やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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2024/08/01 20:30
『閉じない領域』対策の所で存在しない『外殻』の話をミスでしてました。『閉じない』のに『外殻』がある訳ないだろ!この馬鹿!間抜け!額の縫い目がキモイ!
ので、「領域圏外から術者を攻撃する」話に変更しました。
該当箇所は下線を引いておきます。


第四十二話 戦支度

 

獄門疆(ごくもんきょう)から解放された五条悟はそのまま宿儺との決戦の日取りを決めてから高専に戻ってきた。

決戦は12月24日。世界の命運が決まるまでの一ヶ月と少しの間、高専の術師達は決戦に備えて皆訓練に励んでいた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

憂憂の術式による“魂の入れ替え”。高専の術師達は互いの得意とする分野を学び、教えあうことによってこれからの一ヶ月と少しの間に飛躍的な成長を遂げていくのだが、その輪に加わっていない者が一人ここにいた。

 

(“座標跳躍”に“魂の入れ替え”。冥冥さんが重宝するわけだ。彼女にとっての最大の資産は彼の存在そのものかも知れないな。)

 

作業に取り組みながら一人脳内で「弟の方が下剋上を企めば成功するんじゃないか?いや正面からの戦闘となれば冥冥さんが上なのは間違いないか。そもそも憂憂自身が姉の役に立つために術式を発展させていった結果が今か?」などと、この死滅回游で八面六臂の活躍(と荒稼ぎ)をしている冥冥と憂憂の姉弟について思考を飛ばしている賀﨑隆景である。

 

始めは京都の本家から五条悟への忠誠の証として送り込まれ、高専在学中には呪術界から追われやむなく呪詛師になり、そして今は生家である賀﨑家の当主の座に就いた。波乱の経歴を送ってきた彼は入れ替え修行の段取りを決める際にこう言い放った。

 

「俺は参加出来ませんよ?」

 

特級術師には及ばないが1級のトップ層に伍する実力を持ち、反転術式や結界術、領域対策にも長けている彼は宿儺との決戦に際して戦力の一人に数えられていた。

そのため当然彼も入れ替え修行に参加すると思われていたのだが。

 

「俺の呪術は殆どが“呪力変質”という呪力特性ありきで成り立っています。その肝心の呪力変質が他人に教えられるものじゃない以上、入れ替えに参加しても俺から学べることは殆どないと思います。“シン・影”の技術も日下部先生には及びませんし、入れ替えに参加した結果、俺の呪力特性が却って元の戦闘スタイルに悪く影響するかも知れませんし。」

 

呪力には誰であれ大なり小なり個々人で違いがある。その違いが戦闘や術式に影響するほどになると“呪力特性”として区別されるようになる。秤近次の“ザラつく呪力”や乙骨憂太の“変幻自在の呪力”がそれに該当する。

 

憂憂の術式による“魂の入れ替え”では『魂の輪郭』に影響しないように自身の魂のどの部分までを入れ替え相手に開示するのかというところまで設定することが出来るらしい。だが、“呪力の変質”という無意識下にまで及んでいる自身の呪力特性が入れ替え相手に悪影響を及ぼすことを危惧して隆景は入れ替え修行への参加を辞退していた。

 

秤や乙骨も自身の呪力特性を完全に制御しているわけではないのかも知れないが、彼らの場合、その呪力は変化したとしてもあくまでも“呪力”の範疇に収まっている。

だが隆景の場合は事情が異なる。彼の呪力特性の場合、呪力は“チャクラ”や“霊力”など彼が認識する“位相の異なる世界”における異能の原動力に変化する。要は呪力とは全く使い勝手が異なるエネルギーになるのだ。

隆景自身は長年この体質と向き合うことでこれらの能力を使えるように訓練してきたが、これから一大決戦に臨む他の術師にとっては、自身の技術を伝えるメリットよりも呪力特性による“クセ”によるデメリットの方が大きいと判断したというところである。

 

 

そういうわけで入れ替え修行に参加していない隆景は、当主が失踪した禪院家のコントロールを行いながら決戦に向けた準備を進めているのであった。

 

……そう、禪院家は伏黒恵が宿儺に肉体を奪われたことでまたしても当主が不在となってしまったのである。

新たな当主が肉体を奪われたという事実は禪院家内に大きな波紋を及ぼしている。

幸い隆景が先般結んだ『縛り』により死滅回遊が鎮圧されるまで禪院家の実権は隆景の元にある。だが同時にその『縛り』によって当主代理は禪院直哉が務めることになっており、彼に対して疑義を唱えられる伏黒恵は自由意志を喪失している状態だ。

宿儺を倒す際には伏黒恵も救出しなければ戦後、禪院家内で騒動が起きることは間違いない。

『縛り』を結ぶために禪院直哉に提示した“全権委任”という 『餌』が今は爆弾となってしまった。

今回の失態で伏黒恵は当主を降りざるを得ないだろうが、それでも次期当主の使命や権限を分散するための人事使命をしてもらってからでないと後が非常に困る。

 

本来なら余所の家のことにここまで首を突っ込みたくはないが、回游平定のために禪院家内の権力事情を引っ掻き回した身として責任は持たなければならない。

それに扇と真希の騒動の時に分かったことだが、この家は内に抱えている問題が多すぎる。

御三家の一つだけあって何かの拍子にとんでもない才能が目覚めて暴れ出すのか分からないのだ。幸いにも前回の騒動では死人の数は抑えられたが真希が途中で思い留まらなければ被害は目も当てられない規模になっていたかもしれない。

それだけの火種が他にもまだまだあるかもしれないのだ。そういえば以前戦ったイタコの婆があの世から呼び出した禪院の術師も非常に厄介で正攻法では勝てなかっただろう。恵まれた血筋というのは恐ろしい限りだ。

 

ともかく何としてでも伏黒恵には生還してもらわなければならない。

加茂家は羂索に乗っ取られていた上に同家の上位の人間は既に亡き者にされている。五条家も五条先生が戻っては来たが宿儺との戦いから生還出来るとは断言できない。

先生に万が一のことがあれば御三家という均衡は崩れ禪院家一強の時代となる。繰り返しになるが伏黒恵の生還はこの決戦で果たさなければならない絶対条件だ。

 

「おはようございます。家入先生。早いですね。甘井君も。」

 

そのために取り組んでいるのがこのプロジェクトだ。高専の教員にして医者として人体を知り尽くした家入硝子。他者に糖分を供与できる術式を持つ甘井凛。甘井は回游が切っ掛けで術師に覚醒した泳者(プレイヤー)で戦闘向きの術式は持っていない。だが他人に糖分を渡せるという希少な術式はこの計画にはうってつけの人材であり、決戦に向けた訓練にも参加していないことからこちらに協力してもらっている。

 

今日の作業を始めてから小一時間程経ったところで五条先生が訪ねてきた。

どうやら隆景に用件があるらしい。

 

「おはよ~。硝子、隆景借りても良い?」

 

「構わないが、こっちも大事な作業をしているのは知っているだろう?大した用件でないのならこちらに専念して欲しいんだけど。」

 

「まぁ…大事な用事だね。隆景はどう?」

 

先生の言葉に対して心当たりがある隆景は作業の手を止め答える。

 

「すみません、家入先生。ちょっと抜けてきます。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

人払いを済ませた高専の教室。取り出した生徒用の椅子に乱暴に腰掛けた五条は隆景にも座るように促す。五条の立腹の原因におおよそ見当がついている隆景は大人しく席に着く。

 

「今日、総監部に行ってきたけど…アレ、何?

 

(ヤバい、先生キレてる!!)

 

冷や汗をかきながらしどろもどろに答える。

 

「え~、そのですね。渋谷事変後に出た通達を取り下げさせようと総監部にカチコミしたんですが、アイツら中々首を縦に振らなくて…やむなくというかなんというか…。」

 

言葉に詰まる隆景に対し五条は無言で圧を掛けて続きを促す。

 

「総監部の皆さんにはお亡くなりになって貰ってから『乱装天傀(らんそうてんがい)』で生きているように振る舞わせていました…。」

 

「僕が入ったときには総監部は死体まみれになってたけど?」

 

「『五条悟が獄門疆(ごくもんきょう)に封印されていること』を縛りの条件にして何とか成立させた無茶な術式だったので…。先生が解放されたらすぐに元の死体に戻っちゃったみたいですね。“生前と同じように振る舞う”くらいの命令しか出せなくて通達の撤回も出来ませんでしたし。」

 

先生の解放後はバタバタしてて後処理を忘れていました、と死体が露見してしまったのは単純なポカであると隆景は打ち明ける。

 

「やることが雑過ぎ。僕の動きを予想して先に張ってた憂太達も困惑してたよ。一応僕がやったとは言ったけどあれは信じてない顔だったね。…ていうか問題はそこじゃない。」

 

緩くなりかけた場の空気を五条が再び締める。

 

「いくら何でも総監部皆殺しはやり過ぎだよ。君は本来なら学生。そういうことは僕ら大人の役割だ。君が背負うことじゃない。」

 

対して隆景は後輩術師の言葉を借りて言葉を返す。

 

「“罪と罰。呪術師の生涯がその因果の内に収まることはない。”そんな言葉を京都の東堂君が言っていたそうです。的確な表現です。確かに僕ら術師を通常の法で裁くことは難しい。ですがやはり罪は罪です。呪詛師と云えど僕はもうたくさん人を殺しています。正当防衛でもなく自分の利益の為に。私腹も随分肥やしました。その人数が増えただけです。先生は呪術師としてこれまで戦ってきたじゃないですか。僕の殺しとは違います。だったら既に手を汚している人間が他の罪も引き受けた方が後の世には都合が良いと思いませんか?」

 

自虐めいた発言に五条は何も答えない。当然だがこんな言葉では誤魔化されてはくれないようだ。

 

「すみません、言葉遊びが過ぎました。でも本当に犠牲になるつもりじゃないんです。あの状況では呪術界全体を敵に回しながら死滅回游を戦わなければなりませんでしたから。横やりをいれる連中は間引いておかないと戦うどころじゃありませんでした。先生こそ今手を汚したら戦後は体制から排除されちゃいますよ。まさか宿儺と戦って死ぬ気ですか?」

 

「僕が負けるって?それ本気で言ってんの?高専から離れている間に随分と自信過剰になったじゃないか。」

 

五条は隆景の指摘を大仰な仕草で否定するが、続く言葉に思わず動きが固まる。

 

「宿儺と羂索の『閉じない領域』。多分あれは領域対策の技術です。先生なら僕よりもはっきりとわかってるんじゃないですか?あれを対策出来なければ僕らの負けです。九十九さんが生きていれば領域圏外から術者を叩くこともプランに入れられましたけどそれも叶わない。乙骨君の術式は遠距離狙撃には向いてない。」

 

不貞腐れるように足を組み直した五条ははぐらかされそうになった話題を戻す。

 

「まあ、そっちの方は考えてはいるさ。練習相手がいないから試していないだけで。それよりも生き急いでいる…というか死に急いでいるのは隆景、君の方だろ?真依を生き返らせようとした時の反動、まだ残ってるだろ。僕の目は誤魔化せないよ?その体でこれ以上戦うなんてそれこそ自殺行為だ。」

 

「やっぱり先生には分かっちゃいますか…。確かにあの時のダメージは残ったままです。絶命と引き換えに蘇生を試みたところを中断しましたから。反転術式で外見は誤魔化していますが寿命というか運命力的なものはすり減ったままです。」

 

素直に今のコンディション不調を明かす隆景に対し五条はもうひとつ指摘する。

 

「硝子もとっくに気付いているよ。君の意思を汲んでか僕以外にはナイショにしているだけで。」

 

「それは思いもしませんでした。高専に入ってからずっとお世話になっていますからね。無理もないか。」

 

「意外と周りの人間は見ているもんだよ。本人は気づかないだけで。」

 

「……先生だって案外気付いていないんじゃないですか?」

 

その指摘に隆景は疑問を返す。それは五条が封印されてからずっと隆景が考えていたことだった。誰もが疑うことのなかった「五条悟」という絶対性。意識的にしろ無意識にしろそれを当然のものと皆が受け止めていたが、今回の“五条の不在”という事態を経験して隆景はその妄信に近い現状に危機感を抱いていた。

 

隆景は五条のいない呪術界を知らない。だが、彼もいつかは必ず生涯を終えるときが来るのだ。それが老いにしろ、戦いの中でのことにしろ、その時は必ず来る。

隆景はその時を漫然と迎えかねない現状が恐ろしくて仕方なかった。

 

「みんな先生のことを頼りすぎだと思います。」

 

「ハハハ!」

 

五条は堪らず吹き出した。

 

「真面目に言っているんですから茶化さないでくださいよ。」

 

「いや、ごめんごめん。さっき憂太にも同じ事を言われたもんだからさ。同じ日に別の生徒達から言われるとはね。」

 

隆景は既に高専生徒ではないが今でも教え子の一人だと五条は思ってくれているのだろう。野暮なことは言わないことにした。

 




会話回でした。
乱装天傀(らんそうてんがい)』はブリーチからです。どっちかというと『黒子舞想(テレプシコーラ)』ですけどBLEACHは魂の愛読書なので。
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