やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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第三十話 番外 ある男の記憶

私は自身を恵まれた人間だと自認していた。

生まれは貧しく、名前も付けられずに口減らしされる筈だったにも関わらずだ。

 

なぜなら私には力があった。理知を超えた不思議な力だった。その力は赤子の私の身体を頑強にし、傷や病も癒やした。私はその力で自覚もなしに身を守って生き永らえた。

何度手に掛けても死なない私のことを産みの親はひどく忌み嫌った。得体の知れぬ化け物、化生が産まれてしまったと。

次第に彼らは私の勘気に触れぬようにと世話をしだした。今にして思えばあれはタタリガミを宥めるように供物を捧げる行為に似ていたと思う。

 

私はいつしか両親が必死で作った祭壇のようなものに置かれるようになった。

この頃になると、私は時折家族の傷や病を力で癒すようになっていた。

明確な意思があってのことではなかった。成長して周囲の様子を知覚出来る様になり、周囲の異常に対して「出来る」という理由だけで力を振るうようになったのだ。

 

この頃になると両親はいよいよ私は神であるかのように扱い出した。害をなそうとせぬ限りは周囲に癒しの力を振りまく人外の理にいるもの。私は家に安泰をもたらす幸運の神として絶えず供物を捧げた。…その供物を都合するために他の兄弟が犠牲になったことを知ったのは私が長じた頃で何もかも手遅れとなった頃だった。

 

私の力はいつしか周囲の住人にも知られるようになり、多くの人間が供物と共に私の元を訪れ癒しの力を乞い願うようになった。

この時期からは比較的はっきりと記憶が残っている。私は訪れるもの全てに癒しの力を振るった。力の使い方も多彩になり、癒しの力を石の形に固めて守り石として渡すようになった。その石を持っていると怪我や病を肩代わりしてくれると益々評判が広まっていった。

来訪者は日に日に増えていき、供物の量も質もどんどんと増していった。両親は私が健康に育てるように十分な食事を与えてくれたが、その頃には供物の量は家族全員を養うには十分な量に達していた。有り余る供物がどう家を富ませたかについて私は関心が無かった。

 

人々は私の力を「神通力」と称するようになり、来訪者と供物は益々増えていき両親と家を豊かにしていった。

 

私は十二の齢になったが、未だに名を持つことはなかった。名を与えることは不遜に当たるなどと両親は言っていたが、本心では名を持ち俗世に近づくことで力が失われることを恐れていたのだろう。私にとって、自分を指す名称とは人々が口にする「御子様」という言葉しか無かった。

 

十五の頃、都からやんごとなき方の遣いが村を訪れた。本来は帝の子を指す「御子様」という呼び名が原因で、帝の名を騙る不届き者がいるとの噂が立ったため調査に訪れたようだった。

幸い私の一族に処刑の沙汰が下ることは無かった。遣いの者は陰陽寮の者で、私の力の正体を看破したからだ。それ故に私が周囲から崇められていた理由も理解し、帝の名を騙っているという噂が誤解であると取りなしてくれたのだった。

その者によると周囲が「神通力」と呼ぶ私の力は「呪力」という力の一種だといい、その「呪力」を用いて魔を祓うことを生業とする者のことを「呪術師」と呼ぶのだという。そして私が扱う力は呪力の中でもより高度な「反転術式」という力でこれを自在に扱う者は珍しいのだと。

 

遣いの者は都へと帰っていったが、暫くの後また別の者が私の元を訪れた。

曰く、朝廷を挙げて「両面宿儺」なる者の討伐が計画されていること。

曰く、宿儺の討伐に私も加わるよう命が下ったこと。

曰く、これは帝から直々の勅命であること。

 

私は都へ呼び寄せられ、宿儺なる者の討伐に従事することになった。

家族は私を盛大に送り出した。帝の命であるから当然私を都へ送ることに難色を示すことなどなかった。むしろ今回の招集に乗じて一家をひとかどの家へと盛り立てられることを期待しているようであった。

 

討伐に向けて、都で私は呪術師としての簡素な教育を受けた。

都には多くの呪術師が集められていた。文字を学んでいなかった私は彼らの名を覚えることは出来なかったがいずれもが名だたる名門の家に仕える才人ばかりであった。下賤の身である私には窮屈で畏れ多い場であったが、私の癒す力…「反転術式」を見ると私を呪術師として重んじてくれることもあった。

 

 

斯くして「両面宿儺」の討伐が実行された。

彼の者は四つの腕と二つの顔を持つ異形であった。一対の腕は二つの武具をそれぞれ振るい、もう一対は呪術を振るうために掌印を結び、集められた数多の強者の術師達を次々と屠っていった。

 

私は傷を負った者を癒やしていたが私が癒す数よりも宿儺に殺される数の方が遙かに多かった。

都にて学んだ術師の秘奥「領域展開」も宿儺は幾度となく凌いだ。同じく都で学んだ『彌虚葛籠(いやこつづら)』を一対の腕と口で掌印と呪詩を発動することで防ぎ、残った腕で呪術を振るい術師を鏖殺していった。「領域展開」を扱えるのは才能ある術師の中でもほんの一握りだけの希少な存在だと教わっていたが、そんな英傑達ですら宿儺の前では容易くその命を散らした。

 

一方で宿儺の操る「領域展開」は他と隔絶する絶技であった。「領域展開」とは結界により空間を区切ることが前提であると教わったが、宿儺の「領域展開」はその結界すらも必要としなかった。

宿儺の「領域展開」から身を守るために術師らも同じく「領域展開」を発動したが、宿儺のそれは術師らの「領域」を粉微塵に切り刻み、焼き尽くし、尽く命を奪った。

 

私は教わった『彌虚葛籠(いやこつづら)』に自身の術式を組み合わせて防壁を築いたが、庇うことが出来た術師は僅かな数であった。

 

そして、そこで私の力も尽きた。

 

彼の宿儺なる者は正しく化生である。彼の者はこれからも多くの命を奪い、人の世に苦しみを齎し続けるであろう。

 

私は今際の際で天に請い願った。

かの化生を倒すものが現れることを。己に天からの力が与えられたように多くの者が自身以上の力に恵まれ彼の大化生を打ち破るほどの大きな力として結集することを。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

果たして男の願いは歪な形で結実することになる。「多くの者へ」という願いは自身の血縁のみへの力の継承という形で。「自身以上の力に恵まれるように」という願いは血族に呪いの「力」と「(すべ)」を操る素養を齎した。

願いの歪みはそれだけに留まらなかった。子孫は「力」こそ受け継いだが、男に匹敵する程ではなかった。(すべ)は受け継ぎこそしたが、同時に決してそれを操ることは出来ないという「呪い」も生み出した。

 

多くを望みすぎた願いは呪いとなって子孫達の生涯を大きく歪ませ、享受できるかもしれなかった幸福を奪うことになった。

 

男の死の間際の願いが結実するのは大きく時を隔てた未来でのことである。

奇しくも願いの切っ掛けたる化生、「宿儺」の復活と時を同じくしてのことであった。

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