やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
2024/06/24
羂索の方の「加茂憲倫」を間違ってお下げの方の「加茂憲紀」と誤記しておりました。
謹んで訂正いたします。
ごめんね憲紀。
他の話も順次修正していきますので何卒よろしくお願いいたします。
渋谷での大規模テロ(以降、“渋谷事変”と呼称する。)に対して呪術総監部から次のとおり通達する。
一つ、夏油傑の生存を確認。同人を再度死罪とする。
二つ、夏油傑と共同で渋谷事変を首謀したとして五条悟を呪術界から永久追放。封印を解く行為も罪とする。
三つ、夏油、五条の両名を唆し渋谷事変を立案したとして夜蛾正道を死罪とする。
四つ、虎杖悠仁の死刑に対する執行猶予を取り消し、速やかに死刑を執行する。
五つ、乙骨憂太を虎杖悠仁の死刑執行役として任命する。
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「総監部からの通達はもうそろそろ行き渡った頃かな。」
渋谷事変にて“五条悟の封印”という大偉業を成し遂げた羂索は上機嫌で
総監部の通達には、現在羂索が死体を乗っ取っている“夏油傑”への死刑執行命令も含まれている。総監部をほぼ掌握している彼が何故自身に危険を及ぼす命令を潰さずに通したのか。
それは総監部にまだ残っている彼の手が及んでいない良識派を炙り出すためであった。
尻尾を出した連中の始末も終えた羂索にとって最早呪術界は自身の手中にあるといえた。だが彼の目的は呪術界を牛耳ると言った小さなものでは断じてない。
大規模多重結界術式『死滅回遊』への発動と成就、日本呪術界の要たる「天元」の掌握、この二つを成した先にある彼自身の想像すら及ばぬ未知の混沌の顕現。それこそが彼の悲願であった。
まだ見ぬ世界を知りたい。1000年もの間、身体を乗り換え幾度の敗北を味わってでも決して諦めなかった渇望。羂索を動かす原動力は一種の純真無垢な探究心ともいえた。
その心からすると渋谷で現れた
「要石を用いた嘱託式帳。単なる力業では壊せないはずだけどどうやって彼は為したのか。珍しい呪具を使っていたようだけど、それだけではあれ程高出力の反転術式を為し得ないだろう。」
「悪路王」と「大嶽丸」。いずれもが伝承が集約されていった結果、坂上田村麻呂に討たれた逸話を持ち、田村麻呂の伝承上の伴侶が先の鈴鹿御前である。
成る程、であれば相性的には鈴鹿御前由来の呪具を持つ彼が有利であろう。
思考が脇道に逸れてしまった。
ともかく本来は破れ得ぬ帳を破壊したのであればこれから展開する
彼の存在は死滅回遊に付与する予定の「永続」のルールと大きく影響し合うだろう。その結果生じる未知の事態すらも羂索にとっては喜ばしいものであるのだ。
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額に縫い目の男、仮称加茂憲倫の逃走を許したことは術師勢力にとって事実上の敗北であった。
高専所属の術師らは戦闘の終結後、今後の事態に備えるために一先ず高専東京校に戻っていたが、彼らとは別行動を取る者もいた。
虎杖悠仁、呪胎九相図の受肉体である脹相、賀﨑隆景の3名。いずれも呑気に高専に戻れば拘束や処刑といった処分を免れられない立場故に戦闘後のドサクサに紛れて姿を晦ましたのであった。
最も虎杖悠仁と脹相の2名はそれだけが理由ではないようだったが。
彼らの潜伏の手助けをしたのは先の戦闘に途中から加わった九十九由基。術師として特級の位を冠されながらも高専を中心とする既存の呪術界とは距離を取り、独自の行動を取っている存在であった。
そうした経歴から独自のコネを持っており、渋谷での戦闘に際しても負傷した術師等の避難を指揮していた。
「すまない。あのとき迷った。ここまで事態が進んでしまったのであれば、一度泳がせて様子を見るべきではと。」
九十九は縫い目の男に対し全力の追撃を行わなかったことについて虎杖達に事情を打ち明けた。
「気づいたかな。私は君達の味方というわけではないんだ。ただ世界から呪霊をなくしたいだけのしがない美女さ。」
そう告げた後、彼女は「天元に向き合う」といって立ち去った。
残された隆景と虎杖悠仁、脹相の3名は今後の活動方針について話し合うことになった。
口火を切ったのは隆景だった。
「虎杖君。同じ五条先生の生徒として、今の君にこのことを尋ねるのは酷なことだとは分かっているが…それでも教えてもらいたいことがある。」
「…宿儺のこと?」
「そうだ。」
彼らとは高専勢から姿を晦ます道すがら簡単に互いの身分の説明を済ましていた。隆景は自身が高専の元学生であり、現在は呪詛師として指名手配中であること。そして密かに五条悟と連絡を取り、彼の部下として活動していたことを伝えた。術式は明かしていないし、高専を追われた経緯も詳しくは話していない。信用を得るのは難しい怪しげな話だが虎杖は一応承知してくれた。その不用心さは心配になるが今は有り難かった。
「五条先生から君のことはある程度聞いてはいる。元は非術師だった君が今年の6月に特級呪物“宿儺の指”を飲み込んでその器になったこと。そして無茶な条件を持ちかけない限り、肉体の主導権を宿儺に奪われることが無いことも。」
「……。」
虎杖の表情が曇るが、隆景はそれを察した上で質問を続ける。
「だが渋谷では君の中の宿儺が外に出てきたと聞いている。これは本当か?」
「本当だ…。そこの脹相と戦って意識を失った俺に女の子と呪霊が指を食わせたみたいなんだ。俺の意思で明け渡さない限り、これまで肉体を乗っ取られることは無かったんだ。普段は指を飲み込んでも宿儺が出てくることは無かった。だけど今回は…。」
虎杖が一度言葉に詰まるが隆景は続きを待った。
「今回は意識を失っている時に一度に10本の指を食わせられた。…それでアイツに肉体を取られた。」
「宿儺の指は合計20本…。残りの5本を取り込んだら?」
「多分残り5本を一度に飲み込まされても肉体は乗っ取られないと思う。でも、仲間の伏黒って奴に宿儺は関心を持っていて何かを企んでいる。絶対に肉体を乗っ取られないとは今の俺には…。」
「宿儺の思惑に察しが付くということは、乗っ取られている間も虎杖君は外部の情報は得られていたということかい?」
「気を失っている間のことは分からないけど…、目を覚ましたと思ったら宿儺の中に閉じ込められているみたいで、宿儺を通して同じものを見聞きしている感覚だった。だから、宿儺がやったこともその感触も…。」
何てことだ。肉体を奪われるだけならず、その間に宿儺が行った虐殺も彼はその身で体感しているということか。
「そうか…、ありがとう。話してくれて。」
こうして虎杖悠仁は自身の中の宿儺が暴走した経緯と自身の中で宿儺がどういう状態にあるのかを説明してくれた。虎杖の横で保護者然としている脹相とは当初敵対・戦闘をしていたというが、これはどういうことだろうか。
「虎杖と脹相はどういう経緯で行動を共にしているんだ?」
「決まっている。俺が悠仁のお兄ちゃんだからだ。」
「ごめん…縫い目の奴との戦いで味方に加わってくれたんだけど、それからずっとこの調子なんだ。」
虎杖は気まずそうに答える。だが、その表情はこれまでの宿儺について語るそれとは異なって、勝手だが少し温かみを感じた。
「あなたは受胎九相図の受肉体であると聞いていましたが、受肉元になった肉体の話をされているんですか。」
「違う。俺と悠仁は他の兄弟と同じく加茂憲倫の手によって生みの親を弄ばれて生まれた。俺は術式でそれが分かるんだ。」
そう強い語気で言い切る脹相の表情は真剣そのものだ。疑問に思ったなら思い切って聞いてみようと質問したが、その迫力に気圧されて次の言葉が思い浮かばなかった。
見かねた虎杖が助け舟を出す。
「脹相は血を操る術式を持っているんだけど、それで血の繋がりを感じられるらしいんだ。」
「それによって俺は悠仁と俺達が同じ血を引く兄弟であると確信した。弟を守るのは兄の使命だ。」
その言葉に口に手を当て隆景は考え込む。仮に脹相の言うことが事実なら虎杖の出生には縫い目の男、仮称加茂憲倫が関与しているということだ。受肉体であり、一時は仮称加茂憲倫に与していた脹相の証言を全面的に信用するわけにはいかないが、ここに虎杖の事情を含めて考えるとその話にも真実味が増してくる。
これまで一人の適合者も現れず、取り込む者を悉く死に至らしめてきた“宿儺の指”。それを15本も取り込んで、命どころか自我すらも失っていない虎杖悠仁という存在。
彼が出生の前から仮称加茂憲倫によって手を加えられて生まれた存在だとすれば?
目の前の脹相がそうであるように加茂憲倫は過去に呪霊と人間の間に子を成すという形で特級呪物“呪胎九相図”を生み出した。死体を乗り換えながら平安の時代から長い年月を渡り歩いてきたならば、九相図の他にも同様に人間を改造してきたとしても不自然ではない。
「虎杖君は宿儺の指を取り込むまでは術師じゃなかったんだよね?ご両親のことについて教えてもらう訳にはいかないかな?」
再び虎杖に尋ねる。
「親のことは全然知らない。俺、爺ちゃんに育てられたから。その爺ちゃんも今年死んで…呪いとか事件とか関係なく病院のベットで普通に老衰でって感じで。でも爺ちゃんからも親のことは聞いてないよ。その頃は爺ちゃんが居てくれたってことだけで十分だったから。」
「お爺さんを亡くされたばかりか…。いや、ありがとう。込み入ったことまで話してくれて。」
話を聞く限りでは、宿儺が復活する可能性は低いと考えられる。だが虎杖の家庭事情を含めると到底楽観出来る状況ではない。それに五条悟という“絶対”が敗れた今、隆景の中のメタ的な思考は最悪の事態を想像せずにはいられなかった。
互いの紹介を済ませたところで話題は今後の方針についてのことに移った。
「まず俺からだが、虎杖君、俺は君と一緒に行動は出来ない。」
「……。」
隆景の言葉に虎杖の表情は少し強張ったようにみえた。その横では脹相が顔に今にも襲い掛からんばかりに青筋を立てて隆景を睨み付けていた。
誤解を与えてしまったかもしれないので補足のため言葉を継ぐ。
「すまない、君個人に害意を持っている訳じゃないんだ。君の中の宿儺。奴に対しては自分の手の内を伏せておきたい。」
「…!」
「今の虎杖君が宿儺を抑え込んでいること。今後宿儺の力を借りる気が無いことはさっきの話で俺もよく分かった。ただ、脹相の話を踏まえると君の出生には謎が多い。そこに宿儺が復活するための仕掛けが無いとも言い切れない。だけど今の君を殺すべきとも思わない。五条先生の意向もあるし、そのことについては少なくとも20本全ての指を揃えてから考えれば良いと思う。」
五条と同様に今後も虎杖には指を取り込ませるべきだと隆景は考えている。
彼の出生を考えると、取り込んだ指の数に応じた罠も警戒する必要はある。例えば、新たに指を取り込む際は拘束のもとでの実行などの対策は取るべきといった対策などだ。だが彼がこのまま宿儺の力を全て掌握する可能性もある。賭けではあるがこの状況では主人である五条の方針に沿った判断を下すことにした。
ただし、宿儺が完全復活するようなことがあればその時には刺し違えてでも殺さなければならない。その事態に備えて自身の能力、特に『領域』は秘匿しておきたい。
渋谷で彼の前で『領域』は見せたから中の宿儺にも外観は見られているだろう。だがあの場で自身の『領域』の真価を発揮した訳ではない。そもそも本来の領域からは大きく外れた隆景のそれは『領域』と見做されていない可能性もある。であるならば隠せる手札はギリギリまで隠しておきたい。
「俺は単独で動いて、東京に放たれた呪霊討伐に尽力するよ。仕事仲間に拾ってもらった情報だと最低でも100万体の呪霊が世に放たれたらしい。こいつらを何とかしないと今の混乱も収まらないだろう。君達はどうするつもりだい?」
隆景の問いに虎杖が答える。
「俺もここで呪霊を祓うよ。脹相も手伝ってくれるって言うし。」
別々に呪霊対策に当たることが決まった隆景と虎杖、脹相は連絡手段を確認した後分かれることになった。
「姿をくらます」の漢字について。
変換で「晦ます」と出てきたので、文中で使ってみましたが読みづらいので今後は使わないと思います。
それと虎杖と宿儺についてはナルトと九尾の関係に近いのかな?と隆景は思っています。それで甘めに見積もって対応をしています。後で後悔することになるとは知らずに…