やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
「君は六道の術を【餓鬼道】しか“使え”ない。」
羂索は続ける。
「人体を絡繰に改造する【修羅道】。これも生者に使えば無理な改造で対象を死に至らしめることが出来るはずだ。引力と斥力を操る【天道】はどうかな。脹相の情報で私の『重力』は連続使用出来ず、再使用にはインターバルが必要なことは君にも伝わっているだろう。それでも『重力』使用直後の私への攻撃に使わなかったということは、引力や斥力そして『地縛天星』は使えない、もしくは『重力』の再使用までに私を即死させるほどの圧力は生み出せないと踏んで使わなかった。」
どこか喜色をにじませながら羂索は言葉を継ぐ。
「違うのならば見せてくれたまえ。あぁ、次は君の体で私が実践してみるのも楽しそ「3人分の脳組織。」
羂索の言葉を遮った隆景はそのまま言葉を続ける。
「そう、3人分の脳味噌だ。お前の頭蓋には人間3人分の脳組織が詰め込まれている。」
否定も肯定もしない羂索に対しそのまま隆景は自身の推理を開示する。
それは謎に包まれていた羂索の能力についてのものだった。
「透視能力を使ってやっとわかったよ。羂索、お前の術式は『機能を損なうことなく自分の脳組織を変形させる』ことだ。他人の肉体を乗っ取るのはそれの拡張でお前の術式の本質じゃない。自身の脳を変形させてその中に他人の脳を格納する。『脳を操る』ことの延長として他人の脳と体そして術式すら乗っ取る。扱いづらい術式をよくここまで拡張したな。褒めてやっても良い。」
「良く突き止めたね。五条悟にも悟らせなかったというのに。」
推理の正否について羂索は律儀に回答を返す。看破されたところで戦況は覆らないからだ。
「それが分かったところで君は私に勝てる気でいるのかい? 宿儺を前に君たちは戦力を分断している。このまま悠長に話を続けるべきかな。時間は私の味方だよ。」
「種明かしの前に殺すのはかわいそうだからわざわざ時間を割いてやっているだけだよ。ここまで苦労して来たんだろうしな。」
一度言葉を区切ってから隆景は続ける。
「不可思議だったのは、お前が『乗っ取り』に使う術式の他に『呪霊操術』と『重力』の二つの術式を保持していることだった。『肉体を乗っ取る術式』だったら使える術式は乗っ取った肉体に宿る一つというのが相場だろう。そのための術式なら領域展開後に『肉体を乗っ取る術式』が停止しなかったのも『そういう仕様』だとすれば理解できなくはない。脹相曰く、領域の使用後もお前の肉体は停止しなかったようだしな。しかしお前はあの戦いで『重力』の術式も使用している。だから俺はどこかの術師の脳味噌から術式に関する部位だけを突き止めて呪具として保持していると予想していた。」
術師の死後にその術式が呪具として残ることは俺達も実体験として知っている話だしな、と隆景は付け加える。
「だがそうだとすれば『重力』の術式を領域に付与したという報告と辻褄が合わなくなる。お前ら平安の術師に常識が通じないのは承知しているつもりだが呪具に宿った術式効果までも領域に付与できる、というのは正直信じたくなかった。それが事実ならお前たちは数多の術式を付け替えて領域を使ってくるということになる。相性的に俺の『
「なるほど。あそこで九相図を仕留めなかったのは単に興味が無かったからだが、君たちにそこまで警戒を生ませていたなら結果的に正解だったね。」
くっくっと笑い声を漏らして羂索が応じる。
「真実は違ったな。脳下垂体に当たる部位と外殻に自分の本来の脳を残して、“右脳”と“左脳”のあるべき部位、それぞれに他の人間の脳組織を丸ごと格納する。引き継げる術式が二つまでなのはそういう縛りだな。他人の術式を使える上にそれが二つというのは“本当に縛りか?”と文句を言いたくなるがまぁいい。それからお前本体の脳に混じっている“残りかす”。脳細胞の劣化を乗り越えるために術師、非術師を問わず同じ『脳操作』の術式を持つ人間を見つけては対象の自我を塗りつぶして自身と同化させてきたな。それでよく千年も人格を保てたもんだ。」
「そのとおり。右脳と左脳のふたつのスロットの内、一か所は大抵私と同じ術式を持つ頭脳をストックする用途に使ってきた。そして時期が来てはその頭脳に私の意識を移し替える。これを繰り返してきたから私の本来の脳というのはもうほとんど残っていない。それでも少しは残留物が残るようでね。君の言う残りかすとはこれまで乗り捨ててきた脳の残滓だろう。どっちのスロットにも戦闘向けの術式を備えた脳を装填するのは今回のように自分自身が戦う時だけだね。」
悪びれもせずに自身の悪行を肯定する。
「さて、ここまで付き合ってあげれば満足かい?」
「ああ。『呪霊操術』と『重力』ならお前を殺せる。長話に付き合ってくれてありがとう。」
「構わないさ。君と私の仲だろう?」
羂索も
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羂索が展開した領域『
ズンッ
羂索が領域に付与した『重力』の術式が必中した隆景だが、『浄の力』を鎧の形で簡易領域に付与することで呪力と術式への耐性を高めた『
(阿弥陀流奥義
反撃の為に即座に『浄の力』を放射して領域の破壊を狙うも…
「クソッ!」
放った力は羂索が展開した生得領域を消滅させていくが、消滅した傍から『
羂索はこの局面でも『閉じない領域』を使用しているが、それは宿儺の様に領域の効果範囲の拡大や効力の上昇を目的としていない。“相手に逃げ道を与える”という縛りを用いることで羂索は領域の自己修復力を強化していた。
羂索がこの戦いに持ち込んだ呪具『
(あの呪具は受けるだけでも領域を破壊される。)
羂索の攻撃には掠る訳にもいかない隆景は術式による重力に抗いながら領域内を飛び回って回避に重点を置かざるを得ない。
「領域を張りながらよくそれだけ飛び回れるね。」
「よく言うぜ。お前も大概アクロバティックじゃねぇか。」
隆景を追うために羂索も自らの領域内を高速で移動し攻撃を絶やさない。
『
時には『
幾合もの攻撃の応酬の末に遂に隆景は羂索の背後を取る事に成功する。しかし、絶好の位置というわけではない。隆景自身もまた羂索に背を見せており斬撃を放つには体を表に返す一工程が必要だった。
千載一遇の機会を逃さぬために隆景は第二の攻撃オプションを選択する。
ひねりを加えながら自身の背を叩き付けることで攻撃と為す『
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羂索も背を取られたことには当然気付いている。隆景が即座に攻撃に移れる体勢でないことも。
そして咄嗟に視界を補う呪霊を呼び出す。
思った通り奴は今の無理な体勢からでも仕掛けてくるつもりだ。背を向けたままで、となると『
いや、取るのは構えだけ。隆景が技の為に“溜め”を作る一瞬を使って羂索は一手早く呪具を振り抜くことが出来る。
衝突の前に『
その寸前。
突如発生した「斥力」が羂索の右手をその手に掴んだ必殺の呪具ごと弾き飛ばした。