やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
10月31日 23時××分
渋谷警察署宇田川交番跡
「これがこれからの世界だよ。」
羂索の足元から無数の呪霊が解き放たれる。
「じゃあね、虎杖悠仁。」
「五条先生!!」
「君には期待しているよ。」
羂索は虎杖悠仁の裡にある呪いの王、宿儺に向けて呼びかける。
「聞いてるかい?宿儺 始まるよ。再び、呪術全盛、平安の世が…!!」
溢れだした夥しい数の呪霊。それに圧倒される術師達を尻目に羂索は踵を返そうとした。
そこへ眩い閃光が降り注いだ。
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突如降り注いだ光は群がる呪い達を立ちどころに消し飛ばしていく。
「何だっ!?」
光で眼を灼かれぬよう腕で顔を庇いながら虎杖悠仁は光の源を見やる。
そこには白鳥を思わせる意匠の鎧を纏う剣士の姿があった。
「遅かったじゃないか。随分と回り道をしたようだね。」
「夏油さん。あれからずっと術師だけの世界について俺も考えていました。そして思ったんです。術師だけの世界を実現出来たとしても、今度はその中で術式の優劣や呪力の多寡によって強者と弱者という構造が生まれる。術師と非術師の関係と同様に。呪霊がいなくなっても不公平と不公正という歪みは生まれます。そんなのわざわざ生き返ってまで目指すことじゃないですよ。」
………………。
闖入者の突飛な発言にその場は静まり返った。
「…一応言っとくけけど、そいつは夏油じゃなくて死体を乗っ取った別人だぞ、賀﨑っち。あの「加茂憲倫」を名乗ったこともあるとか…。」
気まずい空気の中、比較的隆景と交友のあるパンダが言葉を掛ける。
「パンダ…。その話、本当に本当か…?」
動揺を悟られまいと隆景は努めて冷静に聞き返す。
「ちなみに本物の夏油君に向かって話しかけるくだりは私がもうやったよ。」
「………言わなきゃよかった…。」
九十九由基の言葉で追い打ちをかけられた隆景は半ば自棄で夏油傑の死体を被った男、推定加茂憲倫に斬りかかる。
「『シン・陰流』っ!『脇構え 一薙ぎ』っ!」
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五条悟救出のため事件の首謀者を捜索していた隆景は、渋谷駅構内を駆け回っていた。更地となった現在の渋谷なら駅構内などの無事な建造物に呪詛師が潜伏していると当たりを付けての判断だ。
だが、地表での戦闘を察知して方向転換。宇田川交番跡で術師達が交戦する現場に辿り着いていた。
そこで夏油傑の姿を発見し、彼の足元から湧き出る呪霊へ向けて先ほどの奥義『
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「木っ端の術師が次から次へとっ!鬱陶しい!」
隆景が放った『脇構え 一薙ぎ』であったが、羂索の協力者である術師、裏梅の放った氷塊を砕くに留まり、羂索らを斬ることは叶わなかった。
「先ほどの光の放射。呪霊に対してはあれだけの威力を発揮していたのにも関わらず、我々に対しては使わない…。反転術式の出力をカスタマイズした拡張術式の一種かな。反転術式はあくまで正のエネルギー。人体を攻撃するのには適していないからね。」
一目でこちらの戦術を看破する観察眼に対して隆景は戦慄する。羂索が指摘したとおり『
呪力出力さえ上回れば五条悟の『無下限呪術』による「無限」の防壁をも突破しうる恩師に並び追い越すための技術。
これはそもそも「フィクションにおける【最強】とは打倒されるためにある」という、この世界をフィクションの一種と捉える隆景ならではの信条から生まれた発想である。
羂索は言葉を続けながら新たな呪霊を呼び出す。
「面白い技を見せてもらった礼にこちらも相応の手札で答えよう。特級呪霊『ガネーシャ』。“あらゆる障害を取り除く”というアジアの神への畏れから生まれたものだ。もう一つは特級叛霊『悪路王大嶽』。“悪路王”と“大嶽丸”。ともに関東・東北地方がまだ“蝦夷”と呼ばれ朝廷にとっての敵対者であった頃の畏怖が融合した鬼神。彼らの相手をしている間に我々はお暇させてもらうとしよう。」
羂索が呼び出した呪霊は莫大な呪力と存在感をもって君臨し、追手を阻む。
「待てっ!」「奴を逃がすなっ!」
高専術師と隆景らが呪霊の防壁を突破しようと試みるが『ガネーシャ』と『悪路王大嶽』の二体による妨害がそれを許さない。
『ガネーシャ』の術式により隆景以外の術師は攻撃行動すらとれずに現場は混乱し、術式を撥ね退けた隆景も一人では特級二体を前に追撃の足が鈍る。
(まずはこの妨害術式を操る奴を!『
奥義により『ガネーシャ』を祓い、続けて他の術師と共同で『悪路王大嶽』も祓った隆景だったが、時既に遅く、羂索らは渋谷の地から姿を消していた。