やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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捗らねぇ!


第五十一話 人と怪物⑨

高専術師らは宿儺との戦いで多様な策を繰り出すものの、以前として宿儺の優位を覆せずにいた。

第一にして最優の策であった日車寛見による【処刑人の剣】(プラン)は未遂に終わった。日車の術式『誅伏賜死(ちゅうぶくしし)』は習得時からデフォルトで領域展開を備えている。その領域内では対象者がこれまでに犯した罪について裁判が行われ、日車の式神「ジャッジマン」が判決を下す。

『有罪』の判決を受ければ術式もしくは呪力の『没収(コンフィスケイション)』のペナルティを受け、罪が重大であれば更に重い『死刑(デスペナルティ)』の判決が下される。『死刑(デスペナルティ)』が下された場合、術者は必死剣『処刑人の剣』を振るうことが可能になる。複数の条件をクリアした上で初めて使用可能になるこの剣は呪術的に極めて強力な力を持ち、宿儺を相手にしたとしても即死に至らしめるポテンシャルがあると目されたことから本作戦において第一の攻撃手段として採用されることになった。

 

必殺の攻撃手段を得た上で『御厨子(みずし)』か『十種影法術』のどちらかを封じることが出来る。

これは高専術師側が勝利を得るために必要な策だったが、ここで想定外が起きる。

 

誅伏賜死(ちゅうぶくしし)』は対象が呪具を所有している場合、『没収(コンフィスケイション)』の対象は術式ではなくその呪具となる。

 

呪術に目覚めてから2ヶ月弱という経歴にも関わらず1級術師の上澄みにも比肩する実力を得た日車だがやはり彼には経験が欠けていた。彼がこれまで相対してきた敵の中に呪具を備えた者はおらず、それ故に自身の術式のこの仕様について知ったのは宿儺に対して発動させたこの土壇場であった。

結果として宿儺は『御厨子(みずし)』を没収されることなくその凶刃を振い続け、日車を戦闘不能に追いやる。この時点で【処刑人の剣】(プラン)は崩壊したのであった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【術式転 形】

 

羂索の死亡により身体から溢れ出た呪霊を分解し、【餓鬼道】により取り込むことで先程までの戦闘で消費した呪力をいくらか補った隆景は、予め用意していたコンテナを土遁忍術で手元に呼び寄せる。

 

「念の為、右腕の方も準備しておいて正解だったな。」

 

言いながらコンテナから取り出したのは、生体で構成された【義手】。

失った右腕にそれを宛てがい反転術式で繋ぎ合わせていく。本来であれば、外科手術で精密に神経系を繋ぎ合わせなければ失った四肢の代替とはなり得ない。事実、「彼」の左腕として用立てたものは家入硝子と乙骨憂太と賀﨑隆景の反転術式に長けた術師3人という万全を期した体制で接続を行った。

間違っても1人で行うような作業ではないが、その無謀を可能にする手段が今の隆景にはあった。

 

(【修羅道】!)

 

六道の一つである【修羅道】。その能力は人体を絡繰に作り替えるというもの。

隆景が傷口に押し当てた義手に対して能力を発動させると、その義手はたちまち隆景の肉体と接合し、意のままに動く仮の腕となる。

 

(悠長に治す余裕はない。このまま宿儺の方へ行かないと…。)

 

羂索から奪い返した天元を取り出した義手の代わりにコンテナに格納して、行きと同じく土遁忍術で高専結界内へと移送する。

そこまでの作業を終えた隆景の元へ禪院真希が駆けつける。

 

「真希か。乙骨はどうした?」

 

「憂太なら羂索が死んだのを見届けたらすぐに虎杖たちの応援に行ったぜ。」

 

計画での乙骨の役割は宿儺との戦闘が激化したタイミングで行動を起こすであろう羂索を仕留めることだった。呪霊操術の術者との対峙で危惧すべきことがひとつある。それは術者の死後、ストックしている呪霊がどのような挙動を取るのかが不明だと云うこと。作戦立案時点では渋谷での大量の呪霊放出と同程度以上の規模で呪霊が暴走すると予想し、それを抑えきれるのは特級術師乙骨憂太とリカの組み合わせ、もしくは賀﨑隆景の『無無明亦無(むむみょうやくむ)』のいずれかだろうと云うのが高専術師達の見立てであった。

その上で模倣(コピー)術式の応用力から乙骨は宿儺との戦いに備え、羂索の対応は隆景が受け持つ。それが大半の意見だったが乙骨本人の強い希望により役割が入れ替わったはずだったが…。

 

「横取りしちゃったな…。乙骨、怒ってた?」

 

「それどころじゃないってことは憂太も分かってんだろうよ。羂索が死んだことには変わりないんだ。納得して貰わなきゃ困る。」

 

想定外の交戦だったが隆景の負傷程度で羂索を仕留められたこと自体は高専側にとってはプラスのはずだ。その負傷もある程度はカバーできた。後は乙骨や虎杖たちと合流して宿儺を少しでも早く仕留めなけらばならない。

 

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「領域展開。」

 

 

真贋相愛(しんがんそうあい)

 

 

乙骨が到着した時点で日車は戦闘続行が不可能な程の重傷を負っていた。『処刑人の剣』を引き継いだ虎杖がその刃を突き立てるが、宿儺の命に届く前に日車の術式自体が限界を迎え解除された。

最早力ずくで伏黒恵の体から宿儺を引き剥がすしか方法は無い。そう判断した乙骨は自身の領域を展開する。

 

若き特級術師、乙骨憂太の術式は他人の術式を模倣(コピー)した上でストックすることが出来る。そんな彼の領域『真贋相愛(しんがんそうあい)』はこれまで模倣(コピー)してきた術式の中からひとつを選んで領域内の必中術式とするほかに、結界内に無数の日本刀を出現させる。出現した日本刀にはストックしてきた術式がランダムで付与されており、乙骨はその刀を握ることではじめてそれに付与された術式を認識して使用することが出来る。

刀は宿した術式を一度使用すれば消滅するが領域内の刀の数に制限はない。

 

つまり、

 

(『宇守羅彈(うすらび)』!)

 

「折本里香」の解呪から三か月で特級に返り咲くほどの天才的センスを持つ乙骨が扱えば、その領域は変幻自在に多様な術式を敵に押し付け続ける理不尽極まりない凶悪な世界と化す。

 

(領域に付与しているのは恐らく天使の術式。俺が『彌虚葛籠(いやこつづら)』で対抗することは想定済み。腕の一対を必中術式の対策に使わせ続けることで文字通り手数を減らして憑霊の餓鬼自身は他の術式で致命傷を狙い続ける。そして…。)

 

ゴンッ!

 

「リカ」に放り投げられた虎杖悠仁がその勢いのままにドロップキックを宿儺に浴びせる。

 

(小僧の魂を捉える打撃で俺と伏黒恵の魂の繋がりに綻びを作る。)

 

続く虎杖の打撃をいなし反撃を叩きこもうとした宿儺だったが、

 

「『動くな』。」

 

乙骨が『呪言』で宿儺の動きを僅かだが停止させる。

立て直した虎杖の拳が宿儺を捉え再び魂の境界線が揺らぐ。

 

(これがコイツらの次善の策というわけか。)

 

思考の間にも乙骨と虎杖は入れ代わり立ち代わり絶え間なく攻撃を続けている。

 

(拙いな。このままでは『浴』で沈めた伏黒恵の魂が息を吹き返すやも知れん。)

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

真贋相愛(しんがんそうあい)』の発動時、乙骨は座標をズラすことで幹線道路上に領域を展開していた。

結界外の術師達は乙骨の合図に備えて周辺で待機しており、先ほど到着した隆景と真希もそこに加わっていた。事前の作戦は既に崩壊しているが乙骨が領域展開を行ったときの段取りだけは取り決めしてあった。正当な領域展開を習得している乙骨ならば結界によって一時的に宿儺の視界を遮ることが出来る。その乙骨が宿儺の油断を誘うタイミングで領域をわざと崩壊させ、その瞬間を狙って領域外の術師が突撃を仕掛ける。

 

しかし、宿儺が油断するということは…。

 

 

カシャァ

 

 

領域が崩れる瞬間。高専術師達の目に映ったのは身体を二分された乙骨の姿だった。

 

 

領域内部で乙骨達が致命傷を受ける事態も考えられるということだ。

 

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宿儺の術式の一つ、『(カミノ)』は彼にとって使い勝手の良いものとは言えなかった。火力には優れる一方で、速度と効果範囲の面では劣るため如何にして相手に命中させるかという問題があったためだ。

彼は縛りによって『(カミノ)』を領域『伏魔御厨子(ふくまみずし)』の一部に組み込むことでこの弱点を克服した。

 

宿儺がここで取ったのはその逆の手段。

伏魔御厨子(ふくまみずし)』を展開出来ない以上、自ら結んだ「領域外での多対一の状況では使用出来ない。」という縛りは今の宿儺にとっては足枷にしかならない。

乙骨と虎杖に攻め立てられ、「世界を断つ『解』」も封じられていてはこの窮状を脱することは難しい。

故に宿儺は『伏魔御厨子(ふくまみずし)』の奥義としての『(カミノ)』を捨てることを決断する。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ボウッ!

 

突如燃え上がる宿儺の身体。

「世界を断つ斬撃」を封じるために組み付いていたリカと虎杖は拘束のために触れていた手足を焼かれながらも拘束を解くまいと抗ったが、物理的な焼損により拘束は外れ宿儺は二対の腕の自由を取り戻す。

 

術式対象を敢えて自分自身にすることで、『(カミノ)』の本来の効果範囲では同時に捉えられないであろう虎杖とリカを延焼に巻き込むことに宿儺は成功した。

更に天秤は呪いの王に傾いた。自身の身を焼く炎を絶やすために宿儺は体表を自切するつもりだったがその前に『(カミノ)』の術式が独りでに停止する。縛りを破ったペナルティとして発生した想定外の事態だが、反転術式の出力が落ちている現在の宿儺にとってこれは幸運であった。

 

「『龍鱗 反発 番いの流星』。」

 

そして閻魔天の掌印と呪詩を唱えながら手掌で指向を指定して発動させた三度目の「世界を断つ解」は領域の主である乙骨憂太の肉体を両断したのであった。

 

 




万を退場させた意味が無くなりました(呪具的に)。
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