やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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万を退場させた結果、伏黒の死滅回游へのモチベーションが無くなりましたので今回理屈づけを試みました。みんなで頑張って日本を守ろう!


第三十四話 薨星宮(こうせいぐう)

11月 9日

呪術高専東京校 最下層 薨星宮(こうせいぐう)本殿

 

 

日本呪術界の要であるこの場所に乙骨憂太ら五条派の術師や非主流派の九十九由基、訳アリだが虎杖に付き添っている脹相という多様な面子が集結していた。賀﨑隆景も五条悟の部下として共にここを訪れていた。

 

目的は天元と接触し、五条悟の封印の解き方と仮称加茂憲倫が仕掛けた大規模結界“死滅回游”についての情報を得ること。

 

 

九十九曰く、平時は現世に干渉しないという天元も六眼が封印されたこの非常時なら接触出来るだろうということだったが、本来薨星宮(こうせいぐう)本殿があるべき場所にはひたすら真っ白な空間が広がるだけであった。

 

 

「戻ろうか。回游のペナルティまでの時間を無駄にしたくない。」

 

 

死滅回游の実行に際して、仮称加茂憲倫は事前に二種類の泳者(プレイヤー)を準備していた。そのひとつが、呪物化した過去の術師が現代人の肉体を乗っ取った“受肉タイプ”の泳者(プレイヤー)。もう一つは、術式は持っているが呪力は持たずに産まれた者の脳を『無為転変』により改造した“覚醒タイプ”の泳者(プレイヤー)

 

 

“受肉タイプ”の泳者(プレイヤー) は余程の変わり者を除き自らの意思で回游へ参加するだろう。時代を渡ってでも果たしたい望みがあるからこそ呪物化を受け入れたはずだ。

 

問題は“覚醒タイプ”の泳者(プレイヤー)だ。死滅回游において泳者(プレイヤー)は他者を殺害することで(ポイント)を得る。そして一定期間(十九日)(ポイント)を獲得しなかった、もしくは回游への参加を行わなかった泳者(プレイヤー)に対しては“術式の剥奪”が行われる。恐らくこの“術式の剥奪”をされた者は死亡するというのが大方の予想だ。

 

 

殺し合いへの積極参加を望む泳者(プレイヤー)は呪詛師として処分もしくは放置しておけば良いが、そうでない泳者(プレイヤー)については保護を検討すべきであり、そのために死滅回游への介入を行う。この場に集まった者らの意見は概ねその点で一致していた。

 

何より仮称加茂憲倫が“死滅回游”を仕掛けた真意が不明である以上、回游の調査自体は行わなければならない。

 

 

だが、天元の助力が得られぬ以上はここに長居をしても時間を浪費するだけだ。乙骨の言葉に従い薨星宮(こうせいぐう)を去ろうとした一同だったがそこに虚空からの声が響く。

 

 

「帰るのか?」

 

 

突如現れた気配に全員が声の元を向く。

 

 

「初めまして。現代の術師達よ。」

 

 

声の主は四ツ目の異形。

 

 

(“禪院の子”、“道真の血”、“呪胎九相図”、そして“宿儺の器”。…あとは“華咲の悲願”か。)

 

 

薨星宮(こうせいぐう)の主、天元がそこに立っていた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

天元から提供された情報は多岐に渡った。

 

まず、これまで仮称加茂憲倫と呼んで来た術師について。

 

奴の名は“羂索”と言い、その目的は日本全土の人間を強制的に進化させるというものであること。

 

その目的のために奴は過去に二度、天元の身柄を狙い行動を起こしたが二度とも六眼の術師に敗れているということ。

 

 

そして天元自身について。

 

天元は500年に一度、星漿体(せいしょうたい)という特殊体質の生贄と同化することで人外に転じることを防いできた。だが、12年前に行われるはずだった同化が阻止されたことで異変が生じた。現在の天元は日本全土へと拡散された精霊のような、かつ呪霊に近い存在へと変質しており、羂索の呪霊操術によって容易に取り込まれかねないこと。

 

 

これらのことを踏まえた上での羂索の目的を予想するならば、それは日本全土を死滅回游で生まれた呪力で満たし、その呪力と日本全土と一体化した状態にある天元を利用して全ての日本人を強制的に何かしらの呪術的存在へと進化させることだという。

 

 

天元の言葉が確かならば状況はかなりひっ迫している。死滅回游の阻止と羂索の殺害。この2つを達成しなければ日本は壊滅するだろう。ただでさえ渋谷を中心とした首都圏が麻痺しているというのに今度は全国十か所に死滅回游の結界(コロニー)が形成された。この結界(コロニー)の位置が厄介だ。四国と九州は辛うじて最大の都市圏付近には結界(コロニー)が無いため都市機能もある程度は維持できるかもしれない。だが、東京と大阪。日本第一と第二の都市にはそれぞれ2つずつ結界(コロニー)が設置されている。

 

 

この二都市が壊滅すれば日本国内が文字通り分断される。そうなれば物資の奪い合いから国内が分裂し内戦状態に陥ることも考えられる。2010年代に戦国の乱世に逆戻りなんて冗談じゃない。何せ人殺しの道具は格段に進化しているのだ。そうなれば最早呪霊ではなく人同士の殺し合いによってこの国は滅ぶだろう。

 

 

日本人全員を人質に取られたこの状態を脱するためには死滅回游を阻止しなければならない。だが、阻止と言っても回游の真の目的は未だ推測しか立てられていない状況だ。この状況では最適な対策を打つのは難しい。

 

 

「となると…」

 

 

「…だね 僕らも回游に参加して、ゲームに消極的な泳者(プレイヤー)が回游を抜けるルールを追加するしかない。」

 

 

「そのためには他の泳者(プレイヤー)を殺して最低でも100点を稼ぐ必要があると…」

 

 

伏黒、乙骨と集まった面々の中でも比較的“殺し”について割り切りが出来る者らが今後取るべき方策を口にする。高専を卒業した者や術師の家で育った者に比べ、高専の学生は対人戦闘の機会が少ない。故に“人を殺す”という行為について免疫が低い者も多い。逆にそうした行為に慣れている者が主導して話を進める。

 

 

「五条先生の解放も並行して進めましょう。あの人がいれば一人で全て片が付く。」

 

 

「天元様。」

 

 

伏黒の言葉を受けて虎杖が天元に質問する。

 

対して天元は羂索への対策として護衛に付く術師の選出を求めた。護衛には九十九と脹相の2名が残ることになった。九十九は天元に対して。脹相は羂索に対して。それぞれ因縁のある者が志願するという形で薨星宮(こうせいぐう)の防衛に当たる術師が決まった。

 

 

護衛術師の選出が決まったところで天元は五条悟解放のための方策を開示した。それは『獄門疆(ごくもんきょう)裏』という『獄門疆(ごくもんきょう)』と対になる呪具。『獄門疆(ごくもんきょう)』という封印に対するいわば勝手口に当たるものらしく、これの術式の解除や消滅が叶えば対応して表の『獄門疆(ごくもんきょう)』も封印が解放されるというのが天元の説明であった。

 

 

「『天逆鉾』、『黒縄』、“天使”を名乗る受肉タイプ泳者(プレイヤー)の術式。『獄門疆(ごくもんきょう)』の解放にはそのどれかが必要だが、そのうち二つは手に入る見込が無い。となると“天使”を捜索して協力させるしか無いですね。」

 

 

「伏黒~。言葉が荒っぽすぎない?」

 

 

伏黒の発言に対し、虎杖がツッコミを入れる。状況を考えれば伏黒の姿勢の方が正しいが。

 

それにしてもこの虎杖という1年は周囲を明るくする雰囲気を持つ少年だ。彼の中に宿儺がいると言うことを忘れてしまいそうになる。

 

 

獄門疆(ごくもんきょう)のことで試してみたいことがあるんだが…」

 

 

そう言って隆景は虎杖に目配せする。虎杖はすぐに意図を察したようだ。

 

 

「あ、宿儺のことね。オッケーオッケー。天元様。悪いんだけどちょっとの間俺だけ結界の外に戻してくれませんか?」

 

 

虎杖はフランクな態度で天元に頼み事をする。九十九と脹相を除く面々はあまりの気安さに肝を冷やすが、当の天元は気にした風では無い。だが、回答は意外なものだった。

 

 

「彼の術式を試すなら君が結界の外に出る必要は無いよ、虎杖君。むしろ賀﨑君が外に出て試した方が良いだろう。君の正のエネルギーだと私の結界まで影響を受けてしまうだろうからね。」

 

 

天元のその言葉に皆が興味を示す一方、隆景は顔に手を当てながら不満を漏らす。

 

 

「虎杖の中の宿儺に出来るだけ情報を与えたくなかったから態々目線で知らせたのに…。なんで言っちゃうんですか。」

 

 

「む。そうだったのかい。人の心までは分からないとはいったが、これは戦略的見地から思い至るべきだったか。すまない、私の配慮が足りなかったようだ。実戦を離れて久しいからかな、私も大分鈍っているようだ。」

 

 

素直な謝罪の言葉に驚く一同を余所に天元は『獄門疆(ごくもんきょう)裏』を隆景に渡す。

 

 

「秤君、乙骨君と一緒に君を外に出す。だが注意することだ。元々『獄門疆(ごくもんきょう)』は卓越した結界術の使い手、源信がその結界術の果てに呪物に変じたものだ。言いたいことは分かるね?」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

秤、乙骨、隆景の3人は薨星宮(こうせいぐう)本殿の結界から一時離れ、高専忌庫の辺りまで引き返していた。

 

 

「ここまで来れば良いだろう。始めるか。」

 

 

受け取った『獄門疆(ごくもんきょう)裏』を床に設置し、術式の準備を始める隆景に秤が話し掛ける。

 

 

「さっきの天元様の言ってたこと。ありゃどういう意味だ?」

 

 

隆景は手を止め、疑問に答える。

 

 

「今からやるのは反転術式を俺なりにアレンジした“浄の力”って奴でこの『獄門疆(ごくもんきょう)裏』の術式を丸ごと消し去ろうって作業なんだけど、コレは“縛り”を使って“呪い”を祓うのに特化して調整した能力なんだ。その“縛り”ってのが人間とか動植物とかの普通の生命力で活動する対象には効果を及ばさない代わりに呪いに覿面(てきめん)に効くって内容なんだよ。」

 

 

「?」

 

 

「ああ、それで天元様はあんなことを言ったんですね。」

 

 

合点がいっていない秤に代わり乙骨が答える。

 

 

「天元様は『獄門疆(ごくもんきょう)』は元々術師が呪物に転じたものだと仰ってました。『獄門疆(ごくもんきょう)裏』も同様の性質を持っているだろうから、賀﨑さんの術式では破壊できないかも知れないと予想したんですね。」

 

 

「そうそう。今は間違いなく呪いの固まりになっているけど人間の要素が残っていないとは断言出来ない。最悪、暴発して何が起きるかわからないから反転術式を使えるおまえ達が同伴者に選ばれたんだろう。俺一人で実験しても良いけど羂索に襲われる可能性もあるし、何より呪詛師の俺を全面的に信用するのは迂闊だろう。人の心まではわからないってのは天元様が自分で言ってたことだしな。」

 

 

九十九さんも反転は使えるだろうけどあの二人は訳ありみたいだしな、と九十九が同伴者に選ばれなかった理由を口にしつつ、隆景は術式の発動準備を終える。

 

 

「じゃあ行くぞ、領域展開『彼此隔界(ひしがくかい)』。」

 

 

隆景が鎧を纏うと二人はそれぞれ感想を口にする。

 

 

「本当に漫画のデザインなんですね。」

 

 

「スロになってないアニメは知らねーけど、相変わらずだなー。」

 

 

二人を余所に隆景は奥義を発動する。

これまでにも過去の術師が変じたであろう呪物はいくつも祓ってきた。だが、今回の『獄門疆(ごくもんきょう)』は他の呪物のように死した術師が変じたものとは事情が違う。源信という術師が“生きたまま”呪具に変じていたのなら未知の事態が起きる可能性は高い。

 

 

「術式起動『無無明亦無(むむみょうやくむ)』」

 

 

獄門疆(ごくもんきょう)裏へ向けて浄の力が放たれる。

 

光が収まったときに現れたのは…

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「あれ?こういう感じ?」

 

 

四方に広がった獄門疆(ごくもんきょう)裏。その中心で伸びた肉のようなものに体を拘束された姿の五条悟だった。




五条復活…ならず!
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