑家はいくら馬鹿にしても殴り返して来ず、術師同士の話の種として蔑まれるのが当然の、仲間意識を高めるための存在であった。

 

保守派とは現行の呪術界の体制維持を望む術師のことを指し、その多くは「術式の格」を重要視する者たちである。

楽巌寺嘉伸(がくがんじよしのぶ)も「格」の高い術式を保持し、呪術センスにも優れた正に「正統派」の術師であり、その実力により京都高専の学長にまで昇りつめた男であった。

だが、楽巌寺は暗愚ではない。

彼が体制を支持しているのは、その体制こそがこれまでの長きにわたって人の世を呪いから守って来たからだ。

 

前例の無い事は悪ではない。しかし不安要素を多く含む事もまた事実である。

呪術界を変える?結構なことだ。だが、それが現状を悪化させ、呪いによる被害を増やすことに繋がる事は無いと誰が保証できるというのだ。

少なくとも現在の体制は長年にわたって日本社会を守ってきた実績がある。ノウハウがある。

「頭が固い」?「腐った蜜柑」?そんな蔑称も甘んじて受け入れよう。人の世の安定を守るためであれば。

 

そんな楽巌寺にとって賀﨑の一族とは呪術界を支えるかけがえのない存在であった。術師の数は日本の人口に比して0.1%にも満たない少数である。

にも関わらず、術師の命は呪霊によって簡単に失われる。その過酷さに耐えられず術師の道を諦める者も少なく無い。

その中にあって、賀﨑家はいつの時代にあっても自身の命を顧みずに使命を果たす術師を数多く輩出してきた。彼らは確かに優秀な術師ではないのかも知れない。だが、彼らが危険な偵察を引き受けなければ。事態に対応できる術師が到着するまでの時間稼ぎをしなければ。一般社会への被害はより甚大になっていただろう。

 

無論、彼らの挺身は洗脳と大差無い教育によるものであり、その目的は家の存続という利己的な理由の為であるという薄暗い事実も承知している。

それでも彼らが呪術界に貢献してきた事は嘲るべきで無いと楽厳寺は考えている。

 

故に賀﨑隆景という学生にも一定の評価を置いていた。

あの五条の影響下で少し規定から外れた行動を取ることもあるようだが、交流会で見る度に術師として順調に成長している様だったし、鍛錬を怠る事無く自身の研鑽に努めている姿に対してはやはり賀﨑の術師として信用出来る人物だと評価していた。

 

今回の呪術テロにおいて、途中指揮も仰がずに独断で現場を放棄した事もやむを得ない事情故の事であると考えていたし、それは取り調べですぐに証明されるだろうと楽観視していた。

 

だからこそ楽厳寺は驚愕した。

賀﨑隆景が術式の所持を秘匿していた事、その罰として処刑処分が下った事、被告となった賀﨑隆景が拘束を逃れ脱走し呪詛師となってしまった事に。

 

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隆景は特級呪霊黒沐死を単独で祓った後、現場処理を済ませて夏油一派との戦場に戻った。

丁度その頃、夏油傑本人は東京の方に現れ、現地の術師によって撃退されたという情報が入った。

 

それと時を同じくして夏油一派の呪詛師達は皆退散してしまった。当然、高専側も彼らを逃がすまいと後を追ったが、夏油の配下と思われる呪霊の決死の抵抗に阻まれ捕縛は叶わなかった。

結局、京都での戦いは少なく無い犠牲と共に終着する事となった。

 

京都での戦いに従事していた東京高専組の秤、綺羅羅、隆景の3人は身体こそ無事であったが、戦後処理において問題を抱える事になった。

秤はその術式についてやっかみを付けて来た術師と暴力沙汰となり、その援護をした綺羅羅と共に東京に戻り次第、改めて沙汰を受けるという事で処分は一旦保留となったが深刻なのは隆景の方だった。

 

上位者の判断を仰がずに独断で呪霊を戦線から引き剥がしたことが、職務を放棄したと見做され拘束されたのだ。

未知の呪霊の襲撃に居合わせた者は殆どが死亡、もしくは現場での証言が不能なほどの重傷を負っていたために事情を証言出来る者が居なかったためだ。

唯一無事だった秤と綺羅羅は隆景と同じ東京組である上に先の暴力事件を起こしていたためにその証言は信用されず、隆景はその場で拘束され東京まで身柄を移送されることとなった。

 

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東京高専内 特別留置場

 

京都の事件から開けて翌日。隆景は高専の独房で拘束されていた。

敵前逃亡ではなく呪霊と戦ったのだとあの場で主張しても良かったが、そうなると呪霊を祓った方法について追及される可能性がある。そうすれば術式の事が露見するかも知れない。

二択を迫られた隆景は前者、つまり敵に怯え戦場を放棄したという容疑を受け入れる事にした。

 

元々3級のヘボ術師だ。上層部も下級術師が怖気づいて逃亡したことに然したる疑問を抱かないだろう。ましてや隆景は五条派の学生である。

減刑をチラつかせれば、目の上のたんこぶである五条悟に言うことを聞かせられる、そう期待してこの供述を採用するだろうと踏んでいた。

事情を知っている秤と綺羅羅には口裏を合わせるように五条先生を通して連絡しなければならない。

だが、そこさえ押さえれば、罪状は大したものにはならないだろう。

 

そう考えていた隆景は独房で裁判の開始を待っていたのだが、裁判どころか事情聴取すら始まらない。五条先生や他の教員だって1人くらいは面会に来てくれても良い筈だ。

 

不審に思っていた所へ、これまで食事やら何やらのお世話をしてくれていた刑務官とは違う顔ぶれの見覚えの無い連中が現れた。

その時の隆景は(術師には大して意味を成さないが一応の決まりとして)大人しく手錠を掛けられた上で脱出を阻む結界術を施された牢屋に入っていた。

3級の木端術師に対して大掛かりな拘束は無用であるとして、この程度の拘束で済まされていたのだろうが、その連中は隆景の身柄を移送するというのだ。

 

移送先を明かさない上に、呪力操作を妨害する上等な拘束具を準備して来ているその連中に対して隆景は疑念を抱いた。

 

表向きの経歴しか知らないならば、刀を持たない今の自分は大した脅威にはならないことは明らかな筈だ。だが彼らが準備した拘束具は隆景に対して過剰な代物だ。

 

何かの陰謀が迫っている。危機を察知した隆景はすぐさま手錠を破壊、術式反転 『崩形(ほうぎょう)』で牢屋の結界を破壊し、怪しい連中を全員制圧して脱獄を果たしたのだった。

 

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脱獄を果たした隆景は焦っていた。

これからの逃走についてではない。そちらは『崩形(ほうぎょう)』で何とでもなる。

 

問題なのは、愛刀である呪具 顕明連(けんみょうれん)が没収されている事である。

 

あの刀がなければ『退魔の巨剣(スピリット オブ ソード)』の行使に支障が出る。

おまけに大枚叩いて買った呪具だ。このままだと良くて高専か御三家の忌庫の所蔵物に、最悪どこかの誰かにパクられてしまうだろう。まだローンも残っているのだ。どこの馬の骨とも知らん奴には絶対に渡さない。

 

こんな事もあろうかと顕明連(けんみょうれん)には盗難に備えて、追跡用の護符を仕込んでいる。

 

刀自体は拘束時に没収されたが、手元を離れてからまだ日は浅い。解析や分解まで手が及んでいない可能性は十分にある。護符の在り処をたどると、どうやら直上の階に反応があるようだ。急ぎ向かうとそこはどうやら看守達の詰所で、愛刀は他の没収物と一緒に一時保管されていた。

 

この看守達は恐らく陰謀には関係ないだろうが、こちらもなりふり構っていられない。

申し訳無いが、『水遁 水牢の術』で拘束してから刀を取り戻させてもらった。

 

発動から10秒で解けるように術を掛けたが、解除時の無事まで確認する余裕は無く、すぐにその場から立ち去った為、もしかしたら重症を負った人物もいるかも知れない。申し訳無いが恨むなら黒幕(暫定)を恨んでくれ。

 

その後は非常事態に出動して来た高専内の術師達の追跡を撒きながら、高専から脱出した。

 

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賀﨑隆景の敵前逃亡事件は、翌日には術式保持の秘匿及び高専術師ら多数への暴行、器物損壊、逃亡という反逆事件へと発展していた。

 

一連の事件を総監部は夏油傑に次ぐ呪術界への重大な反逆とし、「賀﨑隆景の呪詛師認定およびその身柄の生死を問わない拘束」という処分を即座に下した。

 

(傑の遺体の輸送と憂太達へのアフターケア。百鬼夜行の後始末をしている間にここまでやりたい放題されるとはね。)

 

五条悟は隆景の反逆とそれに対する処分に関する報告に目を通しながら歯噛みする。

彼には隆景が京都で拘束された事すら報告されていなかった。休学中とはいえ受け持ちの生徒だ。普通なら拘束の時点で、それが非難の声であれ、一報は入るのが当然だ。現場にいた秤らも暴行事件を理由に通信機器を取り上げられた状態で東京に帰ってきている。

 

恐らくこの事件も例の意識不明の被呪者事件と同じ奴が仕掛けている。

術式については隠蔽を徹底していた以上、隆景の術式に気付くとすれば呪物を埋め込んでいた張本人かその関係者であると考えるのが妥当だ。自分の介入を防ぐためにここまで早く処分を下したのだとしたら、黒幕は以前の予想通り総監部のかなり奥深くまで入り込んでいる可能性が高い。

 

(あの腐った蜜柑共、やっぱり今すぐ皆殺しにしてやろうか。)

 

五条の脳裏に暗い発想がよぎる。だが、その方法では意味がないことを五条はよく知っている。激情を抑えながら五条は生徒の安否を気に掛ける。

 

(取り敢えず隆景からの連絡を待つかな。)

 

自分との繋がりを察知されるわけにはいかないが、ガジェット方面にも詳しい隆景なら何とか連絡を取って来るだろう。

 




後編も出来るだけ早く書き上げていきたいです。よろしくお願いします。展開読み当て系の感想には大変ありがたくgoodボタンを押させていただいております。
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