やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
自身の炎に焼かれた
≪5点を獲得しました。≫
コガネが得点獲得を告げる。ルール追加に必要な100点まであと95点。まだ先行きは長いがひとまずは情報共有だ。
「冥冥さん、前にお話したとおり他の連中への情報共有をお願いします。」
「任された。(金払いの良い)クライアント様の仰ることなら承ろう。」
冥冥に依頼したのは
隆景は
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「止まれ、何者だ。」
「賀﨑家当主の賀﨑隆景と申します。東京のご当主、恵様からの書簡を預かって参りました。」
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「『一つ 禪院直哉を当主代理とし現当主伏黒恵に代わって当主の任命を除く家の運営を委任するものとする。ただし、当主代理が決定したことについて当主が疑義をもった場合はこれの再考を命じることが出来ることとする。』
『一つ 禪院家の術師は死滅回游の平定に従事すること。』
『一つ 死滅回游の平定に従事するに当たって、当主の名代として賀﨑家当主を指名する。当主代理はこれの指示に従うこと。』
…………ション便臭いガキが無い頭を絞って考えたにしては上等な内容やないの?」
書簡にて当主代理に指名されている当人、禪院直哉特別1級術師は不服を隠そうともせず書簡を放り捨てる。通された客間には同じく特別1級である禪院扇と禪院甚壱が同席しているがこの二人も表情に不服が表れている。直哉と同様に書簡の内容を承服していないのだろう。
「ほんで? こんな紙切れ一つで俺らが従うって本気で思うとるん?」
「ご当主様のご意向に従わないと?この書状が禪院の正式な手続で作成された物だと言うことはご確認いただいた筈ですが。」
「そもそも伏黒とかいうガキがいきなり当主なんて時点でこっちは認めてないねん。従うもクソもあらへん。」
想定したとおり禪院本家の人間は新当主の伏黒を歓迎していない。そりゃまあ横から出て来た人間に突然財産を掻っ攫われたのだから同情はするがそれでは困る。
「『
「見え透いた挑発やな。それに出来損ないなら君んとここそやろ。一人術式持ちが生まれただけで随分気が大きくなったもんやね。」
まだ挑発が足りないか。時間も惜しいことだしこちらとしてはとっとと激昂してもらいたいのだが。
「はっきり言いましょう。こちらは貴方がた『丙』だとか『灯』とかいう大したことも無い術式にしがみついている連中に用はありません。必要なのは頭数。
室内に殺気が満ちる。流石に術式持ちでプライドの高い連中が術式無しの人間よりも下に見られるとなると名門禪院家としての矜持が許さないらしい。
直哉、扇、甚壱の他にも室外から多数の殺気がこちらを刺してくる。姿を隠すなら気配も隠してこそだと思うがどうやらこの家の連中の常識ではそうではないらしい。
「財産は任せると言っているんですよ?嫡流がどうだとかそんなみみっちいプライドは捨てて実利に飛びつけば良いでしょう。」
努めて連中を嘲る笑顔を作って言葉を続ける。
「当主代理に取り立ててあげるだけ有情でしょう?恵様の厚意が無ければ貴方がたにはこれから平伏して暮らすだけの将来しか無かったんですよ。」
直哉の姿が掻き消える。これが噂の『投射呪法』か。渋谷事変で前当主の直毘人と行動を共にしていた真希から聞いてはいたが、実際に目にすると、いや目にも留まらないところを見ると確かに強力な術式だと言うことがわかる。
衝突音が鳴り響く。しかし直哉の拳は隆景を捉えてはいなかった。
『秘伝 落花の情』
体表に展開した呪力が放たれた拳を正確に捕捉し、衝突の瞬間に呪力を炸裂させて直哉の拳を弾いていた。
領域会得前に五条から学んだこの技術を隆景は自信の得意とする“『簡易領域』によるカウンター”に近い技術として発展させていた。
奇しくも似た形で『落花の情』を自身の秘技としていた扇は齢二十にも満たない低級術師家系出身の男が既に自身と同じ境地に至っていることに激しく感情を乱す。
「急に立ち上がられてどうしました?ああ、お手洗いですか。ちょうど良いことですし、一旦休憩にしますか?」
「チッ!」
なおも涼しい顔を崩さない隆景に対して直哉は不愉快を隠さず吐き捨てる。
「ガキ相手やからと手加減しとったらナメ腐りおって。ブチ殺して
「残念ながら貴方では私を殺せないでしょう。皆様方総出で掛かって来られてはどうですか?」
その言葉に禪院直哉の我慢が限界に達した。
「舐めるのも大概にせいや。お前程度のゴミなんぞ俺一人で十分や。今すぐぶち殺したる。」
「一対一がご希望ですか。そうですね、ご要望通りでも良いですが、でしたらこちらのお願いも聞いてもらいましょう。私が負ければ当主代理の権限を“完全な全権委任”に変更しましょう。その代わり私が勝てば書状の内容に従って下さい。もちろんどちらも『縛り』を結んだ上で。どうでしょうか?」
返答は直哉の拳打で示された。またしても防がれたが。
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禪院家敷地内の練兵場に一同は移動していた。
岩場では隠れる場所が無いためか、これまで別室から様子を伺っていた連中も皆表に出て来ている。
先ほど打ち出した“当主代理への全権委任”について隆景は伏黒の了承を得ずに提案していた。交渉の全権を預かっているのだから問題あるまい。簡単に権限を渡すというのはというのはこういうことなのだとこの機会に身を持って学んでもらおう。
それに今回の交渉の目的は禪院の兵力を動員させることだ。従わないのであればもはや禪院の連中は放っておくしかないだろう。真希の呪具については後で隆景自身が忌庫に忍び込めばどうとでもなるし、さして重大では無いだろう。
そもそもの話、この手の連中を従わせるのであれば…。
プライドを叩き潰すしか無いのだ。
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禪院直哉
禪院直毘人の息子にして禪院家の次期当主筆頭であった男。
父と同じく『投射呪法』を操り、戦闘ではこれまで対人・対呪霊を問わず一方的な勝利を手にして来た。『投射呪法』は自らに毎秒24フレームの動作を打ち込むことを可能とし、物理法則から大きく逸脱しない限り超高速の行動を可能とする。そして掌で触れた対象には1秒を24分割した動きを強制し、これを破れば「フィルムのコマ」として1秒間硬直させる。
異次元の速度で動く術者に対し、日頃は意識していない1/24秒ごとの動作を強制されれば高位の術師ですら対応は難しい。そして対応出来なければ1秒間硬直させられ、その間は無防備に攻撃を浴びることになる。
五条悟を例外とすれば負けることはまず考えられない。
それが禪院直哉という術師であった。
実父のふざけた遺言状さえなければ禪院の当主の座も手に入り、名実ともに呪術界で栄華を極めることが出来たというのに。
だがその屈辱も今日までだ。目の前の男が愚かにも禪院家の実権を差し出すというのだ。大人の真似事で交渉をしているつもりなのだろうが、これでようやく本来手にするはずだったものが全て手に入る。
直哉は労せずに転がってきた幸運に対し上機嫌ですらあった。
故に賀﨑隆景という男に対しても「命だけは取らないでおいてやろう」。その程度の認識で対決に臨んでいた。
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対峙する二人の術師。かたや禪院家の後継と目されてきた男。かたや弱小術師の家でつい最近当主となったばかりの男。しかもついこの間まで呪詛師として界隈から追放されていた輩だ。
見物に来ていた禪院家の面々も来訪者の男が直哉に嬲られる様を楽しむ為に集まっていた。
そんな中で隆景の取った行動は周囲の失笑を買うことになる。
「領域展開『
呪術の極地、領域展開。
隆景がその言葉を唱えた時、面々はざわついたがそれも一瞬のこと。
注目はすぐに嘲笑に変わった。
「あれが領域だと。」「賀﨑が術式を使うというから見に来たが飛んだ期待外れだ。」
嘲りの言葉が周囲を満たす。領域とは本来自身を中心に結界を展開、その中に生得領域を具現化し必中必殺の術式を付与する絶技。
それがこの男はどうだ。
口でこそ領域と嘯いているが、変化が起きたのは体の周りのごく僅かな空間だけ。これでは領域でも何でも無い。変わり種の簡易領域が精々のその様をみすぼらしいと皆が笑う。
対峙する直哉も同じ評価を下していた。呪詛師として活動していた頃は悪名を響かせていたようだが、相対すれば何のことは無い鎧を纏うだけの貧相な術式。いくら防備を固めようが己が掌に触れればすぐさまフィルムの一コマに変じ、その鎧も意味を為さない。
既に直哉の関心はこの男をどうやって痛めつけてやろうか、という嗜虐的嗜好を満たすことに移り変わっていた。
術式を起動し超高速で隆景に触れる。それだけで勝負は終わり。後はこの男の思い上がりを存分に後悔させてやろう。指先から順に骨を砕いていってやれば余興の一つにでもなるだろう。
だが、掌で触れたにも関わらず1秒間の硬直が発生しない。それどころか隆景が身に纏う鎧が駆動し巨大な刀が振るわれる。
常日頃から術式の使用に際しては相手の反撃に対してカウンターを仕掛けられるように動作を設定している直哉だが、この時は慢心により回避が遅れ自身の衣服の一部を切り裂かれることになった。このことだけでも彼にとっては大変な屈辱であったが、それを追い打ちする事態が起きる。
刀を振るった隆景が浮かべる薄ら笑い。奴は“わざと”刀を浅く振るったのだ。自身を挑発するために。
そう悟った直哉は怒りを爆発させる。
「ナメんのも大概にせいやダボカスがァッーー!!」
直哉は練兵場を周回しながら術式により連続加速を重ねる。『投射呪法』は一度に超加速を掛けることは出来ないが、複数回の術式使用を行うのであれば話は別だ。
円状に大地を駆け、加速を続ける直哉の速度は亜音速に達しようとしていた。
(おおかた簡易領域で術式を中和したんやろうがその程度の対策を思いつく奴はごまんとおった!)
直哉は加速を続けながら隆景に狙いを定める。
五条の『無下限』の防壁のように「触れる」ことそれ自体を妨げる他にも『投射呪法』による動作の強制に対抗しようとしてきた者はこれまでにも存在していた。
(それでもこの「速度」に対応出来た奴は一人もおらん!)
音速に限りなく近づいた直哉の体から放たれる拳打・蹴撃はそれ自体が爆発的な破壊力を持ち、呪力強化も相まってこれを防御出来る術師・呪霊は限られる。まやかしの領域を騙る半端物がこれを防げるはずがない。
加速に加速を重ねた直哉の全体重を掛けたドロップキックが炸裂する。
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賀﨑隆景が領域展開を習得できなかった理由は彼自身の生得領域の性質にあった。
『凝固呪法』の術者は呪力を「流体」として認識する。『
加えて隆景の場合は「位相の異なる世界」を認識してしまったことにより心象風景が変化し、あわせて生得領域も「移り変わる」ことが当然のものとして変貌した。
このことが災いし、隆景は生得領域を維持し続けることが困難になってしまった。結界を形成しその中に生得領域を具現化するところまでは辿り着いたが、ものの数秒でその生得領域は結界外へと流れ出てしまう。
これを克服出来なかったため隆景は正当な領域の習得を断念し、現在の様な「簡易領域内に
当然これは『領域展開』と同等の技術ではない。だがそれでも隆景はこれを『領域』と呼んで使用している。
それは「持たざる者」として育ち、呪術師として戦ってきたからこその思考。
侮る者の不意を突き、嘲る者を手玉に取る。
出来損ないの領域だろうが敵の術式は防げるし、領域の押し合いにも対応出来る。こちらの『領域擬き』の性能を見くびっている内に相手の命を奪う。
「持たざる者」の戦いは騙し合い。
この『領域擬き』を侮った時点で、戦いの趨勢は決まっていた。
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激突。
禪院直哉の蹴撃が賀﨑隆景に突き刺さった瞬間、爆発的な衝撃波が練兵場に伝播した。
見物人の誰もが禪院直哉の勝利を確信する中、衝撃により発生した砂埃が薄れたときに目にした光景は信じがたいものだった。
「こンのッ!離せやッ!」
敗北していたはずの男、賀﨑隆景は五体を砕かれるどころか攻撃による莫大な運動エネルギーを完璧に受け切り、更には鎧をアーム上に展開し絡め取るように直哉の体を拘束していた。
拘束を逃れるために鎧に触れ術式による硬直を狙う直哉だが一向に術式が発動する気配は無い。
「ぐゥッ!」
巻き付いた鎧の締め付けが強まり、肉体強度の限界点に達するとボキリと言う音と共に腓骨が損壊する。
特別1級の名は伊達では無く、骨が1本折れた程度で音を上げる直哉では無かったが拘束は続いたままだ。脱出を試みる彼の元に鎧の主である隆景が歩を進める。
「直哉さん、詰みですよ。投了をお勧めします。」
その言葉に対し、顔面に唾を吐きかけることで答えるがそれが届く前に隆景の拳が突き刺さる。
その後も降参の意を示さない直哉に対して隆景は殴打を続ける。
見かねて止めに入ろうとした者は隆景の放った高圧水流によって妨げられた。
「決闘の途中ですよ。まだ勝負は付いてません。」
そう言って直哉を殴り続ける隆景。何か言葉を発しようとしてもその暇を与えずに殴打を繰り返す。
顔の形が変わるまで殴られ続け、意識を失ってもまだ殴り続けるその凶行は禪院甚壱が書簡の全面的な受け入れの表明とこれまでの非礼を詫びるまで続けられた。
文章にストレスをぶつけたら文章量が増えるので楽しい。