やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
よろしくどうぞ。
梅雨が過ぎ、呪術界の繁忙期がやっと終わった。
高専で初めて経験する繁忙期はかなり心身に堪えた。
日々の鍛錬も満足にこなせないほど消耗するなんて体験は初めてだった。
そうして何度かの死線を乗り越えた俺は高専での初めての夏を迎える事になった。
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初夏を過ぎると呪霊の発生が減り、連日連夜任務漬けの日々にも余裕が出来てきた。
しかし、5月から6月までの繁忙期以外にも呪霊は発生するし、季節が巡ればまた繁忙期だ。
今年は運良く四肢の欠損などの回復不可能な重症は負うことは無かったが、正直危ない場面は多々あった。
そこで、今年の夏は以前、五条先生に指摘されたようにシン・陰流に頼らない戦術を磨くことにした。
実はナルト忍術の方は今回の大量の実践経験によってかなり精度と解釈を上げることが出来た。
先日の自爆で起こした火を火遁術に転用したのもその例だ。
風遁を使った姿勢制御は既に実用化している。
地味で他人には分かりづらいので周囲には特に話してはいない。
優秀な術師ならば同じ呪力消費でより高いパフォーマンスを発揮できる。
空中での身のこなしについては優れているが、呪霊討伐で空中に身を投げ出されることは少ないため、他の術師達が気づいてくれた事はない。無念。
今回は他の漫画能力を真似できるようになろうと特訓に励むつもりだ。
ワンピースの覇気あたりを獲得できれば、もしかしたら五条先生の無下限の壁を突破できるかもしれない。
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任務が減った余暇を活かして特訓を始めてから二か月が経った。
その間ももちろん任務はあったが、頻度は減ったし、単独の任務は殆どなくなった。
おかげで鍛錬の時間はしっかり取ることができた。
とはいっても当初の目標を達成出来たわけではなくわけではなく…
まず、第一目標にしていたワンピース関係の研究はさっぱり実らなかった。
一番の目標にしていた覇気についてだが、どうにも「負の感情」から作り出す呪力との相性が悪いようだ。
ワンピース作中では元ロジャー海賊団副船長のシルバーズ・レイリーが覇気について語る際に「“疑わない事”それが“強さ”だ!!!」という表現を使ったが、自分へのゆるぎない自信と、呪力を作るための負の感情、俺にはこの二つをうまく両立させることができなかった。
悪魔の身の能力については、当初から再現は難しいと思っていたが、やはりその通りだった。
というより、他の作品も含めて所謂「超能力」に類するような能力は再現が難しい。
自然系能力者を例に取れば、炎や土を操ること自体はナルト忍術と同様に実現できる。
(縛りの結びやすさから忍術よりも効率は劣るが。)
だが、自身の身体を氷や光に変えることで攻撃を受け流すといった肉体の改変が実現出来ないのだ。
超人系や動物系の能力も同様に肉体の改変を実現できていない。
また、キロキロの実の質量操作や、ノロノロの実の速度操作など、ルールを改変する類の能力も使えていない。
これは推論だが、呪術界で生得術式を持つものであれば、これらの改変能力についてもある程度理解、許容出来るのではないだろうか。
術式とは、生まれ持った生得領域の一部を現実世界に表出させ異能を振るう技能だ。
世界を自分のルールで塗り変える行為であり、その極致が領域展開という異界を作り出す絶技なのだろう。
彼らは術式を通して世界に新たなルールを強いることを当然のことだと捉えているだろう。
そうであるならば、どこまでも伸びそうなゴムの体や、バラバラにした体を意のままに操るといった行為も「自分が起こした現象」だと捉えることが出来たかもしれない。
だが、悲しいかな、術式を持たない俺はそんな感覚を理解することができない。
結果、発想が貧困という理由でこれらの能力を身に付けることは出来なかった。
だが一方で、意外な方面からの収穫があった。
それは、「とある魔術の禁書目録」や「Fate」シリーズなどの作中で語られる魔術理論や解釈であった。
ファンタジー作品であることには変わりないのだが、これらの作品では、登場する超常現象に「ありえそう」と妄想できる理屈や、触媒を用いることで魔術をより強固に出来るといった理屈が登場する。
(本当にあり得る現象か。と言う疑問は、能力発展を妨げないように考えないようにすることが地味に大変だった。)
これらもフィクションではあるが、俺にとっては自身の呪術の延長にあるように思えた。
そして、こうした理屈を参考に自分の中のイメージをより強く暗示したり、起こしたい現象に縁の深い品物を装備に加えたりすることにした。
その結果、自身の呪力変質の効率と効力を大きく高めることに成功した。
例えば、刀であれば、これまでは替えが効くように数打ちの品を使っていたが、ここを見直した。
水に関係する呪物を素材に混ぜ込むほか、神霊や怨霊などの神秘に縁深い地域や河川の水を使って製作された一品を用いる事で、水の性質変化の精度と威力、効率を高めることに成功した。
結果、刀身に水に変化させた呪力を纏う事で、10メートルの範囲であれば強力なウォーターカッター並みの中距離攻撃を放つことが可能になった。
それまでは忍術として行使しなければ、大量の呪力と引き換えに物を押し流す位しか戦闘での使い道の無かった水遁を呪力変化だけで攻撃にまで昇華させることが出来るようになったのだ。
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そうして、高専初めての夏を訓練漬で過ごした俺は京都に来ていた。
毎年開催される東京高専と京都高専の交流会に参加するためだ。
交流戦は京都校の勝利に終わった。
1日目は東京、京都とチームに分かれて呪霊討伐を競う団体戦。
2日目は1対1で対戦する個人戦で、毎年同じように実施しているらしい。
五条先生は毎年同じことをしているのが気に入らないらしく、悪企みを考えていたようだが、どうやら今年は失敗したらしい。
通常は2~3年生中心に交流会は執り行われるらしいが、俺は実家の指示もあり、無理を言って1年生ながら参加させてもらっていた。
先生に気に入られているぞ、というアピールの一環だ。
団体戦では、呪霊祓除数では東京校が上だったが、主目標の2級呪霊を京都校が先に発見し祓われてしまった。
続く個人戦では、個人戦席戦績としては京都校の3年生に対し術式に苦しめながらもなんとか粘り勝ちしたが、東京校全体でも負けが多かったため交流会は京都校の勝利と相成った。
交流会を終えた俺はすぐには東京に戻らず、京都に留まっていた。
目的は幼少期に呪霊と遭遇した現場を改めて調査し、今後の研究に役立つものを探すためだ。
正直、当てがあるわけじゃないが、表向きは実家を放逐されている身だ。
こんな機会でないと迂闊に京都周辺に近寄ることすら出来ないので、無理を言って東京へ戻るのを一人だけ遅らせてもらった。
そうして、訪れたかつての修行場で遭遇したのは…
…五条袈裟を身に纏う大男、夏油傑、五条先生に並ぶ特級、最悪の呪詛師だった。