やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
【餓鬼道】しか使えない。
羂索の見立ては誤りであった。確かに【人間道】と【地獄道】は発動させようとしても起動の兆しすら見せない。これは恐らく隆景に「魂」と「地獄」に関する十分な認識が足りないためだ。
だが、直接物理現象を引き起こす【天道】は別だった。
『
羂索は肉弾戦に乗ったふりをしてこちらの領域を潰しに来る。
何よりも厄介なのはあの呪具だ。術師にとって凶悪極まりないあの呪具がこちらに迫る刹那。
その先端から柄頭までを結ぶ重心線が隆景の体の中心から伸びる仮想の放射線状に綺麗に収まった。
思考もなく。
放たれた六道は押し出すようにその魔剣を弾き飛ばした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「しっかり握っとけよな!」
斥力の余波で体勢を崩した羂索に追撃を掛けるために隆景は跳躍する。
(やっとあの呪具を手放させた!奴のペースで領域を解かれたら座標を弄ってまた手元に呪具が戻る。だから!)
強制的に領域を解除させるために大刀を振りかぶる。
(狙いは胴! 呪力の源を断つ!)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
絶体絶命。
領域の中に引きこんでもなお術式を防ぎ切る難敵は未知の力をも覚醒させて自分を追い詰めている。
(より高位と踏んでいた【天道】を隠していたか。使えるのはひとつと断じたのは早計だったな。)
【
「素晴らしい!これが『斥力』か!」
新たな境地。
それを切り開くことこそが我が生き甲斐。
新宿決戦で五条が見せた『茈』。そして今、身をもって体感した『斥力』。
羂索の頭脳にインスピレーションが迸る。
五指から糸を垂らすかのように胸の前に右手をかざす。
対の手はそれを受け止めるかのように下方に。
『反重力』と『重力』。
二つの力が引き合うことで限界以上に引き伸ばされた空間には綻びが生じ、虚空から莫大なエネルギーが生じる。
魑魅魍魎が跋扈する呪術界。そこで千年を戦い続けた術師は命の瀬戸際で遂に新たな高みへと至ったのだ。
土壇場で編み出された新術は【
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『
それが覆ったのが九十九由基との戦闘。自らの体内を領域とすることで順転の難点であった出力と効果時間を向上させることに成功した
ならば本来の領域内でも出力を向上させることが可能な筈だ。今度は効果時間の増大というメリットを捨てる縛りも加えることで、領域によって強化されている反転の『重力』に匹敵する程にまでその出力を向上させる。
生じたのは“空間の崩壊”。上下二方向から引き千切られることで空間に内包されたエネルギーが放出される。
虚式『
六眼の所持者の中でもごくわずかの術師しか到達しえなかった『虚式』という高み。
遂にそこに至った羂索から放たれた力の奔流に対して、隆景は右手を伸ばすことしか叶わなかった。生み出された力は呪力ではない。頼みの『
故に。
その力は領域という鎧を貫いて隆景自身の肉体に到達する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『
不発に終わったと羂索は断じたがこれは正確では無い。隆景自身は術の完遂を狙ったが初めて使用した術はその工程が完了する前に羂索の反撃を受けて中断したのだった。
つまり。
羂索の背には『口寄せの術』の第一工程、口寄せ契約のためのマーキングが既に施されている!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
羂索の『虚式』に触れた瞬間に隆景は『口寄せの術』を発動する。
既に『虚式』に接触した隆景の肉体は右手の先から崩壊していくがその力が上腕部に達した頃に、隆景を襲っていた奔流が発動者である羂索自身の元に転送される。
絶大な出力。転送されたそれは隆景の命を絶つよりも先に術者である羂索自身の胴体に風穴を開けた。
『
(ブラフ、いや今度は違うか。)
知っていたが故の油断。羂索を敗北に誘ったのは侮りと、これまで積み上げてきた経験。『輪廻眼』のことは知っていたが、その力の強大さを知るが故に相手がそれを自分の想像を超えて使いこなすことを警戒しなかった。羂索は気付かぬうちに自身を当代最高の賢者と誤認していた。
「フフッ、これでは天元のことを笑えないな。」
決別したかつての友に向けた侮蔑が自分に返って来るとは。
本来なら悔しがるべきだろうが、羂索の胸中は不思議と納得に満ちていた。
引きこもりの天元と自分は違うと考えていたが長く生きるとそれだけで感性が鈍るらしい。
敗れるのならば乙骨憂太と禪院真希が相手だと想定していたが、まさか彼に敗れるとは思わなかった。
しかし敗れた今となればこの番狂わせも自身が開いた可能性のひとつだと思える。
禪院真依を蘇らせようとしたことが契機となり彼はあの『眼』を手にした。その行動も元を辿れば羂索が渋谷事変で五条悟を封印し、死滅回游を引き起こしたことが原因だ。自身がもたらした可能性に殺されるのならば甘んじて受け入れよう。
それでも、一億総呪霊の可能性はまだ死んでいない。
「コガネ、
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『呪霊操術』でストックしていた全呪霊を解き放ちつつ羂索は追加する
「天元による人類との超重複同化の発動権は伏黒恵が持つこととする。」
宿儺とは事前に継承の儀を済ませている。あとは死滅回游の
羂索は最後に保険を残していた。
「千年を費やしたんだ。まだ足搔かせてもらうよ。」
笑みを浮かべ煽りを入れるが、肝心の隆景には通じていないようで羂索は訝しむ。
「『口寄せの術』。」
「!?」
宿儺の元に向かわせた筈の天元は隆景の手中にあった。
≪却下されました。対象となる天元を譲渡の宣誓者は所持していません。≫
コガネが
(そうか、最初に【畜生道】を使ったのは天元を奪うために…。)
「天元様は取り戻した。もう巻き込む心配は必要ないな。」
失った右手の代わりに左手で『
「こっちで使うのは初めてだけど…。」
阿弥陀流奥義
浄の刃が千年の呪いを消し去った。
短めです。