やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
特典が月光のワルキューレでダブってしまったので誰か交換してください…
今日の任務地は北関東の廃村だ。
2級呪霊の討伐が目的だが、同伴する予定だった2級術師が直前の任務で負傷したため、単独で任務に挑むことになる。
直前まで同伴する術師の名前は確認しても伝えられなかったし、代わりの人員の派遣もない。
名前が分かればお見舞いの品でも送らなければ。
もっとも本当にその人物が存在しているのならばだが。
今回も上層部の指図だろう。
恐らく、初めから俺を一人で任務に送り込むための段取りだったのだ。
高専への土産品は何がいいだろうかと思案しつつ、足を進める。
上層部の嫌がらせだとすれば2級呪霊よりも手強い呪霊が相手かもしれない。
最悪、1級が出てくることも考えられる。
術式持ちは初見殺しの攻撃を仕掛けてくるところが厄介だ。
既に防御のために簡易領域を使用する準備は出来ている。
賀﨑の戦闘技術では、素早く簡易領域を展開出来るようになることを重点的に叩き込まれる。
領域相手には心許ないが、術式による攻撃であればある程度威力を軽減できる。
その応用性から我が一族では、シン陰の技術の中でも簡易領域は特に重宝されている。
報告では、心霊スポットになっていたこの村で行方不明者がこの一月で三名出ている。
間違いなく「いる」だろう。
念の為、村の数カ所に仕掛けも施してきた。
この村が廃村に至る経緯を調べたが、大きな事故などの話は見つからなかった。
こうなるとこちらから仕掛けるしかない。
帳を下ろす。
帳内では蠅頭を含む低級呪霊が炙り出されていた。
それを祓いながら、本命の気配を辿る。
瞬間、足元から紐状の刺突が襲い掛かってきた。
切り払いが間に合わず、両足を何かに拘束される。
くくりついたのが縄である認識すると同時に視覚を異常が襲う。
(くそ、術式持ちか!)
呪霊の術式によって呼吸機能が乱され、身体能力が低下していく。
首吊り自殺に関する術式か、こちらの呼吸を阻害して徐々に弱らせて仕留めるつもりだろう。
状況を打開するために事前の仕込みを開放する。
服に仕込んでいた呪符を呪力で発動させると、廃村に残されていた燃料缶に張り付けておいた呪符が対応して炸裂し、人為的な火災を発生させる。
火の海に飲まれる身体を辛うじて動かせる呪力で防護する。
自爆行為だが、おかげで敵の縄を焼き切ることには成功したようだ。
追撃を防ぐためにすぐさま次の手を切る。
『シン・陰流 簡易領域』
発動と同時に隆景の周囲に円状の結界が展開される。
再び放たれた縄の術式は簡易領域によって速度を殺される。勢いを失ったそれをすべて刀で切り落とす。
『抜刀』のように自動カウンターを付与しているわけではないので領域を維持したままでも体を動かすことは可能だ。
次はこちらの反撃の番だ。
「『火遁 火龍炎弾』!」
印を結び、周囲に残る炎を操り火の龍を作り上げる。
火龍で周囲を焼き払うと、件の呪霊が身を隠していた遮蔽物ごと身を焼かれて姿を現した。
術式を持つ割には本体の防御は脆いようだ。
敵に接近しながら尚も放たれる攻撃を叩き落す。先ほどよりも縄の速度が落ちている。
ここが決め時だ。
『縮地』
古武術の歩法で呪霊の虚を突き、間合いに入ることに成功する。
こちらも負傷している。一撃で決めるしかない。
確実に息の根を断つために渾身の力で刀を振り抜く。
『シン・陰流 肩担ぎ 斜月』
太刀筋に沿って呪霊の上体と下体がずり落ちていく。
呪霊の消失反応を確認し、帳を解除する。
補助監督に合流し、傷の手当てを受けるべく付近の高専と繋がりのある医療施設に向かう。
東京に戻ったらまた家入先生のお世話にならなければならない。
土産品はなるだけ豪華にしておこう。
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シン・陰流。
平安の術師、蘆屋貞綱を開祖とする呪術の戦闘体形の一つ。
その特徴は一門不出の縛りを設ける事で、術式や才能に恵まれない術師であっても習得しやすくしたということだ。
術式を持たない賀﨑にとっては生命線といえる技術であり、全員が習得を義務付けられている。
一族全員が門下生であるため一門不出の縛りも遵守している。
俺も幼少期から門下生入りし技術を習得してきた。
そして高専生になった今も欠かさずに鍛錬を続けている。もちろん任務で余裕がない時には疎かになることもあるが。
ちなみに賀﨑のシン・陰流は全員が戦闘で多用する都合上、家独自の多くのアレンジが加えられている。
抜刀術だけでも多くの変形型を作っているほどだ。腰だめに構えるのが通常の抜刀術だが、呪霊との戦闘では必ずしも平地で相手を待ち受けられるとは限らない。
そう考えた先達らは多様な態勢からでも繰り出せる派生技を多く発案してきた。
「るろうに剣心」で緋村剣心が様々な態勢から技を繰り出しているのを想像して貰えばイメージしやすいと思う。
多数の攻撃にも対応できるように抜刀術以外の技もある。
例えば、刀を抜いた状態の方がはたき落とすような動きはやり易い。
他に抜刀状態で肩に担いで位置エネルギーを乗せる事で威力を重視した技など多様な型が存在する。
もはや当初のシン・陰流から離れた技術になっているかもしれないが、これでも一門不出の縛りは破った判定にはなっておらず、今でも技術継承は続いている。
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東京高専に戻った俺は任務の報告を行っていた。
「術式持ちである以上、高専基準では準1級以上ですが呪力量は2級相当でした。今回はマシな方でした。」
そう考えると、2級案件として割り振られる呪霊としてはそこまで凶悪だったわけではない。単独任務で当たらせられたのはクソだが。
同伴術師がいれば、自爆紛いの手段を取る必要もなかったかもしれない。
「そうは言いますが、今回もかなり危険度の高い案件でした。危険な呪霊からは逃げてくださいと言いたいところですが…」
そう言って表情を暗くするのは補助監督の伊地知潔高さんだ。
五条先生の後輩で、術師から補助監督に転身したと聞いている。
「…いえ、私が言えたことではありませんね。」
信条としては五条先生よりの人で、上層部との軋轢に学生を巻き込むことに心を痛めてくれている良い人だ。
「ともかく、本格的な治療を受けてきてください。治療室には連絡済みですのですぐに処置を受けられますよ。」
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「君はいつも死なない程度の怪我をしてくるね。」
そう言いながら火傷跡に家入先生は反転術式を施してくれる。
反転術式とは、負のエネルギーである呪力を自身の体内でぶつけ合わせることで「正のエネルギー」とする高等技術だ。
この「正のエネルギー」の最大の特徴は人体の治療が可能であるという点である。
術師であれば、戦闘中に自身の体をその場で治療できることは大きなアドバンテージだ。
これを扱えれば俺も先の戦闘での負傷を戦闘中に治療することができ、決着を急いでリスクの高い手段を取る必要もなかった。
反転術式は生得術式の様に生まれ付き身体に備えているものではなく後天的に習得する技術だ。
しかし、この技術の習得は非常に難しく、扱える術師は希少である。
俺の知る限りで反転術式を扱えるのは五条先生と家入先生だけだ。
しかも、この反転術式を他人へ施す「正のエネルギーの出力」を行えるのは家入先生だけだ。
俺は大抵の任務で軽くない怪我を負い、いつも家入先生に治療をしてもらっている。
「今は運良く私が治療できる範囲で済んでいるけれども、いつ取り返しのつかない重傷を負うか分からないよ?」
先生がそう忠告しながら治療を終えたことを伝えてくれる。
(そう言われても、こういう戦い方しか出来ないんだからどうしようもないよなあ…)
「あからさまに顔に不満を出すな。」
表情に出ていたらしく、頭を叩かれる。
「とにかく、もう少し慎重さを覚えなさい。自分ごと爆破するなんて論外だ。」
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後日、俺はあることを五条先生に相談していた。
「賀﨑の人間が何らかの天与呪縛を負っているって説は僕も間違い無いと思うよ。」
相談の内容は賀﨑の体質についてだ。
「千年近くの間、術式持ちの人間が産まれていないのは偶然では有り得ないよ。しかも、呪力を持っているにも関わらずとなると、何らかの天与呪縛を負っているとしか考えられない。」
そう、無能の集団こと我らが賀﨑家の一族は「術式を持たない」という天与呪縛を負っていると言われている。
曲がりなりにも術師の旧家として血を繋いできたにも関わらず、術式持ちの人間が一人も確認出来ていないというのはあまりにも確率が偏りすぎているためだ。
そもそも高専とは術師の家系ではない一般家庭出身の術師を教育するための機関だ。
その術師たちの中には生まれながらに術式を備えた者も含まれる。
一般家庭からも術式を持つ人間が生まれてくる以上、術師として血を濃くしてきた賀﨑に全く術式持ちが産まれないというのは不自然だ。
そのため、古くから我が一族は自身らが負っている呪縛について研究をしてきたが、現代に至るまでその全容は分かっていない。
賀﨑の人間は例外なく術師として呪力を備えて生まれてくる、そのことが術式を持たないことに対するリターンとする考えもあるのだが…
「術式の代わりに呪力を備えて生まれる、っていうのじゃ釣り合いが取れていない。」
というのが、先生の見解だ。
俺も同意見だが、御三家としての見識も聞きたくて質問する。
「並みの術師レベルの呪力をもれなく持つ、という見返りだけではリターンとしてはやはり物足りないですか?」
「うーん、そうだね。昔は御三家の中でも、一般人並みの呪力の人間が生まれてくることはそこまで珍しいことじゃなかった。だけど、そういう人間を家から排除して強い呪力を持つ者同士で血を重ねて、より強い術式と呪力を持った人間を生み出そうとしてきたのが僕らの業界だ。」
先生は続ける。
「その結果、現代では低い呪力を持って生まれた子供は忌み子として蔑まれるのが当然になってしまった。」
両目を覆う包帯で表情は窺い知れないが、少し先生の表情に変化があったような気がした。
「賀﨑も何度も外部から術式持ちの血を取り入れて現状を打破しようとした筈だ。それでも、術式を持つ人間は生まれなかった。」
「つまり、今の説だと、恩恵の割には縛りがキツすぎるんだよね。釣り合いが取れていないっていうのはそういう意味ね。だから、別の可能性の方が見込みがあるんじゃないかなって話さ。」
「確信めいて話されてますけど、先生は何か予想があるんですか?」
思わず前のめりになって尋ねてしまった。現代最強、六眼の持ち主が定説に異論を投げかけたのだ。興奮してしまうのもしょうがないだろう。
「いや、全然。さっぱり見当つかないね。」
そのあっけらかんとした回答に思わず体の力が抜けガックリする。
「こう言う風に行き詰まった時には、思わぬきっかけで新たな発想が出てくるもんだよ。隆景もまだまだ頭が固いみたいだからさ。古い考えは捨ててみなよ。」
「実家じゃ、漫画の真似ばかりの異端児でしたけど、これでもしっかり術師として育てられましたからね。中々慣れないですけどもっと漫画を読んで自由にやってみます。」
「おお!その意気その意気!今度は腕伸ばせるようになっててよね。ゴムゴムでもダルシムでもいいからさ。」
そう言って、軽い様子で先生は次の仕事に向かっていった。
天与呪縛の新しい解釈。また伸び代が増えた。
他の先輩術師や補助監督の皆さんの中には「五条悟が教職?」と訝しんでいる人もいるようだが、先生の発想はいつも刺激に富んでいる。
午後からの任務も張り切って呪霊を祓いまくろう。
刺激に溢れた高専生活を楽しむためにも、家入先生の忠告通り体は大切にすることにした。