やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
「『闇より出でて闇より黒く、その汚れを禊ぎ祓え。』」
唱えられた呪詩に呼応して当たり一帯に『帳』が展開される。
『帳』の主目的は呪いを一般人の目に触れさせないようにすることだが、もう一つの役割として結界範囲に潜む呪霊を炙り出す機能がある。
「オカアアアサアン」「クルシイヨオオオオ」「イキタクナイイイイイ」「タスケテエエ」「アレカッテヨオオオオオ」
『帳』に炙り出された呪霊達が次々と姿を現す。
隆景は虎杖らと別れて以降、仮称加茂憲倫が逃亡の際に首都圏全域に放ったと思われる呪霊を祓い続けていた。
当初は100万体規模と報告されていた呪霊だが、祓っても祓っても数が減る気配はない。どこかで呪霊を追加し続けているのか、人々の恐れが高まったことで発生数が増加しているのか、あるいはその両方か。
日本政府は高専を始めとする術師勢力との協議の末、呪霊の存在を一般に公表することにした。「呪霊は東京にのみ発生する」というフェイク情報を付けた上でだ。こうすることで国民の無意識を誘導し呪霊の発生箇所を一部に集中させ、対象地域からの国民の避難と術師による呪霊の封じ込めを狙ったのである。
この方策は一定の効果を発揮したがそれでも呪霊被害の拡大を封殺するには至らなかった。
これは発生する呪霊が当初想定した数を大きく上回っていたことや、渋谷事変で術師を始め補助監督や窓の人員に死負傷者が多数出たことに起因していた。
特に呪霊の圧倒的物量が術師達を疲弊させ対応を遅れさせていた。
隆景も10月31日以降一週間近く呪霊を祓い続けており、この『帳』を用いた手順もその中で自然と生まれた手法だった。そこら中にいる呪霊を逃さず祓うために毎度毎度こうやって『帳』で炙り出して残らず殲滅していっているが中々安全地帯を確保することが出来ていない。
この呪霊達を祓った後もすぐに移動して別の場所で呪霊狩りをしなければならない。
こちらを窺う呪霊達を前に隆景は掌印を結び言葉を継ぐ。
「領域展開『
体表に『簡易領域』を展開し、そこに生得領域を具現化するのでなく『
「『
形成されるのは白の鎧とそれに保持されるドスを思わせる形状の巨大な刀。
形状はシャーマンキングの麻倉葉のそれと同一で、左手の手甲から背中を回るように鎧状のパーツが展開しており、終端の右手のアームは刀を保持し、防護結界が術者の全身を覆っている。
これが賀﨑隆景の術師としての到達点であった。
巨大な刀の間合いにいた呪霊が一振りで祓われる。
呪具である刀『
呪霊にとってこの刀は触れるだけでを死に至らしめる天敵である。
一瞬で消失した同族を見て本能で察したのか、呪霊らは先ほどとは打って変わって一様に及び腰になっていた。
だが彼らがこの『帳』を脱出することは容易ではない。目の前の殺戮者から逃げながらでは尚更である。
地を蹴り一番近くにいた1m級の呪霊を両断する。消失反応も確認せずに付近の呪霊の群れを尽く斬り捨てながら駆けていく。
2m級、5m級、4m級、1m級、2m級etc、etc、etc…
大小様々、3級から1級まで等級も様々な呪霊をすれ違いざまに次々と斬っていく。
流石に特級は混じっていないようだが、生半可な特級であれば容易く斬る能力が今の隆景にはあった。
遠方にいた呪霊が他の呪霊を巻き込むことも厭わずに術式や呪力弾による攻撃を仕掛けてくる。呪霊達に仲間意識など無いに等しい。こうした攻撃も珍しいことではないが、この
気にせずに呪霊を斬り続け、呪霊の集団の一つを処理したら、すぐさま次の集団の元へ跳躍しまた斬りかかる。
斬り捨ててはまた別の集団へ、斬り捨ててはまた別の集団へとその作業を繰り返す。かなり広範に『帳』を下ろしたことと呪霊の密集地を引き当てたことが重なり、『帳』内の呪霊は尽きること無く湧いてくる。この生活を始めてから斬った呪霊の数は数えていないが、この『帳』内だけでも既に三桁は下らない数を斬ったであろう。
特に感慨を抱くことも無く、次の呪霊の集団へと隆景は突撃していく。
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今更だが呪霊とは人間の負の感情が集まることで生まれる現象である。
負の感情の集まり方には特徴があり、特に一般的なのは土地の属性によるもので、負の感情が集まりやすい場所には呪霊が発生しやすいというものである。
痛みや病の苦しみが集まる病院などの医療施設はもちろん、学校などの教育施設にも呪霊は多く発生する。大多数の人は学校で楽しい経験ばかりをする訳では無い。創業が古い会社のビルなどもそうだ。総じて長年に渡り多くの人が過ごし続けてきた場所には呪霊が湧きやすい。
もう一つの集まり方とは事象や概念に対する畏れである。
人々の恐怖心が怨霊や怪談話という指向性を持って集まることでそれぞれの逸話に即した姿や力を持つ特殊な呪霊が生まれる。こうした呪霊は「仮想怨霊」とも呼ばれ区分されている。
「仮想怨霊」の特徴には、一度祓われても再び同じ性質の呪霊として発生することが挙げられる。再発生した「仮想怨霊」は、以前の個体から自我を引き継ぐわけではないため知性体としての同一性は無いが、呪霊としての能力や術式は同一のものを引き継ぐことはある。
この『帳』に潜んでいた「仮想怨霊」たる呪霊も以前の個体と同じく、「水難」と「死後の世界」への畏怖に相応しい『術式』と『領域』を持っていた。
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呪霊を斬り続けていた隆景は『帳』内の呪力の異変を感知すると同時に「それ」を視認した。
女性に近い体型と引き摺るほど長い頭髪を持つ呪霊。
術式の副次効果によるものだろうか、呪霊を炙り出す『帳』内であってもこの呪霊は水面に潜むことでこれまで姿を隠していた。
そして襲撃者である術師が自身の術式圏内に入ったことで姿を現すと同時にその術式を行使した。
「領域展開 『
古来から艱難辛苦に耐えかねた親子や男女らが取る入水自殺と、親よりも先に死んだ子が供養のために地獄で課せられる川辺で小石を積み上げるという賽の河原の伝承。
幼子の死という点でこれらの伝承が結びつけられたことでこの呪霊は発生した。
この呪霊が賀﨑隆景と相対するのは3度目である。
1度目は彼の幼少期に。鍛錬の中で偶然遭遇し彼を死の寸前まで追いやった。
2度目は彼が高専1年生の時に。夏油傑が取り込んだ呪霊の一体として彼を襲った。この時に術式が目覚めた隆景によって祓われている。
そして3度目。一度祓われたものの、人々の畏怖により再度発生したこの呪霊は以前の個体と同じ『領域』を操り、三度隆景に襲いかかった。
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呪霊を斬り続けていた隆景の体が呪霊の領域に飲み込まれる。
この領域には付与された術式効果は領域内の者を即座に水死に至らしめるというもの。抵抗する者には5分間の猶予を与える代わりに時間が経過すれば呪術的防護を無効化して術式効果を適用する。加えて領域内には時間経過を加速させる仕掛けもあり、条件付きとはいえ必中必殺といえる性能を備えていた。
だが呪霊の領域は隆景を捉えていなかった。
隆景は『
この呪霊は再発生から間もなく呪術を学ぶ機会もなかった。故に二者が領域を発動しているにも関わらず領域の押し合いが発生していないことの異常性に気付かなかった。
領域の不発を訝しむ呪霊に敵対者の言葉が届く。
「おまえは」
その言葉を聞き届ける前に、
「もういいよ」
呪霊の頭部は断ち切られていた。
落下する頭部が最期に目にしたのは逆さまの景色だった。
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「秤、無事にこっちに着いたんだな。高専の連中とはどんなだ?」
「まあまあってところだな。久しぶりに顔を合わせたけどそんなに居心地が悪いってわけでもねぇし。パチ屋が軒並み閉まってるのは参るけども。」
「そりゃそうだろ。営業しても交換所が閉まってたりするんじゃないのか?」
範囲内の呪霊の殲滅を終え、『帳』を解除した隆景が笑いと共に秤金次に声を掛ける。
渋谷事変後に隆景から東京の情勢を伝えられた秤と綺羅羅は賭け試合の運営を部下に任せて東京に戻り、高専勢力の中でも仮称加茂憲倫に乗っ取られたと思われる総監部とは独立して動く連中、平たく言えば「五条派」と合流を済ませていた。
独自で行動する隆景への連絡のため訪れたというところだ。
主要戦力である秤が態々連絡員として遣わされたのは、「五条派」の殆どが隆景と面識が薄かったからである。
「これからの方針を決めるから高専に戻って来いってさ。虎杖って奴の方には乙骨ともう一人の一年がこれから向かうらしい。」
「方針?今の情勢なら高専に入れるのか…。でもな~、う~ん。」
しばし隆景は考え込む。元は冤罪とはいえ、脱走時に暴力を振るったのは事実であり現在も術師資格は没収されたままである。加えて脱走後は一応の分別は付けていたとはいえ呪詛師として非合法の行為も多く行ってきた。裏から手に入れた総監部通達の内容から察するに総監部は五条悟とその一派をこの機に排除したいと考えているだろう。そこにのこのこと自分が戻れば、五条派の立場を尚更危うくさせるだろうというのが隆景の懸念であった。
「わかった。秤は先に戻っていてくれ。俺は野暮用を済ませてからそっちに合流する。」
主人公の領域は本人が領域と言い張っているだけで、こんな仕様では当然正しい領域ではありません。
本来なら「【偽】領域展開」と唱えるべきですが、はったりのために【偽】の部分をわざと省略しています。
↑の内容を本文中に入れ忘れました。
情けない投稿者ですまない…