やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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感想返信ですが、今後書くことに影響しがちで中々返せていません。申し訳ありません。


第五十二話 人と怪物⑩

高専の術師達はリカが変形して作り出した空間内で新宿での決戦の行く末を見守っていた。

そのリカが乙骨と共に戦場に出た今、中に滞在していた者らは戦線に加わるか、バックアップのために潜伏するかのいずれかの行動へと移っていた。

来栖華と彼女の身に宿る平安の術師「天使」、そして覚醒タイプの泳者(プレイヤー)であるお笑い芸人高羽史彦らは隠匿結界の中でこの状況には似つかわしくない程の他愛のない会話に興じていた。

理由の一つは来栖華と高羽史彦が意外にも話の趣味が合い会話が盛り上がっていたこと。呪霊に監禁されて幼少期を過ごした来栖は同年代の少年少女よりも娯楽に触れる機会が少なかった。彼女が不意に発した「あんまりテレビとか見てなくて…そういう話についていけない時は(伏黒恵に自分はふさわしくないんじゃないかと心配になって)ちょっと寂しいんです。」という言葉と寂しげな表情は高羽のおせっかいスイッチを入れさせるには十分だった。

 

高羽は来栖と同年代の年代の学生らが熱中していたであろう時期のテレビ番組やお笑い芸人の話を繰り広げ、伏黒恵との会話の足しになると考えた来栖は熱心にその話に聞き入った。やがて話題は高羽が少年期に夢中になったバラエティ番組にまで移っていたが、すっかり意気投合した二人は当初の目的を忘れて熱心に会話に没頭していた。

 

来栖の中の天使はこの状況に釘を刺すことは無く寧ろ会話に加わり、話題を盛り上げることに腐心していた。結界外の状況を踏まえれば緊張感に欠ける行動だが天使には思惑があった。

高羽の術式『超人(コメディアン)』は術者である高羽本人が“ウケる”と確信した想像(イメージ)を実現させる。現実の改変を可能にする極めて強力な術式だがその効果は良くも悪くも高羽自身の無意識に大きく左右されるという点を天使は懸念していた。

それ故に天使を始めとする術師達はこれまで高羽に伝える情報の細部を巧妙にボカして事態の凄惨さに高羽が怖気つかないように細心の注意を払ってきた。

 

加えて天使は会話の内容をある方向へと誘導していた。高羽が「懐かしのバラエティ番組」として話題に挙げた「奇術師を主役とした大型番組」。天使はこの内容に食い付いてみせることで「より盛り上がる番組の展開」を考案する方向へと高羽の興味を向けることに成功した。その上で天使は敢えて面白みに欠ける回答を挙げた。

 

「例えば。その“プリンセス天功”なる人物が行う“人体切断魔術”。これのオチで本当に切断された人体を見せるというのはどうだろう。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

その回答は高羽の笑いの琴線を微塵も震わせなかった。娯楽を求める視聴者に対してスプラッタ映像を見せて何が面白いというのだ。この“天使”という奴は他人の顔から口だけが生えるというポテンシャルを持っていながら全くお笑いのセンスを持ち合わせていない。笑いといえばやはり裸だ。それも男の裸。女性蔑視ではないが女体はどうしてもエロに直結しやすい。エロとお笑いの相性は悪くはないが、より幅広いターゲット層を笑わせるのであればエロ方面は最適とは言えない。

同時に男の裸も無条件で笑えるというものではない。笑いを狙うのであれば両極端のどちらかに振るべきだろう。つまり“堂々とした裸”か“うっかり出してしまった裸”。後者であればより緊迫した場面をフリとして準備するのがベターだ。絶体絶命のピンチかと思いきや突如裸体を衆目の前に晒す羽目になる。やはりこれが鉄板だろう。局部を丸く縁取った顔写真で隠していればなお良い。

 

高羽がそこまで思考したところで急に周囲を囲っていた壁が消え去り、外界に放り出される。

 

そこで高羽はあるものを目にする。確か乙骨と云ったか。薄幸そうな高校生の体が二つに分かれる光景を。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「「!?」」

 

日下部篤也は覚悟していた。乙骨が領域を崩した瞬間、つまり宿儺が敵を仕留めたと確信し一番緩んだ瞬間に攻撃を仕掛けるという作戦の危うさについてだ。意図的に領域を崩し油断を誘うといえば聞こえはいいが、単に乙骨が敗北しその結果として領域が崩れるということも有り得るからだ。

 

だから、これは日下部の予測の一つに含まれてはいた。

宿儺の『世界を断つ斬撃』に両断される乙骨と勝ち誇る宿儺。その光景を目にすることは。

 

しかし日下部が次の瞬間に目にした事態はまるで理解が出来なかった。

 

肉体を両断された筈の乙骨憂太。彼の姿は瞬きの間に衣服が吹き飛んだだけの五体満足の裸体へと変わり、如何なる手段か、彼の局部はリカの顔を象った目隠しによって隠されていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「星!憂憂!乙骨を回収しろ!あれでも多分重傷だ!」

 

この怪現象の原因は恐らく高羽の術式だ。天使が上手いことアイツを誘導したのだろう。偶然でもなんでも乙骨が致命傷ではなく重傷で済んでいるのはこちらには大きなプラス材料だ。瞬時にそこまで思考した日下部は続けて前線要員へ指示を出す。

 

「猪野、賀﨑、禪院!俺らは星達を死守だ!虎杖…は脹相がもう行ったから任せる!」

 

もっとも3人は指示を受けるまでもなく既に攻撃態勢に移っている。

 

【来訪瑞獣 一番 獬豸(カイチ)!】

 

遠距離攻撃に手段に優れる猪野琢真が戦闘の口火を切る。余談だが彼はこの新宿決戦に向けた鍛錬で最も大きく実力を伸ばした術師の一人であろう。元々汎用性の高い生得術式を持つ上に入れ替え修行を通して基礎の呪力操作術が向上したことと、七海建人の術式『十劃呪法(とおかくじゅほう)』が宿った呪具による攻撃能力の強化によって1級術師上位の実力者へと成長していた。

 

自身に迫る『獬豸(カイチ)』を迎撃するべく『解』を放つ宿儺だが、斬撃は真希の振るう『天魔反戈(あまのまがえしのほこ)』によって砕かれる。羂索戦での戦利品であるかの呪具は真希の手に渡り、『万里ノ鎖』と組み合わせることで戦域を縦横無尽に飛び回り宿儺の「飛ぶ斬撃」を打ち落としていた。迎撃に失敗した宿儺は『獬豸(カイチ)』の直撃を受ける。

 

【【シン・陰流 簡易領域】】

 

日下部と隆景がそこに畳みかける。

 

【【居合「夕月」】】

 

迫る無数の剣戟を宿儺は呪力強化した肉体で受け止める。二対の腕で頭部と腹部の第二の口をそれぞれカバーして重大な欠損が生じることを防ぐ。

 

(こいつらの出力では俺の護りを抜くことは出来んだろうが…。)

 

宿儺は『解』で自身が立つ幹線道路を粉微塵に切り刻み足場を崩す。

 

(ノーモーションの斬撃!簡易領域を無理矢理崩された!)

(クソッたれ!領域無しでもやりたい放題かよ!)

 

空中に投げ出された日下部、隆景、宿儺の三者の内、空気の『面』を捉える絶技により呪いの王は空中を跳躍して拳を構える。

 

「憑霊の餓鬼が戻るまで、遊んでやろう。」

 

黒閃

 

火花とともに放たれた一撃はガード諸共に標的を吹き飛ばす。黒閃の直撃を受けた隆景はフロアを3層突き破りながら廃ビルに突き刺さる。

 

「まずは一匹。」

 

仕留めた獲物に興味を示さずに宿儺は次の標的である日下部に『解』を放とうとするも着地を狙っていた真希によって術式の発動を中断せざるを得なくなる。

 

「中々に速い。並みの天与呪縛ではないな貴様。」

 

「あぁ。(あいつ)が持っていっちまったらしくてな。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そこから繰り広げられるのは人智を超えた速度の立体戦。呪いの頂点たる両面宿儺と呪いから完全な脱却を果たした禪院真希。両者は当然のように宙を駆けながら幾度も交差する。

 

宿儺は決定打を放てずにいた。遠隔の『解』は『天魔反戈(あまのまがえしのほこ)』によって防がれ、なおかつ『万里ノ鎖』に繋がれた『游雲(ゆううん)』が縦横無尽に振るわれることによって距離を詰め切れずに中距離戦を強いられているからだ。対象に触れなければ『(はち)』は使えない以上術式での致命傷は与えられず、こちらの打撃が届かない距離から巧みに攻撃を放ってくる真希に対して有効打を与えられていない。

一方で真希も消極的な戦法に終始する他なかった。いま用いている呪具では宿儺に致命打を入れることが難しいからだ。作戦では『釈魂刀(しゃっこんとう)』で宿儺の急所を突く予定だったがこれは直前で変更となった。無機物の魂さえ観測できる今の真希が『釈魂刀(しゃっこんとう)』で傷を与えればその傷は反転術式でも修復困難なものとなる。肉体を同じくした経験から元宿主の虎杖と同様に宿儺も魂の知覚を身に付けている可能性があるが、それを踏まえても宿儺の反転術式を行う難易度は上がり、その分の消耗を強いることが出来る。

 

にも関らず『釈魂刀(しゃっこんとう)』の使用を取りやめたのは現在の宿儺の宿主である伏黒恵の肉体への後遺症に対する危惧からである。

 

(やっぱり宿儺レベルは簡単にはいかないな。恵の肉体を乗っ取った直後みたいな出力の不安定さも今はもうない。)

 

天魔反戈(あまのまがえしのほこ)』は正常に機能しているが、万一の破損を考えて致命傷コースではない斬撃はなるべく身体能力に物を言わせて真希は回避していた。

 

(あの野郎はまだ起きてこない。重さのハンデを負ってでも『釈魂刀(しゃっこんとう)』を担いでくるべきだったか。)

 

伸びきっていた鎖を剛力で無理矢理引き戻して、こちらに飛び掛かってきていた宿儺に先端の『游雲(ゆううん)』を衝突させる。それでも宿儺に大きなダメージは見られない。

 

(『游雲(ゆううん)』を直撃させてもピンピンしてやがる。私が直に握ってぶん殴れば少しは効くだろうがそうなると『(はち)』を避け切れない可能性が出てくる。)

 

直ぐに復帰した宿儺は攻撃の手を緩めない。それを捌きながら時折カウンターを入れる。

 

(さっさと起きやがれってんだよ、あの野郎!)

 

戦況は硬直状態にあったが、それは五条悟との戦いの後遺症で宿儺が領域を使用不能になっているからである。通常の領域では必中命令の対象とならない真希であっても「閉じない領域」であれば宿儺の斬撃の対象となる可能性が高い。宿儺の領域が再使用可能になればこの均衡は崩れ去る。この持久戦は危うい前提の上で成り立っているに過ぎない。

 

そして呪いの王は漫然と時が過ぎるのを良しとしなかった。

 

(『游雲(ゆううん)』と『万里ノ鎖』の連結部分が!野郎コスい真似しやがって!)

 

宿儺は『游雲(ゆううん)』の直撃を受ける度にそれとつながる鎖との連結部分に攻撃を加えていた。これまで何度も直撃を受けたのは衝突の瞬間が最も相手に細工を気付かれにくいため。

 

鎖を引いても『游雲(ゆううん)』は宙に浮いたまま。手元には戻らない。『天魔反戈(あまのまがえしのほこ)』では恐らく宿儺の打撃は受けきれず破壊される。万事休す。やはりあの話には乗らずに『釈魂刀(しゃっこんとう)』で真正面から勝負するべきだった。

真希の脳内をよぎる後悔。術師に悔いの無い死などない。渋谷、京都と続いて3度目の死の淵。もう幸運は残って無いだろう。

 

宿儺が拳を構えて迫りくる。「黒閃」は意図して引き起こすことは出来ない。だが今の宿儺から狙って「黒閃」を起こせるという凄味があった。

 

 

 

パァン!

 

 

 

拍手の音が戦場に響く。それが意味するのは「彼」の術式の発動。

では入れ替わったのは?

 

 

宿儺が接続部を破壊したことで彼の背後で宙を舞っていた『游雲(ゆううん)』と賀﨑隆景が入れ替わる。

 

 

「おせぇよ。」

 

「悪かった。」

 

隆景の手には『彼此隔界(ひしがくかい)』や『退魔の巨剣(スピリット オブ ソード)』ではなく正のエネルギーを走らせた「顕明連(けんみょうれん)」が握られている。

その理由はある拡張術式を発動させるため。

 

宿儺の背部を刃が刺す。

 

「拡張術式『獅子身中』。」

 

術式の発動と同時に刃から正のエネルギーが流れ込み体内の「宿儺の指」19本の元へ正確に辿り着く。

 




高羽はこんなに講釈を垂れないと思ったそこのあなた。私も同意見です。ごめんね。
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