やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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気付けばオリキャラ同士の対決という誰得展開に…早く本編時空に移らねば。

2024/05/15
十種が同時に召喚出来る式神の数を訂正するために,一部文面の修正を行いました。
進行内容の大筋に変更はありませんので,既読の方はそのまま次話に進んで頂ければと思います。
(修正時点では次話は未完成ですが…)


第二十五話 過去の術師(上)

「『玉犬』」

 

敵の術師が掌印と共に詠唱を終えると、その影が広がりそこから二匹の狼犬が現れる。

狼犬は術師を護衛するようにその後方左右にそれぞれ付く。

 

(伏黒君の時よりも式神の発動が早い。それにサイズも一回り大きい。『十種』を持っている以上、御三家当主クラスの戦闘力を想定するべきだな。)

 

とはいってもそのレベルの使い手と戦った経験は未だ無いのであくまで推測なのだが。

後はどのくらいの呪力量を持つか。魔虚羅の調伏に呪力が必要ならば膨大な呪力を必要とするだろう。それまでに術式使用で呪力を消耗させられれば魔虚羅も封じられる可能性もある。ひとまずは式神を凌ぐ事を考えなければ。

 

「『蝦蟇』」

 

掌印と共に術師の傍らに巨大な蛙が現れ舌を延ばして攻撃してくる。

 

(当然、複数の式神を同時に操って来ると。)

 

迫りくる蛙の舌を切り落とそうと剣を振るった時だった。

刃と舌が触れた瞬間、剣と舌の影が「重なった」瞬間に新たな呪力の起こりを感知する。

 

(っ!)

 

隆景と敵の術師。二人の影が間接的に繋がった時に隆景の足元から鋭い刺突が放たれる。

飛び上がり間一髪で刺突を回避した隆景はその正体が蛇の式神であることを視認する。

 

(馬鹿な掌印を省略出来るのか!?)

 

術師が繰り出したのは『大蛇』という式神。『十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)』で呼び出す式神の中で唯一片手のみで掌印を完結出来るため、奇襲に優れている。

術師は『蝦蟇』の舌で自身の影を敵の間近まで伸ばす事で至近距離からの不意打ちを行ったのだ。

術師の攻撃は尚も続く。『蝦蟇』と『大蛇』を解除して新たな式神を呼び出す。

 

「『鵺』」

 

術師は自身の体の影から呼び出した鳥形の式神を高速で突撃させる。

 

(これはっ!避けられないっ!)

 

止む無く剣で『鵺』の突進を受け止める隆景だがその身を電撃が襲う。

 

「グハッ!」

 

空中で態勢を崩された隆景はそのまま落下する。元々跳躍した高度は然程高くなく受け身が満足に取れなくとも呪術師にとって致命傷となるものではなかったが、墜落のタイミングで『鵺』が影に戻り、いつの間にか解除されていた『玉犬』が隆景の間近で再召喚され襲い掛かる。隆景は咄嗟に『退魔の巨剣(スピリット オブ ソード)』を解除し、順転『成形(せいぎょう)』で作り出した刀と「顕明連(けんみょうれん)」の二刀流で『玉犬』の強襲を防御するが、受けきれずに『成形(せいぎょう)』で作り出した刀の破壊と共に左腕に負傷を負う。

 

(並の式神の性能じゃない。1級~準1級と見なさないと危険だな…。いやそれよりも…体が思う通りに動いていない?)

 

鳥形の式神『鵺』の電撃は呪力特性によるものであり、先程突進を受け止めた際に流れ込んだ呪力が隆景の体に痺れを起こし、その動作に支障をもたらしていた。

 

(だがっ!)

 

それでも隆景は身体に染み付いた技能で反撃する。

 

(『シン・陰流 簡易領域』)

(『八相 紫陽花』!)

 

領域にプログラムした攻撃を実行することで、平時と同じ鋭さを取り戻す。八相の構えから繰出す高速の突きの連撃によって『玉犬』を至近から遠ざける。そこから間を置かず次の術式に移る。

 

(『二段拡張 退魔の巨剣(スピリット オブ ソード)』!)

 

隆景は再び巨剣を作り出す。体の痺れが継続しているにも関わらず複数の術式の同時起動を行えるのは偏に隆景の呪力操作の精密さに寄るものであった。この術式の発動に関する呪力の操作の精密さという分野においての隆景のそれは一級術師らのそれと比べても極めて上位に位置するものであった。

 

しかし、瞬時に生み出したことで敵の虚を突いたはずの巨剣による斬撃は虚しくも空を切る。術式の発動において敏速であっても体捌きにおいて未だ電撃の後遺症を残す攻撃は敵の術師に斬撃の容易な回避を許してしまっていた。

 

(まずはこの痺れを…)

 

退魔の巨剣(スピリット オブ ソード)』を再び解除した隆景は「顕明連(けんみょうれん)」を水平に構え、刀へと意識を集中させ反転術式をより高度なものへと昇華させる。

それにより生み出された正のエネルギーを全身へ行き渡らせることで身体に残留していた電撃の呪力を体外へ排出する。

呪詛師から受けた毒や呪いの治療に用いるこの技術を隆景は「浄の力」と呼んでおり、この力は身体の修復よりも体内の呪力の乱れや術式によって受けた身体異常を治療するのに秀でていた。

 

治療は数秒の内に終わらせたが、それでも敵前で晒したその隙に対し敵の攻撃は無かった。

先程の攻防では最大でも2種類の式神しかを同時に敵は行使していなかった。途中行った式神の高速切り替えも含めて相応の負担を強いたようで、回避行動を取らせたことも相まって一旦の仕切り直しの暇を作り出していた。

 

(同時に使役できる式神は2体、いや無理をすれば3体も有り得ると踏んだ方がいいだろうな。)

 

基本戦術として用いているのは『玉犬』と呼ばれた犬型の式神。今までに使ってきた式神は、兎、蛙、蛇、鳥の合計5種類。『十種』という名称を考えるにあと五種類は式神があるはずだ。

呪力感知で見失った敵の位置を探る。だがその探知をジャミングするように戦闘の最初で降霊術師を隠した兎の大群が現れる。

 

(探知を遮られた!だが、これでは方角を教えているようなものだ。必ず「次」を仕掛けてくるはず!)

 

退魔の巨剣(スピリット オブ ソード)』を形成し次の攻撃に備えようとしたまさにその時、兎の群れの中から巨牛が猛烈な勢いで突進し来た。

 

(ここでブラフは無い!)

 

これまで敵の術師は式神を操る間は積極的な移動はしていなかった。これだけ強力な式神術を有しているのならば、術師本体が動き回らずとも相手に遅れを取る事は想定して無いはずだ。憑依元ののっぽの術師も術式から同じ判断を下している可能性は高い。

これまでの戦闘からそう予測した隆景は、自身も巨牛に向かって突進することを瞬時に決断する。

 

(ここだ!)

 

巨牛と接触する寸前に隆景は風遁忍術を駆使して姿勢制御を行う。そして空中で身をねじるようにして巨牛の突進を躱し、その進路を辿りさらに加速する。その様はさながらバレルロールを行う航空機の様であった。

 

式神の群れを潜り抜けた先には読み通り式神を操る術師の姿があった。

 

(式神を切り替える前に斬る!)

 

敵の虚を突いたこの隙に一閃を振るう。胴体を二分することを狙った斬撃だったが寸でのところで身を引いたのか、呪力による防護が想定以上に強固だったのか攻撃は胴を斜めに斬りつけるに留まった。しかし初めて有効打を与えた。このまま攻撃を続けて突き崩そうとしたその時。

 

「…『満象』、『円鹿』」

 

絞り出すような声で術師は二種の掌印と詠唱により新たな式神の召喚を行う。

その瞬間、頭上に巨大な何かが現れる。それは象型の式神であった。落下してくるそれを咄嗟に巨剣で受け止める。式神は莫大な重量を伴っており、剣を支える両足が地にめり込む。

 

その間に敵は同時に呼び出した鹿型の式神に触れることで胴に負った傷を治療している。反転術式までもが含まれる式神術。これが禪院家最強と噂される『十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)』か。だが、そのまま治療を完遂させはしない。

 

(『シン・陰流 簡易領域』)

(『鍔迫り 緋衣(ひごろも)』!)

 

『鍔迫り 緋衣(ひごろも)』は鍔迫り合いの状態から抜け出すための技だ。その術理は単純。刀から刀身大の呪力を放出し、「刀身が重なっていない場所」へ攻撃を加え鍔迫り合いの状態を解消するというものだ。これを退魔の巨剣(スピリット オブ ソード)で行えばどうなるか。呪力の代わりに正のエネルギーが発射され、隆景の直上にいた『満象』に巨大な斬撃が加えられる。結果、『満象』は形を保てなくなり元の影へと回帰する。

両手の自由を取り戻した隆景は治療中の術師への攻撃にこの技を選択する。

 

「『水遁 水断波』!」

 

剣を手にしたまま器用に印を結んで放った水圧カッターは瞬きの内に術師の元へ到達する。本来であれば人体を容易く両断する致命の水流はしかし鹿型の式神によってその威力を大きく減じられていた。

 

(忍術は呪力で放った。あの鹿の反転術式は術式の中和さえやってのけるのか。)

 

「反転術式により術式効果を中和する」という目の前の事象は後の隆景に大きなインスピレーションをもたらす事になるが、今は反転術式により治療を終えた術師の次の一手の方が重大事であった。

 

「『玉犬』、『虎葬』」

 

『円鹿』を解除し、呪力の余裕を確保した上でこれまでと同様に掌印と詠唱により9種類目の式神を呼び出した術師は『玉犬』とのコンビネーションで隆景を責め立てる。

 

(9体目は虎をモチーフにした獣人型か。レナモン…女性的な特徴が強いところを加味するとサクヤモンの方が近いか?でもサクヤモンは獣成分が減っているからメイクラックモンの方が近いか。)

 

しかし、3体からの攻撃を捌く隆景に焦りは無かった。「『十種』のデザインはポケモンよりもデジモン寄りか。」と状況を分析することすら出来ていた。その余裕は『玉犬』の動きは既に見ている事、そして形状が人に寄ったために『虎葬』の攻撃を対人戦の延長で対処出来る事から生じていた。無論、『虎葬』が二足歩行型の生物に寄った動きをするといっても四肢に備えた爪は脅威であるし、口には鋭利な牙も備えている。だが、そう言った得物や術式を使う手合いとはこれまでの呪詛師との戦いで何度も相対してきた。故に数的不利のこの状況においても隆景は必殺の機会を窺うことが出来ていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

降霊術を操る術師、通称オガミ婆は当初、この仕事の成功に疑いを持っていなかった。

無論相手を侮っていたわけではない。賀﨑隆景、最近高専から離反したばかりのこの男は呪詛師界に大きな波紋を立てていた。裏社会の人間と云えど「賀﨑家」の名と特徴くらいは誰もが知っている。術式を持たない術師崩れの集団。

一般に呪詛師は一般家庭から生得術式と呪力を持ち合わせて生まれた人間がその多くを占めている。表の呪術界に保護され術師としての教育を受ける前に、迫害を受けたり、呪術の悪用を覚えたりした者らが裏社会の一員に成っていくのだ。

「持っている側」として生まれた呪詛師達にとって賀﨑家の人間は歯牙にもかけぬ弱者であった。仕事現場で出くわせば一方的に殺し、自身の万能感を高めてくれる、そういう蹂躙する相手であった。もっとも蹂躙に気を取られている内に応援に来た術師に殺される者も多いが、少なくともオガミ婆は引き際を心得て活動してきた。

件の賀﨑隆景も幾ら高専から離反したといっても、所詮賀﨑家の無能。掛けられた賞金はやけに高かったが早晩賞金と交換されることになるだろうと考えていた。

 

だが、その男は命を狙う呪詛師達を退け続けるどころか、運悪く遭遇した呪詛師さえも下し遂には「呪詛師狩り」と呼ばれる様にさえなった。掛けられた懸賞金は鰻登り、その賞金を目当てに更に呪詛師が群がるもその悉くを蹴散らして見せた。

 

だからこそオガミ婆はこの仕事にあたり万全の準備をして来ていた。「運良く」手に入った禪院家術師の霊媒。あの『十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)』を有する術師の遺骨という、秘蔵の切り札も惜しまず投入した。

 

だというのに。

 

あの男は最早『十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)』と対等に渡り合って見せている。形勢が逆転するのは時間の問題だろう。

 

女は更なる奥の手を切らざるを得なくなっていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

虎の獣人と狼犬二匹。このコンビネーションには当初こそ面食らったが攻撃のパターンを掴んだ隆景は狼犬の一匹に致命打を浴びせ破壊に成功していた。残る獣人と狼犬に攻撃を集中させようとした時、敵は突如式神を解除し、その身から異質な呪力を立ち昇らせた。

 

「『布瑠部由良由良(ふるべゆらゆら)』」

 

術師はオガミ婆からの合図を受け取ると同時に両の握りこぶしを胸の前に掲げると共にその祓詞を唱え、『十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)』最強の魔獣を解き放った。

 




オガミ婆と孫は今回で退場の予定でしたが、次回まで持ち越しとなりました。無念。
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