やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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『調伏』のことを「ちょうふく」と読み間違いしていました。アニメを見返して「ちょうぶく」と読むことに気付きました。『十種影法術』も「かげほうじゅつ」と読み間違えていました。正しくは「かげぼうじゅつ」でした。無知は罪ですね。(玉葉妃並感)


第二十六話 過去の術師(下)

「『布瑠部由良由良(ふるべゆらゆら)』」

 

八握剣異戒神将魔虚羅(やつかのつるぎいかいしんしょうまこら)

 

式神たちの影が立ち並び神を迎え入れるかのように列を成し、影の中から魔神が姿を現す。

 

八握剣異戒神将魔虚羅(やつかのつるぎいかいしんしょうまこら)

十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)』最後にして最強の式神。

『十種』の術者は初めから全ての式神を使える訳ではない。『調伏』の儀を通して従える式神を増やしていく。

 

そして、歴代の『十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)』使いが『魔虚羅』を調伏したという記録は無い。禪院家の長い歴史の中でも『魔虚羅』を従えた者は居ないのだ。

では何故この術師は『魔虚羅』を召喚できたのか。それはこれが式神の『使役』ではなく『調伏』の儀であるからであろう。

 

『調伏』は術者単独で達成しなければ儀式としては成立しない。他者の手を借りて複数人で式神を打倒したとしてもその結果は無効となり、操る式神を増やすことは出来ないということだ。

 

これまで敵の術師は式神を召喚する度に呪力を消費してきたが、今回の召喚では呪力を消費した様子が無い。恐らく『調伏』は術者にとっての試練であるため、式神の召喚に呪力を必要としなかったのだろう。

 

そしてこの局面でわざわざ『調伏』を行う理由。それは複数人で行う『調伏』の「成果」は無効であるとしても、『調伏』の「実行」自体は可能であるからだ。

つまるところこの術師が取った手段は「道連れ自殺」。そして、召喚された魔虚羅の攻撃対象は隆景だけでなく…。

 

「ッ!」

 

魔虚羅の振るった左腕によって敵の術師は吹き飛ばされ、障害物に衝突して停止した。『調伏』の開始前からかなりの消耗をしていたし、戦闘中に起き上がってくることは無いだろう。驚くべきはその躊躇の無さ。この術師は何の迷いも無く自身の命を捨てる選択をした。呪詛師の徒党にしては珍しい献身だ。それだけの繋がりが有るのならもう一人の術師も加勢に来そうなものだが、あちらには動く気配は無い。

 

1人の始末を終えたと判断した魔神がこちらへ向き直る。どうやら次の標的に移るつもりらしい。

 

幸い隆景の呪力残量には余裕があった。『凝固呪法』は特徴として呪力消費の燃費が良いためだ。そもそもの仕様として,順転『成形(せいぎょう)』では術式の発動時にのみ呪力を消費し、形成した物質を振るうにあたっては追加の呪力を必要としない。この戦闘では既に三度『退魔の巨剣(スピリット オブ ソード)』を形成しているが、それは戦闘行動に支障を出す程の呪力消費ではなかった。

 

故に隆景は全力で剣を振るう。体の回転の力を最大に活かすために脇構えから横薙ぎに斬り付ける。

当然魔虚羅もそれを迎撃する。右腕に括りつけられたむき出しの刃を振り上げる。

 

衝突。

 

巨剣は魔虚羅の剣によってかちあげられ、それを握る隆景の体も宙に浮く。空中では躱せないと判断したのか魔虚羅は接近して攻撃を続けようとする。

 

だが、隆景が空中で隙を晒すことは無い。磨いた体捌きと風遁忍術による補助で姿勢制御を取り、再び回転斬りを放つ。

しかも今度はただの斬撃ではない。

 

「阿弥陀流…真空仏陀斬り!」

象型の式神『満象』に放った『鍔迫り 緋衣(ひごろも)』と同様に正のエネルギーを放出することで疑似的に「飛ぶ斬撃」を実現する。

 

「ッ!」

 

その一撃は剣を振り上げていたために空いていた魔虚羅に胴に横一線の傷を作る。

しかし。

 

ガコッ

 

斬撃により傷を負い仰け反った魔虚羅だったが、頭頂部付近にある方陣が回転した瞬間に傷は跡形もなく消えていた。

 

(反転術式?鹿の式神から考えて不思議ではないが治療速度が速すぎる。)

 

傷が消えた魔虚羅が追撃の刃を振るう。隆景は着地して両足を踏みしめそれを迎え撃つ。

二者の間で幾度もの斬撃の応酬が繰り広げられる。

 

(斬撃の感触が変だ。鍔迫り合いに持ち込んで『緋衣(ひごろも)』を使いたいが打ち合うたびに起きる大きな反発でそれも出来ない。剣同士が弾き合っているとでも言うのか。)

 

そう考えている内に斬り合いは続く。魔虚羅の膂力は驚異的だが剣筋は洗練されていない。いなす内に出来た隙に本体を斬りつけるが切り口が先ほどよりも浅い事に気付く。この短時間で硬度が増している事だけでも驚きだが,傷が見る見るうちに修復されていることの方が驚異であった。

尚も剣戟を交わす中,魔虚羅の方陣が再び回転する。

 

ガコッ

 

魔虚羅の動きが変わる。これまでの単純な動きから隆景と同等の洗練された剣術の動きへと。

膂力と治癒能力を含めるとその戦闘力は最早これまで相対してきた呪霊,呪詛師のいずれをも凌駕するものであった。

 

(方陣の回転は反転術式の発動を示すものじゃない。もっと大きな…「進化」の様な現象があの方陣が回転する度に起きているのか。)

 

だとすれば,このまま戦い続けるのは拙い。「進化」の度に攻撃への耐性を獲得してくのであれば、時間を掛ければ掛けるだけこちらの攻め手が潰されていくという事だ。『成形(せいぎょう)』による正のエネルギーと斬撃に対しては既に一度ずつ方陣が回転している。これらは対応されてしまっている可能性がある。

隆景は術師の中では攻撃手段を多く持つ方である。剣術と術式、呪力変質による忍術攻撃。だが残る呪力変質による攻撃を駆使しても、残るは土水火風雷の最大で5系統の攻撃。一方で魔虚羅は頭部の方陣が八つの頂点を持つ事から最低でも8回は進化を起こせる可能性がある。残る5系統の攻撃にも対応されてしまえば打つ手が無くなる。

 

では如何するべきか。

その回答は破天荒な恩師から得た。先生はキレたら割と所構わず『赫』や『茈』をぶっ放していた。

 

即ち。

 

(奴にとって「初見」の技を最大出力で叩きこむ!)

 

選択したのは『火遁』。最も破壊力をイメージしやすい火遁忍術。その熱を『退魔の巨剣(スピリット オブ ソード)』の切っ先に凝縮し、魔虚羅の頭部に巨剣を叩き付ける。

 

衝撃と熱で爆風が吹き荒れ、魔虚羅の体が頭部から損壊していく。

熱波で視界が塞がれる。だが、柄の感触から剣が魔虚羅を捉え続けていることは分かる。

 

「消し飛べぇっ!」

 

退魔の巨剣(スピリット オブ ソード)』を振り抜いた時、魔虚羅はその体躯を頭部から左右に両断され地に伏していた。

 

 

 

ガコッ

 

 

 

しかし、

 

魔虚羅は三度目の『適応』を終え、攻撃を受ける前の完全な姿に戻っていた。

魔虚羅の口元が嘲るように歪む。

決死の一撃すらも瞬く間に対応されてしまった。

いかに他の属性攻撃が残っていようと,この攻撃で殺しきれないのであれば隆景に魔虚羅を倒す手段は残っていない。

 

そう、「魔虚羅」を倒す手段は。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

オガミ婆は仕事の成功を確信した。『十種』には対抗出来ていたようだが,『魔虚羅』を倒すことなど「五条悟」でも連れてこない限り不可能だ。

苦戦こそしたが,あの霊媒さえ無事なら何も問題は無い。降霊先のストックはまだまだある。今回の件で霊媒の実践証明も済んだ。

むしろ感謝すべきかもしれない。そこらの雑魚ではここまで『十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)』の真価を引き出せなかっただろう。

 

最後に悪あがきをしたようだがやはり『魔虚羅』を倒すには至らなかったようだ。

 

(そろそろ動くかね。奴が死ねば『魔虚羅』も解除される。「元」孫の遺体から霊媒も回収せんといかんしな。)

 

そう思い至り腰を上げたオガミ婆だったが、次の瞬間にはその胴が両断されていた。

 

「は?」

 

長く人の世に巣くい他者を食い物にして生き延びてきた彼女だったが、その生涯の終わりはあっけないものだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

最後の一撃。火遁の力で威力を増した一閃は魔虚羅を倒すには至らなかった。

だが、目的は果たしていた。

 

衝撃で周囲の障害物は軒並み吹き飛ばされていたことで襲撃者の二人組の片割れ、降霊術師の老婆の位置が露見したからだ。

元より炎の一撃はあの降霊術師の潜伏位置を掴むためのもの。降霊術の事は分からない。発動後に術者が周囲に留まる必要があるのかどうかも。だが、懸賞金目当ての呪詛師ならば成果の横取りを防ぐために周囲に留まっている筈だと隆景は考えていた。

 

目論見は的中した。遠くで様子を窺っていた老婆を捕捉した隆景は剣を振り抜く動作そのままに術師を斬ったのであった。『退魔の巨剣(スピリット オブ ソード)』を限界延長距離である200メートルまで延伸する事で何とか刃を届かせた。

 

降霊術の術式が終了した事で『十種』を操っていた術師も元ののっぽの男の姿に戻っている。怪我の度合いとピクリとも動かない様子から恐らく既に息絶えているのだろう。

 

そして,『魔虚羅』も形を保てなくなり影へと回帰し消失した。

隆景が取れる魔虚羅への対抗手段,それは『調伏』の儀を中断させる事だった。『調伏』の開始直後に儀を発動した術師は意識不明もしくは死亡した状態に陥っていたがそれでも儀は続行していた。残る手段は術師の降霊を解除し『調伏』の儀自体を無かったことにすること。これは賭けであったが,儀を発動した『十種』の術師の存在が消失したことで『調伏』の儀も中断したようだ。

 

これでも中断されなかったら魔虚羅を引き連れて東京まで逃げて五条先生に倒してもらうしかなかった。多分たどり着く前に魔虚羅に殺されるが。

 

『終わったか、賀﨑?』

 

「ああ、今回は大物だったよ。…孔さん、今回俺のギャラはいらないからこいつらの身辺を洗ってくれない?」

 

『珍しいな。何かあったのか?』

 

「まあね。二人組のうちイタコの婆さんが面倒な呪物…霊媒かな?まあ、一介の呪詛師が持つには不相応なブツを持ち出して来ておかげでかなりヤバかった。」

 

『まさかその霊媒とやらの処分まで金の代わりに押し付ける気か?』

 

「まさか。あれはこっちで回収してから身柄を渡すよ。今回はどっちも殺しちゃったから賞金も目減りすると思うけど、補填が欲しいなら霊媒も譲るけど?」

 

『冗談言うな、死体だけで勘弁してくれ。口ぶりからして売り捌くにも厄介なモンなんだろうが。リスクの方がでけぇから勘弁だ。いつもどおり死体だけ引き取るから運んどいてくれ。そいつらの身辺調査も期待すんなよ?危ないところまでは探らないからな?』

 

「はいはい。こいつらの本来の「格」が分かれば十分だからよろしく。」

 

そう言って通話を切る。孔さん相手の会話は結構気を遣う。相手の方が大分年上だし、修羅場を潜って来た風格もある。それでも稼業的には舐められるのはまずいので出来るだけエラそうに接しているが、実のところこちらの内心はバレ始めているだろう。契約が残っている以上裏切りはしないだろうが、なるべく利益を得られる関係を維持しようと努めている。

 

「一応、所持物も見てみるか。」

 

仕事に身元が分かるものは持ってきていないだろうが、探せるものは探すことにした。呪術の世界では呪いを掛けられることを防ぐために本名を隠して活動する人間も多い。こいつは「オガミ婆」として活動していたようだが、恐らく偽名だろう。当然身分証の類は出てこなかったが…

 

「ファンクラブの会員証?」

 

どうやら男性アイドルのファンクラブに入会していたらしい。氏名欄を見てみると…

 

尾上 幡江(おがみ はたえ)…ほぼ本名じゃねぇか。」

 




ここで退場しても別にそこまで渋谷事変に影響はないだろうということでオガミ婆と孫の登板でした。ナイピッチ!

パパ黒はフィジギフのため、オガミ婆の死後も術式が継続しましたが、今回は術師を降霊させたので婆の死後、術式が解けるものとして書きました。
魔虚羅の調伏も術者が「死亡」ではなく、存在しなくなったのであれば中断されるのではないかという想像です。
これ以外に魔虚羅戦を終わらせるアイデアが浮かびませんでした…。
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