やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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第二十三話 キラキラ(返り血)の新生活(下)

夏油傑の呪術テロから一週間と少し。

2018年の年明けの呪術高専京都校にて。

学生たちの話題は先のテロ事件の折に、敵前逃亡と脱獄に加えて術式の隠匿という罪状で捜索と抹殺の命令が下った賀﨑家のある術師についてだった。

 

「術式の隠匿だなんて。持ってるくせに態々隠すとか、そんなことやる、普通?」

 

「賀﨑家は代々術式を持たない一族だ。その家に術式持ちが生まれたというなら本来は大々的に喧伝するだろうな。真依の言う通り普通なら有り得ないことだ。」

 

禪院真依の呆れ声に対して、加茂憲紀は一般論を返す。

件の術師について憲紀も当然知っている。元々呪術界に古くからある家系の出身であり、交流会を通して面識もある。

彼についてはその呪力特性からもたらされる曲芸じみた火水土雷を操る呪術行使が一番の特徴と目されている。だが、憲紀は彼の剣技の方にこそ着目していた。

シン・陰流を代々受け継いできた賀﨑一族だが、実戦経験の豊富さのせいか彼の実力は一族の術師の中でも抜きん出ていると感じていた。

 

(呪力特性は無理だとしても、あの剣技は三輪にとっても大いに参考になるものだっただろう。ここで失ってしまったのは少し惜しいな。)

 

交流会で目にしたあの剣捌きは術式を持たない者らの中では最上位に位置する実力だろう。その人間が術式を隠し持っていた上に呪詛師となったのだから厄介なことだ。取り調べの前に脱走したため術式の詳細は不明だそうだが、総監部からの情報では現場には残穢も残っていないことから隠密に優れた術式だという話だ。

 

「厄介なことだな。」

 

呪術界の未来を担っていく術師として。いや、加茂家次代当主として。

かつて高専生であった夏油傑が呪詛師に転じた際に取り逃がしたことが昨年末の呪術テロに繋がった。かの呪詛師は必ず殺さなければならない。同じ過ちを繰り返さぬために。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

五条は隆景が収容されていた独房を訪れていた。六眼でしか得られない痕跡を探るために指名されたわけだが、五条自身の目的は隆景が誰にはめられたのかを探ることだ。

意外な事にこの調査依頼は総監部から直々に五条を指名してのものだった。脱獄犯の痕跡調査をその人間と親しい人間に依頼するなんて事は本来なら有り得ない。言うまでもない事だが、身内を庇うために虚偽の証言を行うかもしれないからだ。にも関わらず依頼は五条に回ってきた。

 

(隆景なら間違いなく崩形(ほうぎょう)で術式の痕跡は抹消しているだろう。現にこの場には「原因不明の力」で壊された結界と、隆景を「移送しようとした看守達」…6人だな。その痕跡しか残っていない。)

 

この現場には五条に対して弾劾出来るほどの痕跡は何も残っていない。しかもそれをわざわざ五条本人に確認させている。

 

(これまでと比べると随分と手際がお粗末だ。黒幕は今回の事態を完全にはコントロール出来ていないのか?)

 

次に訪れたのは隆景が呪具を強奪したとされる看守室。

隆景は脱走時にここに詰めていた看守3名を殺害したとされている。死因は刃傷による失血死と報告されている。

 

(独房とは違い、ここにははっきり血痕が残っている。やっぱり状況がチグハグだ。)

 

独房には残穢が残っていないのに対して、看守室にはこれでもかと刃傷沙汰と思しき痕跡を残している。この状況から推測するに黒幕を含む総監部の連中は隆景の術式の仔細は把握出来ていないと見て良いだろう。

となると、看守の殺害も隆景ではなく口封じの為に別の人物がやった可能性も出て来る。

何より隆景の水遁忍術にとって拘束技は得意分野の筈だ。高専からの脱走時に1人も術師を殺傷していない事から考えても間違い無いだろう。

 

(つまり、隠し札としての価値は健在と言う訳だ。)

 

問題は今後の連絡手段だが…

 

「事前に決めておいて良かったよ。」

 

そう言うと五条はスマホのアプリゲームを起動した。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

昨年末の百鬼夜行。そこで乙骨憂太に敗北し死んだはずの男、夏油傑の死体を無事に乗っ取った羂索は都内の遊戯施設、高専が経営しているパチンコ屋の一室にて報告書を読んでいた。

 

「う~ん、結局逃がしちゃったか。やはり人を使ってやる仕事は確実性に欠けるね。」

 

賀﨑隆景の捕縛計画は失敗に終わった。だが成果がゼロという訳でもない。

 

「京都の黒沐死に関する残穢は発見されていない。脱獄現場からも術式の痕跡は無し。となるとやはり彼の術式は呪力・呪物の分解に関係するものというのが妥当な線かな。」

 

確かにその類いの術式ならば五条悟は術式の隠匿を指示するだろう。何せあまりにも裏の仕事に向き過ぎている。隠していなければとっくに彼は処刑もしくは自由意志の無い人形にされていただろう。羂索自身にとってもその能力は魅力的であった。

術式の戦闘力次第だが、『反重力機構(アンチグラビティシステム)』と入れ替えるのも良いかもしれない。『呪霊操術』と夏油傑の肉体。これらは今後の計画の為には必須だ。だが、『反重力機構(アンチグラビティシステム)』はそうではない。戦闘においては有用だが、今後は益々隠密での行動が重要になる。元々五条悟に勝てるとは思ってはいない。ならば戦闘用には『呪霊操術』を、隠密用には賀﨑隆景の術式とで使い分ける方が良いかも知れない。

 

「取り敢えず裏で懸賞金を掛けておこう。まずは一千万円からスタートで!」

 

「羂索、貴様!よくも私にあんな汚らわしいものを運ばせたな!」

 

端末を操作していると、尋常ではない殺気と共に裏梅が勢いよく入室してきた。

 

「やあ裏梅。京都の件はありがとう。黙っていたことは謝るけど、ゴキブリっていうのはアレで結構清潔な生態をしているらしいよ?封印自体も衛生には気を配っていたし感染症を心配する必要は無いんじゃないかな。」

 

「口を開けばベラベラとほざきおって!今後宿儺様のお食事に異物が混じっていれば問答無用で貴様を殺すからな…!」

 

尚も恨み節を接ごうとする裏梅だったが、羂索の変化に気付き言葉を止める。

 

「何だ、貴様。また体を変えたのか?」

 

「前にも話しただろう。夏油傑の死体を確保するために私は東京を離れる訳には行かないんだって。」

 

裏梅は以前の羂索との会話を思い返すが該当する記憶は思い出せずにいた。

そんな様子を見て羂索は溜息を吐く。

 

「やれやれ。本当に君は宿儺の事以外には興味が無いんだね。」

 

「当然だ。」

 

「何で誇らしげなんだよ…。まあおかげでこの体を手にすることが出来たし、例の呪物祓いも殺しは出来なかったが表の呪術界からは排除出来た。表の業界にいない以上、宿儺の指なんて貴重品に呪詛師になった人間が手を出せるなんて事は無い。」

 

伸びをして新しい体の調子を確かめながら羂索は続ける。

 

「今回の件でやっておきたいことは全部達成出来た。君が手を貸してくれたお陰だよ、裏梅。」

 

「貴様が礼を言うなど。男の体になったことでより気色悪さが増したな。」

 

「何で普通の会話ですらまともに出来ないかな…。」

 

「貴様が気色悪いせいだろう。私のせいにするな。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

2018年5月

 

隆景は返り討ちにした呪詛師の体に腰を下ろしながら奪ったスマホにアプリゲームをダウンロードしている途中だった。

高専を放逐されてもう4か月余り。今年は伏黒君が新入生として入る筈の年度だ。津美紀さんの解呪以来、全国を飛び回っているうちに追われる身になってしまったためもうずっと会っていない。

会っていないといえば、2年生組のパンダ達もだし、伊地知さん達高専の人達ともずっと顔を会わせていない。考えていると無性に寂しくなってきた。アニメと漫画があれば生きていけると自負していたが、どうにも現実には孤独が堪えている自分がいる。

 

今の隆景は呪霊の繁忙期に合わせて呪霊狩りを積極的に行っていた。あまり派手に行動すると高専に捕捉されるため活動は制限されるが、表と裏、双方の世間で情報を集めて強力そうな呪霊の噂を掴んだら祓って回っている。体制から追放されたとはいえ、隆景自身の自認は呪術師のままである。それにこうやって人知れず呪いを祓うというのも仮面のヒーローっぽくて結構気に入っているのだ。

 

反面、人探しの方は難航していた。噂の呪詛師の格闘技大会だが情報がガセ、というか罠で行く先々で呪詛師集団に襲われるなど外れ情報ばかりで秤達にはまだ接触できていない。尋問してみたところどうも表の呪術界だけでなく、呪詛師業界でも懸賞金が掛けられているようでそのおかげか方々で襲われている有様だ。賞金も最初は一千万円だったそうだが、今は八千万円にまで上がっているらしい。大卒一年目のプロ野球選手がいきなり大活躍して数年でやっと届きそうな金額が自身の首に懸けられているらしい。そらこんだけ襲われる訳だ、と妙な納得をしたところでゲームのインストールが終わったので定期連絡を始めることにした。

 

これは五条先生との間で事前に定めていた連絡方法。ゲームアプリのメッセージ機能を使うことでやり取りを他に掴ませないという目論見だ。とはいってもこの手のやり取りに呪術界が全く疎いわけではない。一般人ですら(主に性的に邪な目的で)この手の機能を使って秘密のやり取りをしているのだ。そこで隆景らは少し工夫を施していた。

 

まず連絡に使用するアプリゲームはPvP要素の無くプレイヤー間のチャット機能もないものに限定している。それでどうやって意思疎通を図るのかといえば古典的な暗号の出番だ。

自分の所持しているキャラクターを他のプレイヤーに貸し出す為にサポートキャラ一覧なるものを整備できるゲームがある。そこには大体10体未満のキャラを並べられるのだが、そこに並べるキャラに意味を持たせるのだ。例えば、キャラの性別やレア度など。これらの組み合わせで暗号の解読パターンを示す。それに応じてプロフィール欄のメッセージを変換すれば隠した意図が伝わるという訳である。細かなメッセージを伝えようとせれば明らかに不自然な文章となってしまうが、幸いこの手のゲームにはアカウントの売買を始めとしたRMT(リアル・マネー・トレード)を目的とした規約違反の業者が溢れかえっている。おかげで多少の不自然な文言は目立たないのだ。

 

加えて、暗号のパターンは日付や占いに使う星座、旧暦や六曜を複合したものに応じて常に変化している。元プロ野球選手が語っていたことだが、投手捕手間のサインは相手打者の背番号が奇数偶数のどちらかであるか、その回が何回であるかなどに応じて常に変化したものを使っているらしい。要は解読されるのを前提として常に暗号パターンを変化させることで相手にサインを読み解いたという確信を抱かせないようにするのだ。

 

こうして、先生のアカウントとやり取りすることで定期的に報告を行っているのだ。ちなみに怪しまれるリスクを下げるために隆景側は頻繁にアカウントを入れ替えている。先のRMT(リアル・マネー・トレード)目的の業者からアカウントを調達することもあれば、コンビニで課金カードを購入して暗号を作れるだけのキャラを都度揃えている。

 

お陰でそのゲームを純粋に楽しむことはもう出来なくなってしまったが…これは諦めるしかない。

 

そうして定期的に連絡を取っている中で、あの「宿儺の指」を飲み込んだ学生が現れたという衝撃的な情報に隆景が腰を抜かすのはもう少し先の話であった。

 

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