やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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勝手に羂索の内面を盛る。


第四十七話 人と怪物⑤

(年の割には腹芸が出来るようだな。領域を破られたのに平静を装えている。)

 

羂索は相対する術師に対しての評価を一つあげる。僅かな動揺で術式や呪力操作が覚束なくなる術師は存外多い。それが自らの研鑽の末に編み出した領域ともなれば尚更だ。

だがこの術師はどうだ。

 

高専側術師の情報は事前に調べ上げている。彼が隠してきた術式の概要も把握している。変異型の『凝固呪法』。開祖以来、千年ぶりに現れたその使い手。過去には“華咲”と呼ばれた男の子孫を調べたこともあった。あの男の術式は反転術式の習得を必須とする変わったものだったからだ。

 

だが、何代かに渡って調べても同じ術式を発現するものは現れなかった。試しに生体を攫って研究したこともあったが大した発見は無く、分かったことと云えば、かの家の人間はもれなく術師として戦えるだけの呪力を備えて生まれてくることだけだった。

羂索は“華咲”が子孫に縛りを残したのだと推測していた。子孫の誰もが術式を持たないにも関わらず、並みの術師程度の呪力は備えていることから何かしらの力を残そうとしたのだろう。だが、メリットとデメリットの釣り合いが取れていない。恐らく条件付けに失敗したのだと羂索は推察していた。あの男は呪術を正しく学んだ経験は殆ど無いようだったし、子孫に願いを託そうとした行為が却って呪いを残す結果となってしまった。そこまで予測したところで羂索は賀﨑家に関して興味を失っていた。

 

再び関心が向いたのは賀﨑家の術師が五条悟と懇意にしているという情報を掴んだときだった。

彼の一族に神童が生まれたという噂を耳に挟んでいた。

曰く、死の淵から生還したことをきっかけに特殊な呪力特性を身に付けたらしい。曰く、漫画趣味に傾倒し奇天烈な術式の数々を生み出しているらしい。

呪力特性によって生得術式並の事象を起こす術師は稀ではあるが例が無いわけではない。情報で知る限りでは過去のそういった事例から逸脱するほどの実績は出していない。その程度では羂索の食指は動かなかったが、その術師が高専に通い出して暫くしてから五条悟との接触が極端に増えたのだ。

 

五条悟の目に叶うほどの資質を秘めているのかと任務に呪霊をけしかけて調査したところ、“華咲”と呼ばれた男と同じ術式を持っていることと、五条悟の庇護の元でその術式を秘匿していることがわかった。

反転術式のアウトプットに優れるかの術式は羂索の計画にとって邪魔な存在だった。五条悟の封印を実行するにはあと数年は準備期間が必要だ。その間にこれまでコツコツと非術師に仕込んできた呪物を祓われ続けるのは嬉しいことではない。術式が公になれば術式反転の能力が秘める危険性から言い掛かりをつけて処刑することも出来るが、そのためには尻尾を出させなければならない。

 

排除の機会を覗っていたところ、夏油傑が武装蜂起を起こした。これは羂索にとってまたとない好機だった。この機に乗じて呪霊「黒沐死(くろうるし)」を使って彼を襲わせた。これまでプロファイルしてきた情報から立てた予想では、特級相当の呪霊が突如現れれば彼は呪霊と一対一で戦おうとするだろう。奥の手である『凝固呪法』を使うには人目を避けなければならないからだ。黒沐死が彼を殺せばそれで良し。殺せずとも術式を使わずに黒沐死を祓うことは難しい。術式を使用して秘匿の事実が露見すればそれで彼を貶めることが出来るし、敵前逃亡の罪をでっち上げることも可能だ。

 

どちらに転んでも良い策だったが結果は上々だった。予想通り彼は戦線を抜けて一人で黒沐死(くろうるし)を相手取った。自分の手の者を使ってその点を追求して彼を拘留したところ手を下す前に脱走をした。逃亡時に人を殺めないようにしたようだが殺しの冤罪を作り上げることなど羂索にとって造作も無いことだ。羂索の思惑通り彼は呪術界から追放された。

 

高専から追い出した後は適当に賞金を懸けて活動し辛くするだけで呪物の祓除も止まった。おかげで以降は五条悟の封印計画に専念することが出来た。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(呪物の祓除が防げれば良かったはずだったんだけど…地味に邪魔だな。)

 

五条悟の封印と死滅回遊の発動。これらが完了すれば賀﨑隆景を重要視する必要はなくなるはずだった。だが、潜伏期間中に磨いたと思われる技術と胆力。表の呪術界に復帰してからの彼は培ったそれを駆使して死滅回遊の運営を大きく妨げた。

 

ひとつは『拡げない領域』とでもいうべき簡易領域を発展させた技術。必殺どころか必中効果も捨て、効果範囲すらも術者の体表ギリギリまで絞り、使用者へのバフ効果にのみリソースを集中させた『彼此隔界(ひしがくかい)』。天元をしても“絶技”と称す『閉じない領域』を操る技量を持つ羂索だが彼は意外にもこの技術に対し評価と警戒のふたつの評価を下していた。既存の呪術の常識にとらわれない柔軟な発想から生まれた【領域を“拡げない”】という手法。

 

羂索自身と両面宿儺しか到達しえなかった『閉じない領域』は術師同士の戦闘における到達点、領域の押し合いにおいてほぼ確実に勝利を手にすることが出来る技術だ。これを扱うには高度な結界術の運用能力が必要となり、それが『閉じない領域』の使い手が限られる理由だ。五条悟すらもこの領域には手が届かなかった。幾度もの結界要件の変更という離れ業を見せた彼が『閉じない領域』は試さなかったことがその証左だ。

 

一方で、賀﨑隆景の編み出した『拡げない領域』は結界術に関しては最低限の能力で運用している。術師の大半はこのことを「結界とも呼べないような矮小なものしか扱えない半端者」として侮るだろう。だが、羂索はそうした下馬評に目を曇らされることはない。『簡易領域』の弱点は本物の領域に対しては出力が足りず、援軍が来るまで、もしくは相手の呪力が底を尽くまでの間を凌ぐための苦し紛れの抵抗策にしかなり得ないことだった。この事実については羂索も同意見である。

つまりシン・影流の術師は『簡易領域』の習得に満足せずにさらなる拡張を目指すべきであったのだ。今やシン・影流の開祖が掲げた理念は歪み、自己保身に傾倒して機を伺うことしか頭に無い醜い残滓が残るのみとなった。

 

その点でいえば、賀﨑隆景の『彼此隔界(ひしがくかい)』、あれは蘆屋貞綱(あしやさだつな)がかつて編み出した「弱者のための呪術」、その概念の一つの完成形であると言えた。

結界術の技術が低いのであれば、その規模や強度を高めるのではなく、体表ギリギリの範囲で性能を底上げした自身の術式で襲い来る敵の必中必殺の術式を叩き落とす。

彼には高効率かつ高性能の反転術式があるが故にこの方式でも本物の領域と渡り合えている……そう評すのは早計だ。

他の術師も彼の様に自身の手札を必死で吟味して届かぬやもしれぬ高みに手を伸ばすべきなのだ。

式神使いならば領域内でそれを強化して鎧として身に纏う、呪殺系の術式であれば敵の術式を片っ端から叩き落とすほどに速度を高める。

 

才能が足らぬと嘆くのではなく、それでも諦めずに他の手段を探して足掻き続ける。生きるとはそういうことのはずだ。

文字どおり千年足掻き続けてきた羂索は奇妙なことに眼前の男に一種の共感(シンパシー)を抱き始めていた。

 

(だからといって…)

 

慣れない『輪廻眼』のせいだろう。良くも悪くも人は見えるものに左右される。隆景の動きが精彩を欠いた。

 

「夢は譲れないね。」

 

刀の返しが間に合わない位置。初めての【餓鬼道】の発動以降、下手に使えば吸収される呪力を提供することになる『呪霊操術』は使って来なかった。

 

(だからこれは当たる。)

 

九十九由基をも欺いた極小の

 

【呪霊操術 極の番 『うずまき』】

 

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