やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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原作の展開がどんどん進むので先に完結して重大な設定が出てきて困らないように頑張らないといけません。と言うわけで休憩回です。


第二十七話 就職、賭場の用心棒

「隆景の懸賞金、一億超えてるわ。」

 

「マジ?大台突破じゃん。」

 

東京高専3年生(停学中)の秤近次と星綺羅羅。彼らは壁掛け式の大型ディスプレイに表示された呪詛師向けの裏サイトを見ながら、呑気に会話していた。

彼らは現在、栃木県内のとある立体駐車場跡地を改造して格闘技の賭け試合を主催していた。

観客は呪いが見えない非術師が大半で呪術規程8条の「秘密」にぶっちぎりアウトで違反している。

主催者の彼らからすれば、呪いや呪術を全面に押し出している訳ではなく「超アクロバティックな格闘技」を提供して観客の熱狂を誘っているだけのつもりで、いざとなれば「残念だったなぁ、トリックだよ」の一言で押し切れるだろうと楽観的に考えているのだが。

 

それにこれは彼らにとって一種の反抗だった。伝統・形式に固執してばかりの呪術界は「呪いを祓って人を守る」というその本懐すら忘れ、組織にとっての異物を排除することに血眼になっている。

彼らも業界全体が悪でないことは分かっている。だが、残った善性すらも組織という悪意は塗りつぶす。

ようは彼らは呪術界に愛想を尽かしたのだ。

 

「ケータイも繋がらねぇし、マジで何やってんだろうな。」

 

「半年以上も音信不通なんてヒドいよねぇ~。」

 

そこで秤のスマホに着信が入る。

 

「俺だ、どうした?」

 

賭け試合の胴元である彼らは事業を運営していくための組織の長でもあり、今ではちょっとした規模の人員を束ねる社長でもあった。

 

『お疲れ様です、ボス。ボスと綺羅羅さんに会わせろといって聞かない客が来てまして…』

 

「ああ!?、どうせ大負けした客がイカサマだなんだと騒いでるんだろ?そんなもん、とっととシメて追い出せっていつも言ってんだろ。」

 

『そ、それが、警備の奴らもほとんど伸されちまって手が付けられないんです。相手はガキなんですがべらぼうに強くて…自分は「賀﨑隆景」だって名乗ってるんですけど…』

 

そこまで聞いた秤はモニタを防犯カメラの監視画面に切り替える。

画面には自身の学友が映っていた。

モニターに映る男はカメラに気付いてないのか明後日の方向に向けてこちらに呼び掛けてくる。

 

『おーい、秤〜、綺羅羅〜。いねぇのか〜?おかしいなぁ、関東の賭場はもうココくらいしか残ってねぇぞ。』

 

「おい。」

 

『はいっ!何でしょうかボス!』

 

「ソイツは俺の客みたいだ。上に連れて来い。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「いやー、やっと会えたよ。半年くらいあちこちを回ってたんだけど、全部ハズレでさ。ここもダメなら次は関西か〜って参ってたところなんだよ。」

 

高額賞金首である賀﨑隆景は部屋に通されると、リラックスした様子で近況を語り始めた。

 

「バレたら商売になんないだろうが。お前の方こそ良くココまで辿り着いたな。どこの賭場にも用心棒ぐらいいただろ?」

 

「五条先生の依頼だからな、呪詛師狩りの傍らで懸命に探したのよ。お前らの無事を確かめて来いって話だったんだけど、ここまで手間取るとは思わなかったよ、実際。」

 

「五条さんとお前はまだ切れてないのか?」

 

てっきり高専や五条とは関係が断絶していると思っていた秤は思わず尋ねる。

 

「五条先生とだけ連絡を取ってるんだよ。俺が術式を隠してた話があったろ?あれは俺が1年の時にちょっとした事故に遭ったのがきっかけで使えるようになったんだ。元から使えたわけじゃない。すぐに五条先生に相談したけど、術式の内容的に周りにバレると碌な未来が無いって話になってさ。それで術式のことは周囲には秘密にして、もしもの時は五条家に保護してもらうってことになったんだよ。そっからは高専を通すと妨害されそうな仕事を五条先生から請け負ってるんだ。」

 

専らの仕事は呪物を埋め込まれて意識不明になった被呪者の体内の呪物を術式で祓除して回ることだったと付け加える。

そこで不機嫌そうな秤から質問が挙がる。

 

「2年の時には使えたってことは俺とのタイマンの時は隠していたのか?」

 

「そうだな,そこは悪かったと思ってる。」

 

それから隆景は自身の事情を二人に説明した。彼らは五条と隆景に完全な不信を抱いている訳ではないが,内心ではこの接触が高専側の策略であるとの疑念も捨て切れていないかもしれない。その誤解を解くために隆景は事の詳細を詳らかにした。

 

まず説明したのは自身の術式について。

賀﨑家の術師は「反転術式を習得しなければ術式の知覚も行使もできない」という「縛り」によって一族全員が生得術式を持っていること。

だがどうやら賀﨑の先祖が「縛り」の条件付けを間違えたために、追加のデメリットとして一族は反転術式を習得不能になってしまったこと。

当の隆景は自身の「特異体質によって呪力を変質させる」という通常とは異なる手段で反転術式を習得したため「縛り」を回避して賀﨑家で開祖以来唯一の術式『凝固呪法』を使える術師となったこと。

そしてその術式『凝固呪法』の術式反転『崩形(ほうぎょう)』のあらゆる呪術的痕跡を消し得るという能力の危険性のために術式を秘匿することにしたこと。

 

加えてその術式を知った何者かによって「百鬼夜行」時に濡れ衣を着せられて処刑されそうになったという経緯を包み隠さず打ち明けた。

 

二人の反応はというと。

 

「悟ちゃんは京都の件で上層部に文句は言わなかったの?」

 

「どうも上層部が手を回して先生まで情報が伝わるのを遅くしてたみたいで、先生が俺の脱走を知ったのは事件の翌日だったそうだ。術式の隠蔽には先生と一緒にかなり気を回していたんだけど、それでもバレたってことで犯人は高専とかなり深く繋がっているだろうって推測になったんだよ。だから高専に戻ってもまた同じように命を狙われる。それならいっそ呪詛師業界で情報を集めようってことで先生も引き下がったんだ。術式を隠してたのは紛れもない事実だしね。」

 

「そっか。悟ちゃんが見捨てたってことじゃないならアタシはまぁいいや。」

 

綺羅羅は五条が生徒である隆景…引いては綺羅羅や秤達のことを見捨てたわけじゃないということを確認したかったようだ。

 

一方の秤は別のことに関心が向いているようだ。

 

「五条さんから伝言があるわけじゃないのか?生きてるかどうかを心配するほどデリケートな人じゃないだろ,あの人は。」

 

「あ~。まあ確かに。生きてるかどうかは心配してなかったよ。その辺は雑だからな先生は。」

 

以前、「秤はまあ大丈夫っしょ。」と楽観的過ぎる予測を口にしていた恩師を思い出す。

 

「最近、物騒なことが続いているからその連絡だよ。宿儺の器の出現だけに留まらず、未登録の特級が3体出てきて、しかも呪詛師と徒党を組んで交流会を襲撃してきた。その上襲撃自体は陽動で、騒動の隙に高専忌庫から「宿儺の指」を含む特級呪物が複数盗まれたときた。ここまでして次の動きが無いと踏むのは間抜けだろうってことでさ。」

 

「俺たちに何か頼みごとがあるのか?」

 

「年内にも大きい騒動が起きそうで、もしそうなったら高専の1~2年連中を助けて欲しいってさ。」

 

「うーん、それは別に構わねえけどさ…。あの五条さんがそんな保険みたいな手回しするなんて不気味でしょうがねえな。」

 

秤の言うとおり普段の五条に根回しを行うような慎重さは感じられない。万が一、不測の事態が起きたとしても彼ならば後から幾らでも状況をひっくり返せる。

隆景も五条が助けを必要とする事態が本当に起きるかについては未だに半信半疑だが、それを抜きにしても秤達とはコンタクトは取っておきたかった。

 

「俺もそうだよ。あの五条先生が後れを取るとは思えない。だけど例の乙骨君にも同じ依頼をしているらしい。先生がそこまでするってことは俺も備えとかないと。」

 

仮に去年の百鬼夜行級のテロを防げなかった場合、東京が拠点機能を失う事態も考えられる。そうなった場合に備えて副拠点も必要だろう。隆景もセーフハウスはいくつか準備しているがこの賭博場の規模には遠く及ばない。

 

「俺も暫くはお前達と連絡を取れるように活動するよ。賭け試合の邪魔にはならないようには気を付ける。手に負えない厄介客が来たら引き取るからいつでも連絡してくれ。」

 

「やり過ぎないように頼むぜ。噂の「呪詛師狩り」がいるなんて噂になったら客が寄り付かなくなっちまう。」

 




本作の秤、綺羅羅は京都の百鬼夜行に隆景を派遣したことで,五条への信頼度が原作程下がっていません。
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